【アニメイトで売っていない「モノ」を買いに行こう 第2回】公開45周年記念上映が始まった『ルパン三世 vs カリオストロの城』映画内で活躍したルパン三世の愛車を買いに行こう!
『アニメイトで売っていない「モノ」を買いに行こう!』の第2回目は、2024年11月29日(金)から公開45周年記念上映が行われた『ルパン三世 カリオストロの城』(以下、『カリ城』)の中でルパン三世が愛用する小さなイタリア車・フィアット500を取り上げます。登場シーンの解説はもちろんのこと、フィアットとルパンの関わり、実在するフィアット500の解説まで網羅した上で、「ルパンは好きだけどクルマに詳しくない」という人でもわかりやすく読めるバイヤーズガイドです。
この作品は日本テレビ系列の『金曜ロードショー』などで過去20回以上もテレビ放送がされていることからアニメファンの中で未見の人は少ないと思います。ですが、作品をご存知ない人の方のためにまずは簡単にあらすじをご紹介しましょう。
あらすじ
ヨーロッパの小国カリオストロ公国。ニセ札の噂が絶えないこの国へやって来たルパン三世は、悪漢に追われる少女・クラリスを助けるが、彼女は再び連れ去られてしまう。じつはカリオストロ公国の大公家のひとり娘であったクラリスは、強引に結婚を迫るカリオストロ伯爵によって城に幽閉されていたのだ。そして、ルパンはすでに忍び込んでいた不二子の手引きで城へと潜入する……。
1979年12月に劇場公開されたこの作品は、故・モンキー・パンチさん原作のアニメ『ルパン三世』の劇場用長編アニメの第2作目(第1作は1978年に公開された『ルパン三世 ルパン vs 複製人間(クローン)』)であり、『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』『君たちはどう生きるか』などの代表作を持つ宮﨑駿さんの初監督作品です。作画監督としてコンビを組むのは、宮﨑さんの東映時代からの先輩であり、ともに数多くの作品を手掛けてきたベテランアニメーターの故・大塚康生さんでした。
『カリ城』は構想から脚本、絵コンテ、制作までの期間はわずか半年という長編アニメとしては異例の短期間で作られたにも関わらず、アニメ界の金字塔として今なお多くのファンに愛され続ける名作です。そして、劇中での活躍によってルパン三世の愛車として広く認知されたのがバニライエローのフィアット500(イタリア語で「500」を意味するチンクェチェントとも呼ばれます)でした。
ルパンと次元の乗るフィアット500は、映画のアバンタイトルとなるモナコ公国の国営カジノ襲撃からカリオストロ公国へ向かうオープニング、そして城から逃げ出したクラリスの乗るシトロエン2CVとそれを追う悪漢の乗るハンバー・スナイプMK.Iに横入りした末のカーチェイスまでの冒頭シーンで活躍したあと、物語が大団円を迎えたあとのラストシーンで再び登場します。
その中でも印象深いのは、やはりルパンが車中からニセ札を投げ捨てるシーンから始まるオープニングとクラリス・悪漢・ルパン&次元による三つ巴のカーチェイスシーンでしょう。
やすらぎ」や「平穏」を捨てた中年ルパンの心のうちを描いた
宮﨑監督の演出が光る『カリオストロの城』OP
この映画のオープニングは、アニメの制作関係者の間では「アニメの教科書」と評されるほどに、少ない作画枚数で完璧で美しい映像を作り出してます。主題歌の『炎のたからもの』が流れる中、そこで描かれているのはルパン(と相棒の次元)の孤独です。ここで描かれているのはカリオストロ公国へ赴くふたりの旅路なのですが、その中でルパンと次元は周囲の人々と交わる様子がありません。
とく見る人の心に残るのは夕刻にフィアット500を土手に停めて佇むルパンと次元の傍を家路につく人々が足早に通り過ぎて行くシーンで、泥棒という非日常を生きるルパンとごく普通の生活を送る人々との対比となっています。言うまでもなく、ルパンのような泥棒は誰かが作り出したものを「盗む」ことで成立しているのであり、社会への貢献や生産性といったものはなく、現実社会を地道に生きる人に寄生しなければ存在できません。そして、地道に生きる市井の人々には帰るべき家があり、帰りを待つ家族がいますが、ルパンにはそうした「やすらぎ」や「平穏」もまたないのです。
ルパンは過去を振り返って後悔するようなタイプではないのでしょうが、そんな彼でも中年期に差し掛かり、「オレにも平凡な幸せを生きる人生があったかも……」との思いが、ふとを脳裏を過ぎる瞬間がなかったとは言えないでしょう。そんなルパンの心のうちをオープニングは巧みに描いているのです。
わずか2分足らずの映像からは、ルパンというキャラクター、次元との言葉を必要としない関係性、冒険を重ねるうちにどんなお宝にも心がときめかなくなっているにも関わらず、満たされない心を埋めるように泥棒を続けざるを得ない中年ルパンの姿が巧みに表現されています。と、同時に「男のふたり旅」というロマンを掻き立てる要素でオープニングをまとめたことで、平凡な日常を生きる視聴者が何者にも束縛されないルパンへ憧れを抱くように綿密な綿密な計算が働いて演出されています。
そのようなルパンと次元の旅の伴となるのがイタリアのちっぽけな大衆車・フィアット500です。天才的な大泥棒にも関わらず、見栄えの良い高級車にルパンが乗らないのは、そうした俗世の贅沢にあきあきして関心が薄れているだけでなく、彼の仕事がけっして上手く行っているわけではないことの表れでもあります。さすがは宮崎さん、小道具としてのクルマのチョイスも完璧なわけです。
フィアット500がスクリーン狭しと大活躍!
スピルバーグを驚愕させたとの伝説が残るアニメ史に残るカーチェイス
引き続きフィアット500の登場シーンが続きます。カリオストロ公国に潜入したルパンと次元がタイヤのパンク修理をしているところに現れたのは、逃げるクラリスのシトロエン2CVを追う、悪漢の乗るハンバー・スーパー・スナイプMK.Iでした。事情が分からぬままシトロエンの少女を助けるために2台のカーチェイスに横入りしたルパンと次元のフィアット。ここから物語前半の見せ場となる約3分間のカーアクションが始まります。
このシーンの原画を担当したのは、のちに『ルパン三世Part4』の総監督を務める友永和秀さんです。もともとカーマニアでもある青木悠三さん(『ルパン三世』や『シティハンター』シリーズ、『ソウルイーター』などを手掛けたアニメーター)が作画を担当する予定だったのですが、別の仕事のため『カリ城』に参加ができなくなり、最終的に友永さんに白羽の矢が立ったとのことです。
ところが、当時の友永さんは運転免許を持っておらず、カーアクションを描いたことがなかったことから、まず宮崎さんに大まかなラフを描いてもらい、大塚さんからクルマの描き方や動かし方を教えてもらい作画に臨んだとのこと。その結果、アニメ史上でも屈指の名場面になっただけでなく、後日、この映画を見たスティーブン・スピルバーグが「これ以上の見事なカーアクションを自分は撮れない!」と、自身の映画でカーチェイスを封印したという伝説が生まれるほどになりました。
この伝説は1992年に公開された日米合作のアニメ映画『NEMO/ニモ』の制作時、ハリウッドの映画関係者に日本のアニメーターの実力を知ってもらうべく『カリ城』や『じゃりン子チエ』などの東京ムービー新社(現・TMS)作品の試写会が繰り返し行われました。そのときにジョージ・ルーカスやディズニー・スタジオのスタッフらとともにスピルバーグが試写会に来場したようなのです。そうした経緯からこの伝説はまったく根拠のない話とは言えないようです。