Sargas（サルガス）霞サクヤの本心が垣間見える！ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第4回！

　2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする本連載。物語は第4話へと続いていきます。

　前回から引き続き、「劇団アルタイル SPRING FESTIVAL 2017」で描かれた物語をさまざまなキャラクターの視点から掘り下げます。今回は、Sargas（サルガス）メンバーの霞サクヤにスポットを当てたストーリー。Sargasが選抜ユニットのバックダンサーを担当することを知ったサクヤは、怒ってリーダーを問い質しますが、その怒りにはある理由が……。

劇団アルタイル『選ぶ道の先へ』
【あらすじ】
Sargasが選抜メンバーのバックダンサーとして、ステージに立つ——その提案を聞いた霞サクヤは反発した。仲間の制止も振り切って、劇団アルタイルのリーダーである要タツヒコに詰め寄る。プライドが高く、馴れ合いを嫌うサクヤ。彼が熱り立った理由は、バックダンサーという立ち位置に対する抵抗感なのか、それとも……？

【ストーリー】
　ミカドから事の顛末を聞いたサクヤは、思わず「はぁ！？」と声を上げ、思い切り眉をしかめた。
「なんだよそれ。Sargasが選抜メンバーのバックダンサーって」
「ロケ先のユウリから電話がかかってきたんだ。チャレンジしてみるべきじゃないか、って。
　それで、タツヒコが社長に直接掛け合ってくれることになって——」
　ミカドの言葉を遮るように、壁に拳を叩きつけた。
「なんなんだよ、それ！」
「サクヤ」
「ふざけんなっ！」
　なにか言いたげなミカドの口許は見なかったことにして、サクヤは背を向け、廊下を走った。

（冗談じゃねーよ、ユウリのやつ！）
　メニューのダンスレッスンをこなした後、自主練でステップの完成度を追い込んで、ヘトヘトになって帰ってきたら——これだ。
「おい、タツヒコ！」
　廊下を歩く背中に声を放つと、タツヒコと、隣にいたヨウスケが立ち止まって振り返る。
「どうした、サクヤ」
「何を勝手に進めてんだよ！」
「勝手に進める……？」
「あ、バックダンサーの件じゃね？」
　首を傾げるタツヒコの横合いから、ヨウスケが口を挟む。
「ああ。あの話か。それは……」
「サクヤ！」
　後ろから、ミカドの声が追いすがって来た。
「すまない、タツヒコ。俺がサクヤに、中途半端な話し方をしたから」
「違う！！　俺が言いたいのは…！」
　取り持とうとするミカドの言葉を遮るサクヤの息は荒い。
一瞬、その場の空気が凍りつきかけた、そのとき、
「まーまー。みんな落ち着けって」
　暢気な声でヨウスケが言う。
「一斉に喋っても会話になんないだろー？　まずは、サクヤの話を聞こーぜ。
サクヤもさ。そんな焦んなくても俺ら、ちゃんと聞くから——」
「焦るに決まってんだろ！！」
　腹の中に溜まったものを吐き出すと、廊下が再びしんと静まりかえる。

「……サクヤ、聞いてくれ」
　居心地の悪い静寂をやんわりと破ったのは、タツヒコだった。
「バックダンサーの件、当事者のお前に確認をせずに進めて悪かった。ユウリから提案をもらったときに、良い案だと思って、そのまま動いてしまった。社長に掛け合うなら、リーダーの俺が適任だろうと思ってな。みんなのために、リーダーとしてできるだけのことをしてみたかったんだ」
「みんなって誰だよ」
　喉元が重く詰まる感触を必死に押しのけて、続けた。
「俺の、俺たちのことだろ。なのに、どうして俺とヒジリがいないときに、そんな大事なこと、勝手に決めんだよ……！」
「サクヤ……」
「俺は、ツキプロのアーティスト部門から移籍しろって言われて、アル劇に入った。……俺はあのとき、自分ではなにも選ばなかった」
　バンドメンバーとの、音楽性の不一致——言葉にすれば、たったひと言。ひどく薄っぺらくて、情けなくて、この先のことを選ぶのも面倒で、半ば流されるまま劇団アルタイルへ入ることが決まった。
「でも、いまは違う。いまの俺はSargasの一員だ。俺が自分で選んで、ここにいる」
　音楽さえよければほかはどうでもいい。仲良しこよしなんて、格好悪い。そんなふうに思っていた。
　一番情けなくて格好悪いのは、音楽を続ける場所を大切にできなかった、自分自身だったのに。
（同じバカは二度としない）
　もう、誰のせいにもしたくない。自分で選びたい。
　仲間の、味方になりたい。

「……わかった。それじゃあ、改めて聞かせてくれ。サクヤはバックダンサーの件、どうしたい？」
「絶対やりたい」
　タツヒコの問いに顔を上げ、目を見て、きっぱりと答えた。
「結論は同じなんだ。俺が言いたいのは……」
「わかってる。お前も一緒に決めたかったんだよな。悪かった」
タツヒコが頭を下げるのを見て、サクヤは大きく息を吐いた。
自分の荒ぶった気持ちを鎮めるように。
それから、小さく頷いた。
「……俺も……怒鳴って……その、悪かったよ。……俺は、やってみたい。ホントは自分で社長に言いたいけど、タツヒコが社長に掛け合うのが一番いいなら、頼みたい」
　そう言って、今度はサクヤが深く頭を下げる。隣にいるミカドも、頭を下げたのがわかった。
　下げた頭のてっぺんから、タツヒコとヨウスケの戸惑いが伝わってくる。
　頭を下げるなんて、らしくない。きっと、そう思われてる。
（でも、それは『いままでの俺』の話だろ？）
　自分のイメージを越えて行く。先へ、もっと先へ。

「わかった。これからヒジリにも話をしにいこう」
　タツヒコの声に、サクヤは頭を下げたままちいさく「サンキュ」と呟いた。