朝が苦手だったサクヤが早朝に目を覚ますようになったきっかけとは？『アル劇』ショートストーリー連載第30回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、独特の美意識を持ち、馴れ合いを嫌う霞サクヤを中心としたストーリーです。過去の出来事から、眠れない日々を過ごしていたサクヤ。そんな彼が、アル劇に加入して変わったこととは？

劇団アルタイル『GUILTY』
【あらすじ】
朝が苦手だったサクヤだが、近頃は早朝に目を覚ますようになっていた。これまで彼が夜遅くまで起きていた理由、そして普通に眠れるようになったきっかけとは……？

【ストーリー】
　目が覚めたサクヤは、真新しい光が差し込む明るい天井をぼんやりと眺めた。
　この頃、朝はだいたい7時過ぎに目が覚める。
（スタジオ入り、午後からだってのに……くそ）
　昼近くまで寝ていたって問題ない。なのに、やけにスッキリ目が覚めてしまって、これでは二度寝も難しい。でも、このまま素直に起きるのは癪だ。
　寝返りを打ち、枕元のスマホに手を伸ばす――7時5分。
　ため息をつくと、ドアの向こう、廊下を誰かが通る気配があった。
（リンタロウか）
　たとえ防音壁で遮られていても、ひとの気配は案外わかる。
（アイツ、毎日同じ時間に出てくんだよな）
　早朝からの仕事があれば別だが、メンバーは起きるタイミングがだいたい決まっている。
　リンタロウは毎日ほぼ同じ時間に起き出す。その前後でタツヒコとミカド、30分ほどあけてマキ、イツキ。ブレが激しいのがヨウスケとトウマ。イズモとヒジリは仕事が変則的でどうも計れない。新しいメンバーはタイキとタツヤが遅め。リツとユウリがだいたい最後だ。だから、ふたりが出てくるより前には起きることにしている。
（……なんだそれ）
　ふと我に返って、枕に深く頭を沈めた。
（他人に合わせるとか）

　音さえ、歌さえあればいい。
　メンバーがなにを考えていようと関係ないし、興味もない。ましてや仲良くする必要なんてどこにもない。和を保つために相手の顔色を覗い、ときには遠慮し、妥協する――そんなことをしたら、音の個性がスポイルされるだけ。音楽の邪魔でしかない。
（本気でそう思ってた）
　けれど、念願だったメジャーデビューを果たしたバンドは、あっけなく解散。
　それどころか、後日、自分抜きのメンバーで再結成されて――。

「うぉーい！！　サクヤー！！」
　突然、大きな声と共にドアが開いた。
「！　ヨウスケ！？」
　起き上がるより早く、毛布を勢いよくむしり取られた。
「なあ頼む！　めっちゃ怒っていいからその前に俺のお願い聞いて！　サクヤが愛用してるスーパーすっげえ飴ちゃんちょうだい！　このとおり！！」
「ハァ……？」
「まあまあ、聞いてくれよ。昨日、一日中稽古だったからクッタクタでさ。加湿器入れて寝るの忘れちゃって、もー大ピンチ……現在進行形で、喉、山火事……。
　あーもーホント冬はダメだ。寒いし乾燥してるし。あっ、でもクリスマスと正月はスッゲー好き！」
「……聞いてないしどうでもいい。毛布を返せ」
「えー。二度寝する気かよー。ひでーなー」
「ウッゼ……」
「そんなこと言わないで労ってくれよぉ、マジ喉つらい」
「だったら、まずはそのうるさい口を閉じて大人しくしろ。それとも上と下を縫ってやろうか」
「うわ。お前、殺し屋みたいなこと言うね……いてッ」
　寝癖で爆発したヨウスケの頭を軽くはたき、サクヤは立ち上がった。引き出しから新品のガーゼマスクを一枚引き抜いて、ヨウスケに握らせる。
「それ、上を折って濡れマスクにしろ。あとネックウォーマーしてこい」
「飴ちゃんはー」
　買い置きしてあった未開封ののど飴を一袋投げつけると、「おーこれこれ！」と嬉しそうにキャッチする。
「なんで俺にたかるんだよ」
「なんでって、サクヤの飴ちゃん美味いし。あと、7時には起きてるから？」
「それ……」
　なんで知ってるんだ、と言いかけて口を噤むと、ヨウスケがにっと笑う。
「サクヤだってだいたい知ってるだろ？　最初、足音うるせーとかドア静かにしめろとか、音に一番うるさかったのお前だもん」
　そう――不意に鳴る生活音、他人の声、どれもこれもうるさくて、そのたびに苛々していた。
（そうだ。あんまりうるさいから、朝、目が覚めるようになって……それで）
　毎日同じ時間に起きるようになったら、自然に夜も眠れるようになった。
（ずっと昼夜逆転してたのに）

　夜は静かすぎて、独りなんだと思い知らされる。誰からも必要とされない自分のことばかり考えた。
　自分の呼気さえ煩わしくて。
　ずっと、うまく眠れなかった。

「助かったよ、ホント。サンキューな、サクヤ」
　そう言って、ヨウスケはさっそく飴の袋を開け、個包装されたのど飴をひとつ破いて口の中に放り込む。
「バカじゃねーの」
　たかが、飴ひとつで。
（でも……）
　前のバンドメンバーに「ありがとう」なんて。一度でも言われたことがあっただろうか。
（俺が、変わったってことなのか）
　だとしても、たぶん、それだけじゃない。
（ここの連中が、物好きなんだ）
　仲間だ、と言って、気軽にそばに寄ってくる。
　けれど、顔色を覗うどころか、遠慮の欠片もない。妥協だって、絶対しない。お互いに言いたいことを言って、同じ道を進んでる。
　ひたすら、上ばかりを見つめながら。
「……バカだな」
「えっ、いま、なんか言った？」
「なんでもない」
　そう言って、サクヤはかすかに口端を上げた。

今回登場した人物をご紹介！
◆霞サクヤ（CV：荒一陽）
独特の美意識と価値観を持つ癖の強い少年。人付き合いが壊滅的に苦手で、トラブルも多い。