アニメとヤマハ発動機のバイク愛が強すぎて作品に参加することに!?『Tokyo Override』で夢見たバイクの未来【有名企業に突撃!オタク訪問】
作中のバイクの音は本物だった!?
──バイクの選定だけでなく、未来のバイクのデザインにも関わられたと伺いましたが、どのように作られたのでしょうか?
阪田:未来のバイクのデザインは、ワールドビルディングの過程で生まれたものです。まず、「なぜ未来の世界でレースが行われるのか」という理由を考えるところから始まりました。未来の都市では、AIによる最適化が進み、事故がほとんど発生しないと想定されます。そうなると、緊急事態への対応能力が一般生活から失われる可能性があります。
そのため、レースを「インフラの確認」と「エンターテインメント」の両方を兼ねたものとして位置づけました。レースの舞台を用意し、クラッシュや街のルート変更といったシナリオを通じて、緊急事態への対応を試験する仕組みを考えたんです。これがレースが存在する理由であり、100年後の社会におけるリアリティを持たせるための設定となりました。
三浦:なので、作中のレースは政府が開催しているんです。
──確かに、エンターテインメントと実用性を兼ね備えた設定は未来的ですね。
阪田:そうですね。レース車両のデザイン自体も、単に未来的な見た目にするだけでなく、そうした背景に基づいて機能性や意味を込めています。たとえば、「なぜこの形なのか」「なぜこの機能が必要なのか」といった点をしっかり議論しながら進めました。最終的に映像で動いている姿を見た時、それが物語の中で自然に溶け込んでいるのを感じて、本当に嬉しかったです。
──100年後の未来におけるバイクレースやそのデザインについて、さらに詳しく教えてください。
阪田:未来のバイクレースを考える際、まず「インフラの確認が目的であれば、どのような車両が適しているのか」という視点から出発しました。バラバラの車両を使うより、共通のプラットフォームを採用する方が比較検討がしやすいだろうと考えました。
現在のMotoGPでは、各メーカーが独自に車両を開発していますが、参考にしたのは「フォーミュラE」です。フォーミュラEでは、運営側が共通の車両を提供し、各チームがセッティングを調整してレースを行います。未来のインフラ確認のためのレースも同じような形態になるのではと考え、ベースとなる共通プラットフォームと、それをカスタマイズする「上物」の概念に行き着き、最終的にコンセプトモデル「Y/AI」が完成しました。
たとえば、アマリンというキャラクターが乗る車両も共通のユニットを使っていますし、他のチームも同じベース車両を使用しているという設定です。また、未来のレースでは、人間だけがライダーではなくなるという考えも取り入れました。ピュアに人間が運転する場合もあれば、完全にAIが操作する車両、あるいは人間がリラックスした状態で補助的に操作する車両など、さまざまなバリエーションを考えました。
三浦:一時停止して見ていただければ、すごい体制で運転しているキャラクターがいるのがわかると思いますよ。
──面白い! そういうふうにデザインされていったんですね。
阪田:デザインに関しては、ヤマハが現在大事にしている「デザイン哲学」と「開発思想」を、百年先にどう発展させられるかを考えました。現在のデザイン哲学や開発思想をそのまま100年後の未来に飛ばすとどうなるのか、どのような形に進化するのかを突き詰めて議論し、形にしていきました。
また、エンターテインメントの要素も重要なポイントでした。現在のバイクレースでは企業スポンサーが車両にステッカーを貼り、資金提供を行うのが一般的ですが、百年後のレースでは、個人が直接ライダーを応援できる仕組みも考えました。たとえば、投げ銭のような形でライダーやインフルエンサーを支援できるシステムです。レース中、ピット作業の時間がエンターテインメントとして演出されるなど、観客を楽しませる要素も含めて検討しました。
作中で直接言及されていない部分にも、こうした設定が盛り込まれています。ピットでのパフォーマンスやレースの進行など、視覚的な演出の中に隠された要素がたくさんあります。観る人が気づけばさらに楽しめる仕掛けになっていると思います。
──なるほど。バイクの音もかなりこだわられたとか。
三浦:実は『Tokyo Override』の音響には、かなりこだわりが詰まっています。たとえば、バイクのエンジン音を収録する際には、専用の音響実験室にバイクを持ち込み、マイクを9本ほど設置して収録しました。これは、「実際のバイクの音をそのまま使いたい」という思いからです。中途半端な音を使うと、必ず「これはこの車両のエンジン音じゃない」と指摘される方がいますよね。オタクの厳しさですよ(笑)。だからこそ、正確な音を届けるために、徹底してこだわりました。
──そのこだわりがドルビー対応にも反映されているんですね。
三浦:そうなんです。このアニメは、オリジナル作品として初めてドルビー対応がされています。Netflixの有料会員向けで、ドルビー対応の音響システムを揃えた環境で視聴すると、迫力ある音を楽しめます。弊社の「YZF-R1」や「VMAX」のエンジン音、さらには本田技研工業さんが提供した音響もフルで使用されていますので、ぜひ注目していただきたいです。
──未来のバイクの音についても考えられたと伺いました。
阪田:はい、未来の乗り物の音についても議論しました。最終的にはアニメの演出として、現代の人々が直感的に「未来の音」と感じられるものに仕上げています。ただ、乗り物の構造上発生する物理的な音、たとえばコイルの周波数やリズムといったものは正確に再現してほしいとお願いしました。それらはきちんと盛り込まれています。
──細部への徹底したこだわりを感じます。
阪田:バイクのエンジン音だけでなく、シートに座る時の「ギュッ」という音や、カチャカチャとレバーを操作する音もすべて収録しています。本田技研工業さんと弊社の音響実験室で、ロードノイズを完全に排除したピュアな音を記録しました。このレベルで正確な音は他にないと思いますので、ぜひ注目していただきたいですね。大音量で聞くと迫力が増すので、映画館のような環境で聞いてもらえたら最高ですね。
──まさにヤマハさんの精神が詰まったプロジェクトですね。
三浦:ヤマハの精神というより、オタクの精神かもしれません(笑)。
身体は動いていないけど、感情が揺さぶられている
──様々な思いで『Tokyo Override』のバイクが作られているのかがわかりました。ちなみに、現実世界において、100年後のバイクはどうなっていると思いますか……?
阪田:バイクや自転車という形そのものは、100年後も残っていると思います。誕生からすでに100年以上経過していますが、基本的な構造は変わっていません。タイヤが2つあって、何らかのドライブユニットを搭載し、人が乗るという「パーソナルモビリティ」としての形は今後も続くのではないでしょうか。
もちろん内燃機関のバイクが主流ではなくなる可能性はありますが、趣味性の高い選択肢として残ると思います。電動アシストが必要な人にはそれを提供し、自分で漕ぐのが好きな人にはそれを提供する。多様な選択肢が共存する形が、未来のバイクの姿ではないかと考えています。それが文化や趣味として位置づけられるからです。
現に現代でも、昔のバイクに乗り続ける方がいますよね。パーツが手に入らなくても、自分たちで工夫して乗り続ける姿は、バイクが文化として根付いている証拠だと思います。
生活必需品としての乗り物は、より便利なものが登場すれば淘汰されるかもしれませんが、文化や趣味の対象としての乗り物は残るはずです。たとえば、楽器と同じように、今ではラップトップで曲が作れる時代ですが、それでも生の楽器を演奏したい人がいます。それと同じように、バイクも人々にとって特別な存在であり続けるでしょう。
──確かに、便利な未来になっても「バイク」という存在には特別な価値がありそうですね。
三浦:私自身、作品『Tokyo Override』を通して、移動の自由について改めて考えさせられました。全てが自動化され、住むエリアも最適化されている世界が描かれていますが、その中で、バイクは唯一自分自身で行き先を決められる乗り物として対比されています。この考え方に気づいた時、「なるほど、これがバイクの持つ特別な価値なんだ」と感じました。
ある先輩から聞いた話で、「車は点から点への移動手段だけど、バイクはその移動自体が思い出になる」という言葉がありました。確かに、バイクは移動中も風や景色、匂いなどを五感で感じることができ、それが記憶に残る乗り物なんですよね。だからこそ、未来がどんなに便利になっても、五感で楽しむ体験の貴重さが際立ち、より一層注目されるのではないかと思います。
──その視点は面白いですね。便利な世の中で、あえて外に出て、自分の感覚を使って楽しむ体験が求められるということですね。
三浦:そうですね。今の時代、VRで何でも体験できたり、物は自動で届いたりと、室内で生活が完結する便利な仕組みが整っています。でも、だからこそ、自分で外に出て五感で感じる楽しさが重要になると思います。
──話題が尽きませんが、そろそろ締めの質問に入らせていただきます。今後、こんなコラボをしてみたいという夢はありますか?
三浦:私は今ショールームで働いているので、何かアニメやゲームとコラボしてお客様に楽しんでいただけるようなイベントを企画してみたいですね。
また、個人的な夢としては、『Dr.STONE』という作品とコラボしてみたいです。この作品にはまだアニメ化されていない部分で、バイクを作るシーンがあるんです。それを実際に再現して、「科学とバイク」の融合をテーマにしたイベントをやれたら面白いなと思っています。現実のバイク作りにどのくらい科学的なアプローチが活かされるかを見せられると、ファンにも喜んでもらえるのではないでしょうか。
阪田:『Tokyo Override』を通して感じたのは、アニメや漫画の世界からリアルにモデルが飛び出すことで、異なる文化や層のお客様同士が交流できるということです。それが一つの媒体になれば、さらに面白いと思っています。
たとえば、ゲームの中で走り回るモビリティを現実世界に再現したり、アニメや漫画で描かれるバイクを実際に形にしたり。そういう試みを増やしていくことで、新しいお客様との接点を作り、コミュニケーションのツールとして使えるのではないかと考えています。
個人的な夢としては、自分が担当したモデルがアニメや漫画に登場することですね。我が子同然のモデルが作品に登場して活躍する姿を見られたら、それ以上の喜びはありません。(笑)
──ぜひその夢を実現していただきたいです! では、最後の質問です。「オタクの良さ」とは何でしょうか?
三浦:端的に言えば、エネルギーですね。現実逃避という言葉にはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、漫画やアニメは心を癒してくれたり、満たしてくれたりする存在だと思います。私にとっては、隙間時間にアニメを見るのが当たり前で、「なんでこれを見てるんだろう」と思ったことすらありません。
結局、楽しいから見ているんですよね。作品ごとの世界観に没入できる感覚は、他ではなかなか得られないものです。どんなに忙しくても、アニメや漫画はこれからも手放せない存在だと思っています。
阪田:僕も、漫画やアニメは最も身近に感動を届けてくれる媒体だと思っています。たとえば、ソファーでじっとしているだけなのに、見終わった後には笑ったり、涙を流したり。身体は動いていないけど、感情が揺さぶられているんですよね。
旅行や新しい体験も大好きですが、漫画やアニメは手に収まるサイズ感で、異世界や高校生活など、どんな世界にも行けるのが魅力です。あらゆる感情を体験させてくれる、そんな媒体だと思います。
[インタビュー/石橋悠 撮影/MoA]
関連サイト
Yamaha Motor | Tokyo Override COLLABORATION PROJECT
https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/tokyooverride/
Netflix作品ページ
https://www.netflix.com/jp/title/81153111
作品概要