
時代を超えて交差する「よい芸」と“古典”を現代に表現する意義──アニメ『ワールド イズ ダンシング』監督・黒柳トシマサさん×アニメーションプロデューサー・溝口侃さん対談インタビュー
次の600年、そして次の100年に向けて
──型付監修を務められた津村先生のコメントに「古典が古典に留まることなく広く親しまれることを望んでいる」というお言葉がありました。いわゆる古典と呼ばれるものを、現代に生きる我々が改めて咀嚼する意義をお二人はどのように考えていらっしゃいますか?
黒柳:抽象的に話すと、時間の流れは本当に直線的なんだろうかと……。
溝口:そこだけだとあまりにも説明がない(笑)。
黒柳:(笑)。室町時代があって、戦国時代があって、江戸時代があって。明治、大正、昭和、平成、そして現代の令和があって。それって一本の道なんだろうかと言うと、必ずしもそうとは言い切れないと思うんです。
例えば、鎌倉時代に作られた神社を歩いているとして、そこに流れている空気は現代のものではなく鎌倉時代のものなのではないかと思う瞬間がある。現代にも鎌倉という時代が流れているんじゃないだろうかと。
時間は単なる一本の道ではなく、現在にも様々な時代が残っていて、僕たちはそこを行ったり来たりしているんじゃないかなと思うんです。そうすると、いわゆる古典というものは過去のものではなくて、現代にあるということになります。形式や、色々なものがついてきてしまって、それによって距離を感じてしまうかもしれないけれど、同じ時代にあるんだと。
言ってしまえば、現在行われている現代の能も、もしかすると室町時代の能かもしれない。そういう不思議な感覚なんです。だから過去のものだから勉強する・しない、昔のものに対して知識がある・ないではなく、そこにあるんだから知ろうとするのは当然、という感じです。
溝口:少し補足すると、能楽は演目にもよりますが序盤に現代の風景が流れて、そこから「過去こんなことがあった」と展開されることが多いんです。例えば「この女性はかつて男性に裏切られて怨霊になってしまった」とか。後半でその過去が急に現れることがある。場転して唐突に過去が現れて、ときには「現代の話はどこにいった!」となりながらお話が進んで終わっていく。それは過去の回想ではないので、複数の時代が同じところに並列で存在するんですね。
──シームレスに繋がっているのですね。
溝口:そうです。今の時代にもそれが立ち現れるということは、すごく能楽的だと思います。その感覚は猿楽・能楽を扱ったこの作品の中にも息づいていると思っています。
自分が”古典”を題材にした作品を今出す意義としては、能楽を今の若い子が見たら逆に新しいと思うんです。見慣れないものでしょうし、それでいて能楽の心得や奥義……例えば「序破急」の概念や「秘するが花」の考えは現代演技に受け継がれていますから。
今回のテーマの元となる能楽というものは、600年という年月を経てありふれた文化になってしまっていて、現代人が常日頃の見ているコンテンツと比べてと刺激がないかと言えば、それは全然違うという印象です。
能楽を実際に見たら古いものだと思うとか以前に文化的なショックを受けるぐらい刺激はあるのではないかと思っております。
実際に観ていて、わからなくて退屈という気持ちはあると思いますが、見たことがないものではあるんじゃないかなと。その感覚は一度味わってみてもらいたいなと思っています。
ここで提出することで、能楽が何か少しでも盛り上がればいいなと思っていますし、約600年続いている能楽が次の600年も続けばいい。さらに言うと、アニメはまだ100年ぐらいの若い文化ですが、今回のように色々な伝統芸能と組むことでその脈を繋いでいけたらと思っています。
──ありがとうございます。結びに、第3話以降の注目ポイントを教えてください。
溝口:難しいなあ……。
黒柳:そうですね、どこだろうな(笑)。
溝口:わかりやすいところで言うと、舞のシーンとか。
CGをベースにしたモーションキャプチャーを撮って作ったシーンもあれば、完全に映像をイチから撮って一人のアニメーターが担当をした、ある種その人の舞とも言えるシーンもあります。振付家の方も一人、描くアニメーターも一人……その複合で作っているので、舞には魂が宿っていたり、逆にテクノロジーを感じる部分があったり。様々な表現にチャレンジしていますし、タイトルも「ダンシング」ですから、舞は間違いなくひとつの注目ポイントとなっています。
黒柳:自分の演出の特徴で、ポエムのようなシーンがあります。詩の表現というんでしょうか。そこは原作にないものですので、一体それが何のシーンなのかよくわからないこともあって。「果たしてこれは何なのだろうか」と一緒に想像しながら見てもらえると嬉しいなと思います。
能自体も、観客が能動的に「あそこのシーンはこうだったんじゃないのかな?」など、色々なイメージで補填しながら、ひとつの作品として出来上がるものです。同じように『ワールド イズ ダンシング』も「あそこのシーンは何だったんだろう」と、見てくれている人たちの方で補填してもらえると、よりこの作品が豊かになるのかなと思います。
【インタビュー:西澤駿太郎】
『ワールド イズ ダンシング』作品情報
あらすじ
キャスト
(C)三原和人・講談社/『ワールド イズ ダンシング』製作委員会
































