見た目も内面も対照的なふたりがオーディションに挑戦――ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第12回！

　2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

　前回から引き続き、劇団アルタイルオーディションの様子をお届けします。今回は一般応募組である蔵前カズキと駒込タイキにスポットを当て、彼らが審査を受ける様子や応募動機を描きます。

劇団アルタイル『スイート＆ビター』
【あらすじ】
　劇団アルタイルの新メンバーを決めるオーディション。今回審査の場に立っているのは“駒込タイキ”と“蔵前カズキ”。見た目も内面も対照的なふたりが、入団を志望した理由とは……？

【ストーリー】
「駒込タイキ、17才です♪」
　そう言って、タイキはふわりとまばたいた。
　審査員たちが、ほんのわずかに身を乗り出したのがわかる。

（うん。そうそう。いい感じ）
　審査員だって人間だ。10人グループでのオーディションも終盤に差し掛かると、少しずつ集中力が落ちてくる。
（ね。僕のこと、見て？）
　彼らの頭の中にあるのは、ペラペラのエントリーシートに書かれた名前、生年月日、身長、体重、志望動機――エトセトラ、エトセトラ。
　僕の17年をひとまとめにした、乱暴な紙切れ。
　でも、そこに書いてあるのは、僕じゃない。
　僕だけど、僕じゃない。
（もっと見て）
　だって、僕が、ここにいるんだから。
（僕のこと、ちゃんと見てよ）
　微かに首を傾げつつ、控えめな笑みを含んで、ほんのすこし目許を細めればあざとくなりすぎないって、わかってる。
　僕は誰より、僕を最高に可愛く見せる方法を知っている。
（ね？　僕みたいな子がタレントになったら、みんなが喜ぶと思わない？）
　――とは、もちろん言わない。
「見ているひとが思わずにっこりしてしまうような……そんなタレントになりたいです！」
　この表情で、この声で、どんな言葉を紡げばひとの心を打つのか、ちゃんとわかってる。
　ポイントは、絶対に嘘をつかないこと。
　嘘をつけば、嘘のための嘘が必要になる。
　余計なエネルギーを使う必要はない。ありのままでいい。
　だって、僕は可愛いから。

「うわぁ……」
　どこからか、ちいさな呟きが聞こえた。
（あれ……誰だろ、いまの）
　目の前にいる審査員じゃない。振り返らずに気配を探る。
（そういえばさっき、書類を持って入って来たひとがいたっけ。ときどきいるんだよねー。そういう反応するひと）
　僕の考えていることがわかるひとは、たいていの場合が“お仲間”だ。同族嫌悪というやつだね。
　裏を返せば、僕の魅力を最大限に理解できるひととも言える。
（ふふ。オーディションに受かったらまた会えるかな。楽しみ）
　向こうが僕に気がついたように、きっと僕もそのひとのことがひと目でわかるはずだ。

「ＰＲをありがとうございました。それでは、次の方」
　審査員から声がかかり、ちょこんとお辞儀をして席に戻る。次の審査に向かう相手とすれ違った。
（わ……かっこいい系だな）
　彫りが深く、男らしい顔立ち。鋭さのある目許と太い眉からは、実直な印象が伝わってくる。
（君、いいね。僕とキャラがかぶらないし）
　この場にいる以上ライバルではあるけれど、素直に褒めたくなるタイプだ。
「蔵前カズキ。16才です」
　印象を裏切らない落ち着いた声が、そう言った……が、
（ふーん。16さ……え？　16才！？）
　ビックリして、思わず二度見した。
（まさかの年下！）
　審査員からも「へえ」と声が上がる。だが、本人は言われなれているのか、気にも留めない様子で続けた。
「今回のオーディションには、劇団アルタイルの市ヶ谷リンタロウさんに憧れて応募しました」
「ええっ！？」
　ガタン、と大きく椅子の鳴る音がして、審査員のひとりが声を上げた。
「あ、す、すみません！　その、ちょっと、ビックリして……」
　メガネをかけた審査員が真っ赤な顔で、机に頭をぶつけそうな勢いで必死に頭を下げている。そして、
（あ……見てる）
　蔵前カズキは、その様子をまっすぐに見ていた。

（あの審査員って、市ヶ谷リンタロウ本人だよね？）
　審査員に現劇団員がいるとは聞いていたけれど、誰が参加するかは知らされていなかった。ということは、媚びたわけではないはず。
　しかも、リンタロウを見る、あの、まっすぐな目。
（待って待って）
　思わず、笑ってしまった。
（もうちょっと緊張するとか、照れるとか、あるでしょ。フツー）
　蔵前カズキからは、照れ隠しの笑いも、はにかみも、ましてや奇をてらうような調子の良さも感じられない。

「先輩たちの背中を追いかけながら、いろいろなことに挑戦していきたいと思っています。よろしくお願いします」
　そう言って、折り目正しく頭を下げる。その、きれいな背筋に思わず見とれた。
（これ、彼も受かるな。もちろん、僕も）
　直感して、こっそりと笑った。
（ふふ。おもしろくなりそうだ！）