数々の『ひぐらし』の終着点であり、キャラクターの未来を感じさせるクライマックス――アニメ『ひぐらしのなく頃に 卒』川口敬一郎監督 インタビュー【後半】
これはハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか
――ストーリーとしては大団円という形で締めくくられていました。
川口:これまでの『ひぐらし』の先を行く展開ですね。しかし、これがハッピーエンドかと言われたらわからなくて。旧作においてもそうですが、惨劇を回避した後はみんな大人になっていつか雛見沢を離れると思うのです。
今回、沙都子と梨花は離ればなれになりましたが、それがバッドエンドとは言えないですし、ハッピーエンドかと言われるとそれはそれでわからなくて。しかし、物語の終わり方としてはこうなると思うのです。どんな作品でもハッピーエンドの先でキャラクターは生きていきます。今作ではそれを視聴者に提示できたのではないでしょうか。先に進んでいく彼らを今後も見守ってほしいと思います。
――たしかに一概にハッピーエンドとは言えないかもしれません。
川口:切ない気持ちになるかもしれません。しかし、最終的に未来に進んでいく中で望みはまだあるのだということを伝えたかったです。
――クライマックスの展開もプロットに沿った内容なのでしょうか?
川口:大きな枠組みとしては、最初のプロットに沿っています。プロットを読んだ際に感じたのは、続編を作るというのはこういうことだなと。お話を伺った時はリメイク作品が流行っていた時期だった為、『ひぐらし』も同じ流れなのだと思っていました。自分としては旧作を超えられるのか、正直不安ではあったのですが、実は完全新作ということがわかりまして。しかし、新作とはいえ旧作を踏襲した内容で、プロットを読んでも納得できる結末が用意されていました。
――参加する決め手はどこにありましたか?
川口:プロットを読んだ上で「これを自分の手で世に出したい」と思ったからです。内容には自分の視点を足していますが、基本的には竜騎士07先生のプロット通りとなっています。プロット自体とても面白い内容だったのでいつか公開してほしいです。
エウアはどこに? 沙都子の魔女の力は一体?
――少し話は戻りますが、沙都子と梨花の第14〜15話の戦いについてお聞かせください。
川口:アニメとしての見栄えが必要だと思ったので、あのような形になりました。沙都子にはエウアがいて、梨花には羽入がいて。沙都子と梨花の衣装はそれぞれの意思が反映されたようなデザインにもなっています。いつか最終決戦仕様みたいにフィギュア化してほしいです(笑)。着物なので造形が大変そうですが。
――衣装はもちろん、学校の屋上での戦いなど旧作ファンには見逃せないところもたくさんありました。
川口:そうですね。旧作のオマージュを入れ込みました。作画的にも見応えがあったのではないでしょうか。また、物語の舞台が1980年代のため、同じ年代のアニメらしさを取り入れています。当時のマッドハウスの『幻魔大戦』とか。あのスペクタクル感を意識しました。
第14話、第15話は映像によって補足出来ている部分が多く、アニメとして面白いビジュアルになっているんじゃないかと思います。そういう意味でも画面に注視してほしい回です。
――映像の制作にあたってこだわった点を挙げるなら?
川口:全体として「痛い」絵が多くなっていて、ここにも昭和のアニメのテイストを盛り込んでいます。例えば『タイガーマスク』は、見ているだけで痛みが伝わるような作画になっています。ほかにも「こんな顔を女の子にさせていいのか?」というような、最近のアニメでやってはいけないようなこともしていて、きっと『ひぐらし』なら許されるはずなので、そういったテイストを盛り込みました。
――ラストではそんなエウアと羽入の関係性にも決着が付きました。
川口:そうですね。エウアと羽入の対決もありました。沙都子と梨花の戦いに比べて、泥臭くない正統派な戦いになっていたかと思います。結果としてエウアは退散しましたが、それでも存在が消えたわけではありません。エウアはエウアで今後もどこかにいるんだと思います。これからの沙都子と梨花に干渉するのかはわかりませんが。
――消滅したわけではないのですね。
川口:そうですね。存在としてはどこかにいるのだろうと僕は思っています。
――そもそもエウアは新キャラクターとして登場しましたが、彼女について竜騎士07先生からなにかオーダーのようなものはあったのでしょうか?
川口:エウアに関しては詳細をいただいていなかったので、最初はどんな人物なのか定まっていませんでした。たしか、ラフをいただいてからも杖を持っているのかどうか……というお話をした記憶があります。ただ、先生からは羽入の完全体のようなキャラクターです、と紹介されました。
――見た目も近しい部分が多いですよね。
川口:そうですね。頭の周りの角が浮いていて驚いた記憶があります。もしかしたら羽入も、成長に連れて角が抜けていくのかもしれないです(笑)。
――ほかにも羽入がエウアを打ち破っていた姿が印象深いです。
川口:そうですね。今作のラストカットは羽入でしたが、彼女が雛見沢の人たちを見守って終わるというのが『卒』というタイトルにかかっていて。その表情に(渡辺)明夫さんの絵が使われているはずです。
――総作画監督の渡辺明夫さんですね。
川口:はい。明夫さんは竜騎士先生の、『ひぐらし』の大ファンなので、今回は特に気合が入っていたようです。
――ちなみに、梨花との決別のシーンでは沙都子に再び赤い目が見られましたが、魔女の力は残っている認識で良いのでしょうか?
川口:残ってはいるはずです。ただ、その力の行使を辞退して、あくまで未来に向かうことを決意しています。村に戻って力を使おうとしますが、なんとか踏みとどまりました。魔女の沙都子が沙都子に戻ると言いますか。
――そして、最後は(北条)悟史が登場していましたが、これもプロットに?
川口:悟史に関してもプロット通りです。ただ、当初は喋る予定はなかったこともあって、(悟史役の)小林ゆうさんもびっくりしていました。僕からは最終回だけですみませんとお伝えしました(笑)。