第1話で特に印象的な『春と修羅』の朗読シーン。花奈の揺れ動く心情を表現するためにイメージしたこととは?|『花は咲く、修羅の如く』春山花奈役・藤寺美徳さんインタビュー【連載第1回】
読み聞かせのシーンは「正確な読み」ではなく「子供たちに寄り添う朗読」を意識
──第1話のアフレコは、役の方向性などを固めていくという面もあると思うのですが、どうでしたか?
藤寺:第1話は、自分を変に飾らず、等身大の高校生であることをまず意識しました。作中で言われている花奈ちゃんの声質に関しては、自分でどうこうできるものではないのですが、その中でも説得力は出したくて、自分の声をたくさん聞いて、何が長所であり短所であるのかを考えました。自分と向き合う時間を多く取って、収録に臨みました。
──テストの段階で、「もっとこうしてほしい」などのディレクションはあったのですか?
藤寺:キャラクターに関してのディレクションはあまりなかったです。
音響監督の濱野高年さんが、「緊張している? その緊張感をそのまま維持してね」と言ってくださったので、自分の緊張感と、花奈ちゃんが瑞希先輩(CV:島袋美由利)に声を掛けられたときの緊張感がリンクしているのかなって思いました。
──瑞希先輩、いきなり「お前」呼びだから、緊張もしますよね。
藤寺:いきなり肩を組まれていましたよね(笑)。花奈ちゃんは、島の外の人と会う機会も少なかったと思うので、驚いたと思います。
──ただ、グイグイ来てくれるからこそ、心を開くのも早かった気がします。
藤寺:「自分にはないものを持っている」と思ったんじゃないかなと思います。私は、性格的には花奈ちゃんに似ていると思っているんですが、やっぱり明るい人、自分で進んでいける人には憧れてしまうし、カッコいいと思うので。
──第1話では、花奈の読み聞かせがありましたね。
藤寺:すごく楽しんで朗読している様子を表現したいと思いながら、「子供たちに寄り添う朗読」を意識していました。濱野さん(音響監督)にも、「今のまま、何も考えずに読んで」と言っていただいたので、正確な読みとかは考えず、ただ楽しんで朗読をして、相手に届けようとすることだけを考えていました。
──でもそこで才能の片鱗を、瑞希先輩に感じさせなければいけないんですよね。
藤寺:ここは朗読と言っても「演技に近い朗読」なんですよね。花奈ちゃんの表現は、そういうところにあるのかなと思ったので、そこは意識していました。
──瑞希を演じる島袋美由利さんとの掛け合いはいかがでしたか?
藤寺:花奈ちゃんが瑞希先輩に引っ張られていくように、(島袋さんも)引っ張っていく力があるんですよね。(瑞希先輩は)最初からわりとグイグイ来るんですが、それに対して花奈ちゃんも悪い気はしないというか、イヤな気持ちがないんです。そういうところが島袋さんのお芝居からも感じられました。島袋さんのお芝居はすごく素敵で、ナチュラルなのに元気もあって明るくて……本当に瑞希そのままの方だなって、お芝居中も感じていました。
──でも、実際はおっとりしているイメージもありますよね?
藤寺:そうですね。アフレコの合間にお話ししているときは、とても穏やかな方だと思いました。
花奈の揺れ動く心情を表現するべく、こだわり抜いた『春と修羅』の朗読シーン
──その他で、第1話で印象的だったシーンはありますか?
藤寺:やっぱり、雨の中での朗読シーンです。初めてこの詩を読んだとき、そして絵を見たとき、「どう表現したらいいんだろう」と思いましたし、詩の意味もしっかりと理解できていませんでした。
なので、まずは作者である宮沢賢治がどんな人なのか、何を思ってこの作品を書いたのか、時代背景を調べて、詩に込められた意味や、いろんな人の『春と修羅』の考察を読みました。その中で、「宮沢賢治と花奈ちゃんに共通する思いがあるのかな?」など、できる限り考えてから挑みました。
しかもアニメの第1話は、西園寺修羅(CV:日笠陽子)がこの詩を朗読しているところから始まるんですよね。そこは原作にはないところで、ちゃんと音として出てきていたので、それと同じものを花奈ちゃんがここで読む理由は何だろうと、いろいろ考えました。放送部に入りたい気持ちと、花奈ちゃんの周りの環境……いい子でいなければいけない、わがままを言ってはいけないという気持ちに、花奈ちゃんは挟まれているんです。それを表現できるように、何度もトライさせていただきました。
最後に「おれはひとりの修羅なのだ」って天を見ながら言うんですが、(視線とは反対に)気持ちは深いところに潜っていくような感覚で。でも、蓋をしようとしている気持ちが溢れ出て、それが言葉になって、音になっているというのをイメージして、とにかくがむしゃらに演じました。
──花奈がこの詩に、どんな風に自分の気持ちを重ねて読んでいるのかを想像しながら表現していったのですね。
藤寺:はい。しかもこの朗読シーンのアフレコ用映像には、BGMが入っていたんです。私にとって初めての経験で、それを聴いたときに鳥肌が立ちました。この音楽を聴くだけでも、臨場感というか、どんどん盛り上がっていく感じが伝わってきたので、「ここに自分の声を入れるんだ」とすごくドキドキしました。
──朗読自体の説得力はもちろん、音楽やイメージの演出、ほかのキャラクターの反応など、アニメで表現可能なものすべてを使って、花奈の朗読の凄さを表現しているんだなと思いました。そういった意味でも朗読シーンは、この作品の大きな魅力になっていますね。
藤寺:そうですね。ここで花奈の溢れ出た想いを瑞希が感じてハッとなるんですが、第2話でもそんなシーンがあるんです。どう自分の世界へ引き込んでいくのか、それはやっぱり難しいことだなと思っています。
──最後に、アフレコはいかがでしたか?
藤寺:第1話のアフレコは、自分のことでいっぱいいっぱいになり過ぎてしまったので、第2話以降はもう少し周りも見えるようになれたらと思いました。
また先程、第2話の収録を終えたのですが、第1話でキャストの皆様にも一度会っていたこともあって、安心感がありました。ずっと一緒に収録してきたような感覚というか、部活でみんな頑張っている感じが収録でも感じられたので、すごく楽しかったです!
作品概要
あらすじ
「お前の本当の願いを言え、アタシが叶えてやる」
「私、放送部に入りたいです」
入部を決意した花奈は、たくさんの〝初めて〟を放送部のメンバーと共にし、大好きな朗読を深めていく…。
キャスト
(C)武田綾乃・むっしゅ/集英社・すももが丘高校放送部