アニメとヤマハ発動機のバイク愛が強すぎて作品に参加することに!?『Tokyo Override』で夢見たバイクの未来【有名企業に突撃!オタク訪問】
話題となった『ゆるキャン△』コラボの裏側
──社内でもアニメや漫画の話をすることはありますか?
三浦:ありますよ。弊社は趣味を大事にする人が多い会社なので、アニメや漫画が好きだとオープンに話しても全然問題ないんです。「どんな趣味があるの?」と聞かれて、「アニメや漫画です」と答えると、「じゃあおすすめ教えてよ!」という感じで盛り上がります。趣味の話が日常的なんです。仕事の話よりも週末に何を楽しんだかを話すことの方が多いくらいで(笑)。
──趣味を謳歌する文化が根付いているんですね。
三浦:そうですね。キャンプやアウトドア、バイク、ランニングなど、趣味に没頭することが当たり前のような雰囲気があります。むしろ「好きなことがないの?」という視線の方があるかもしれません(笑)。アニメや漫画もその一環として自然に受け入れられていて、とても心地いい環境です。
阪田:自分も含めてそう思うことはあります。でも趣味活動を通して、仕事に対するアイデアが生まれることは確実にありますね。特にバイクなどは、自分が体験して楽しかったことを他の人にも伝えたいと思いますし、「この感情の高まりをどうやったら自分たちの商品で体感してもらえるだろうか」と考えることがあります。
たとえば、山頂に登った時に視界がパッと開くあの「ぞわっ」とする瞬間や、アニメや漫画で思わず泣いてしまう感動的なシーン。そういった感情を自分自身で経験していないと、「感動」を提供することは難しいと思うんです。弊社の企業目的に「感動創造企業」がありますが、これを実現するためには、自分が感動する体験を積極的にすることが重要だと感じています。
三浦:私の場合は、趣味として好きだったものが仕事に結びつくことが多くて、そこはオタクマインドが活きているなと感じます。たとえば、「どこがファンにとって嬉しいポイントなのか」を自分で考えながら、「ここをもっとこうした方がいいんじゃないか」と提案できるんです。
趣味と仕事を一緒にするつもりは全くなかったんですけど、結果的にそうなっている部分はありますね。「アニメは詳しくないけど、こういう場合はどうすればいい?」と聞かれた時に、「ファン目線だと、こういう方が嬉しいと思いますよ」と提案できるのは良かったと思います。
阪田:確かに、広い層に向けた一般的なアプローチも大事ですが、どこかにオタク的なこだわりを残すことで、特定のファン層の心を掴むことも重要ですよね。ニッチでもいいから、そういうポイントをしっかり残すことには価値があると思います。
──それこそ、『ゆるキャン△』とのコラボなどもそうですよね。
三浦:そうですね。TVアニメ『ゆるキャン△ SEASON3』では、舞台が静岡だったこともあり、本田技研工業さんと連携してツーリング企画を実現しました。作中のキャラクターが使用しているバイクのモデルになった車種を用意して、漫画と同じ構図で写真を撮って放送時リアルタイムでSNSに投稿したんです。かなり反響があって、「狙い通りだな」と感じました(笑)。
──そのこだわりがファンにとって刺さったわけですね。
三浦:はい。ただ静岡は広いので、撮影のために片道3時間かけて山奥まで行ったりと、なかなか大変でしたけど(笑)。でも、漫画と全く同じ画を再現することにこだわった結果、ファンに喜んでもらえたのは嬉しかったですね。
じゃあ行きますか#ゆるキャン https://t.co/iJaaVk4ROg pic.twitter.com/U2VJPruZl5
— ヤマハ バイク (@yamaha_bike) May 9, 2024
未来の技術を使いながらも、感覚的に心を揺さぶるものに
──『Tokyo Override』についてもお聞かせください。作品を実際に観て、どう感じられましたか?
阪田:全話観ましたが、本当に面白かったですね。100年後という遠い未来を舞台にして、流通やバイクの未来について説教臭くならず、物語としてしっかり面白く描かれているのが良かったです。「こういう未来になるかも」とワクワクしました。
──制作に携わったお二人の視点からはいかがでしたか?
阪田:制作には3Dも多く取り入れられていて、実際に完成した作品を観た時は感動しましたね。「ああ、こんな形で未来を表現するんだ」と、作り手としても刺激を受けました。
三浦:私たちが企画に携わり始めたのは2019年の東京モーターショーがきっかけで、Netflixさんから「こういう企画をやっているんですが」とお声掛けいただいたところから始まりました。具体的な内容についてはお話しできない部分もありますが、4~5年かけて少しずつ形になったプロジェクトです。
最初はNetflixさんから、「こういうキャラに合いそうなバイクを提案してください」という軽い感じでスタートしたんです。そこから、モーターショーでNetflixさんから声をかけていただいた1年後くらいに、「具体的にこんなのどうですか?」と、かなり真剣に提案をしました。
こちらとしては、キャラクターのプロフィールシートを元に議論を進めたんですが、書かれていない設定まで想像して、「きっとこういう背景があるから、このバイクが合うだろう」という感じで、かなり深掘りしました。設定以上に踏み込んだ提案を数パターン用意して、「ここを強調するならこのモデルがいい」など、詳細に説明したんです。Netflixさんも最初は驚いたかもしれませんが、感動してくださったようで、「そこまでやるなら、一緒に世界観作りもやりませんか?」と声をかけていただきました。
──提案がきっかけで、世界構築にも関わることになったんですね。
阪田:そうなんです。最初はキャラクターに合うバイクの提案だけでしたが、そこから世界観の構築にも関わることになり、さらに「100年後のオリジナルバイクをデザインしてほしい」と依頼されました。ありがたいことに、どちらも全力でやらせていただきました。
完成した作品を観た時には、単にデザインしたモデルが動いているだけではなく、背景の細かい設定まで自分たちが議論した内容が活きていることを感じました。たとえば、「100年後の人々の移動はこうなっている」「街の構造はこう変わる」「電車にはこういう機能がある」など、作中で明確に説明されていない部分も背景に反映されているんです。それが確認できた時、本当に凄いと思いましたね!
──監督のこだわりも強かったと聞いています。
三浦:はい、監督の意向で「よくあるディストピア的な未来にはしたくない」という方針がありました。表面上はAIによって全てが最適化され、不自由のない生活を送る社会が描かれていますが、その中で唯一、バイクが自由な移動手段として存在しているんです。なぜ100年後にもガソリンバイクが残っているのか、あるいは最適化されたAI社会でなぜレースが存在しているのか。こういった部分も私たちが一緒に提案しながら議論を重ねました。
さらに、監督は全6話で描かれるだけの物語ではなく、世界全体を作り込む「ワールドビルディング」という手法を用いた作品づくりを目指していました。『スター・ウォーズ』のように、世界観が完全に構築され、その中の一部を切り取ってエピソードとして描くようなイメージです。そのため、100年後の世界を描くにあたり、2030年、2040年、2050年と、現実から未来へ向けて年表を作成していきました。その積み重ねを元に、100年後の世界を理にかなった形で描けたと思います。
──100年先を描くために、年表を作り込むというのは驚きです。
三浦:そうなんです。年表だけでなく、世界観を構築するための資料が膨大で、私のパソコンでは開けないほどのデータ量でした(笑)。資料が重すぎて、ぐるぐると読み込みが終わらないこともありましたね。
──登場するバイクにもこだわったとのことですが、どのような意図があったのでしょうか?
三浦:登場するバイクは、「100年後の世界における自由の象徴」として非常に重要な要素でした。監督からは、「バイクはただの移動手段ではなく、この物語のメッセージやキャラクターの価値観を象徴する存在にしたい」と言われていました。
たとえば、AIによる最適化社会の中で、あえて「古いガソリンバイク」が残っている理由や、それがどのような役割を果たすのかについても、私たちの方で詳細に考えました。その結果、「現代的で最先端なデザイン」だけではなく、ノスタルジックな要素を取り入れたバイクを提案することになりました。
また、劇中で描かれるレースのシーンに登場するバイクについても議論しました。今の社会ではあり得ない未来的な技術を持ちながらも、バイクという存在が持つ「人間との一体感」や「ハンドリングの楽しさ」をどう表現するかを考えました。その中で、「未来の技術を使いながらも、感覚的に心を揺さぶるものにしよう」というコンセプトを形にしました。
──まさに「感動創造企業」としてのこだわりですね。
阪田:そう言っていただけると嬉しいです。最終的に完成した作品を観た時、バイクが単なる移動手段以上の役割を果たしていると感じましたし、物語の中でしっかりとキャラクターたちの生き方や価値観を象徴するものとして機能していたと思います。それが確認できた時、ものづくりの一端を担えた喜びを改めて感じました。
──『Tokyo Override』ではキャラクターに合わせてバイクを提案されたとのことですが、具体的な選定理由について教えてください。
阪田:たとえば、スポウクというキャラクターが乗るバイクには、ヤマハの「YZF-R1」を選びました。スポウクは口数が少なく冷静ですが、人情味があって面倒見が良い一面もあるキャラクターです。この性格と、YZF-R1の持つ性能やイメージが非常にマッチしていると感じました。
YZF-R1はサーキットでも走れるほどのスペックを持つスーパースポーツモデルで、一人で戦う孤高のライダーを彷彿とさせます。また、ヤマハ独自のクロスプレーンエンジンを搭載しており、クールな見た目ながらも内に熱い情熱を秘めているようなバイクです。そういった点が、スポウクのキャラクター性と親和性が高いと考えました。
──確かに、スポウクのキャラクターにぴったりですね。他のキャラクターについてはいかがですか?
阪田:ワタリが乗るバイクには、「VMAX」を選びました。VMAXは大型のマッスル系バイクで、力強さが特徴です。ワタリは、スマガレージの面倒見役として少しわがままなメンバーたちを取り仕切る、男勝りで頼りがいのあるキャラクターです。そんな彼女がVMAXのような大きなバイクを自在に乗りこなしている姿は、非常にかっこよくて説得力があります。
女性キャラクターが巨大なマッスルバイクを扱うというのは、一種のロマンでもありますよね。実際、劇中で彼女が図太いエンジン音を響かせながら走るシーンを見た時、「このバイクを提案して良かった」と改めて感じました。音も非常に特徴的で、YZF-R1のスーパースポーツ系の音とは対照的な、太くて重厚な音が作品に良いコントラストを与えています。