アリナとジェイドにとって、お互いが貴重な存在――『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』高橋李依さん&熊谷健太郎さんインタビュー|声優にとっての「残業」についてのお話も!?
アリナとジェイドにとって、お互いが貴重な存在
──高橋さんから見たジェイド、熊谷さんから見たアリナの印象も教えてください。
高橋:アリナ目線でのジェイドと、高橋目線でのジェイドでは、印象が結構違うんですが……アリナ目線だと厳しくなります。原作では「G(ゴキブリ)」とか本当にひどい言われようで。
熊谷:最上級の罵倒というか……。
高橋:アニメで私が演じさせていただくときも、ジェイドに対してだけの態度を見せるし、声色を変えていたりするくらいです。でもアリナが一番肩肘張らずに会話できる関係性でもあるので、残業とかのストレスのはけ口として、(存在が)ありがたいこともあるんじゃないかな(笑)。
私としては、こういう風にアリナのことを理解してくれる人が近くにいてくれるのは、すごくありがたいし幸せなことだと思っています。やっぱり、残業や作業が終わらないことを誰か一人でも知ってくれているだけで、だいぶ救われるじゃないですか。そういうときに(ジェイドが)良いタイミングでひょこっと出てきたりするのは、観ている側としても気持ちいいですし。支えてくれる存在にはなっているんですよね。でも、そこに甘えないアリナもかっこいいし、めげないジェイドは優しい。私は二人の関係性がめちゃくちゃ好きです。
──では、ジェイドに対して厳しく接するシーンでは、少し心が痛むこともあるのでは?
高橋:盾のキャラなので、気持ち良く安心して殴れます(笑)。
熊谷:タンクで防御力が高いので(笑)。
高橋:頑丈という設定があるので力加減をしていません(笑)。心が痛まない、ありがたい役職だなと思います。
──では、ジェイドから見たアリナについても教えてください。
熊谷:ジェイドは、最初からアリナさんを追っていたのではなくて、「処刑人」という人物を追っていた先にたどり着いたのがアリナさんだったんですよね。なのでまずは、「この人はどういう人間なんだろう? なぜこんな力を持っているんだろう?」という、「白銀の剣」としての職務に近い興味から入ったのかなと思っています。
たぶんジェイドの立場的に、アリナさんみたいな絡み方、やり取りができる人って他にいないと思うんですよ。どうしてもリーダーなので、パーティーメンバーのルルリ(・アシュフォード)とロウ(・ロズブレンダ)は、親しき中にも礼儀ありというか、リーダーとして尊敬してくれる部分もあるし。たぶんアリナさんだけが、あれだけボコボコと言葉や拳で接してくれる。
高橋:あとイケメンだから、(女の子は)みんな、目がハートになるんですよ。
熊谷:そうなんです。基本的にアリナさん以外の受付嬢の女の子たちは、ジェイドが来ると色めき立つんですよ。でもアリナさんは、そういったことはまったく関係なく、グイグイ来るジェイドに対して「うるさい!」とか。
高橋:「帰れ!」って(笑)。
熊谷:そんな風に激しくやり取りできることって、きっとジェイドにとってはなかなか無かったはずで、心地いいことだと思うんですよ。そうやって、ジェイドが追って、アリナが突っ返してというやり取りをしていく中、アリナさんがふと見せる一人の人間としてのちょっとした弱さとか可愛らしさに触れたとき、“「処刑人」のアリナ・クローバー”から、“アリナ・クローバー”という女の子にグッと引き寄せられたんだろうなって。ジェイドにとっては接していて飽きないし、魅力が何重にも重なっているような人なのだろうと思っています。
ジェイドは「下心はあっても邪念は持たない」
──第1話のアフレコの際、特に意識したことや、特に印象的だったディレクションがあれば教えてください。
高橋:たしか、(長澤剛)監督から「基本、可哀想な人なんです」と最初に言われました(笑)。私はアリナ目線で「(自分は)頑張れているし、うまくやれている」と思い込みすぎていたところがあって。(可哀想な人と)言っていただくことで、「傍から見たら彼女って、けっこう毎度ギリギリの綱渡りをしているんだ」ということにハッと気づきました。そのことで、(演じる際の)心持ちとかが変わるわけではないんですが、「その様子が愛おしくて可愛いものになったらいいな」という作品として向かうゴール地点みたいなものを最初に擦り合わせてもらった形でした。全体を包み込む空気感として「それは可哀想」という方向ではなく、手を叩いて笑ってもらえる方向に持っていきたいなというか。
──第2話以降も含めて、どのような方向性のディレクションが多かったのですか?
高橋:シーンによって表情や感情がコロコロと変わったりするので、そういう点で「ここは一回元に戻して、ここからは行っちゃって良い」みたいなアクセルのかけ方についてとかが多かったかな? でも、私の方からの「こういうプランでいきたい」というものもかなり採用していただけましたし、全体的に(ディレクションは)そんなに多くはなかったかもしれません。
熊谷:監督がキャスト陣のことをすごく信頼してくださっていたというか。監督とお話ししたときも、高橋さんや僕たちに対して「僕が全然想像しなかったものも出してくれる」と言ってくださったこともあったので、すごく任せていただいているという感覚は強かったなと思います。
僕がすごく印象に残っているのは、高橋さんが「ここのアリナは、ジェイドに対してキュンとするとか、そういう感情は一切なくて良いですよね?」と確認したら、音響監督(小泉紀介)さんが本当にノータイムで「うん、いいよー」と返していて、「ジェイド……」って思ったことはありました(笑)。
高橋:あはは(笑)。たまに、アリナさんに頬ブラシ(頬を赤く塗る表現)が少し入っていたりするとき、シンプルに捉えると「あ、落ちた」とか「好きが始まった」とか考えちゃいそうなんですが、今までの流れからすると、この頬ブラシはそういうことではないよなって。照れくさくて頬を赤らめることもありますし。目に見えている情報通りではなさそうなシーンの確認は、一個一個丁寧にさせてもらった印象です。コミカルな作品だからこそ間違えたアクセルを踏まないように、言葉の裏に隠れている流れを丁寧に確認していきました。
──熊谷さんは、第1話のアフレコではどのようなことを意識されていたのですか?
熊谷:第1話のジェイドって、「白銀の剣」のリーダーとしての面の方が特に大きいというか。モンスターと戦っているところに「処刑人」が現れて、「あいつはいったい何者なんだ」という衝撃や動揺があり、そこから自分なりに調査を進めていくところが描かれているので、リーダーらしい姿が一番強く出た回でもあるんです。だからこそ、アリナさんからは「やばい、自分の弱みを握られた」という風に、ちょっと悪く見えたとしても、そこをしっかりと固めておきたくて。
──真面目で優秀な人間であることを、しっかりと見せているのですね。
熊谷:そうすることで、今後アリナさんとの関係が動いたときに面白くなっていくのかなと。なので第1話に関しては、特に大きくひねったりすることもなくやった印象です。
最終回までを通して、僕が一番意識していたのは、「下心はあっても邪念は持たない」ということ。もちろん、彼も人間だからネガティブな感情はあると思うんです。でも、黒いものは含ませたくないというか、嫌な含み方はしたくない。そういう意識は全話を通してありました。
──アリナの仕事を手伝ってあげるときも、「大変そうで可哀想だから」という優しさがベースにある?
熊谷:スタートはそこだと思います。ただ、ちゃんと下心は持っているんですよね。
高橋:「あわよくば仲良くなれて、『白銀の剣』に入ってくれないかな」とか絶対に思っている感じがちょっと見えるんですよ(笑)。
熊谷:「デート、行きたいなー」みたいな下心もあるんです(笑)。
高橋:それが見えてくるのが、逆に気持ち良いのかもしれない。「あんた、下心あるでしょ!」みたいな。
熊谷:人間臭くなったら良いなという感じで、完璧超人にはしたくないという意識がありました。