【アニメイトで売っていない「モノ」を買いに行こう 第2回】公開45周年記念上映が始まった『ルパン三世 vs カリオストロの城』映画内で活躍したルパン三世の愛車を買いに行こう!
ちっちゃなイタリアの大衆車
ルパンの愛車となったフィアット500はどんなクルマ?
それではルパンが愛用するフィアット500とは、一体どのようなクルマなのでしょうか?
じつはこの名前を持つフィアット製の小型車は、現在までに4車種が作られています。古い順から1936~1955年まで生産された「トッポリーノ」の愛称を持つ第1世代、1957~1975年まで生産された「ヌォーバ・チンクェチェント」(イタリア語で「新しい500」の意味)と呼ばれる第2世代、2007~2024年まで生産された2世代目のリバイバルデザインとなる第3世代、2020年から生産が始まった4代目となる電気自動車(2024年までは3代目と併売)です。ほかにも1991~1998年にかけて日本の軽自動車にサイズやデザインが似たクルマが「チンクェチェント」の名称で生産されていますが、このクルマの車体後部につけられたバッジは数字の「500」ではなく、アルファベットで「Cinquecento」と表記されたことから、イタリアでは番外編扱いされており通常はシリーズに含めません。この中でルパンが愛用しているのは第2世代のフィアット500となります。今回はこのモデルを中心に話を勧めて行くことにします。
このクルマは第二次世界大戦の復興がひと段落し、イタリアが「奇蹟の経済」と呼ばれる高度経済成長期が始まった時期に、戦前から生産が続いていたトッポリーノに変わる庶民の移動手段として2世代目のフィアット500は誕生しました。設計を担当したのは天才自動車設計家のダンテ・ジアコーサさんです。彼はフィアット500が登場する2年前にひと回り大きなフィアット600という小型車を開発したのですが、販売価格をかなり抑えたにもかかわらず、イタリア庶民にとってはそれでも手が届かなかったことから、誰にでも買えるようにさらに小さく、安価なクルマを目指してフィアット500が開発されました。
こうして誕生したフィアット500のボディサイズは、全長2970mm✕ 全幅1320mm✕全高1320mmの小さなボディに、名前の由来の通り排気量499.5ccの空冷2気筒エンジンを車体後部に搭載(リアエンジン・リア駆動のRRレイアウトとなります)。最高出力はたったの18馬力しかありませんでしたが、重量520kgと軽かったことから最高速度は95km/hを記録しました(車両のスペックはもっとも生産台数の多いF型/L型のもの)。また、安価な小型車にも関わらずサスペンションは4輪独立懸架という凝った形式のものが採用されており、石畳の多いイタリアの市街地でも乗り心地は良いクルマに仕立てられていました。
現在の軽自動車と比較すると、フィアット500の車体サイズはひと回り以上も小さく、車両重量は半分程度、排気量は160ccも少なく、最高出力は1/3ほどと現在の150ccクラスの小型オートバイ並みの馬力しかありません。それでも大人ふたりと子どもふたり、そして手荷物を載せて走ることができました。ルパンの愛車はスーパーチャージャーが追加された改造車という設定なので、『カリ城』の中では猛スピードで走ったり、崖をよじ登ったりという高性能ぶりを発揮しましたが、現実のフィアット500はバイパスや高速道路などの平均速度の速い道路では、交通の流れになんとか乗って一番左端の車線を走れる程度の性能しかありません(とは言うものの、意外によく走ります)。
そのようなフィアット500ですが、このクルマの誕生によって、イタリアの人々は待望の自家用車を手に入れることができ、小型バイクやスクーター、自転車、馬車に変わる移動手段としてライフスタイルを激変させることなったのです。イタリアのモータリゼーションの起爆剤となったフィアット500は、登場とともに北はミラノやトリノから南はシチリア島までイタリア全土で広く普及しました。累計で386万台も生産されこともあって、クラシックカー愛好家が大切に維持している個体があるいっぽうで、実用の道具として通勤や通学、買い物などの人々の便利なアシとして現在でも人々の便利な交通手段として重宝されている車両も少なくありません。
ルパンの愛車はどのモデル?
1957~1975年にかけて生産されたフィアット500のバリエーション
18年間に渡って生産されたフィアット500は、数回のマイナーチェンジとモデルの追加が行われました。基本設計に変更はありませんが、細かいところを見て行くと生産時期によって内外装やメカニズムに違いがあります。それぞれのモデルの主な特徴は下記の通りです。
・フィアット500プリマ・セリエ(イタリア語でファースト・シリーズの意味)
最初に生産されたモデルで、排気量479ccのエンジンを搭載し、最高出力はシリーズでもっとも低く13馬力しかありません。エンジンは当時でもパワー不足が指摘されるほどの低出力でした。また、ボディは後ろヒンジの前開きとなり、極初期モデルはドアの三角窓以外のガラスは嵌め殺しとなっており、開けることができませんでした。ルーフに備わるサンルーフは「トランス・フォルマービレ」と呼ばれるリアウィンドウまで大きく開くタイプとなります。また、生産コストを抑えるためにメッキパーツは少なく、ホイール中央に備わるハブキャップもありません。前期型のフロントマスクは、のちのモデルのようなポジションランプとウィンカーを兼ねた小さなランプは備わらず、代わりに室内用のエアダクトが備わります。
・フィアット500スポルト
モータースポーツへの参加を前提に1958~1960年にかけて生産されたモデルです。空冷2気筒エンジンは排気量を499.5ccへと拡大し、高回転に耐えられる鍛造製のカムシャフトへの変更のほか、吸排気バルブや燃焼室に手がか加えられるなどの改造を施したことで、最高出力は21.5馬力まで高められています。車体にも手が入っており、キャンバストップを廃して3本の補強材を入れたスチールルーフとなりました。
・フィアット500ジャルディニラ(ワゴン)/フルゴンチーノ(バン)
フィアット500のベルリーナ(イタリア語でセダンの意味)から派生したのが、ステーションワゴンの「ジャルディニラ」とライトバンの「フルゴンチーノ」です。両車はベルリーナのドアから後ろを再設計し、ホイールベースを100mm、全長を215mm、全高を29mm拡大して車体後部に広い荷室を確保したことが特徴です。リアエンジン車のワゴン/バンボディの設計においてはエンジンの搭載方法が問題となるのですが、ジアコーサさんはエンジンを横倒しに搭載することで荷室と後部エンジンルームの両立を図っています。生産は1960年初夏から始まり、フィアットブランドでは1968年まで、姉妹車となるアウトビアンキ版は1978年まで生産が続けられました。
・フィアット500D
「プリマ・セリエ」に代わって1960年の秋から生産が始まったモデルです。外観上の特徴は「トランス・フォルマービレ」の代わりにハーフサンルーフ仕様の「テッド・アプリービレ」が全車標準装備となり、視認性向上のための大型テールランプを採用したkとにあります。また、排気量はスポルトと同じ499.5ccへと拡大され、キャブレターの改良により最高出力は17.5馬力へと引き上げられました。さらに1961年の改良ではダッシュパネルに灰皿と物入れ、燃料警告灯が追加されました。
・フィアット500F
イタリア国内の自動車安全基準の変更により、乗用車の前開きドアが認められなくなったことから1965年に誕生したのがフィアット500Fです。その特徴はドアが前ヒンジの後ろ開きになったほか、各ピラー(ルーフを支える柱)がわずかずつ細くなり、フロントウインドウが縦方向に広げられて視界が広くなりました。また、通常のクルマのボンネットに当たるトランクフードの形状が見直され、車体各部のアルミモールが省かています。最高出力はキャブレターの改良により18馬力に向上しています。ほかにも燃料タンクの容積が増え、ヒーターやクラッチの改良などによる熟成が進みました。
・フィアット500L
1968年に追加されたフィアット500Fの上級グレードです。フロントのバッジが小さいものに付け替えられ、前後にオーバーライダーが備わるなど外観の変更点はわずかでしたが、ダッシュボードには樹脂製のカバーが装着されたほか、燃料計付きの大型メーター、リクライニング機能付きのシート、モケット地のカーペットなどの採用、物入れの追加など質・装備とも充実しています。また、従来のバイアスタイヤに変えてラジアルタイヤを標準装備としたことも特筆すべき点です。
・フィアット500R
1972年秋に後継車のフィアット126が登場したことにより、フィアット500はメカニズムを126と一部共通化した上で安価なエントリーモデルとしての役割が新たに与えられることになりました。こうして誕生したフィアット500Rは、外観上はフロントのエンブレムが新しくなった以外に変化はありませんが、エンジンは126用の空冷2気筒594ccエンジンに換装されており、最高出力は23馬力へと引き上げられています。また、ホイールハブは126と共通化されていますが、ホイール自体はハブキャップの付かない500R専用のものが装着されています。内装は警告灯やドアハンドルの位置が変わるなど、細々とした改良が加えられたほか、これまで500Lのみの装備だったリクライニング機能付きのシートも採用されました。