「次の今日は、君の手で飾りつけてほしい」——ボーカロイドシーンは「DECORATOR」で世代交代を迎える? CD2枚を同時リリースしたlivetuneへの連続インタビュー-その2-をお届け!
“Google Chrome: Hatsune Miku (初音ミク)” Web CMソング『Tell Your World』のリリースで全世界から注目を集め、現在では『DEVIL SURVIVOR2 the ANIMATION』を始めとする多くのアニメ主題歌を担当するなど、精力的に活動を続ける音楽プロデューサー「kz」によるソロプロジェクト、livetune。
3月5日(水)に、シングルCD『FLAT』とミニアルバム『DECORATOR EP』の2枚同時リリースし、2014年もさらなる躍進を期待させるクリエイターだ。
今回、そんなkzさんに独占インタビュー。『FLAT』と『DECORATOR EP』両方のCDについて詳しくお聞きしたので、記事を3回に分けてご紹介していく。
第1回目では現在放送中のテレビアニメ『ハマトラ』と、春から放送スタートするテレビアニメ『魔法少女大戦』の主題歌を収録したシングルCD『FLAT』についてお話を伺った。
>>第1回目インタビューはコチラ。
それに続く2回目の今回は、ゲーム『初音ミク -Project DIVA- F 2nd』の主題歌を収録したミニアルバム『DECORATOR EP』についてインタビューを掲載。長い期間にわたって、ボーカロイドシーンを支えてきたkzさんが「DECORATOR」に込めたメッセージを語って頂いた。
【●「DECORATOR」で『DIVA』シリーズからは卒業!?】
——それでは、ミニアルバム『DECORATOR EP』についてお聞きしていきます。まず、今回の表題曲でゲーム『初音ミク -Project DIVA- F 2nd』の主題歌でもある「DECORATOR」についてお聞きかせください。
kz:僕の曲で初の『初音ミク -Project DIVA-』(以下、『DIVA』)シリーズの主題歌となった1曲です。このシリーズには、ゲームとして面白い曲を作れるクリエイターさんが大勢いらっしゃるので、僕は『DIVA』という作品の主題歌にふさわしい曲を作ることを意識しています。
——『DIVA』シリーズには、kzさんの曲が多く収録されていたので“初主題歌”という感じがしませんね(笑)。
kz:初代『DIVA』のリリースから約5年間、ryo(supercell) さんも一緒に歩んできましたからね……。だから、僕としては、もう終わりでいいんじゃないかと思ってます(笑)。
——えっ!?
kz:ネガティブな意味ではありませんよ(笑)。ちなみに、「初音ミク」がリリースされたのっていつでしたっけ?
——2007年頃なので、約7年前ですね。
kz:もう7年ですか(笑)。ryoさんや僕を含めた世代はそこからボーカロイドの曲を作り始めましたが、現在では全く違う世代の方々が活動を始めています。僕としては、そういった人たちがスポットを浴びてもいい時期になったと感じるんです。
——では、歌詞の「次の今日は、君の手で」といった言葉は……。
kz:僕なりの“エールを込めた新しい世代へのメッセージ”です。
——なるほど……曲を聞いただけではわからなった、ディープな想いが込められていますね。そのお話を聞くと、タイトルも意味深い。
kz:「DECORATOR(飾り付ける)」ですね。少しわかりにくいので、僕が好きなダンス・ポップのジャンルで例えますが、歴史のスタートラインには「クラフトワーク」や坂本龍一さんといった方々がいて、その後に「M-FLOm-flo」や中田ヤスタカさんが続いた結果、現在のジャンルとして確立していきました。これは、世の中のほとんどのことに言い換えることができる話で、僕たちは先人たちが方々が切り開いて、補強して、少しずつ豪華にしていった“道”を歩いているんですよね。だからこそ、僕も“道”を歩くひとりとして、行く先に花を添えたり、色を塗ったりして、新しい世代に上手く受け渡して行きたい。そして、その後ろに続く人たちには、さらに下の世代に何かを残していって欲しいし、その繋がりがずっと続いて欲しい……そんな願いをこめたタイトルです。
——まさに、新しい世代へのメッセージソングなんですね。
kz:僕って、高校の部活とかで卒業した先輩が様子を見に来たりするのが嫌いなんですよ。「いつまで来るんだよ!」って(笑)。だから、自分もそんな先輩的な雰囲気はいらないし、今活躍している人たちには“もっと好き勝手してもいいんだよ?”“頑張って!”と心から思っているんです(笑)。
——ボーカロイドの初期を支えたkzさんだからこそ、それに続いたクリエイターの方々へ想うことがたくさんあったわけですね……。
【●とにかくベタな曲を詰め込んだ1枚です】
——さて、2曲目の「Packaged(Shipping in 2013 remix)」はリミックスバージョンの収録となりますね。
kz:こちらは、去年の夏に行われたXperiaの企画で「Packaged」をリミックスして欲しいとオファーされた1曲です。「Packaged」は僕が初めて「初音ミク」で作った曲なのに、いままで1度もリミックスをしていなかったので、いい機会でしたね。
——以前に増して、エレクトリックな雰囲気になった印象です。
kz:時期的にも、エレクトリックダンスミュージック(以下、EDM)が流行ったタイミングでしたし、僕も「チャラいダンスミュージックを作りたい」と思っていたのが最大の原因ですね(笑)。非常に気に入っているリミックスなので、今回収録できて嬉しく思ってます。
——この曲だけでなく、今回のミニアルバムは、全体的にEDMの雰囲気が強い1枚ですよね。
kz:言われてみればそうですね(笑)。基本的に僕のミニアルバムはコンセプトが無くて、やりたい曲を詰め込んで完成させています。今回は4つ打ちのジャパニーズポップスなど“ベタベタ”な曲を詰め込んだつもりです。ボーカロイドの曲を作ると、自然とエレクトリックな曲調になっていきますし、結果的にEDMの色が強い1枚になった気がしますね。
——ただ、新曲の「Andante」は雰囲気が違いますよね。これにはなにか意味が?
kz:明確な意味はないですね。「Andante」も8分の6拍子のベタなバラードを、僕が作りたかっただけです(笑)。これまでも「Star Story」「Last Night, Good Night」といったボーカロイドのスローテンポな曲を作ってきましたが、よくある王道の8分の6拍子の曲って無かったんですよね。だから、この機会に思い切って挑戦してみようと思って作った1曲です。
【●タイアップソング以外は自分の作りたい気持ちを大事にする】
——では、もうひとつの新曲である「Long Way From Here」はどんな思いを込めた曲ですか?
kz:「ずいぶん遠いところまで来た」といった感覚や、「これからも遠いところまで行くな」という想いをテーマにしています。これは、1年前に作った「Re:Dial」に似た雰囲気を持つ1曲となりました。
——「DECORATOR」「Long Way From Here」「Andante」、には“道”や“歩く”といった曲同士がリンクする歌詞が含まれていますが、もともと意図していたのでしょうか?
kz:特に意図はしていませんでしたが、「DECORATOR」を聞きながら作業したせいで、心の奥底で繋げていたのかもしれません(笑)。もともと、明確なメッセージを込めて曲を作ることが少なくて、自分の中にある大雑把なイメージを歌詞に落としこんで行くんです。今回の「Long Way From Here」と「Andante」の2曲は、どちらも3月的な風景を想像しながら作曲したので、重なる部分は多い気がしますね。
——なるほど。続いて、歌手である有坂美香さんとの共作となる「Connection」ですが、制作に至った経緯はどんなものだったのでしょうか?
kz:この曲も、ベタなEDMを作りたいという僕の思いから産まれた1曲です。すべて英語の歌詞なのですが、僕が作った歌詞を英訳しても本当のニュアンスとズレが生じてしまうので、「ならば、歌詞は英語のプロフェッショナルにお任せしよう!」という経緯で有坂さんにご協力して頂きました。
——この曲は英語版の「初音ミク」を使用していますね。打ち込みはkzさんが担当されているのでしょうか?
kz:いえ、打ち込みは海外の方にお願いしています。これは、ネイティブの発音により近づけるための拘りです。なので、この曲に関しては、僕自身はトラックとメロディしか作ってなくて、夏にベルギーのEDMフェスに行ってきて「楽しかったー!」という気持ちが、ストレートに出ていますね。有坂さんの歌詞に関してもパーティーな雰囲気で溢れ出ていて、某グルメ漫画風に言うと「こういうのでいいんだよ、こういうので!」と大満足です!(笑)
【●かわいい曲には日本語版の「初音ミク」がベストマッチ!】
——ここからは「Pink or Black」についてお聞きしたいのですが、この曲は芸術家である村上隆さんとアニメーションPVとコラボしていますね。
kz:コスメブランド「shu uemura(シュウ ウエムラ)」の「シックスハートプリンセス by takashi murakami for シュウ」と村上さんがタイアップをするにあたって、オファーを頂いた1曲ですね。
——とにかく、キュートの言葉に尽きる1曲ですよね。
kz:まさしく“かわいいは正義”がテーマです(笑)。この曲も「Connection」と共通して英語の歌詞なのですが、こちらでは日本語版の「初音ミク」を使用して“かわいい”雰囲気に仕上げています。英語版の「初音ミク」を使うと、どうしてもアダルトな雰囲気になってしまうので、この曲に合わせるなら、やっぱり日本語版だなと。「兎にも角にも、かわいければいいや!」という気持ちで作っている曲です。
——歌詞の中に「Henshin」といった日本語が入っているのも、“かわいい”を目指したからですか?
kz:そうです。もともと打ち合わせで、日本語を入れようと話していました。……どう考えても「Henshin my style」って文章としておかしいですけど、かわいいければなんでもいいやって(笑)。
——その突き抜け方がまた魅力ですよね(笑)。アニメーションPVは曲とリンクして動く部分がありますが、これは村上さんが曲を聞いてから作られたからですか?
kz:いえ、順番は逆ですね。もともと、アニメーションのBGMとしてスタートした曲なので、最初に村上さんからラフを頂いたあと、僕が作曲しています。ただ、作業自体はほぼ同時進行で、お互いが調整しながら、現在の形に仕上げてはいます。完成したアニメーションを見た時は、僕も「なるほどな!」と思いましたね(笑)。ああいった瞬間は最後までわからないので、心躍る瞬間ですね。
——以前、村上さんとは映画『めめめのくらげ』でもコラボをしていますし、お互いに作品のイメージを共有しやすい関係になっているのでしょうか?
kz:どうなんですかね……。ひとつ言えるのは、僕には村上さんのイメージを完璧に理解するのは不可能です(笑)。だけど、「わかりました」と返事するだけではいい物を作ることはできないし、自分の気持ちを伝えなかったことによって、自分たちが持つ100%の魅力を出せなくなるのはとても嫌なことだと思います。意見を言い合って、試行錯誤して、お互いができる最善のことをやっていく。それでこそ、本当に面白い物を作り出せると思っています。
——お互いの拘りを貫くからこそ、面白いものができるわけですね。
kz:そうですね。僕から村上さんへ意見を伝えますし、村上さんも僕に対して遠慮なく話をしてくれるので、この関係性がある限り、いい作品が作れると思います。
——アルバムにはTeddyLoidさんの「DECORATOR(TeddyLoid remix)」バージョンも収録されていますね。この曲が収録された経緯をお聞かせください?
kz:Teddyくんとは以前から仲がよく、誰かに「DECORATOR」をリミックスしてもらおうと考えた時に、ダンスミュージックとしてはテンポの早いこの曲に対応できるのは彼しかいないと思ったんです。そこで、僕から直接オファーしたところ、2つ返事で「OK!」と答えてくれました。
——TeddyLoidさんのリミックスは、ダンスミュージックが多い今回のアルバムにピッタリの曲となりましたね。
kz:Teddyくんはキャッチーでいて、ダンサブルでかっこいい、個性的溢れる曲を作るんです。今回も、イントロのピアノの音を聞いた瞬間に「あぁ、Teddyくんの音だ!」と感じる曲に仕上げてくれました。彼自身も「のりのりで歌いながら作りました!」と言ってくれていて、本当にいい形のリミックスになったと思います。
——自分の曲が誰かの手によってリミックスされるのは、やはり嬉しいことなのでしょうか?
kz:他人の手を加わったことで、まったく別の曲として聞けますし、僕自身がその曲の違う解釈を発見して驚いたりできるので楽しいです。ニコニコ動画などネット上で僕の曲をアレンジしてアップロードしている方も居て、そういった曲を聞くのも大好きですなんですよ(笑)。CDにリミックスを収録するのは『Tell Your World EP』以来のことでしたが、今後も機会があるなら色々な方のリミックスを収録したいと思います。
ボーカロイドシーンを支える新たな世代へバトンを渡し、次のステップに踏み出すことを予感させるkzさん。果たして、これから何処を目指すのだろうか……? 第3弾では、今後の活動予定や、kzさんと共にボーカロイドの歴史を作ってきたryoさんに関連したディープなお話をお届けする!
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