
大好きな存在がいるすべての人へ──アニメ『僕の心のヤバいやつ』が私に刺さった理由、それは私の心にいる市川が動き出したからだった
ひたすら「好き」を伝えたいという衝動と素直になれない感情が、寄せては返す波のようにせめぎあう、甘酸っぱいシーンを描くラブコメ──そんなラブコメが大好きな女性ライターである筆者は、幼ない頃には『きまぐれオレンジ☆ロード』や『めぞん一刻』などを観て育ち、大人になってからも『とらドラ!』をこよなく愛するオタクです。
そんな筆者はテレビアニメ『僕の心のヤバいやつ』(以下、僕ヤバ)に出会い、いつものようにピュアっピュアなラブコメを堪能していたのですが……そこには胸キュン以上の、私の心を激しく揺さぶる特別な何かがあったのです。
ただ、テレビアニメシリーズを視聴している間の私には、残念ながらその「何か」の正体を見つけることは出来ませんでした。
しかし! 時は流れ、公開された劇場版『僕ヤバ』を鑑賞したことがきっかけで、私はその正体を知ることになったのです……!!
劇場版『僕ヤバ』では、アニメで描かれた「いいとこ取り」の胸キュンシーンをこれでもかと並べながら、新エピソードも盛り込んでくるという、すべてメインディッシュのフルコース状態。ダイジェスト的にエピソードを振り返ることの出来る流れなので、初めて観る観客にも非常に満足感の高い仕上がりとなっています。
そして、エモーショナルなシーンの連続だからこそ、どのエピソードが自分の心の琴線に触れるのかを明確につかめたのかもしれません。思いがけず、私はこの劇場版との出会いによって、本作がなぜこんなにも私の心を波立たせるのか、激しく共感させてしまうのか、という理由に思い当たることができたのです。
本稿では、そんな『僕ヤバ』が私の心に「刺さった」正体を見極めつつ、『僕ヤバ』の推しポイントをご紹介いたします。ネタバレを含んでいるため、原作やアニメ未履修の方はお気をつけください。
『僕ヤバ』とは
まずは『僕ヤバ』について、簡単におさらいしていきましょう。
『僕の心のヤバいやつ』は、2018年から「週刊少年チャンピオン」に連載している(現在はウェブ配信サイト「マンガクロス」にて掲載)桜井のりお先生によるコミックスで、発行部数650万部越えの大人気作品です。(2026年2月時点)
そんな『僕ヤバ』はアニメ化され、2023年4月に第1期が、2024年1月からは第2期が放送。さらに2026年2月からは、劇場版が公開されています。
『僕ヤバ』に登場するのは、中学生ながら桁違いの発育と美貌でモデル業もこなす学校の人気者・山田杏奈と、陰キャで厨二病を患う市川京太郎。美少女でありながら天真爛漫、かつちょっと天然さもあわせもつ杏奈に対し、「一番殺したい」というセンセーショナルな市川の鬱屈したセリフから始まるのが、この『僕ヤバ』なのです。
しかし、そんな市川の猟奇的なセリフとは裏腹に、この物語では「友達以上恋人未満」の繊細な関係性の間で揺れ動く2人の、超絶ピュアな恋心が丁寧に描かれていきます。
この『僕ヤバ』の魅力は、杏奈の底抜けに純粋なかわいらしさと、まっすぐに感情を向けるひたむきさもさることながら、杏奈を守りたい時に市川が発揮する「陰キャ」とは思えない行動力と冷静な考察力、そして自分の気持ちを圧倒的に言語化することのできる能力、に尽きるのかもしれません。
市川と杏奈の距離が近づき始める話
杏奈を「殺す」隙を狙ってずっと観察している市川。だからこそ、杏奈のピンチにすぐに気づいてしまいます。
そして、彼女が困ったり悩んでいると察した瞬間、市川は思わず「救いたい」と一歩を踏み出すのです。そこには純粋に、杏奈を大切に思う気持ちと勇気、そして優しさがはっきりとにじみ出ているのです。
例えば、「軟派」で有名な先輩・南条(通称・ナンパイ)から無理やり連絡先を聞き出されそうになった杏奈の窮地を救ったのは、市川が自分の自転車を投げ飛ばして注意をそらすという、ぶっとび行動でした。
またある時は、授業の一環で職業見学に行った帰り道。自分の落ち度によってみんなとはぐれてしまったと涙する杏奈に、彼女が飲みたがっていたミルクティーをそっと差し出す市川。
別の場面では、涙が止まらない杏奈を見かけた市川が、自分のものであることを隠すために「ご自由にどうぞ」と書いたティッシュをいくつも机に並べて、杏奈が気兼ねなく使えるように演出してみたり……
最初は「ただのクラスメイトの1人」だったかもしれない市川の、そうしたさりげない強さと優しさに触れていくうちに、杏奈も市川のことが気になり始めて……2人の心が少しずつ、でもはっきりと近づき始めて行くのです。
埋めたいとも思っていなかった心の空洞が思いがけず満たされた瞬間
中学受験に失敗し、仲良しの友人と離ればなれの学校に通うことになった市川は、入学当初からクラスにうまくなじむことが出来ず、猟奇的な内容の本を読むことで人を遠ざけ、1人での時間を過ごしていました。
筆者自身も学生時代、学校というコミュニティが苦手な市川寄りのタイプだったため、そこからすでに市川に対して親近感を抱いていました。
そんな自分自身の劣等感を投影していた市川に、杏奈のような明るい人気者が分け隔てない様子で話しかけてくれる様子をとても微笑ましく、羨ましく感じるようになっていました。まるで自分のことのようにじんわりとした嬉しさも覚えるほどに。
そして、杏奈と仲良くなったことをきっかけに、数珠つなぎのように少しずつクラスメイトと仲良くなっていく市川の様子に触れ、私自身が学生時代に抱えていた心の穴が、思いがけず埋められていくような感覚にとらわれていきました。
コミュ障ゆえ 過去に林間学校を欠席していた市川が、杏奈やクラスメイトたちと行く修学旅行を楽しみにするようになったくだりは、なぜか私の心までほかほかに温めてくれたのでした。
修学旅行の裏で悩む杏奈
こうして市川や杏奈たちは、学生時代の一大イベント「修学旅行」に向かいます。林間学校を欠席していた市川に、修学旅行こそは楽しんでもらいたいと願う杏奈でしたが、実はその裏で杏奈に悩ましい問題が発生してしまいます。
それは、杏奈が愛読しているコミックス『君色オクターブ』(以降『君オク』)のドラマオーディションが、修学旅行の3日めにあたること……! 大好きな作品に関われるかもしれない大きなチャンスと、市川と修学旅行を一緒に過ごしたいという気持ちとの狭間で悩みながらも、杏奈は修学旅行を選択します。それでも、どうしても杏奈の気持ちは揺れ動いてしまい……
そんな杏奈のいつもと違う様子に違和感を覚えながらも、その理由になかなか気づけない市川。しかし偶然『君オク』のセリフを練習する杏奈を見かけ、オーディションを控えていることを察することとなりました。
日頃から仕事を大切にしている杏奈が修学旅行にとどまろうとする理由が、ほかならぬ自分かもしれないことを自覚した市川は、杏奈をオーディションへ送り出すことを決意します。でもどう言葉をかけてよいのかわからないまま、2人きりになるチャンスが訪れて……。
































