音楽
ボカロP・傘村トータ インタビュー|それでも、前を向いて生きていく僕らに贈る『素敵な大人になる方法』

誰かを救うつもりではなく “自分を救う音楽を作る”から始まった――『素敵な大人になる方法』新世代ボカロP・傘村トータさん 自身初となるインタビューで、音楽に閉じ込めた想いに触れる

「よく思うんです、<誰か僕を救ってくれ>って」

――いよいよ初の全国流通版アルバムが発売されますが、今のお気持ちとしてはいかがでしょうか?

傘村:2017年に投稿を始めて今度の夏で4年目に入るんです。少しずつ前に進んできたなあという感覚ですね。今80作品以上出していると思うんですが、それぞれの作品に思い入れがあって。これまでダウンロードのアルバム(『歩き出すのだ、傘がなくとも』『さよなら、僕のヒーロー』)と、同人のアルバムを出しているので、今回のアルバムには、過去の作品に入っていない曲や、何度でも入れたいものを意識して選びました。

 

 

――17曲って一般的なアルバムだとかなりの曲数だとは思うんですが、約80曲の中から……となると、身を削るような想いですよね。

傘村:大変でした(笑)。全部大好きなので。

――曲を選んでいく際に、この4年間のことを思い出されることもありましたか。

傘村:僕が音楽を作るときは……“そのときの、そのまま”を言葉にしている曲が多くて。振り返っていくと「この時、こういうことで悩んでたな」「怒ってたな」「悲しいことがあったなぁ」とか、その当時のエピソードを思い出すことがよくあります。過去の写真をひっぱりだして見てるような、そういう感覚にもなります。

――“そのときの、そのまま”を閉じ込めるのは、トータさんとしてひとつのこだわりでもあるのでしょうか。

傘村:そうですね。瞬間、瞬間の思いを形にしていくことは強く意識していて。傘村トータの人生が何十年かあるとして……その時、その時の思いで作っていくと、全部つながっていくのかなと。最後に(これまでを振り返って)見たときに、人生を描けているといいなって思ってるんです。

――人生という言葉が出てきましたが、1曲目に「LIFE」を選んだ理由を教えていただけますか?

傘村:<誰か僕を救ってくれ>で始まるんですけど、この言葉にとても愛着があって。アルバムを再生した瞬間に、<誰か僕を救ってくれ>って言葉が耳に飛び込んでくるって傘村トータを表現するのにピッタリじゃないかと思って、それで「LIFE」を1曲目にしたんです。

――確かに<誰か僕を救ってくれ>からはじまるアルバムってほかにないですよね。その直後に<生きることはきつすぎて>という言葉が出てくるんですが、この特別な思い入れのある一行はどんな時に生まれたのでしょうか。

傘村:よく思うんです、<誰か僕を救ってくれ>って。この曲を作ってた時期に強く思っていて、それを歌詞にしてしまったんですね。難しいことは何も書いてなくて。<周りがフツーにやってることも うまくできない>ってフツーに思ったことをストレートに書きました。時には書いて辛くなる曲もあるんですけど、明るく終わる曲なので楽しく書くことができました。

この曲は<マジカルミライ2019>のコンテストに出す曲として作って、結局落選してしまうんですが……僕はそのとき、賞を獲りにいくつもりで作ってて。普段はバラードばっかり作っていたのですが、バラードでペンライトを振るイメージがなかったんですよね。初音ミクのライブだとみんながワイワイやってるイメージだったので、アップテンポで合わせにいこうと。

――トータさんにとって挑戦となった曲なんですね。

傘村:そうですね、思い切りました。でも「みんながどう思うんだろう?」と少し怖かったですね。

――そんなトータさんの心配をよそに、とても好意的な反応が返ってきていて。

傘村:そうですね。拒絶されることはなくて、中には「アップテンポを作ったら化けたね」って言ってくれる人もいました。「ああ、僕はバラードだけじゃなくても大丈夫なのかな」と、僕自身がこの「LIFE」に救われたような感じでした。

――救われましたと言えば……トータさんのコメント欄には、リスナーから「ありがとうございます」といった言葉が必ずあって。それだけトータさんの曲に救われた人が多いということなんですが、トータさん自身はどう受け止められているのでしょうか。

傘村:本当にたくさんの方に聴いていただけているんだなと。元々は「LIFE」でも歌っているように、誰かを救うつもりで書いたわけじゃなく“自分を救う音楽を作る”から始まっていたので……。自分を救うために作った音楽のおすそわけのようなイメージというか。顔も知らないけど、どこかの誰かの助けになってるとしたら、それはうれしいなと思っています。

――トータさんの想いが巡り巡って誰かの救いになってるというのは、音楽の素晴らしいところだと思います。

 

自分の中の懺悔を「贖罪」に

――トータさんの中で転機となったような曲をおうかがいしてもいいですか?

傘村:どれもそれぞれ転機ではあるんですけど「贖罪」は大きかったかな……。投稿する前にある人に聞いてもらったんです。そのときに、聴いて下さったひとが泣いてしまって、その姿を見て「あ、普段とは違うものができたかもしれない」と。出だしから不思議な感じはありました。

――「贖罪」でトータさんの存在を知ったという方は多いでしょうね。

傘村:そうですね。「贖罪」は<人の努力を笑ったこと>という言葉から始まるんですが……この曲は、人の努力を笑った瞬間に作ったんです。もう本当にリアルタイムで。笑ったことに後悔して、そこから作り始めました。

――ご自身の贖罪だったんですね……!

傘村:いわば、自分が“やらかしてきたことリスト”です(笑)。説教のつもりでもなんでもなくて……全部僕のおかした過ちなんです。

――私も思い当たる節がたくさんありすぎて合唱が胸に染みます……。個人的には<ありがとうを勝手に期待したこと>というところにハッとさせらました。

傘村:ありますよね。“ありがとう”を勝手に期待して、当たり前じゃないはずの“ありがとう”が返ってこなかったことに怒って。でもそれは相手は悪くなくて、勝手に期待した自分が悪かったんだよねって。

――いろいろなことがありつつも、<ああ 今日も少しずつ生きていこう>と結ぶのが、トータさんらしいなと。トータさんの曲には必ずひとつ希望が入っていますよね。

傘村:暗いだけの曲は作りたくないなとずっと思っているんです。一行でも一言でもいいので、救いが入っている曲をと思っています。「贖罪」の場合はその最後の言葉ですね。

 

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