ついにソロ楽曲配信がスタート！　楽曲と連動したストーリーにも注目！　「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第23回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回からついにソロ楽曲の配信がスタート！　楽曲と連動して、キャラクター一人ひとりを深く掘り下げるストーリーにもぜひご注目ください。第一弾は、アル劇いちの苦労人（？）永田イツキの物語です。

劇団アルタイル『Going!!』
「おはよう、イツキ」
「おはようございまーす」
「うん、おはよう。あ、フレッシュジュース飲む？」
「あ、飲みたい」
「俺も」
「はいはい、ちょっと待ってね」
　メンバーと言葉を交わしながら、イツキはジュースのピッチャーを片手にリビングダイニングを見回した。

（えっと、確かヨウスケさんとタツヒコさんは昨日の夜に前乗り。イズモとノブアキは早朝ロケでもう出かけてるはずだし、ユウリさんは今日オフだから、ゆっくり寝ていて大丈夫）
　誰に言われたわけでもないのだけれど、朝のメンバーチェックはイツキの日課になっている。
（あとは……）

「まったく、これだから――」
「素人は、って言いたいのか」
　言い合うふたりを見て思い出した。今日は珍しく、ヒジリとマキが午後から一緒の現場なのだ。
「ふ、ふたりとも！　落ち着いて！　それにマキ、そろそろ出ないと学校遅れちゃうよ～」
　慌ててイツキが割って入ると、ふたりは顔を見合わせ、ちいさく息をつく。
「……行けよ、遅刻するぞ」
「わかった、学校出たら連絡入れる」
　行ってきます、と共有ルームにもひと言放り、慌ただしくマキが出て行く。

（よ、よかった……大ごとにならなくて）
　イツキがひと息ついていると、どこかで携帯電話のバイブレーションらしき音が響いた。音の出どころを探すイツキに、ミカドが声をかける。
「イツキの携帯が鳴ってたよ。ダイニングに置いてあったから、持ってきた」
「わっ、ありがとうございます！　……って、マネージャーさんからだ。こんな朝早く、なんだろ？」
　ミカドから電話を受け取りながら首を傾げると、ダイスケが立ち上がって、持っていたピッチャーをやんわりと取った。
「イツキ。これ、俺がやるよ。電話出て」
「あ、うん。ありがとう」
　さりげないダイスケの気配りに感謝しつつ、イツキは通話ボタンを押したのだった。
「お疲れさまです、永田です。はい、はい………………えっ」

「……イツキさん、どうしたのかなぁ」
　駅に向かう道中、リンタロウが気遣わしげに寮を振り返りつつ、呟いた。一緒に歩いていたリツとタツヤは、不思議そうにリンタロウを見つめる。
「？　イツキ、なにかあったの？」
「うん……。事務所から電話が来て、そのあとは心ここにあらずって感じだったんだ。ヒジリさんが怒ってもぼんやりしてて」
「ヒジリ、イツキに相手してもらえないと、機嫌悪くなるもんね？」
「そう……なのかなぁ。『朝から腑抜けるな！』って怒ってたけど……」
「大丈夫、イツキくんなら」
　それまで黙っていたタツヤが、ぽつんと言う。
「だって、あのイツキくんだし」
　多分、これといった根拠はないのだろうが、確信をもって話すタツヤに、リンタロウは不思議な説得力を感じた。
「僕も、だいじょぶだと思う」
　隣で、リツもちいさく頷く。
「イツキ、最近はあんまり溜め込まないで、いろんな話をしてくれるんだよ。だから、だいじょぶ」

「おい、イツキ」
「うわっ」
　後ろから襟を引っ張られて、思わず大声が飛び出た。
「な、なに、ヒジリ」
「さっきから言ってるだろ。姿勢が悪い。下を向くな」
「あー……うん」
　そういうヒジリは相変わらず背筋がピンと伸びている。
（やっぱりかっこいいなあ）
　ヒジリはアル劇に入ったいまも、モデルとして第一線で活躍している。
　元ツキプロのモデル部門出身――似たような経歴だから、どうしても自分と比較してしまう。
「俺はそろそろ出かける。お前は？」
「えっと……あっ！！　いけない！！」
　時計を見て、ギョッとして立ち上がった。そういえば、一緒に朝食をとっていたメンバーたちの姿も見えない。ずいぶん長いことぼうっとしていたらしい。
「人の面倒を見るのもいいが、自分のことが中途半端じゃ仕方がないだろ」
　だよね、と言って、つい俯きそうになった。
（っと、いけない。俺、この間もソロ曲のことで皆に心配かけたばっかり……なのに、これじゃ）
　メンバーに心配させたくない。みんなにはもっと頼ってほしい。笑顔でいてほしい。
（でも……だったら、自分のことを隠してばかりいちゃ、ダメだ）
　いまにも逃げ出したくなる気持ちを堪え、顔を上げてヒジリを見つめ返す。
「あっ、あのね！　俺、ちょっと……ビックリしてて」
　思い切って言うと、ヒジリが腕組みをしてこちらへ向き直った。話を聞いてくれるつもりなのがわかり、少しだけホッとして、続ける。
「さっき、事務所から電話で、今度の音楽フェスでＭＣをやらないかって言われたんだ。
　でも俺、トークとか、進行とか……あんまりうまくないし。特別、見た目に華があるわけでもな……んあ！？」
　遮るように、ヒジリの指が勢いよくイツキの額を突いた。どうやらまた俯きがちになっていたらしい。
「どんなヤツの話もきちんと聞く。他人を不快にさせる言葉は絶対に言わない。立ち止まっているやつがいたら話しかけに行くし、トラブれば駆けつけてあっという間に仲裁する。
　そんなヤツがいたとして、向いてないと思うか？　ＭＣ」
　一気に言ったあと、ようやく指が離れた。
「お前は、他人のいいところを見つけるのは得意なくせに、自分のこととなると粗探しばかりする。よくない癖だ」
　素っ気なく言ってヒジリは背を向け、椅子にかかった上着を羽織る。
（ヒジリ、励ましてくれてる……）
　臆病で、弱虫で、何度も同じ失敗をして、自分のことが嫌いになりそうになる日もある。
　けれど、立ち向かう姿を見てくれている人がいる。こんなにも近くに。
「ありがとう、ヒジリ……俺、がんばってみる！
　でも、ごめんね。弱音なんか聞かせちゃって……俺ちょっと、かっこわるいね……はは」
　すると、肩越しにヒジリが振り返って素っ気なく――けれど、どこか優しげに、言った。
「なに言ってる、こんなのお互い様だろ。それに……お前がうじうじしてると、マキとも喧嘩しづらいんだよ」
　ヒジリのおかしな主張に、イツキはいつもの、少し困ったような笑顔を浮かべたのだった。

今回登場した人物をご紹介！
◆永田イツキ（CV：松岡一平）
裏表のない優しい性格で、ユニット内の潤滑油的存在。困ったような笑顔が板につきすぎている苦労人。