
アニメ映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』フーシー役・櫻井孝宏さんインタビュー|フーシーが望んだ未来も1つの答え。作品を通して感じた櫻井さんの“原点”とは?
ムゲンとフーシー、その間に立っているシャオヘイ
――フーシーはムゲンと対峙することになりますが、妖精に最も近い人間であるムゲンはどのような人物だと思われますか?
櫻井:達人というか、強すぎる人だと思いました。いきなり冒頭でも圧倒的な強さを見せつけられてしまいます。
こちら側は必死で抗戦しているのに、ムゲンは息一つ乱さず涼しい顔でいる。子どもを相手にするかのような圧倒的な差を感じさせられます。
気持ちの押し付け合いというか、お互いの主義主張をぶつけ合わせるようなシーンがありますが、表面上はクールに立ち回るムゲンの中に何かしらの思いが見える。物語のヒントがアクションシーンにも盛り込まれていています。
ムゲンはいろいろなことを悟った上で行動していますし、フーシーの気持ちも理解しているでしょう。彼らの確執はこの物語以前からあって、“お前の目指す先にあるものが何なのかわかっているのか”とフーシーにずっと問いかけている という構図ですね。今始まったことではない、人間と妖精を取り巻く長い時間が対立構造に影を落としている。
――ムゲンもフーシーの気持ちを理解している様子はストーリーの中で感じられます。
櫻井:ムゲンも粛清しようというよりは正そうとしているんですよね。
都合のいい結果は導き出せないと結論付けています。ムゲンは自分の心をしっかり持っていて、そこに不確定な要素や曖昧な部分があることもちゃんと理解している。
もうあれだけ強いと逆に立場が難しい立ち回りを求められるし、背負わなきゃいけないものも多い。それが僅かな隙や綻びになってしまうこともある。そういった双方の不完全さや在り方の難しさが、ムゲンとフーシーの間に立つシャオヘイの姿で描かれていると思います。
――フーシーとムゲン、そのどちらにもなり得るのがシャオヘイだと。
櫻井:シャオヘイはまっさらな気持ちで人間と妖精の両方に触れました。彼の可能性を含めて作品のキーマン的存在になります。結果、次の一歩を踏み出してこの物語の幕は閉じられるのですが、その先はもしかしたらシャオヘイが新たな世界を創造してくれるんじゃないかな、という希望を感じます。
――シャオヘイはフーシーとムゲンにとっての同じ希望なのかもしれないですね。
櫻井:過程は違いますが、結論としてはそうかもしれません。妖精たちの姿が観る側に作用しているようにも思いました。
人間の姿で妖精たちが生きているという事実に皮肉を感じます。妖精たちは消えないように生き延びなきゃいけない。
たくさん仲間を失い、居場所をなくし……理不尽に苦しみながら生きてきたフーシーは最後、唯一の可能性に賭けたんだと思います。