
二人羽織で演じるアーサー/グレイの成長譚。『最強の王様、二度目の人生は何をする?』アーサー役・藤原夏海さん&グレイ役・古川慎さんインタビュー|古川さんだけ専用ブースで収録していた理由とは?
2025年4月2日(水)よりフジテレビ「+Ultra」ほかで放送中のTVアニメ『最強の王様、二度目の人生は何をする?』。
本作は、北米最大級のWEBコミックプラットフォーム「Tapas」で連載されている冒険ファンタジー作品『The Beginning After the End』が原作という海外発の転生モノ。そんな作品が日本でTVアニメ化となりました。
好評放送中の本作について、アニメイトタイムズでは主人公・アーサー役の藤原夏海さん&グレイ役の古川慎さんへインタビューを実施。古川さん演じるグレイは、アーサーの頭の中で聞こえる天の声のような存在とのことで、収録では特殊な方法をとっていたそう。ぜひそんな収録周りのエピソードに注目を!
グレイのセリフは特殊な収録方法で
――出演までの経緯と役に決まった際の心境からお聞かせください。
アーサー役・藤原夏海さん(以下、藤原):普段はテープオーディションの後にスタジオオーディションが入ることが多いのですが、この作品はテープオーディションだけで決まったので、受かった時は喜びと同時に驚きがありました。
グレイ役・古川慎さん(以下、古川):テープオーディションだけだと「本当にこれで大丈夫なのかな?」と少し不安になったりするよね。
藤原:そうなんです。「良かったのかな?」っていうドキドキ感はありましたが、やっぱり嬉しかったですね。
――テープオーディションだけでお仕事が決まることは少なくないのでしょうか?
古川:ままあります。テープオーディションは、自分たちがこれだと思ったお芝居を収録したものを先方に送って判断していただく形式なので、決まったのだとしてもある程度の不安は抱えたまま現場にいくことになります。収録が始まるタイミングで、これから何を言われるのだろうかという若干の緊張感が漂うんです。スタジオオーディションがある作品の現場とはそのあたりに違いがあるように思っています。
また、僕がこのタイプの役柄を担当させていただくのが初めてだったこともあるかと思います。転生前と転生後のキャストが別々で、かつ本人と別のモノローグを喋る作品は多々あると思うのですが、本作ではその転生前を演じさせていただくことになりました。
ただ、僕は他のキャスト陣とは隔離されたブースで毎回収録に臨んでいるので、何もかもが特殊なんです。一緒に収録に参加していても、天の声のような感じで。だから最初は戸惑うばかりでしたが、慣れてくるとグレイを演じるからこその楽しさがわかるようになっていきました。
藤原:古川さんは色々な経験を積まれているイメージがあったので、グレイのようなキャラクターを演じるのが初めてだとは驚きました。かなり斬新な収録方法ですよね。
古川:みんながマイクワークをしている中、僕だけ専用ブースだからね。
藤原:私は古川さんのお声をイヤホンで聴きながらお芝居をしていきました。脳内でグレイが喋っているような状態でお芝居ができたので、本当に自分がアーサーになったかのような感覚でした。
古川:だから僕が台詞を噛むと、藤原さんはその音声を耳元で聴いていることになると(笑)。
藤原:逆もしかりですけどね!(笑)
古川:ボイスオーバーの収録に近いので、僕はみなさんの声をヘッドホンで聴いてどんな反応があるのか把握しながら収録できるんです。
だけど藤原さんたちのブースは話数によって最大収録人数が20人弱まで増えるので、レシーバーの数が足りなくなる。だから僕の声をまったく聴かないでお芝居される方もいまして。
藤原:私たちの方の収録ブースは後ろがミキサールームなのですが、そこでは私たちの声が流れていて。古川さんのお声はよく響くので、レシーバーをされていない方の中に、ミキサールームからの声で古川さんが喋っていることを感じ取っている方がいました。
古川:ぼそぼそとしか喋ってないけれど、もしかしてめちゃくちゃ音量を上げてたのかな?
藤原:かもしれません。「おお、響く響く」みたいに言ってました。
――台本や原作をチェックして感じた作品の印象もお願いします。
藤原:コミカライズをチェックして驚いたのが、グレイの人間性や彼が生きた世界の在り方でした。生まれ変わる前は、アーサーとなった現在とはまた違った雰囲気の世界で生きていたんだなと知ることができました。
でもアーサーが登場した瞬間からもう可愛くて、ほっぺはモチモチしているしキャラクターの表情がコロコロ移り変わっていく。そこでアニメとはまた違う印象を受けたからか、最初は愉快な作品なのかと思ったんですよ。
最初に(コミカライズ版の)表紙を見た時は、不敵な表情で椅子にもたれかかるようなアーサーが描かれていたので、きっと王様が生まれ変わってブイブイいわせるような作品なのかと思っていたところもあります。だけど、読み進めていく内に赤ちゃんから人生が再スタートになったのに、めちゃくちゃ一生懸命に生きようとしていて、その姿に惹かれました。
古川:転生した人が改めて赤ん坊から人生をやり直すことになるのですが、その様がしっかり描かれることはあまり見ない気がしていて。全体的なストーリーの流れから何となく感じ取る人もいるかと思いますが、おそらくここがこの作品の注目すべき部分のひとつです。
そんな中で、転生者であるアーサー/グレイに「あの子はただの赤ん坊だから」と言ってくれる両親……特に母親のアリスですよね。そういった家族への情の描き方が、海外原作だからなのかより強く感じられました。
ちゃんと心が通い合っているからこその感動であるとか、キャラクターたちの心の動きも楽しめる作品です。もちろん転生モノのジュブナイル的な要素や、数奇な運命に翻弄されたり、アーサー自身の成長譚的な側面もあったりします。そういう様々な要素がバランスよく練り込まれていて、面白いなと思いつつ資料をチェックしました。
実際にアニメをご覧になっていただくと、アーサーがひとつひとつ階段を登っていく形になっているので、徐々に感情移入していけるのではないかと。その障害になりそうな懸念事項が脳内に響いてくるグレイというおっさんの声なのですが(笑)、そこはみなさんにとっての安心感という立ち位置なのだと受け取っていただければと思っています。
藤原:安心しまくりですよ!
古川:でも何も知らないアリス目線だと、この子は大丈夫なのかなって思うところはあるんです。そうやって身近な人がアーサーを心配する目線や演出が入るのが良い部分なので、アリス目線でご覧になっても構わないですし、エンターテインメントとして見ていただいても問題ない。色々な見方や心の通わせ方が描かれていると思っています。
――赤ちゃん時代のアーサーが登場したり、そんな赤ちゃんのモノローグに古川さんのお声が入るなど第1話はかなりユニークな印象があります。収録はどんな雰囲気だったのでしょうか?
古川:最初の収録なのでキャラクターの調整などはもちろんあったのですが、グレイは割と人物として完成されたキャラクターなので、転生したとしても人物としての変化はおそらく見られない。その状態でテストから本番へ移り、この方針で行きましょうとスムーズに決まったと思います。きっと大変だったのは成長していくアーサー役の藤原さんでしたね。赤ちゃんの状態からは大変じゃなかった?
藤原:大変でした。第1話は殆ど言葉を喋らずに、2歳になるまでの話でしたから。
古川:グレイはめちゃくちゃ喋っているけれど、アーサーは「あー」と「うぅー」しか言わないから、ちょっと羨ましく思ったこともあります(笑)。
藤原:第1話の時は確かに、その2つだけで会話していた気がします(笑)。
一同:(笑)。
古川:でも、それはそれで大変だったはず。
藤原:グレイの意思というか、魂が入っている状態で赤ちゃんのアーサーを演じることになったので、ようやくハイハイが出来るようになったとか、立ち上がれるようになったとか、自分で動けるようになるまでの苦労や息遣い、心の動きは入れたいなと思っていました。
――そのあたり、身体が赤ちゃんなのにモノローグが既に人生経験を積んでいる男性というギャップ、アンバランスさがまたコミカルにも見えました。
古川:グレイ側が尊大に喋れば喋るほど、藤原さんはそれをかなりのフィルターを通して変換して音声にしなくちゃならない。ガワと中身が違って発する言葉が「あー」と「うぅー」しかないって、演じる本人としても難しいと思います。僕からしてもグレイが感じていることって、上手くいかない悔しさだと思うんですね。
例えるならゲームのプレイヤーキャラクターと、それを操作している自分との関係性のような感覚でしょうか。どう頑張ってもどのコマンドを入力しても立ち上がれない。どうにかレベルが少しずつアップして、ようやく立ち上がるコマンドが出てきたみたいな。そういうところを藤原さんにやってもらって、でも赤ちゃんだからお漏らしはしちゃうのは仕方ないよね、みたいな。
まったく同じ人間をやってもらう人と、それを操作する側の人とのちょっと変わった二人羽織状態ですよね。アーサーとグレイの間で何かこうしたらこう返してくれるみたいなお芝居の楽しさは、演じていく中でちょっとずつ築いていけたかなと思っています。
基本的には生まれたばかりの赤ちゃんが成長していく様子を描いているのですが、終盤にちょっとユニークな場面も挟まります。殺伐としたシーンは冒頭だけなので、収録現場もほんわかした雰囲気でアットホームな第1話だったと思います。コメディとしてやっていいところは、わかりやすく演じさせてもらっています。
藤原:アーサーの家族の描写がたっぷりあるので、とても温かい1話でしたね。
古川:あんなに主人公の両親のことを描いてくれるのも結構珍しいよね。