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アニメ映画『HUMAN LOST 人間失格』冲方丁さんインタビュー

『HUMAN LOST 人間失格』冲方丁さんインタビュー|日本SF界の巨匠が今のSFを語る「社会におけるSFの役割の変化の先にある“提案型SF”」

「人類そのものが失格になった」というアイディア

――本作がSF的な世界観になるということは、冲方さんに話がいく前から決まっていたのでしょうか?

冲方:そうですね。最初に見せられたイメージボードの時点で、荒廃した東京をミュータントたちが徘徊しているような構図でしたから。

それもあって「本当に『人間失格』?」という言葉が出てきたのですが、このコンセプトアートの出来が本当に素晴らしかったんです。その時から「これは化けるかもしれない」という予感はありました。

ただ、そこにたどり着くまでの過程がすごく大変なこともわかっていたので、内心では「いつ頓挫するかわからないな」と思ってもいたのですが(笑)。

――その後に冲方さんが参加されるようになってからは、どのように世界観を構築していったのでしょうか。

冲方:あの原案をSFに落とし込むにはどうすればいいかを考えた時、「人間失格」というタイトルそのものに着目したんです。

当初は「人間はこういうもの」という規範に乗ることができなかった人間として、主人公の葉藏を定義していたのですが、いっそ「発達するテクノロジーに対して、人類そのものが失格した」というテーマにしてはどうかと思いついたんです。

そうした設定で生まれた本作の日本は、「限りなく平等だけど、誰も幸せではない福祉国家」でした。

現代社会の我々が抱えている問題は解決されているはずなのに、なぜか社会全体の構造としては悪くなっている。

この部分が固まった後は、ディティールを詰めていく作業だったのですが、この時にコンセプト自体が破綻していると、全てが崩壊してしまうんです。

ただ、本作の場合は不思議とすべてがうまく構築されていって。図らずとも、当初のコンセプトが正しかったということでしょうね(笑)。

――世界観の話でいうと、本作の時代設定は昭和111年になっていますよね。なぜ昭和が続いているのでしょうか。

冲方:まず前提として、本作の日本は“超長寿社会”になっています。その上で作中では語られていないのですが、昭和天皇がまだご存命という裏設定になっているんです。

昭和があのまま続いていたら、東京オリンピックの年がちょうど111年にあたるのもあり、ゾロ目でいいんじゃないだろうかと。

あとは元号というのは日本人独自の感覚ですが、おそらく年号がずっと変わらないまま、文化的にも何の変化も起きないでいたなら、ものすごい閉塞感が漂っているのではないかと思うんです。

その雰囲気を演出するために昭和という時代が続いていることにさせていただきました。

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