最終審査終了後ふたりはライバルから友だちへと変わった――ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第14回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

前回から引き続き、劇団アルタイルオーディションの様子をお届けします。今回は三次審査が終わったあとの森下ショウゾウと両国ジュンペイの様子が描かれます。

劇団アルタイル『星とたんぽぽ』
【あらすじ】
最終審査を終えて、帰路についた両国ジュンペイ。何事も人並みの自分を変えたくて挑んだオーディションだったが、帰り道でもネガティブな感情に包まれてしまう。そんなジュンペイに声をかけてきたのは、同じオーディションに参加した森下ショウゾウだった。

【ストーリー】
　「オーディションはこれですべて終了となります。お疲れさまでした」
「……ありがとうございました」
　スタッフに頭を下げ、両国ジュンペイはオーディション会場を後にした。
（三次選考も、これで終わり……）
　あとは結果の連絡を待つだけだ。

　外へ出る。頬を撫でる心地よい風に、ホッとしてちいさく息をついた。
（すごく緊張した）
　やりきった、という気持ちと、もっとなにかできたんじゃないか、という気持ち。
　両方が同じ強さでジリジリと燻っている。
（落ちてたら）
　考えても仕方がないとわかっているのに、落ちたとき感じるだろう落胆をいまから想像してしまう。
（落ち着こう）
　かぶりを振って、ポケットから、折りたたまれたプリントを取り出す。オーディション募集要項のウェブページをプリントアウトしたものだ。
　一番上に『きみも、輝く一番星になろう』と書かれている。
（なりたい……な）
　空を、見上げた。

——ジュンペイくんは器用だね
——なんでもできてすごいね

　物心ついてから何度そう言われたか知れない。
　実家は剣道の道場。段位は最速で取得してきたから、現在は三段。学校の勉強も楽しい。小さな頃からいろいろな習い事もしてきて、そのひとつであるバイオリンも何度かコンクールに出場した程度の腕前がある。
（でも、その程度）
　三段を取る高校生は、全国に何人もいる。学校の成績はいつも上位だが毎回主席というほどでもないし、物心つく前から英才教育を受けてきたバイオリン奏者には敵わない。
　なんでもほどほどにこなせる、影の薄い優等生。それが、17年かけてできあがった、いまの「自分」だ。
　もう一度、手許のプリントを見る。
（一番星……）
　とてもシンプルなキャッチフレーズに、強く、心が惹かれた。
（なりたい）
　自分に、自分で胸を張れる——そういう人間になりたい。

「あ、いたいた。おーい！！　そこの、バイオリンのひとー！！」
　後ろでビックリするほど大きな声がした。思わず振り返ると、
「そうそう、アンタ！　やーよかったー！　間に合って！」
　ぶんぶんと手を振りながら、真っ直ぐに、こちらへ向かって走ってくる。
「これ。先輩に渡してくれって頼まれてさ」
「先輩……？」
　首を傾げると、彼はにっと笑う。
「アル劇の要さん！　オーディション会場にいたろ？」
　そう言って、プリントを手渡された。
「これ。帰りに出口で渡しそびれたっつってた」
「……ありがとうございます」
「？　なんで敬語？」
「俺より年上ですよね。オーディションの自己紹介で19歳って言ってたから」
「よく覚えてんな！」
　心底驚いた顔をされた。
「いえ、それは……たぶん、みんな覚えてると思いますよ」
「マジか！　みんな頭いーな！」
　いちいちオーバーアクションで、だけど、ちっともイヤミに見えない。それどころか、ついつい笑ってしまう。
「いえ。そうじゃなくて、それ」
　オーディション会場からつけたまま出てきたらしいオモチャの変身ベルトを指さすと、彼はまた、嬉しそうに笑った。
「おーこれな！　そっか、かっこいいもんな！　そりゃ覚えてるわ！」
「アピールもすごく印象的でした」
「マジで？　やった！」
　屈託のない笑顔に、オーディションのライバルだということを忘れそうになる。
（確か、アクションスタントの仕事をしてるって言ってた）
　目標は「元気が出たよ」と言ってもらえるタレントになること。キラキラした目でそう語る彼は、とても眩しかった。

（きっと、こういうひとが受かるんだろうな）
　ぼんやりそんなことを思っていると、ふいに肩を叩かれた。
「オマエのバイオリンもスゲーかっこよかった！　合格間違いなしだな！」
「え……」
「なに驚いてんだよ！　みんなめちゃくちゃビックリしてたろ！」
「そう、ですか？」
「そーだよ！　覚えてねーの？」
「……緊張していたので」
「全然そんなふうに見えなかったぞ？　なんだ、オマエ、おもしれーな！」
「面白い……俺が、ですか？」
「おー。スゲーおもしれー」
　今度はこちらが驚く番だった。
（面白い……）
　そんなこと、初めて言われた。
「つーか、敬語いらねーし。友だちになろーぜ。俺、森下ショウゾウ」
「あ、両国ジュンペイです」
　差し出された手に、慌てて応じようと手を伸ばす。
　すると、ショウゾウにがっちり掴まれた。
「ジュンペイ、よろしくな！」

　いまは明るい昼の空。星はまだ見えない。
　けれど、星はいつだって、この空の高いところで輝いている。