声優
映画『エウレカセブン』三瓶由布子さん×古谷 徹さん声優対談

映画『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』レントン役・三瓶由布子さん×アドロック役・古谷 徹さん声優対談「ファンにはたまらない、優しくない作品です(笑)」

9月16日から劇場公開中の『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』。スタイリッシュな映像と高揚感を掻き立てるダンスミュージック。12年前のTVシリーズに、新規映像をたっぷり加えて再構築したものが本作です。

今回は主人公・レントン・ビームス(レントン・サーストン)役の三瓶由布子さんと、レントンの父・アドロック・サーストン役として出演するベテラン声優・古谷 徹さんの対談が実現!

12年越しに新たに描かれた父・アドロックの姿を見た感想など、映画についてたっぷりと語っていただきました。

 

アドロックとレントンの共通点とは
――台本を読んだとき、どう思いましたか?

三瓶由布子さん(以下、三瓶):前回の映画(『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』/2009年作品)がわりとパラレルワールド的なものだったので、今度はどんな仕掛けで来るんだろうと、アプローチが楽しみだったんですけど、モノローグが多いなと!(笑)

でも、あらためて台本を読んだとき、古谷さん演じるアドロック・サーストン――「お父さんがしゃべるんだ!」っていう楽しみと期待と、いい意味での緊張感がありました。

古谷徹さん(以下、古谷):まず専門用語がまったく分からなくて(笑)。自分が演じるアドロックというのは前半の主人公で、命がけで人類を救うというのだけ見るとすごくいい役なんですけど、演じる上では非常に大変だなという思いがありました。

――それは具体的には?

古谷:まずは年齢的なことですよね。キャラ表を見たとき、軍服を着て髭を生やしているんですよ。自分が今までやってきたキャラクターとか、テノールの声質にまず合わないなと。これは相当老けなくちゃいけないんじゃないかって思いました(笑)。絵と声の違和感が出ないようにしなきゃいけないというところが大きなプレッシャーでした。

ただ台本を読んでいくと、息子がいるお父さんなんだけど、レントンが当時4歳なので、よく考えるとアラサーくらいでいいのかなと。それだったら他にも『名探偵コナン』でやっている役は29歳ですし、『逆襲のシャア』のアムロも29歳なので、そこは目をつぶってもらえるんじゃないかなと。

心情的な表現をきっちり演じれば、自分が台本を読んだときの感動を、見ている人にも与えることができるんじゃないかと思い、頑張ろうと思いました。

――難しい専門用語に関しては、どのように解決していったのですか?

古谷:まずアフレコ当日に、分からない言葉を台本の最初のページに全部書いて行ったんですよ。それを監督にひと通り聞きました。で、監督も答えられない、内緒にしておきたいところがあったようで、すべてを納得し理解した上でやったわけではないんです。

あと、アドロックが死んじゃったあとの部分は、あえてほとんど読まないで臨んだんですけど、ひと通り、なぜそういう行動を取らなければいけなかったのかというところまで理解した上でやりました。

――オフィシャルサイトのコメントで、「会心の演技ができた」とありましたが、そう思った理由はあったのでしょうか?

古谷:僕は名塚さんと2人だけでアフレコをしたんですね。意外と短時間でOKになったので、監督方に満足はしてもらえたんだなと思えたのもあったんですけど、アフレコが終わったあとに自分が今どこにいるのか、これから何をしなきゃいけないのか全然分からなくなっちゃって。

要はアドロックと一緒に昇天しちゃったんですよ、僕自身が(笑)。で、その2時間後くらいにNHKに入らなきゃいけなかったんだけど、何度も乗り換える駅を前後しちゃって、「どうしちゃったんだろう俺は?」っていう状態になったんです。

それが回復するまではすごく時間がかかりましたね。3日後くらいにようやく戻ったというか。ふらふらして、雲の上を歩いているような感じでした。なかなかそこまでのめり込むことっていうのはないし、だいたいはスタジオを出れば正気に戻るんですけど(笑)、ちょっと引きずっちゃいましたね。

――古谷さんがそういう状態になるのはすごいですね。

古谷:本当に集中していたのと、クライマックスのところはアドロックが延々としゃべるんですよ。そのセリフに酔ったんじゃないかなぁって。

――息子を残してまで、人類を救おうとするのだから、その反動もすごいんでしょうね。

古谷:アドロックとしては、4歳の我が子と別れるのは相当な覚悟だったと思いますよね。いろいろ夢見ていたと思いますし。大人になったレントンのこととか、楽しみにしていたはずだから。

三瓶:逆に、レントンがいるからこそっていうのもありますしね。

古谷:うん、そう! レントンの未来を確実なものにしたかったというのが、思いとしてあったと思いますね。

――そのお芝居をレントンとして聞いた三瓶さんはいかがでしたか?

三瓶:古谷さんが台本の後半をあえて読まなかったとおっしゃったんですけど、私も前半の部分を深く知ろうとしなかったんです。すごく楽しみな部分でもありましたし、お父さんが何をやっているのか知らないからこそ、という部分があったので。

実際、一番最後の小さいレントンの息の部分しか、前半パートは出ていないんですけど、なるべくスタジオにも入らないようにしました。きっと知らないほうがいいんだろうなって。だから声を聞いたのも試写が初めてで。

でもその試写を見たときは、涙が止まらなくて。何ですかね、私の気持ちなのかレントンの気持ちなのか分からないんですけど、(涙が溢れながら)「アドロックに会えた」って思ったんですよね。

古谷:写真でしか会っていない父親だもんね。

三瓶:古谷さんが演じられて、今おっしゃっていた熱量がそのまま音になり、今回の新しい映像になる。動いている人間としてダイレクトに感じられました。

――そんなお互いの印象に残っているシーンというと、どこになりますか?

三瓶:私は冒頭のアドロックが吐くシーンです。ちょっとクスッとしてしまったんですけど、TVシリーズのときのレントンはゲロンチョってあだ名を付けられるくらい、吐いたり泣いたりのシーンがすごく多くて。

だからお父さんの第一声が吐くっていうのがおかしくて(笑)。いや、すごく真面目なシーンではあったんですよ。真面目だから笑うところじゃないんですけど、ちょっとした喜びというのもありました。

古谷:いきなりだもんね(笑)。いきなりテンションマックスに上げないといけないから、僕としても大変だった。アドロックとしては、最初自分が立てたネクロシス作戦のミスを自分で正さなければならなくて、しかも時間がないというところで、正規の段取りを取る時間がなかったんです。

結局一度拘禁されて、そこから脱獄して7人の同僚を殺しながら進んでいく。人類を救いたいがために立てた作戦を正すために、また人を殺さないといけないという、そんな自分の行いに対して嘔吐してしまった、しかも無重力状態で。そんなところから始まっているので、そこにまず気持ちを持っていくのは大変でしたね。

――古谷さんの印象に残っているシーンは?

古谷:よく嘔吐してるっていうのは同じDNAなんじゃないかっていうのは、僕もちょっと感じてて。やっぱり2人とも先走っては後悔するパターンなんですよ(笑)。行動力があるからできちゃうんだけど、結局うまく行かずに後悔するから、同じDNAだなぁって思いました。

だからヴォダラクの一連のエピソードはすごく印象に残りましたね。三瓶さんが14歳のレントンを活き活きと演じてくれているのが素晴らしくて。もしアドロックがこのレントンを見たら、すごく嬉しいんじゃないかと思いますね。

アドロックも子供の頃はそうだったんじゃないかと思わせてくれるというか。信念を持っていて、行動力があって好奇心が強くて。まったくそのまま継いで生きてくれているように、僕自身思いました。


同じ役を演じ続けるということ

――ところで、以前やった役を演じるというのは大変なものなのでしょうか?

三瓶:これはぜひ古谷さんに聞きたいです(笑)。

古谷:今回はハイエボリューションっていうくらいで進化しているわけで、まったく同じストーリーではないと思うから、それはそれでやりにくそうだなって思うんですよ。僕は、同じストーリーをやることが多かったんですけど、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』は、TVシリーズより前から話が始まっていて、しかもこれまで映像化されていなかった部分だったりするので、新作として捉えることができるんですけど……。

僕が、たとえば25歳のときに演じたアムロをまた数十年後にやらないといけないってなったときに、自分の過去の作品を見直して、ファンの方の期待を裏切らないように、なるべく踏襲しようと思うんですよ。でも実際は完璧に再現はできないわけですよね。その間に染み付いてしまった汚い色がたくさんありますし(笑)、大人になってるわけですから。

だからそれを削ぎ落とす作業がある。25歳の古谷徹が15歳のアムロを演じたときは、すごく身近な存在だったんですよ。何というか、小器用に演じられていない良さがあった。だから25歳の古谷徹は超えられないと思うんです、少年時代のアムロに関してはね。だから、超えられないのであれば、今ならではの、キャリアを積んだ自分ができるアムロを演じようとチャレンジするしかない。そこでまぁ、許してもらっているところはあるんですけど(笑)。

だから本当は、同じ役で同じストーリーはやりたくはないんですよ。最初のときに燃え尽きてるから。そこで後悔してたら、もう一度やりたいって思うかもしれないけど、そうじゃないし、それ以上のものを出すのは大変だから。だから、映画三部作でアムロをやったときは、やりたくはなかったですよ、はっきり言って(笑)。

三瓶:心強いです。

――映画を見て、レントンだなぁって思いました。

三瓶:良かったです。やっぱりそれが怖くて。もちろん声帯はここにあるけど、経験だったり年を重ねたぶんだけ変わっている部分はありますし。それこそ少年の成長期ってすごく繊細ですし。

あと、当時見ていた人たちにとって「青春でした」とか「自分を重ねていました」って言われると、さらに私は女なので、余計にリアルな少年というものに対して怖さを感じるんです。19歳だった頃の私が何となくやっていた、逆に考えずにやれていたところに、12年分のキャリアを積んだ自分がいる。やっぱりそれが出過ぎてしまわないようにとは思いました。

特にエウレカセブンに関しては、描かれていることもすごく繊細じゃないですか。ヴォダラクのこととかテロのこととかを経験して打ちのめされる。世界に対しての鬱屈とした思いであったりが、すごくリアルにちゃんと描かれているので。やっぱり12年経つと、それが見えてきちゃうんですよね。そこをうまく演じようとすると、嘘になってしまうなっていう思いはありましたね。

声質的に少年の役をやらせていただくことはとっても多いんですけど、今回はまた新しい意味でのチャレンジというか。見ているみなさんにも等身大のものを感じてもらえるようにとは思いました。だからその最初の関門が、監督たちスタッフだったのかなって。監督がいいよって言ってくださらないとダメですし、「違う、変わったね」って言われたらどうしようみたいな思いはありましたねぇ。

――これは余談でもあるのですが、もしお二人にレントンみたいな息子がいたらどうですか?

古谷:親は大変ですよ! チャールズの気持ちはすごくよく分かる。突然いなくなっちゃうし、もう心配でしょうがないですよね。親の立場からするとヤンチャすぎます。

三瓶:メカとかをいじっているのを見ると、強く生きていってくれそうかなっていう気もしていて。心配だけど心配しなくてもいいというか。ただ、あれですね、女を見る目はあるんじゃないですかね(笑)!

――確かに。

古谷:僕はリフボードで一緒に遊びたいなぁ。

三瓶:二人乗りのリフボードもありますからね。ホランドとタルホがデートのときに乗ってたりもしてたんですよ。

古谷:そうなの!? でも男同士だから競いたいな(笑)。お互い技を競い合うみたいな。一緒にバイクをいじったりとか、そういうのは楽しそうだなぁ。

三瓶:お母さんというのがあまり触れられてないので、象徴的な存在としてはレイなんですけど、レイは理想が詰まっているというか。スタイルも良いし、ご飯も作れるし、女性から見て完璧なんですよ。

あんな風にはなれないし、彼女くらいじゃないと(レントンを)扱えないと言われちゃうと、手に余る感じはしますけど。たとえば「ばばあ!」とか言われる想像ができないんですよね。でも、レントンに「ばばあ」って言われたくない(笑)。

古谷:今回は父と息子の物語になってるからね。

――僕も個人的に『エウレカセブン』は父と子の物語だとも思っていて、レントンとアドロック、レントンとチャールズ、親子ではないですがレントンとホランドの関係もあると思うんです。たとえば、この距離感好きだなぁ、理想だなぁっていうのはありますか?

古谷:チャールズは本当によく育ててくれていると思う。すごくいい関係を築いてくれている気がするね。

三瓶:チャールズとレイの関係性が、TVシリーズを見てるときもすごく理想の夫婦という感じだったんです。当時は対比として、少し若いカップルのホランドとタルホがいたんですけど、そことは(レントンは)ヒステリックにケンカをしたりしてたんです。だからそれに比べるとすごく平和だったんですけど、どこかお互い遠慮をしているからこそ、気を遣い合ってるからこその平和というか。

ただ最後の最後でレントンとチャールズが決別するところで、本当の親子っぽくなったのは皮肉な話かなぁと思いました。だから何が良いかっていうのがすごく難しいんですよね。

でもアドロックは一緒に過ごさなかったけれど「この景色を見せたかった」というのは愛情だなって。名塚さんもそこは印象的なシーンで挙げていて、世界を救うヒーローだけど、ひとりの親としてのエゴの部分が人間らしいという話をしていたんですけど……。

古谷:それがアドロックの魅力でもあるよね。

三瓶:だからリアルな親というと、そういうところなのかなって思うし、理想的というとビームス夫妻なんだろうなって。難しいですね。

――そのアドロックの代表的な言葉として、TVシリーズのときから「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん」というのがあるのですが。このセリフを言うときの気持ちはいかがでしたか?

古谷:僕はあえてTVシリーズを見なかったので、先入観がまったくなかったんです。だから、その言葉がそんなに大事なんだって意識がなかったんだけど、素敵な言葉だなぁっていう思いで言わせてもらいましたね。アドロックの生き様が、その言葉に記されているんだと思います。背中を見て育ってくれって。

三瓶:レントンは、人づてに聞いていたと思うんですけど、その人がねだらず勝ち取った世界はこんなに美しいものだったんだって印象的なセリフがあって。だから、今回の劇場でアドロックの姿が見れたことで、つながっている実感とか、「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん」のセリフの重みがより感じられたので、また大切な言葉になったなぁと思いました。

――最後に、劇場を楽しみにしているファンにメッセージをいただければと思います。

三瓶:『交響詩篇エウレカセブン』ファンにはたまらない、優しくない作品です(笑)。でも、TVのときからそうだったんですけど、世界ってそんなに優しくないですから、そういうところがリアルに描かれているので、それを楽しみにしていただきたいです。

これがエウレカセブンだっていうのを、映画としても裏切っていないと思います。まだ見たことがない方には、新しいものとして。12年前の作品だけど、まったく色褪せていないので「どんなのかな? 見てみようじゃん」って気持ちで見ていただければ、楽しんでもらえると思います。

ちょっと子供は卒業しましたという方にこそ、逆に見てもらいたいなって思いますね。音楽、テーマ曲含めて、すべてミックスしたものを感じていただけたら『交響詩篇エウレカセブン』にハマッていただけるんじゃないかなって。ロボットがボードに乗ってますからね(笑)。

古谷:アニメ声優50周年のキャリアをアドロックにすべて注ぎ込みました。冒頭のシーンからひとつも無駄なセリフがないので、息遣いからすべて感じ取ってもらいたいと思います。そしてレントンという14歳の、すごく自由で信念を持った魅力的な少年の生き様から何かを感じ取ってほしいなって。それをそれぞれの人生に少しずつでも活かしてほしいなという思いがあります。

[取材・文・撮影/塚越淳一]


作品概要
■『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』
 2017年9月16日(土)全国ロードショー



STORY
地球上を覆う情報生命体・スカブコーラルと人類の戦いが巻き起こした世界の危機サマー・オブ・ラブ。
その危機から世界を救ったのは、アドロック・サーストンだった。
英雄と讃えられるようになるアドロック。
だが、その真相を知るものは、最前線で戦ったごく一握りの人間だけだった。

そして10年の時が流れた。
アドロックの残された息子レントンは、ビームス夫妻の養子となり、地方都市ベルフォレストで暮らしていた。
義理の父チャールズは、豪放で色んな意味で“濃い”男。
義理の母、レイは冷たそうに見えて細やかな愛情の持ち主だった。
だが、ビームス夫妻とレントンの間にはどこかぎこちなさがあった。

14歳になり、鬱屈とした日々を送っていたレントンに運命の転機がやってくる。
そして、家を飛び出すレントン。
そこからレントンは様々な人との出会い、別れを経験する。
レントンが出会ったひとりは、ファシリティ・ガード隊長のホランド・ノヴァク。
一時、ホランド率いるファシリティ・ガードに身を寄せていたレントンだが、ホランドとの相性は最悪。
徹底的に悪かった。

結局レントンはそこからもわずかな時間で飛び出してしまった。
彼が出会ったもうひとりは、少数宗教ヴォダラクの少女。
死に瀕した彼女を救うため、レントンは、再会したビームス夫妻の心配をよそに奔走する。
人々との出会いと別れは、レントンに大事なことを気づかせる。
自分はなぜ、家出をしたのか。
自分はなぜ今、この道を走っているのか。

【キャスト】
レントン:三瓶由布子
エウレカ:名塚佳織
デューイ:辻谷耕史
ホランド:森川智之
タルホ:根谷美智子
チャールズ:小杉十郎太
レイ:久川 綾
アドロック:古谷 徹

【スタッフ】
総監督:京田知己
脚本:佐藤大
キャラクターデザイン:吉田健一
アニメーション制作:ボンズ
音楽:佐藤直紀
挿入曲:Hardfloor 、HIROSHI WATANABE
主題歌:「Glory Days」尾崎裕哉(TOY'S FACTORY)
配給:ショウゲート

>>公式サイト
>>公式Twitter(@EUREKA_HI_EVO)

(C)2017 BONES/Project EUREKA MOVIE
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