香川久さん&馬越嘉彦さんに聞く「バトルヒロイン」の作画とデザイン

絵を描く人もプリキュアファンも必携の一冊 「香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック」発売記念インタビュー

『フレッシュプリキュア!』と『ハートキャッチプリキュア!』――両作のキャラクターデザイン&作画監督を務めた香川 久さんと馬越嘉彦さんによる書籍「香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック」(玄光社)が発売され、5月27日(土)に東京・秋葉原の書泉ブックタワーにてサイン会が行われました。

プリキュアのような“バトルヒロイン”という切り口でお二人がオリジナル設定&ストーリーを創作し、キャラクターデザインの工程や、ポージング、動かし方のコツなどを膨大な数の描き下ろし線画をもとに解説した本書。

絵を描く人にはもちろんのこと、『フレッシュプリキュア!』や『ハートキャッチプリキュア!』の初出しアートワークも収録しているため、プリキュアファンにとっても見どころ満載の一冊になっています。今回はサイン会のタイミングで、お二人にインタビューさせていただきました。

▲写真左より、馬越嘉彦さん、香川 久さん

▲写真左より、馬越嘉彦さん、香川 久さん

◆プロフィール
香川 久(かがわ・ひさし)
アニメーター/キャラクターデザイナー。主なキャラクターデザイン&作画監督作に『ボンバーマンジェッターズ』、『フレッシュプリキュア!』、『トリコ』、放送中の『タイガーマスクW』など。

馬越嘉彦(うまこし・よしひこ)
アニメーター/キャラクターデザイナー。主なキャラクターデザイン&作画監督作に『おジャ魔女どれみ』シリーズ、『ハートキャッチプリキュア!』、『蟲師』シリーズ、放送中の『僕のヒーローアカデミア』など。

 

なぜ、今回の作画&デザインテクニック本は出版されたのか?
――香川さんと馬越さんは、もともと同じスタジオで一緒に長くお仕事をされていたんですよね?

馬越嘉彦さん(以下、馬越):そうですね。俺が最初に入ったスタジオが、羽山さん(*1)と香川さんのいるオニオン(*2)だったので、香川さんとは、俺のキャリアとイコールの年数のお付き合いです。

香川久さん(以下、香川):かれこれ30年くらいになるのかな。僕がオニオンに入って2年後くらいに馬越くんが来たんだと思います。

馬越:香川さんはすでに原画だったので、自分からすれば完全に雲の上の人でしたね。

香川:当時の自分は先輩風を吹かしていたかもしれないですねぇ。今とは違って「厳しく教えないと」みたいなことも思っていた気がします。

馬越:いやいや、当時のオニオンには、動画マンが原画のマンの下について面倒を見てもらうシステムがありましたからね。俺は原画になってから、香川さんの下に付いて『魔法使いサリー』(第二作)をやっていた時期もありました。いま考えたら貴重な仕組みですよね。

香川:そういうことをやろうとしている人はいるけれど、スケジュールの都合もあって、なかなか難しいよね。


――後進の方々にも読んでもらえれば……というお気持ちもあっての書籍出版なのでしょうか?

香川:もともと羽山さんの『アニメキャラクターの作画&デザインテクニック』と『羽山淳一 ブラッシュワーク』が出て、その関連イベントに客として行ったときに今回の企画をいただいていたんですけれども。基本的に、若手に教えたいとか、自分の絵柄を教えたいみたいな気持ちはないです。ただ、「自分はこう描いてるよ」という形式であれば良いのかなと思い、ありがたくお受けした経緯ですね。

馬越:「こう描くべき」というのではなく、いっぱいある選択肢のなかのひとつと思ってもらえればなと。香川さんと二人でということで、今回は喜んでやらせていただきました。


――この機会なのでお伺いしたいのですが、おふたりはお互いの絵をどう見ていらっしゃるのでしょう?

香川:まず前提として、すごいなと思います。

オニオンにいたころの馬越くんは、羽山さんの描く『北斗の拳』みたいなラインをやりたい感じだったんですが――『剣風伝奇ベルセルク』もそうだったと思うんですけど――そこからガンと幅が広がりましたよね。

『おジャ魔女どれみ』であったり、いろんな作品を経て、いろんな形を定着させていっている。僕なんかはそんなに器用ではないので、すでに持っているラインの上、その細い道を歩いているような感覚なんです。

そんな絵柄のすごさもありつつ、やはり馬越くんといえばアクションの人。原画に迫力があるし、描くスピードも早い。一枚画と映像の中の一枚では求められるものが違いますが、どちらもすごいのが馬越くんだなと思います。

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▲馬越嘉彦さん関連作品
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馬越:いやいや、香川さんすごい器用なタイプじゃないですか!

『魔法使いサリー』(第二作)とか『快傑ゾロ』みたいな香川さんのキャラクターデザインじゃない各話作監でも、ポイントを押さえて設定にきちんと似せる技術がありますし。その揺るがない正確性がありつつ、やっていくなかで自分のテイストを入れこむこともできるんですよね。『セーラームーン』にしても、ちゃんと香川さんのセーラームーンになっている。

特にそのあたり、俺はすごく影響を受けたと思っています。

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▲香川久さん関連作品
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*1 アニメーター/キャラクターデザイナーの羽山淳一さん。香川さんと馬越さんの先輩にあたる。『アニメキャラクターの作画&デザインテクニック』(2014年)、『羽山淳一 ブラッシュワーク』(2015年)が玄光社より発売中

*2 作画スタジオの「ムッシュオニオンプロダクション」

 
おふたりのルーツは? そして、バトルヒロインを描くということとは? 
――今回の本は「バトルヒロイン」というテーマですが、お二人のルーツでいうと「ヒロイン」よりも「バトル」のほうに近いのでしょうか?

香川:ヒロインでいうと、馬越くんが入ったばかりの『魔法使いサリー』(第二作)とか、その前に羽山さんのやっていた『ひみつのアッコちゃん』(第二作)もありましたけど、やはり最初に原画で入った『北斗の拳』で筋肉や骨格を覚えたところがあって。バトルヒロインも、それを活かして描いているところがあるんじゃないかなと思います。ある意味、当時はいまよりも作品のバリエーションが幅広かった。

そのなかで「なんでも描けないと生きていけない」と言われ続けてきたので、自分としても仕事の流れでいろいろやってきた感じです。いまとなっては、やはり「セーラームーン」や「プリキュア」の印象が強いのかもしれませんね。

馬越:俺はそもそもオニオンに入った理由が『北斗の拳』をやりたかったからでした。入ったころには終わっちゃいましたけど、そのあとに始まった『魁!!男塾』が自分の根っこの系統かもしれないです。いろいろ描けないといけないから(絵のバリエーションを広げてきた)というのもあるんですけど、意外と延長線上で描いている感覚もあるんですよね。

基本的にムキムキの強い男性を描くのが好き……というのはあります(笑)。

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――では「バトルヒロイン」ではなく「ヒロイン」だったら遠慮していたかもしれない……?

香川:そうかもしれませんね(笑)。

馬越:でも香川さんは「ヒロイン」もできますよ。「美少女戦士」をやっていたので全然対応できると思います。「美少女」とかだったら……俺は無理です!(笑)

香川:たとえば「萌えキャラ」だったら、うーん……となったかもしれないですね。「バトルヒロイン」なら「プリキュア」をやっていましたので。


――アニメーターの方々からすると、「バトルヒロイン」という括りのなかにもいろいろな類型があるのでしょうか?

香川:やっぱり、もっとハードなバトルヒロインもいっぱいいるじゃないですか。本当に人殺しの技を使うようなキャラだったり、空手ガールだったり。そのあたり、今回の本では比較的「プリキュア」に寄った形になっています。

プリキュアの場合、完全ヒットはしないということを徹底しているというのがありますね。殴られても血は出ないし、鼻っ柱が折れるようなこともないよう、絶対にガードをするお約束があると。観る対象年齢を考えると、当然それは正しいことだと思います。

馬越:「プリキュア」はひとつのジャンルとして確立されている感がありますよね。今回の本で描いたオリジナルキャラクターは、基本的に「プリキュア」に則りつつ、でも実際のチェックには通らないだろうな……という要素も入れ込んでいます。

実際に企画を通すわけではないので、意図的にだいぶ幅をもたせようとしました。

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▲香川久さん関連作品
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▲馬越嘉彦さん関連作品
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――香川さんは『ビタミンチャージ!ラブ♡プリンセス!』、馬越さんはその続編『フレッシュチャージ!ピュア☆プリンセス』というオリジナル番組をもとに、キャラクターたちと、たくさんのポーズやアクションを描かれていますね。「プリキュア」との付かず離れず感も絶妙です。

香川:趣味全開で描いた部分はありますね。「プリキュア」だとしたら、ここからだいぶ揉む必要があると思います(笑)。

馬越:俺の描いたほうのメインキャラなんてみんなタクティカルグローブ着用で戦う気マンマンですからね。そういうのは当然、プリキュアでやったらダメです(笑)。

あとは、変身後の姿がフード付きの服やひらひらなスカートっぽい感じも、プリキュア基準で言うと「変身した感が弱い」ということになると思います。

やはり子どもたちの変身に対する願望を汲み取る必要があるというか、変わる様の楽しさがあるので。でも今回は、逆に私服っぽい変身姿も面白いかなと思って描かせてもらいました。

香川:プリキュアの場合は、女の子が着たいって思うようなコスチュームじゃないといけないんですよね。僕の描いた3人も、当然NGを食らうはず(笑)。

馬越:でも香川さんのキャラは、だいぶプリキュアに寄せて描いてますよね。

香川:それでも、この子(ラブリーピーチ)の金太郎具合は、ちょっとねぇ(笑)。

馬越:たぶんあれです。アニメーターの好きなようにはあまりやらせないほうが良い! ということなんですよ(笑)。揉まれてそれらしくなっていく。

香川:そうそう(笑)。やっぱりいろんな人の意見があってこそ「プリキュア」になっていくんだよね。

馬越:俺と香川さんが描いた今回のオリジナルキャラクターたちに関しては、生々しさを面白がってもらえたら良いのかなと思います。


――それでは最後に、おふたりのファンや、この本を参考に絵を描かれる方々にメッセージをお願いします。

香川:アニメーターでも、オリジナルのキャラクターデザインをやらない限り、あまり自分の絵柄を出す機会はないんですが、僕らはありがたいことにそういう機会に恵まれて。

やはり自分の絵柄を形成するには、いろんな人の絵を真似て、吸収して整理する、その繰り返しになってくる。自分が良いと思ったもの以外の絵も真似てみたり、幅広く吸収して、たくさん絵を描いてもらえたら良いんじゃないかなと思います。そのなかのひとつに、今回の本も活用してもらえたらうれしいです。

馬越:「この本を見てアクションポーズを描きたくなった」と言ってくださった方がいて早速うれしかったんですが、この本を見て「アニメーターになりたい」とまでは言わずとも、ひとりでもふたりでも落描きでもなんでもしてくださったら成功かなと思っています。

かわいい女の子の顔だけ描くのも楽しいですが、身体を動かしているポーズもどんどん描いてもらえたらうれしいですね。もちろん、アニメーターにもなってくれたら……とは思いますが(笑)。

[取材&文・小林真之輔]

 
書籍情報

『香川 久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック』
漫画、アニメ、ゲームなど……キャラクターを描く人たちの必読書!!!

2017年5月13日発売
A4変型判 176ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-7683-0856-1

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