【アニメイトで売っていない「モノ」を買いに行こう 第2回】公開45周年記念上映が始まった『ルパン三世 vs カリオストロの城』映画内で活躍したルパン三世の愛車を買いに行こう!
物語のラストを締めくくるフィアット500の登場シーン
クラリスの想いを拒んだルパンの心のうちとは……
映画の中盤以降は舞台がカリオストロ城へと移るためフィアット500Fの出番はほぼなくなります。そして、最後のフィアットの登場シーンは物語が大団円を迎えたあとのラストシーンです。
2度に渡る伯爵との対決、ゴート札の真相の暴露、カリオストロ公国に眠る秘宝の謎を明らかにした上で、ライバルである伯爵を倒し、クラリスを見事救い出したルパンでしたが、はからずも彼はクラリスの心まで奪ってしまうのでした。「私も連れて行って! 泥棒はまだできないけど、きっと覚えます!!」との言葉と共にその身を預けたクラリスに対し、ルパンは苦悶の表情を浮かべたのちに優しく彼女の肩を抱き、そっと彼女を遠ざけます。そして、次元の運転するフィアットに飛び乗り彼女に別れを告げつつ走り去るのです。
このときのルパンにはクラリスのひたむきな愛情に応えたいという気持ちと、彼女を自分と同じ闇の世界の住人にしてはいけないとの葛藤があったことでしょう。もしも彼女を連れて行ったとすれば、刺激に満ちた生活を得る代わりに「やすらぎ」や「平穏」を望めなくなります。そして、泥棒になったクラリスはいつしか不二子のような男を手玉に取るような狡猾さを身につけ、きっとルパンの元を去って行くことでしょう。「バカをやってさんざん粋がった」若き日のルパンならともかく、中年になったルパンにはそんな未来が見えていたからこそ、クラリスの想いを拒んだのかと思います。
そんなクラリスの純真さを目の当たりにしたルパンは、自分という人間を再認識します。日のあたる場所で平凡な幸せを生きることができない泥棒の自分。それはひたむきな愛情を向けてくるクラリスや、オープニングで家路を急ぐ実社会を地道に生きる人に寄生する存在である、と。カタギの生き方に背を向けた人生を歩むルパンは、言わば「ニセモノの生き方」をしているとも言えるわけです。
そうした現実をあらためて突きつけられたからこそ、すべてが丸く収まり、ハッピーエンドを迎えたにも関わらず、フィアットの助手席に座るルパンはなんとも浮かない顔をしていたのです。そんなルパンの心を知ってか知らずか次元は「オメェ、残っててもいいんだぜ?」と声をかけてきます。おそらくはルパンもそんな考えが一瞬脳裏を過ったのかもしれません。近い将来カリオストロ公国の女王になるクラリスの庇護を受ければ、少なくとも公国内では銭形やICPOの追及をかわすことができたはずで、ルパンはひっそりと平凡に生きることもできたのかもしれません。しかし、ルパンは自分が今さら生き方を変えることができないことを知っています。それ故に次元の問いかけに答えることもなく、暗い表情のまま無言を貫いたのでしょう。
そんなとき、まさに絶妙なタイミングで偽札の原版を抱えた不二子が颯爽とハーレーで登場し、獲物を自慢するように見せびらかします。ルパンを「うんざりするほど」よく知る不二子にとっては彼の心の内などすっかりお見通しだったのでしょう。これはルパンの気持ちを察した彼女なりのエールであり、ルパンの心を奪ったクラリスへの軽い嫉妬心も入っていたのかもしれません。ルパンはそんな彼女の想いに応えるべく、「お約束ごと」として「まがい物のお宝」である偽札の原版を欲しがる素振りを見せたのでしょう。自分の心に踏ん切りをつけたところにパトカーに乗った銭形が現れ、またいつもの追いかけっこが始まり映画は幕を閉じるのです。
『カリオストロの城』以前にフィアット500は登場していた?
アニメに「実証主義」を初めて取り入れた『ルパン三世(1st)』
以上が『カリ城』でのフィアット500の登場シーンです。物語の要所要所にするフィアット500は、ルパンにとっては次元や五ェ門に次ぐ物言わぬ相棒として観客に強く印象を残しました。そして、以降のシリーズでは度々「ルパンの愛車」として登場することになります。
とは言え、じつはルパンがフィアット500を相棒とするのは、本作が初めてのことではありません。古い作品なので若いアニメファンの中には未見の人もいるかもしれませんが、1971年に放送を開始した『ルパン三世』(Part1)の第16話「宝石横取り大作戦」から登場しています。ちなみにこのときのフィアット500は『カリ城』のバニライエローではなく、白に近い薄い水色でした。
もともとモンキーパンチさんの描いた原作漫画には、フィアット500は登場しません。漫画版ではルパンを含む登場人物は車種不明のセダンに乗り、形式のわからない拳銃を使用しています。じつは『ルパン三世』に詳細なメカ設定が用意されたのは、1969年に制作されたパイロットフィルム版からでした。
アニメ制作会社「東京ムービー(現・TMS)」の創設者であり、敏腕プロデューサーだった藤岡 豊さんは、当時『漫画アクション』に連載中だった漫画『ルパン三世』に注目し、これを原作に日本初の大人向けアニメ」として企画を進めることにしました。
その際にメインスタッフとして起用されたのが、人形劇出身の演出家だった大隅正秋(現・おおすみ正秋)さんと東映出身のアニメーターの大塚康生さんでした。ふたりは、大人向けにアニメを作るにはリアリティが重要だと考え、クルマやバイク、拳銃、時計、タバコ、ファッションなどの劇中に登場するガジェットはすべて実在するものから選ぶことしました。これは「実証主義」と呼ばれる演出手法で、当時のアニメ業界では先例のない試みでした。
こうしてルパン三世の愛車はフェラーリ製V型12気筒エンジンを搭載したメルセデス・ベンツSSK、愛用する拳銃はワルサーP-38、愛飲するタバコはジタン・カポラルと、今も受け継がれるルパン三世の設定が決定したのです。このときの功労者が、クルマや銃器、ミリタリーに関して幅広い知識を持つ大塚さんでした。
パイロットフィルムの完成から3年後の1971年10月、大塚さんの設定を生かしたTVアニメ『ルパン三世(Part1)』がオンエアされます。ところが、人気絶頂だったザ・ドリフターズの裏番組という不運と斬新すぎる内容から視聴率は低迷し、テレビ局やスポンサーは東京ムービーに対し、子ども向け作品への路線転向を急遽要求します。これに「話が違う!」と怒り、失望した大隈さんは降板。代わりにピンチヒッターとして演出を担当することになったのが、大塚さんの東映動画時代からの友人であり、のちにスタジオジブリの看板監督となる宮﨑さんと故・高畑 勲さんでした。
このときにルパンの愛車はベンツからフィアット500へと変更されたのです。変更の理由は宮﨑さんと高畑さんの参加により、ルパンのキャラクター像を「退屈な人生の暇つぶしに犯罪に興じるフランス貴族」から「常に何か面白いことはないかと目をギョロつかせている貧乏なイタリア人」へと演出方針が変更されたことと、複雑な形状のSSKのアクションを描けるアニメーターが大塚さんと青木さんしかいなかったことが理由とされています。
じつはこのフィアット500こそ大塚さんの当時の愛車でした。ルパンの愛車をフィアットにしたことで、アニメーターが作画作業中にわからないことがあれば、スタジオの駐車場へ見に行けば済むという利点もありました。残念ながらこうしたテコ入れをしても視聴率は改善されることはなく『Part1』は全23話で打ち切られることになりましたが、『カリ城』をはじめとしたその後のシリーズでのフィアットの活躍はみなさんご存知のとおりです。