Sargas(サルガス)東雲ユウリがステージへの貪欲さを見せる! ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第3回!
2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする本連載。物語は早くも第3話へ。
前回から引き続き、「劇団アルタイル SPRING FESTIVAL 2017」で描かれた物語をさまざまなキャラクターの視点から掘り下げます。今回はSargas(サルガス)のメンバー・東雲ユウリの視点で、彼に起こった心境の変化を描きます。常に優雅な微笑みをたたえ、選抜に漏れたことすら意に介していなかったユウリが、ステージへの貪欲さを見せるようになった理由とは!?
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【あらすじ】
Sargas(サルガス)メンバーの東雲ユウリは、スチール撮影の仕事のため、単独でロケに来ていた。木漏れ日のさす穏やかな森は、彼が幼い頃に住んでいたスウェーデンを思い出させる。どこか懐かしい気持ちで感慨にふけっていたユウリだが、ふとしたことから、新しい感情が胸に芽生え始め……?
【ストーリー】
ユウリは目を閉じ、静かに、思い切り息を吸い込んだ。
(ん、気持ちがいいな)
緑に囲まれた森をのんびりそぞろ歩くなんて、久しぶりだ。
ふと目をやると、トムテさんが木漏れ日の中を軽やかに飛び回っている。その姿が楽しげで、つい、口許から軽い笑みがこぼれた。
「お、いいね。ユウリくん、そのまま!」
陽気な声が飛び、金属質なシャッター音が連なる。
(……ああ、そうだ。僕は仕事でここへ来ていたんだっけ)
いつもどおり自然に振る舞ってほしい――撮影前にそう言われた。だから、純粋に木々の緑と風の囁きを楽しんでいても、問題はないのだろうけれど。
(なんだか不思議だな)
ユウリの両親は、インテリアにまつわる仕事をしている。インテリアデザイナーの母、バイヤーの父、どちらも人の生活を豊かにする仕事だ。
母の作るものはどれも触れると心地よく、大きさの大小に拘わらず生活に溶け込む工夫が緻密になされていたし、父はその、手に馴染む温かさをたくさんの人に届けようと世界中を飛び回っていた。
(タレントとは全然違うね)
商品は、作り出した道具ではなく「自分」。かといって、困っている人を直接助けてあげることはできない。
けれど、自分がただ微笑むだけで、また明日から毎日がんばれると言ってくれる人がいる。
「それじゃ、もう少し奥へ行ってみましょうか」
そう言って、撮影スタッフが先を促した。頷いて、並んで歩く。
「ユウリさんはスウェーデン生まれなんですよね? 日本の森とスウェーデンの森じゃ、やっぱり違います?」
「もちろん違いはありますよ。木々や植物の種類、陽の光。でも……」
言いかけたところでふいに気配を感じ、見上げた。
「ああ、トムテさん」
見知らぬ可愛らしいひとと一緒に、トムテさんがくるくると踊っている。
「新しい友だちができたのかい? ふふ。あとで、僕にも紹介してほしいな」
「えっと、ユウリさん……?」
戸惑いをたっぷり含んだ声で、呼ばれた。
「……ああ、話の途中ですみません。スウェーデンの森と日本の森の違いでしたよね?
もちろん、細かな違いはあります。けれど、森は森です。土に根を張り、陽の光に手を伸ばして、みんな精いっぱい生きています……あ!」
「! な、なんです!? なにか、妙な生き物でも……」
オロオロと狼狽えるスタッフに「いえ」とだけ言い、ユウリは立ち止まった。
(そうだ。森は森だし、仕事は仕事だ)
形も手触りも違う。置かれた場所も。けれど、本質的には同じだ。森には豊かな土があり、光に満ち、根を張った木々が風にそよいでいる。
タレントは、生活に必要な道具ではない。けれど、たくさんの人に望まれている。
(必要とされて、ここに立っている……同じなんだ)
仕事を誇りを持ち、まだ見ぬ誰かに最高のものを手渡そうとする父と母。自分もまた、彼らのようにあるべきだ。
(自然に振る舞うということは、なにもせずに立っていることじゃない)
最高の微笑みを手渡せるように、胸を張って、最高の自分であること。
そしてなにより、受け取ったひとたちが最高の笑顔を見せてくれるよう、努力すること。
(……ああ、そうか。選抜メンバーから漏れたということは、笑顔を渡す機会をひとつ、失ったということなんだな)
自分と他人の優劣にはまったく興味がなかった。だから、Sargasのみんなが悔しがる理由がいまひとつ、腑に落ちないままだったけれど。
「そうか、そうだったんだ」
「あの……ユウリさん?」
「だったら、僕たちはもっと……ああ、そうだ!」
首を傾げるスタッフに、ユウリは向き直った。
「すみません。いま、とてもいいことを思いついてしまったので、ここで一本電話をしてもいいでしょうか?」
「え? あ、はい……大丈夫です、けど」
「どうしてもいま、みんなに……僕の大切な仲間に、話したいことがあるんです」
戸惑いの抜けないスタッフに、ユウリは、最高に眩しい笑顔を向けた。
今回登場したメンバーをご紹介!
◆東雲ユウリ(CV:市川太一)
日本人の父、スウェーデン人の母を持つハーフ。どこか浮世離れした麗人で、妖精(トムテさん)が見えるらしい。
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