
京都アニメーションの積み重ねを、その先へ――TVアニメ『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』太田稔監督が目指す、“つながる”ためのアニメーション【インタビュー】
作品の骨子「背景美術」
──監督が出演されていたプロモーション映像にて、「背景美術」について言及されていました。今作の背景美術について、制作の方向性やこだわりをお聞かせください。
太田:本作は、世界観をスチームパンクと謳っているんですけど、スチームパンクのために背景を作るんじゃなくて、あくまでもキャラクターのために背景を作っていきました。
喜八と稲子のボーイ・ミーツ・ガールの物語がちゃんと際立つようにしたかったんです。なので、世界観自体は陰鬱とした感じというか。荒々しくて、停滞感のある雰囲気にしたくて、ああいう背景になりました。
そのうえで、「新しいものを届けたい」という思いもあったので、どうしようかなと考えた時に「汚いけど綺麗に見える」という両方の良さを取り入れたいと思ったんです。
要素を抽出して表現するというのは印象派の絵画によく見られる技法なので、それを参考にしています。
──街並みのどっしりとした無骨さがある一方で、自然や夕景などは柔らかく描かれていました。
太田:作っていく過程で、結果的にそうなったという感じです。最初は「何をもって新しい映像とするのか」という部分で悩んでいたんですけど、制作を進めていく中で、背景美術が一番面白く見せられるんじゃないかという話になったんです。
──背景美術が物語に与えた影響についてはいかがでしょうか。
太田:そもそも本作は、かなり「印象付ける」みたいなところに拘っている作品でもあります。いざ電気によって光っているものを見せる時に、「光っている」という印象をより強く視聴者に届けられるんです。作中では奇怪な出来事も起こるんですけど、背景がそれを受け止めてくれるというか。器が大きい背景になっていると思います。
──現実離れした出来事が起こったとしても、それを包み込むような度量が背景美術にあると。
太田:そうですね。写実性がそこまで高くないからこそ、現実なら抱くかもしれない違和感を受け入れやすくなっている部分はあると思います。
──背景だけでなく、キャラクターのデザインや表情も特徴的でした。デザインは大人っぽいですが、動きはコミカルですよね。
太田:そうですね。キャラクターたちが一生懸命にこの世界で生きているということを表現したかったんです。
そのために喜怒哀楽を強調していて。そのうえで声優さんのお芝居は、どちらかというとフラットにやっていただくことで、その一生懸命さみたいなものを演出していました。物語を楽しんでもらうために、緩急をつけたいと思ったんです。かなり吉本新喜劇的なものの影響を受けてるかもしれません(笑)。
──えっ!?
太田:意識して作った訳ではないのですが、通して見てみるとそういう印象になりました。新喜劇って、ストーリーに意味のないギャグがいっぱい挟まるじゃないですか。
──演者のためのギャグというか、自己紹介的な役割もありますよね。
太田:そうそう。もちろん作品によりますけど、特に昔の松竹新喜劇にはそういうところがあったと思います。そういうギャグがありつつも、最後は泣きで落としたりするんですよ。
内容だけ見るとよく分からないような気もするのに、ちゃんとグッとくるというか。かなりむちゃくちゃに見えて、ちゃんと感情を揺さぶられている。そういうところに影響を受けているかもしれないです。
これまでの京アニを無視したくない
──本作は京都アニメーションの「新境地」でありながら、京都アニメーション「らしさ」も感じました。
太田:僕自身、そこは意識したところなんです。「新境地」と自分たちで謳ってはいるんですけど、かといってこれまでの京アニを無視したくない。ところどころに、過去の監督たちの癖みたいな演出を入れています。ただ、僕もだいぶ長く勤めているので、無意識に出ている部分もあると思います(笑)。
──身体に染みついているような。
太田:そういうところはありますね。コメディ要素だったり、物語の畳み方だったり。なるべく今まで積み重ねてきたものを意識した部分も多いです。
──そのポップさや軽やかさも、本作の見どころのひとつですよね。
太田:根本にあったのは、あまり作品の敷居を高くしたくないという考えでした。
喜八が電気の時代をイメージするシーン、社内では「未来視」と呼んでいるのですが、あれは僕がどうしてもやりたかったシーンなんです。
ただ、人によっては少し敷居の高い、アーティスティックなシーンにもなり得るので、単純に「ちょっと気持ちの悪いシーンだな」くらいで受け取ってもらっていいと思っています。そのために全体としてコミュニケーションの量を増やしたり、テンポを上げたりして、なるべくポップな作品にしようと意識していました。
──掛け合いのシーンを作る上で意識されたことはありますか?
太田:なるべく言語や文化圏に依存しない笑いにしたいなと。ロンドンのプレミアでは「フィジカルコメディ」と紹介してもらったんですけど、的確かもしれません(笑)。顔の動きだったり、会話の間であったり、コミュニケーションの取り方だったり。そういう動作の中で生まれる笑いというか。国境を越えて伝わるものを意識していました。
稲子は一番面白おかしくしやすいキャラだと思っています。もともと真面目な人だからこそ、一番崩しやすかった。稲子の父・甚右衛門(百川甚右衛門 CV:家中 宏)が稲子に振り回されている様子は特に好きですね。
監督をやるようになって、僕よりも若い世代のパトス(情熱)にあてられることもあったので(笑)。そういうところは少し重なる部分があった気はします。
矜持を持って「踏み込む」
──本作は、視聴者やファンが思わず反応したくなるような印象的なシーンもたくさんあると感じました。そういったリアクションも視野にいれて、制作されたのでしょうか?
太田:そこは全然考えてなかったですね。そういう視聴者の方のフックになる部分については、僕以外の意見もかなり反映されています。
僕自身が好きで楽しい、印象に残るみたいな演出もありますし、シナリオの段階から、脚本家さんやプロデューサーさんの意見も入っているわけです。
僕は、先ほども話題に挙がった洋輔がすごく好きなんですよ。彼の演出は僕のアイデアが多いかなと思います(笑)。それ以外の見どころや、面白い部分は結構みんなで作っていますね。
──それこそ洋輔は、絶対にSNSで話題に上がりますよね(笑)。皆で見守りたくなるキャラクターですし、作品自体もそうなりそうです。
太田:情報量が多い作品ではあると思います。その上で「踏み込むこと」も意識しました。
──「踏み込む」というのは?
太田:プロデューサーに止められたりしたところもありましたが、あえてそれに挑戦してみたり。逆に、個人的な意見を抑えて、監督として作品全体のために他の意見を組み入れたこともあります。ここで言う「踏み込む」というのは、なるべくチャレンジと思える方を選んで作っていったという意味です。
──先ほどお話にあった「新しいものを届けたい」という考え方にも通じる部分ですね。
太田:最初の段階から、それだけは決めていました。京都アニメーションとしても久しぶりの新作でしたし、僕自身のクリエイターとしての矜持みたいなものだったと思います。







































