有志で集まってボイストレーニングをしようとするものの……　ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第18回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

前回から引き続き、新メンバーのお披露目公演に向けたレッスン風景をお届けします。今回は、自主的にボイストレーニングをしようと集まったメンバーたちの様子が描かれます。意外なメンバーの、意外な一面が垣間見られるかも……？

劇団アルタイル『アンダンテ』
【あらすじ】
新メンバーのお披露目公演に向けて、レッスンを続ける劇団アルタイル。日頃のレッスンだけでなく、有志で集まってボイストレーニングをしようとするものの、なかなか足並みが揃わず……？

【ストーリー】
　レッスン室へふらりと入ってきたタツヤに、ヒジリは渋面を隠そうともせず「遅い」と言い放った。
　大きくまばたき、壁にかかった時計を見て、タツヤが首を傾げる。ため息交じりにヒジリは続けた。
「レッスンの開始時間ぴったりに来てどうする。ストレッチや軽い発声練習をしておくくらい、当然――」
「まぁまぁ」
　ユウリがやんわりとヒジリの声を遮る。
「今日は初日だから。ね？」
「甘やかすな、ユウリ」
「もちろん、たとえ今日が有志で集まった自主練だろうと、彼が初心者であろうとウォーミングアップは大切だ。
　でも、なにが当たり前で大切なのか、まずは僕らがきちんと教えてあげないとね」
「過剰な期待するなよ、ヒジリ。初日から完璧なボーカルレッスンなんてできっこない」
　サクヤがそっけなく言い捨てる。ミカドは思わず苦笑して、目許を和ませた。
「ジュンペイ、タツヤ。ヒジリとサクヤの言葉は少し厳しく聞こえたかもしれないけど、とてもシンプルな話だよ。
　まずは歌うために、知っておいてほしいことがたくさんあるんだ」
　そう言って、ミカドはジュンペイの肩を軽く叩いてみせる。
「俺も最初は門外漢だったから気持ちはわかる。なにもかもが初めてで、なにかを訊こうにも、なにから訊いたらいいかわからないよな」
「どうせだからアップなしで歌ってみろ、タツヤ。たぶん、そのほうがわかりやすい」
　サクヤがそう言ってピアノの前に座ると、ユウリが「いいね」と頷く。
「お披露目公演用に渡した楽曲、覚えてきたか？」
　ヒジリの問いかけに、タツヤが神妙な面持ちで深く頷く。
「かっこよかったから」
「それじゃ、サクヤのピアノに合わせて歌ってみろ」
　すぐに伴奏が流れはじめ、タツヤはさして動じる様子もなく合わせて歌いはじめた。
「へえ……あいつ、器用だな」
　ヒジリが感心してちいさく呟くと、ユウリも頷く。
「そうだね。突然振られても、とっさに歌えるのはすごい」
「……それは良いとして、ジュンペイ、タツヤの歌をどう思う？」
「え、あ……はい」
　急に振り向いたミカドに驚きつつ、ジュンペイは必死に言葉を探した。
「ええと、とっさに歌ったのに、安定していると思います。初めてとは思えないくらい。ただ……」
　そこで、ふいにサクヤの伴奏が止まった。
「ここまででいい。……で？　ジュンペイ、続けていいぞ」
　全員の視線がジュンペイに集まる。言葉に詰まる様子の彼に、ミカドがそっと助け船を出した。
「思ったことを言えばいいよ」
「……はい。タツヤ。いま、喉の調子はどう？」
　少し考える仕草のあと、
「ちょっと、落ち着かない…かも？」
「水は？　持ってる？」
　ふるふると首を横に振るタツヤに、ジュンペイはペットボトルをそっと差し出した。
「よかったらこれ、飲んで」
　ジュンペイの表情と手許、ふたつの間で視線を何度か行き来させたあと、タツヤは「ありがと」とペットボトルを受け取る。
「タツヤの歌、よかったよ。俺は、いきなり歌えって言われたら、こんなに伸び伸びと歌える気がしない」
　次の言葉を待ってじっと見つめるタツヤにジュンペイは「でも」と続けた。
「まずは喉のコンディションをきちんと整えてあげたほうが、もっといい声が出ると思った。負担も少ないんじゃないかな？　ライブは１曲歌うだけじゃないし……」
　言葉を選びながら説明するジュンペイのあとを、サクヤが引き取って続けた。
「ジュンペイの言うとおりだ。タツヤは舞台度胸がある。
　けど、それだけじゃダメなんだ。何曲も歌うライブで俺たちは１００％のパフォーマンスを発揮しなきゃならない。そのためにも、まずは喉を開いて、負担の少ない歌い方をする必要がある」
「……教えるの、案外向いてるな」
「ふふ。サクヤは僕たちの中で一番の、歌の先生だね」
　ヒジリとユウリが交互に褒めると、サクヤは照れくさそうに、ふいっとそっぽを向く。
「それに確か、ジュンペイはバイオリンを弾くんだよね？」
「ああ、なるほど。楽器も歌う人間も、同じようなものだしな」
　ふたりのやり取りに、ミカドが笑んで「門外漢だなんて、失礼だったかな」とジュンペイの肩を優しく叩く。
「サクヤ」
　考え込んでいたタツヤが、ようやく口を開いた。
「それ、もっとかっこよく歌えるってこと？
　だったら俺、やるよ。ウォーミングアップ。サクヤ、俺、どういうことすればいい？」
　詰め寄ってくるタツヤに困惑しつつ、サクヤは「あのな」とちいさなため息をつく。
「俺ら、一緒にウォーミングアップするためにお前を待ってたんだぞ。先に言うことないのかよ？」
「あ、そうか。ごめん」
　あっけらかんと謝ったあと、タツヤはみんなを見回した。そして、
「今からかっこよくなろう。みんなで」
　思わず笑ってしまうくらい、真っ直ぐに、そう言った。