劇団アルタイルの思い出――ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第8回！

　2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

　劇団アルタイルに新規メンバーが加入するという噂を聞いて、浮き足立つ既存メンバーたち。そんななか、リンタロウの部屋で勉強会が行われることに……。メンバーのなにげない日常のなかに描かれる、彼らの内面と関係性に注目です！

劇団アルタイル『勉強会にて』
【あらすじ】
リンタロウの部屋で勉強会をすることになった。参加メンバーは先生役のマキと、リンタロウに誘われたサクヤ、トウマ。無邪気にじゃれあう年下三人を眺めながら、マキはそれぞれのこと、そして自分のことを考えるのだった。

【ストーリー】
「リン、入るぞ」
　ノックをしてひと声かけると部屋の中から「あ、マキさんだ。どうぞ」という声が聞こえた。遠慮なしに扉を開くと、
「なんだ。トウマとサクヤも来てたのか」
「お邪魔してまーす！」
「トウマはともかく、サクヤが一緒なんて珍しいな」
「邪魔なら帰る」
　腰を浮かしそうになるサクヤを「待って！」とリンタロウが慌てて遮った。
「俺が呼んだんです！　これからマキさんに勉強教えてもらうけど一緒にどう？　って。リツくんにも声かけたんですが、ちょうど仕事が重なってて……」
「ああ……そういえば、お前たちは同じ学年か」
「ですです！　ね、俺ら一緒でもいいですよね？　マキ先輩」
　トウマが、人懐っこい笑顔で小首を傾げた。
もともと問題はないものの、その笑顔でダメ押しされた気分になった。

（甘えるのが上手いんだよな、トウマは。女子からちょくちょく歓声が上がるのもわかる）
　トウマは、ツキプロの代表である月野尊社長が直々にスカウトしたと聞いている。
　こういう特技をひと目で見抜いたのだとしたら、すごい話だ。

「ね、マキさん。いいでしょ」
「構わない。教え方はたいしてうまくないけどな」
「そんなことないですよ。俺、この間のテストのとき教えてもらって、とってもわかりやすかったし。
　あとこれ、要点をまとめたメモ！　すごく助かりました」
　ありがとうございます、とリンタロウがメモを返そうとしたから、やんわり止めた。
「それ、やる。去年自分用に作ったやつだけど、そんなんでよければ」
「え……でも」
「いいって」
「リン、俺もそれコピーしたい！　な、サクヤ」
「…………」
「留年とか格好悪いしさ。一緒にがんばろーぜ？」
「オイ。人をバカみたいに言うな」
「サクヤさんは英語が得意なんですよね。俺、ちょっと苦手だから、教えてもらいたくて」
　すかさずリンタロウが間に入ると、険しくなったサクヤの目許がわずかに和んだ。
「そういうお前は数学得意だろ」
「えへへ。得意なとこ、教えっこしたら捗るかなって。そういう作戦です！」

（リンは人の間に入るのが、本当に上手だ）
　場を和ませるのがうまくて、機転も利く。マネージャー志望だったのはさもありなん、タレントだって対人スキルは大切だ。
（オーディション会場に手違いで入って来たリンのこと、そこまで見抜いて抜擢したんだろうか）
　だとすると……なんだかやっぱり、すごい。
（サクヤも、音楽部門から社長命令で移籍したって聞いた）
　バンドメンバーとトラブルがあったらしい、と小耳に挟んだ。確かに、少し気むずかしいところはある。が、少なくとも、劇団アルタイルのメンバーとはうまくやっている。最初の選抜こそ漏れたものの、Sargasのメンバーとしてステージに立ち、歌う姿はさすがの貫禄で、本当に格好良かった。

「うわ。マキさんてホント頭いーですねー」
　ふいに、トウマが感心した声をあげた。
「だってこれ、めっちゃわかりやすい。すごい」
「だよね！　俺、前回本当に助かったもん」
「お前、俺らより学校遠くて朝も早いし、Rigelの活動も忙しいのに、その上勉強って……いつやってるわけ？」
　サクヤが言い、とたん視線が全部こっちを向いた。
「……電車の中とか、休憩時間とか。やる気にさえなれば時間は作れる」
「なんだ、ただの真面目か」
「そもそも俺は――」
　アイドルになるつもりなんてなかったし、コツコツ勉強するくらいしか取り柄がなくて――。
「？　どしたんです？　急に黙って。なんか言おうとしてませんでした？」
　トウマが不思議そうにまばたく。首を、横に振った。
「……いや、なんでもない」
　言いかけたけど、やめた。

　姉が勝手にツキプロオーディションに応募した。目の前に置かれたものを適当にできない。始まりはただ、それだけだった。
（でも……俺は、選ばれてここへ来たんだ）
　みんなが選ばれたことに、意味はある。断言できる。
（だったら。俺にもきっとある）
　メンバーを尊敬してる。だから、自分の価値も素直に信じられる。

「あ、そういえばタツヒコさんから聞きました？　アル劇に新規メンバーが入ってくるって話」
「聞いた聞いた！」
「これ以上大所帯になるとか……うっざ」
「えー。俺ら先輩になるんだよ。嬉しくない？　それに、絶対面白いやつ入ってくるって！　ね、マキさん」
　笑うトウマに、頷いた。
「ああ、そうだな」

　格好良いやつらが入ってくる。それだけは、絶対に間違いない。