「美術というのは、自然に後ろにあるべきもの」│『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』美術監督・中村豪希さんインタビュー（前編）

映画三部作『ベルセルク 黄金時代篇』の公開から10年。TVシリーズ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』として、鷹の団の、あの輝かしい時代が再び幕を開けた！

原作は言わずとしれた三浦建太郎による同名コミック。2022年6月時点で全世界累計発行部数5,000万部（紙+電子）突破する、世界で愛され続けるダークファンタジーが、STUDIO4℃による鮮烈な映像表現でアニメーションとして描き出される。メモリアルエディションでは映画版では描かれなかった「夢のかがり火」など原作珠玉の名シーンが追加されていく。毎週土曜日24:30～好評放送中だ。

アニメイトタイムズでは、かつての制作秘話、新規シーンへのこだわりなど作品に込めた想いをスタッフ＆キャストが語り明かす連載インタビューを実施。第5回は、美しく妖しくも堅牢なる『ベルセルク』の世界を描き出した美術監督のひとり、中村豪希さんインタビュー（前編）をお届けする。

1番はやっぱりストーリー

──『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』の制作決定の報が届いたときのお気持ちを教えてください。

中村豪希さん（以下、中村）：驚きましたよ。STUDIO４℃さんからご連絡いただいたのですが、最初はまさか『ベルセルク』の件だとは思わず。ちょっと忙しい時期でもあったので、新しい作品をゼロから立ち上げるのは厳しいかもと思ったのですが、あの三部作のTVシリーズ化ということで、スケージュール的にも問題なくお引き受けできて良かったです。

しかも、企画の詳細を聞くと、新規シーンを追加して作るということで、とても良い企画だと思いました。劇場作品というのは、上映時に映画館で観るかBlu-rayを購入するかレンタルするかという出会いが主じゃないですか。まあ、今だと配信もありますが。でも、TVでオンエアされると、もっと多くの方に見ていただけると思うので、すごくうれしいですね。

──中村さんにとって『ベルセルク』は、1997年に公開された初のアニメ化シリーズである『剣風伝奇ベルセルク』にも参加されていることもあり、とても縁深い作品ですね。

中村：本当に縁深い作品になりました。今回の新規シーンには『剣風伝奇ベルセルク』で描いたシーンもあったので懐かしさもありましたし。当時TVシリーズがものすごくヒットしてるのを制作サイドの自分たちも肌で感じていたんですよね。

放送が終了してからすぐに再放送が決まったり、とても大きなイベントが開催されたりして。深夜アニメは当時主流ではなかったのですが、ゴールデンタイムの放送では血の表現ができないので『ベルセルク』の世界をしっかり表現するために深夜枠にしたという話を聞いた覚えがあります。

──中村さんと原作との出会いはどんなものだったのですか？

中村：初めて読んだのは『剣風伝奇〜』に携わることになったときです。連載ではちょうど鷹の団編が終わるくらいのタイミングだったと記憶しています『剣風伝奇〜』の制作時は僕は背景美術の会社（小林プロダクション）に所属していたのですが、会社のみんなで原作を読んで一気にその世界観に引き込まれた感じでした。

『剣風伝奇〜』は平沢進さんの音楽がとても印象的で、画面の迫力と音楽との相乗効果で素晴らしいフィルムになったという印象でした。かなり思い入れの強い作品でしたから、映画三部作でまた同じ黄金時代の彼らに関われてうれしかったですし、それが今回の制作にも繋がって……やはり縁を感じますね。

──『ベルセルク』という作品のどんなところに惹かれていますか？

中村：1番はやっぱりストーリーです。すごくリアルで生々しくて、精神的に辛い場面も多いのですが、キャラクターの心情を深く描きだしているのがすごいと感じます。きっと三浦先生はものすごく神経をすり減らして描かれているのだろうな、という感覚で読んでいました。例えば『ロード・オブ・ザ・リング』のように何部作かの実写映画にしても良い内容ではないかと思うくらい、それくらい濃い人間ドラマだと思います。

──絵描きとしての視点から、三浦建太郎さんの絵にどんな魅力を感じていますか？

中村：漫画を読むとき、やっぱり僕は背景に目がいくのですが、『ベルセルク』はとても細かく世界が描かれている作品ですよね。しかも三浦さんは、ご自分で描いている部分も多いと当時お話されていたので、シンプルにものすごい画力だと驚かされるばかりです。

巻数を追うごとに描き込みが密になって、より深く絵から世界を感じられるようになって説得力が増していく。アニメの制作過程においても、原作の絵に含まれている情報をかなり参考にさせていただいています。

──中世ヨーロッパの世界観をベースに、ダークファンタジーの要素が滲みだしてくる。

中村：今でもイギリスなどヨーロッパに行って古い建造物に触れると、どこか暗いというか影が濃いような印象を抱くじゃないですか。それというのは、その場所が抱えている歴史的なものの重みなんじゃないかと感じるのですが、『ベルセルク』にはその影が色濃く定着しているように思います。線という線が全部生きていて、とても深く想いが込められている、と。