天鬼は山田先生や忍術学園と出会わなかった土井半助の姿――『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』藤森雅也監督 インタビュー|新キャラクターについてや前作映画のマル秘エピソードまで……?
2013年に刊行された『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』(原作・イラスト:尼子騒兵衛/小説:阪口和久/朝日新聞出版刊)の劇場アニメ『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』が2024年12月20日(金)より全国公開中です。
アニメイトタイムズでは映画公開を記念して、藤森雅也監督へインタビューを実施。アニメーション、脚本、音楽の制作の裏側、関俊彦さん演じる土井半助/天鬼のキャラクター性を紐解いていくと共に新キャラクターについてや前作映画のマル秘エピソードまで、幅広い話題を伺いました。
※本インタビューは本編のネタバレを含みます
天鬼は山田先生や忍術学園と出会わなかった土井の姿
──はじめにアニメーションの演出についてお伺いしたいのですが、演出や見せ方についてこだわった部分をお聞かせください。
藤森雅也監督(以下、藤森):まず、忍術学園の六年生たちはプロ並みの力量を持っていてすごく優秀なんです。
そんな六年生たちが天鬼と初めて遭遇した際に、6人で連携して行動をしても歯が立たず天鬼には敵わないみたいな描写は臨場感を持たせてきっちりと描きました。
六年生たちは優秀なのですが、それでも天鬼が一枚上手という形で描いています。六年生と天鬼が戦うアクションシーンでは六年生は実直に地面を走り回っているけれど、天鬼はもっと立体的に高さを利用した動きで竹林の上を移動するといった描き分けをして実力の差を出しています。
そして後半にある雑渡昆奈門と利吉・卒業生の戦闘シーンはほとんど空中戦になっています。そういった部分でも六年生との差を明確に描いてます。
── 一年生の活躍を増やしたりと、劇場化にあたって原作小説そして脚本を手がけている阪口和久先生とはどのようなやりとりをされましたか?
藤森:原作小説は土井先生やきり丸のファンであったり六年生がお好きな方にとっては非常に満足度が高く書かれていると感じているのですが、映画という形でファミリー層にも届ける際に、「一年は組が活躍をせずに映画を1本作ってしまっていいのかどうか」という部分は自分の中ですごくこだわりをもって考えました。
土井ときり丸それに六年生が活躍するという原作小説にあったラインと、乱太郎たち一年は組の動きが共にひとつのストーリーを引っ張っていく構成になっていないといけないと思い、原作を一度解体し新たに再構成しています。阪口さん的にはなかなか辛い作業だと思いますが、無理言ってお願いをし、8~9ヶ月の時間をかけて今回のシナリオを成立させていきました。
──そんな一年は組が活躍するシーンでお好きなシーンを教えてください。
藤森:ふふ(笑)。なんて言えば良いんだろう。
一年は組といえば、どうしてもちょっと可愛らしいと感じてしまうのですが、きり丸がアルバイトをキャンセルした際に「なにか新しい表現を作りたいな」と思って、は組のリアクションとして目玉を飛び出すようにしました。黒い点目が飛び出したらどうなるだろう?と、楽しくネタを出して作っていったので気に入っていますね(笑)。
真面目なお話をすると、深刻な話のなかにちょっとしたホッとするような瞬間が欲しくて、黒い点目が飛び出すという面白い表現を入れてます。でも、みんなは深刻な話に対しては真面目に反応しているんですよね。仲間のために一生懸命になれる“は組の姿”はずっと一貫しているところです。
──たしかに、そのシーンが思い浮かぶぐらい印象的です。きり丸の回想シーンで意識した部分はどこでしょうか?
藤森:きり丸が非常に淡々と掃除をしているという情景を描きながら、現代のシーンは全部カメラワークで揺れている動きをつけていて、回想になるとピタッとカメラの動きは止まります。要するに、きり丸にとって土井がいない今は異常でまるで夢の中にいるようなふわふわした状態なのです。
──土井半助/天鬼役の関俊彦さんとは事前に打ち合わせがあったとのことですが、どのようなことをお話されたのでしょうか?
藤森:天鬼というキャラクターが今、どういうふうな状態なのかということを説明しました。一人二役ではあるけれど、あくまで同一人物で天鬼は実は山田先生や忍術学園と出会わなかった土井の姿なんですよ、と。
今は忍術学園で優しく教科担当教師をやっているけれども、それ以前は結構悲惨な現実を生きてきた人。そういう人が記憶を失って、ドクタケの稗田八方斎に、忍術学園は悪の組織で戦乱の世を続けさせようとしている。我々はそれを止めようとしている善の組織だから一緒に戦おう、と騙されているのが天鬼だと。
その八方斎の理想に縋り付いている人でもあり、自分の過去も含めて自身の一切合切をドクタケに協力することでなんとか精算をしようとしている。だけど記憶が途切れているから、どこかで孤独を抱えているキャラクターなんです。単に性格が悪くなった土井ではないというところを説明しましたね。
──そのお話を聞いた際の関さんの反応はどのようなものでしたか?
藤森:最初に話をした時はちょっと戸惑われていました。でも、この話を踏まえて土井と天鬼を仕上げてくださったので、お話をさせていただいて良かったと思います。
──ディレクションをするにあたって気をつけたところやお伝えしたことはありますか?
藤森:大人のキャラクターがしっかり大人であってほしいという気持ちがすごくあります。口でこうは言っているけれど、違う見方で考えている時があるかもしれないというような、台詞と感情が少しズレていたりするリアルな部分を出して欲しいとお願いしました。
ですが、みなさん大ベテランなので画と流れをみて、きちんと読み込んでくださって。きり丸役の田中真弓さんもそんなに細かいことを言わなくても、今回のきり丸が演じなければいけない(感情の表現の)幅に合わせてくれていました。
──アニメーションの画に関してですが、キャラクターの等身を少し上げたと伺いました。
藤森:まずは全体として大人っぽい芝居をつけたかったというところがあります。
建物との対比をしっかりと出したいと考えた時にいつもの等身だとどうしても頭のサイズと物品との対比がやや危なっかしい感じにもなりますので。(笑)