絵コンテをみた時の感動を映像として視聴者の方々に絶対に伝えたい――『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』キャラクターデザイン・新山恵美子 インタビュー
2013年に刊行された『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』(原作・イラスト:尼子騒兵衛/小説:阪口和久/朝日新聞出版刊)の劇場アニメ『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』が2024年12月20日(金)より全国公開中です。
アニメイトタイムズでは映画公開を記念して、 キャラクターデザイン・新山恵美子さんのインタビューを実施。“頭身を上げた”というキャラクターデザインの裏話や新キャラクター・桜木清右衛門&若王寺勘兵衛のデザインについて。さらに、本作の劇場化するにあたって制作スタッフ陣が秘めていた想いなど、たっぷりとお話を伺いました。
絵コンテをみた時の感動を映像として視聴者の方々に絶対に伝えたい
──まずはじめに、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の上映に際した率直なご感想をお聞かせください。
新山恵美子さん(以下、新山):原作小説が刊行されてから時間が経っているので、これは満を持して嬉しいばかりですね。
藤森さん(監督・藤森雅也さん)からテレビ版のキャラクターデザインを引き継いでから「この映画のために『忍たま』を温めておいてね」みたいな使命感を託された気がしていました(笑)。そのくらい今まで『忍たま』は30年以上も放送されてきたけれど、今作はやったことがない『忍たま』であり、ここにきての劇場版で「また幅を広げていくのか」と。
やっぱり、自分がずっと携わっている作品なので、まるで自分の子供のような存在です。それがテレビの枠を越えて劇場版になることで、既に知られている作品かもしれませんが、さらに多くの人の目に触れる機会を得られるのは本当に嬉しいことだなと思っています。
──キャラクターデザインをされる上で、力を入れたポイントについてお伺いできればと思います。
新山:まず、原作小説の雰囲気に見合うようなデザインにする必要がありました。
TVシリーズは子供向けに特化している部分があって、そういう部分を劇場版では少し違う雰囲気にしていこうと監督と相談した結果、「キャラクターの頭身を上げる」という話になったんです。全体的にスタイリッシュなデザインでアクションシーンに映えるようにしています。
今回、アップのキャラクターには影部分に細くノーマル塗りを残して照り返しの表現を使うことによって、のっぺりとした雰囲気にならないように作画監督には指示を出させていただいています。
その結果、キャラクターは同一なのに影付けで雰囲気が変わっていたり。そういう部分で立体感や臨場感を出すことができたと思いますし、テレビ版と差をつけることができたと思います。
テレビ版と大幅にはキャラクターデザインを変えられないという制約があるので、「じゃあ、影か光か」みたいな。試行錯誤しながら、捻り出してあのような雰囲気になりましたね。
──なにわ男子の大西流星さんと藤原丈一郎さん演じる、新キャラクターの忍術学園の卒業生、桜木清右衛門、若王寺勘兵衛のデザインについてもお話をお聞かせください。
新山:尼子さんのラフがあった上での描き起こしだったので、作業は比較的スムーズでした。
初登場では変装をしていて、その後、山田先生とアクションシーンに突入するのですが、監督と「どこまで隠すか」という話し合いがありました。
視聴者の方に、誰なのか分かるか否かという部分が結構大事で、テレビ版の『忍たま』の変装シーンでもよくある話なのですが、ひと目でそのキャラクターが誰だか分かった方が良いのか、それとも分からない方がお話の都合的に良いのか、という。
藤森さんの隠す基準よりも私は結構、隠したがりで(笑)。分からない方がアクションシーンもきっとかっこいいだろうなと思って変装のデザインはかなり隠しています。
あと設定制作というお仕事をする方がいらっしゃるのですが、武器を調べるのが本当に大変だったみたいで……。今回、桜木と若王寺の得意武器の使い方なども結構調べないといけなかったのですが、なかなか資料が出てこない。マニアックで見栄えのする武器をスッと提供される尼子さんの引き出しのすごさを感じます。
──そんな尼子さんやまたキャストの方、スタッフで印象的だった会話がありましたら教えてください。
新山:尼子さんやキャストの方とは直接やり取りすることは少なく、監督との打ち合わせが中心でした。制作チームとは「これはとんでもない集大成になるね!」「この制作が終わったら絶対に燃え尽きるよね!」という会話がありましたね。
振り返ると、『忍たま』が好きでやっている方も多かったですし、みんなすごく気合が入っていたなと。私も現場の空気を悪くしたくないので、それぞれのスタッフの良い部分を探して、良く描けているカットがあったらちゃんと言葉で伝えるようにしていました。それで、モチベーションを上げてほしいと思いましたし、終わった後に「あの仕事すごく楽しかったよね」っていう『忍たま』の現場であってほしいと思っていたので。お互いに高め合うことを常日頃から意識して、チーム全体の雰囲気はとても良かったんじゃないかな。
そしてやっぱり、印象に残った思い出としては「痛たたたたた」ですかね(笑)。今回、六年生の怪我の描写があり、血の色もこだわって決めていたんですよ。六年生が血塗れになっている画がかわいそうで、藤森監督と2人で「痛い!痛い!痛い!」って画面を見ながら色のチェックをするという……(笑)。
そんなこともありながら、お話の内容がすごくシリアスなので作画の打ち合わせでも深刻な空気になっちゃうんですけど、藤森さんは前作『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』でもそうでしたが、乱太郎のことを“乱ちゃん”って呼んでいて、「乱ちゃんたちは〜〜」って言ったりするんです(笑)。
作画チームはみんなそれが好きで、そう呼んでいるのを聞くと、みんなで「“乱ちゃん”が出た!」と。現場がほっこりします(笑)。可愛いですよね(笑)。
──(笑)。制作でいうと新山さんの印象的なシーンを教えてください。
新山:表情芝居にこだわったのできり丸が涙を流すラストシーンになってきちゃいますかね。
描いたことない表情、描いたことのない作画。ああ、一生忘れないなって(笑)。大変なカットって後々、絶対に良い思い出になるので今回もそうなるだろうなと。テレビ版では涙がある作画はほとんど描かないですし、緊迫感のある大人たちの表情やわたわたするドクタケ忍者隊とか、今回のお話ならではの表情だったかなぁと思います。
(新山さんが)ラストの感動的なシーンは藤森さんから「お願いね」と言われていたので、このシーンに向けてきり丸の作画はだいぶ練習しましたね。ただ、藤森さんの絵コンテの表情がすごく良かったので、そこがベースにはなっています。
自分たちはそのコンテを真っ先にみるんですけど、その時の感動を映像として視聴者の方々に絶対に伝えたいという想いがありました。感動で「わぁ!」って思っちゃった自分たちがそれ以下のものを作るわけにはいかないという使命感と共に。
それでいうと、どのシーンもすごく思い入れはありますし、「テレビ版と全然ちがう!」とみんなで興奮したのも良い思い出ですね。
──続けて、本作にまつわる制作裏話などがございましたら教えてください。
新山:裏話というほどではありませんが、実は亜細亜堂もこの原作小説を劇場化したいと思っていたので、お話が来た際は「やっと来た!」って、忍たま好きのスタッフみんなガッツポーズみたいな(笑)。
あの小説は評判が良く、『忍たま』の話題が上がるたび、ひとつSNSを覗けば毎日誰かしらの「劇場版をやってほしい」という声を目にすることも多かったように思います。