19人全員でのソロ曲制作の意図をタツヒコから聞いたメンバーたちは……　ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第21回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと挿絵でお届けする連載です。

前回のストーリーでは、19人全員によるソロ楽曲の制作＆配信企画が発表されました。今回はその企画の意図について、そしてメンバーの心境について迫ります！

劇団アルタイル『じれったい熱』
【あらすじ】
19人全員でのソロ曲制作が決定した。今回はタツヒコの口から、その企画の意図について語られる。あらためて企画の内容を受け止めたメンバーの心境とは……？

【ストーリー】
「――メンバー19人でソロ曲の発表、か。ずいぶん急に、大きな話が来たんだな」
　タツヒコの話に、驚きを隠しきれない様子でミカドが呟く。隣にいたダイスケが、すこし困ったように笑って頷いた。
「すごく嬉しいけど、正直、それ以上に緊張する」

　事務所から戻り、ひとまず在寮メンバーでのミーティングとなったが、集まったのはタツヒコ、ミカド、ダイスケ、イズモ、ヒジリ、タツヤの６人。
　なにしろ19人の大所帯だ。それぞれに仕事や学校などの私生活もある。同じ寮に住んでいるとはいえ、全員が一同に会するのはなかなか難しい。

「ま、いつ言われたってどーせ緊張すんだよ。なら、早いほうがいい」
　イズモが不敵な調子で言い、目を細めた。
「だが、企画意図くらいは知っておきたいところだな」
　そう言ったヒジリに、タツヤが首を傾げる。
「意図？」
「いまだけ、あえて皆さんのことを『先輩』という言い方をするけど」
　ダイスケはそう前置きして、続けた。
「先輩たちはいままでグループ楽曲が主で、全員でのソロ企画はなかった。この企画が、俺たち新規メンバーが入った『いま』成立した理由が、なにかあるんじゃないのかな？」
「そういうことだ」
　ヒジリが同意する。
「あの社長のことだ。何か狙いがあるんだろう？」
　全員の視線がタツヒコに集中する。
「俺が知らされているのはざっくり三点。ひとつは、アル劇のさらなる認知度アップだ」
「確かに、オンライン配信なら気軽に聞いてもらえるし、いままで俺たちを知らなかったひとたちに幅広くリーチできる」
　ミカドの言葉にイズモも頷く。
「ま、メンバー19人がそれぞれソロ！　ってだけでも、話題性がある企画だしな。発表をぶち上げれば目に留まる。
　……で、ほかには？」
「二点目は、社長からもお達しがあった『アル劇に序列はない。過去の仕事ではなく、今ある実力そのもので勝負をしてほしい』ということを、実際にやってみせるためだ」
「同条件でのソロなら、説得力がある……そういう意味か」
　ヒジリに、タツヒコが頷く。
「ああ。先輩も後輩もなく、メンバーを同じ場所に並び立つ19人としてファンにも認識してほしい、ということだ。
　そして三点目。これは少し実務的な話になるが、いろいろなジャンルで活動していくアル劇の特性上、ソロや少数での番組出演やイベント参加もあるだろう？　そういうときに、ソロ曲があると強みにもなるはずだ――」

　タツヒコから一通り話が済み、メンバーは三々五々に部屋へ戻っていく。その背中を、ミカドはぼんやりと見守った。
　――アル劇結成、Sargasとしての活動を経て、ようやく掴んだユニットソングの獲得、ステージ。そして、ついこの間ここでタツヒコから新規メンバーの話を聞いたばかりのような気がするのに。
（今度はソロ曲か）
　序列がないということは、同じ立場で同じものを見られるという良さがある。一方で、全員が同一線上に並んだライバルということにもなるのだ、と思い知らされた気がした。頼もしく思っていた仲間たちが、ふいに、いままで以上に大きく見えてくる……でも。

「バナナ食べる？」
　出し抜けに、近くで声がした。
　見ると、いつの間にか足許にタツヤがちょこんと座り込んでいる。
「腹減らない？　ああいう話するの」
　目の前に差し出されたバナナを、ミカドは「ありがとう」と受け取った。
「ぐわーってなって、すごい減るよ、俺」
「ぐわーか」
「そう。ぐわー」
「……そうだな。なんとなくわかるよ。新しいことが始まる予感がして、いてもたってもいられない感じがする」
　すると、タツヤが顔を上げて、大きくぱちりとまばたいた。
「うん、それ。そんな感じ。ミカドさんて頭いーね」
　タツヤのストレートな物言いに、思わず、笑みがこぼれてしまう。

　なにが起こるのか予想がつかなくて、少し不安で、だけど、無性に駆けだしくなるようなじれったい熱が、体の中でじりじりしている。
　この感じを、よく知ってる。
（アル劇に参加が決まったとき……それから、Sargasのみんなと初めてステージに立ったときと一緒だ）
　怖がる必要なんてないことも、もう、いまの自分にはわかってる。

「ソロ、お互いがんばろう」
　ミカドの言葉に、タツヤはそっけなく、けれどもほんのすこし口端をあげて「うん」と頷いた。