冬アニメ『想星のアクエリオン Myth of Emotions』花守ゆみりさん×小市眞琴さん×豊崎愛生さんインタビュー| 今回の『アクエリオン』は“慎ましい”!? 感情が欠落したキャラクターを演じる難しさが語られる
共感性がなさすぎるリミヤは、キャスト陣の間でも人気の存在に
──今回演じられる3人のキャラクターは、アクエリオンを操縦するパイロットですが、今までロボットに乗る役を演じられたご経験ってありますか?
花守:私は初めてだと思います。ロボットアニメ自体には何作か出させていただいているんですけど、オペレーターだったりお姫様だったり、ロボットに乗る人を応援するようなポジションだったんです。お姫様だった時(※アニメ『エガオノダイカ』)は、ちょうど小市ちゃんのキャラクターに守ってもらってたんですけど(笑)。
小市:そう、なので私はその時に乗ったことがあります(笑)。
豊崎:私もあるんですけど、今回その乗ったことのあるロボット作品にお世話になったスタッフさんが関わっていらっしゃって。他にも、ロボットではないですけどメカ系の作品で一緒だったスタッフさんと今回の『アクエリオン』で再会したりもして、ご縁を感じています。ただ、こういう3機で合体するロボットに乗る役っていうのは今回が初めてだと思います。
──演じられたキャラクターについて、演じる際に意識したポイントや受けた印象について教えてください。
花守:サッコは「恐怖心」というものが欠けているキャラクターで、オーディションを受けさせてもらった時から、その部分を意識して演じて欲しいっていうオーダーを受けていました。
恐怖心と喜怒哀楽は異なるものではありますが、とくに怒りの感情には影響するはずだという考えがあって。オーディションの時からサッコは結構怒っているシーンが多かった印象もあったので、恐怖心がなくなることで感情がどう表現されるのかっていう引き算は、結構考えながら演じた部分でした。
──ある種、今まで役者として培っていた感情表現の常識みたいなのをガラッと変えるような必要が?
花守:そうですね。私って、役作りをしていく上で、キャラクターの中にある「怖い」って感情を優先的に作っていくタイプの役者なので、「もしその感情がなかったとするなら、この子はどう動くんだろう」というのは、改めて考え続けないといけない部分でした。
もちろん難しくはあったんですけど、決して苦しかったというわけではなくて、サッコは「キャラクターってこう演じることもできるんだ」みたいな気づきを与えてくれた存在でもありましたね。
──リミヤについてはいかがでしょうか。
小市:リミヤは「共感性」が欠けているキャラクターなんですけど、社交性がないわけではないので、相手のことを思いやるような台詞は口にするんです。けど、そこには一切の共感はなくて、「普通の人ならこう言うんだろうな」っていう推測で言っているだけで、本人の気持ちではないんですね。
なので演じる時は、これは建前として言っている台詞なのかどうかはかなり意識していて、戦闘中に反射的に上げる悲鳴とか、リミヤ自身が感じていることだけが彼の感情だと思って演じていました。それが結構大変で、私が悩んでいた時、お二人にはいろいろ相談に乗っていただいたりもして、本当にありがたかったですね。
花守:リミヤは本当に難しいよね。
豊崎:あれは、「どうすればいいんだろう」ってなる。
小市:だからこそ、詳しいことは言えませんが、リミヤに共感の心が芽生えるシーンでは、演じる身としてもホッとするところがありました。ここは感情を入れられるなって。
あとはリミヤって、話が進むに連れて“かわいさ”みたいなのが増していくんです。そこにもある秘密が隠されていたり、結構いろんな面があるキャラになっています。
──もうお話を聞いているだけでも、要素が多く複雑なキャラですよね。自分も1話は先に見させていただいているんですが、リミヤの存在はとくにインパクトが強かったです。
花守:分かります。共感力がないことって、こんなに怖いんだなって。
小市:人間味が薄いんですよね。「他の人が泣いてるから、一応泣いておくか」みたいなノリでやっていて。
花守:収録の初めの頃とかは、リミヤの共感力のなさがあまりに凄すぎて、リミヤのシーンの度に私達が衝撃を受ける、みたいな光景がアフレコ中にありました(笑)。
豊崎:それを小市ちゃんがめちゃくちゃスタイリッシュに演じてくれるから、いっそ気持ちいいみたいな感覚もあって、なんか妙に癖になるんですよね。
小市:話が進むとリミヤの扱いに慣れてくるというか、二人もリミヤのことが分ってくるので「また言ってるよ」みたいな対応にもなってきて(笑)。
花守:キャスト陣の間でも、その回でリミヤがした一番心が傷つくような発言を“今日のリミヤポイント“って名前をつけて呼んでいて。「今日のリミヤポイントはここです」みたいな話をしたり、自分が演じるわけじゃないのに目が離せないキャラクターでしたね(笑)。
──トシについてはいかがでしょうか。
豊崎:まず前提として、今回ってアニメーションの絵柄とかは結構デフォルメされているんですけど、一方でリアリティがすごく重視されているのも特徴になっていて。舞台が江の島っていう実在する場所なのもそうですし、キャラクターのお芝居についても、本当にそこに存在して生きているような現実味を感じられるようにしようと、皆で揃えて役作りをしていったところがありました。
その上でトシくんについて一言でいうなら、“コンプレックスの塊”みたいなキャラクターですね。彼が欠落しているのは好奇心なんですけど、好きなものややりたいことであったり、人に対する感情であったり、あらゆるものに興味が沸かない子で、何事も一生懸命やってはみるんだけど、好きじゃないからどれも長続きしない。そんな自分のことを嫌っているのも含めて、一種のアイデンティティみたいになってしまってもいるので、性格も引っ込み思案で思っていることがなかなか言えなかったり、スマートなリミヤや裏表がないサッコとは結構対照的なキャラクターになっています。それぞれに正反対な3人のやり取りのバランスみたいな部分は、演じる際も意識していたポイントでした。
──ちなみに豊崎さんご自身は好奇心旺盛なタイプなんでしょうか?
豊崎:むしろ私は、典型的な“好奇心の塊”みたいなタイプなので、まさに真逆なんです(笑)。だからこそ辛いんだろうなとは思いますし、実際もし好奇心が持てなかったら、私もトシくんみたいな性格になるんじゃないかなと。
トシくんってちょっと自分に対して絶望しているような部分があるんですが、それも「もういいや」みたいに達観した感じではなくて、ジメッとした悲壮感みたいなのが漂っていたりもします。
花守:感情が抜け落ちているのはサッコやリミヤも同じなんですけど、その二人って、そのことをあんまり気にしてないんですよね。そこも対比になっていて、トシは自分が好奇心が欠落していることをずっと自覚していて、他の人が普通に持っているものを自分が持っていないことに苦しんでいたり、結構共感できる人も多いキャラクターなんじゃないかと感じています。
豊崎:1話でも、サッコにパルクールが楽しいかを聞くシーンがあるんですけど、本当はトシにとってパルクールが楽しいかどうかって興味ないんです。一応「誰かと友達ではいたい」という感情はもっているので、表面上は普通に会話はするんですけど、そこにはまったくポジティブな感情は乗っていない……みたいな。そのあたりのバランスは演じる上で難しかったポイントでした。
小市:この作品、本当にどのキャラクターも難しいですよね。
豊崎:ただ、トシくんの場合サッコもリミヤも好きなんですよ。好きなんだけど、会話はリミヤと一緒で「友達同士ってこういう会話をするんでしょ?」みたいな感覚でやっているところがあって。そもそもこの3人って、そういう上辺だけの会話みたいなのが結構多い印象がありますね。
花守:……改めて話していると、この3人、とくに最初の頃はよく一緒にいられたなって思いますね(笑)。
豊崎:確かに。噛み合わないところのヒリヒリ感とかを、ちょっと楽しんでたりもしたけど(笑)。
花守:結構バランスが絶妙なんですよね。お互いにまったく共感はできないんだけど、何か自分と似通った部分があることをそれぞれ感じ取っていたんじゃないかと思っています。