アニメ映画『BLUE GIANT』立川 譲監督インタビュー|試行錯誤が生んだ汗だくの“JASS”の演奏! 一流奏者とディスカッションしてできた成長するライブシーンの制作過程秘話とは?
シリーズ累計920万部突破の石塚真一先生による大人気漫画『BLUE GIANT』。本作の映画が2023年2月17日(金)より公開されます。
主人公・宮本 大はジャズに魅了され、「世界一のジャズプレーヤーになる」ためにサックスを抱え、仙台から上京します。ある日、ライブハウスで凄腕ピアニストの沢辺雪祈と出会い、バンドを組むことに。また、大のジャズへの熱量に心を動かされ、ドラムを始めた大の高校の同級生・玉田俊二も加わり、バンド“JASS”を結成。日本最高のジャズクラブを目指して、熱く激しい演奏を繰り広げます。
本作の魅力は、約4分の1を占めるライブシーンと生演奏のような音楽、熱い青春ストーリー。そこで、アニメイトタイムズでは、立川 譲監督にインタビューを実施。2017年の企画開始時から振り返り、音楽やドラマが制作されてきた過程を伺いながら、作品の魅力を紐解きました。
企画始動は2017年から! 実は主人公は大ではなかった!?
──映画公開おめでとうございます。完成した心境をお聞かせください。
立川 譲監督(以下、立川):完成までの道のりが遠くて、最後までゴールが見えなくて。過去最高に追い詰められていました(笑)。その分、完成した今ホッとしています。
繰り返しアフレコなどでも映像を見ていましたが、かなり客観的に見ながら制作できました。完成披露を経て一区切りし、安心しています。
──本当に長い道のりですよね。2017年から企画が始動して……。
立川:(驚きながら)2017年からでしたっけ!?
──パンフレットにはそうありました(笑)。当時はどのように企画が進んでいましたか?
立川:あははは(笑)。プロデューサーの武井(克弘)さんから本作のお話をいただいたのがきっかけです。その後に、『BLUE GIANT』の漫画を読んで、原作者の石塚(真一)先生にお会いしました。
──原作を読んだ当時の感想を教えてください。
立川:連載漫画としての物語がとても良く構成されていて、メインキャラクターは汗臭さもありますが、かなり生き生きしているなと感じました。
石塚先生の希望である映画化を念頭に置いて読んでいたのですが、「仙台編を本編に入れられないのが本当にもったいない!」と思いました。
仙台編にも良いエピソードがありますが、東京でライブをして駆け上がっていく三人を映画で描くと尺が足らなくて……。あまりにもったいないので、当初はテレビ向きだなと考えていました。
──石塚先生の「実際のジャズのライブのように大音量で、熱く激しいプレイを体感してもらえる場所は映画館しかない」という思いから映画に?
立川:そうですね。音楽系の作品は初めてでしたが、原作の話がとても面白かったので「監督をやってみたいです」と返事をさせてもらいました。
──当時から、立川監督の中に映画のビジョンはありましたか?
立川:武井さんと話しながら、核は決まっていました。けれど当時は、雪祈を主人公にしていまして。
──大ではなく、なぜ雪祈を想定されていたのでしょうか?
立川:東京編だと雪祈のドラマのボリュームが多いですから。大は葛藤がないため、映画の主人公に向いているのか議論されましたね。雪祈と玉田は、壁にぶち当たり心が折れても立ち上がるんですが、大は強くて真っ直ぐで、すでに才能が開花していて……。
なので、このキービジュアルのように大は青く光っていて、雪祈と玉田が大の光に照らされているようにしました。大は“BLUE GIANT”で、まるで隕石のように存在していて、突き進んでいて。大が切り開いた道をふたりが追いかけています。
『ドラゴンボール』の孫 悟空みたいに迷ったりしないから、結果、周りが惹きつけられる主人公になりました。ふたりの道標を担っているのが大ですね。
──常に前向きに引っ張っていくのが大の魅力ですよね。立川監督もお好きな大の仙台編は回想シーンとして演奏中に加えられていますが、なぜこのような構成になったのでしょうか?
立川:初めて雪祈の前で演奏する時に、大の過去が描かれています。いつも仙台の河原で練習していていましたが、雪祈なら全力で吹く大の演奏から過去をも感じ取れるのではないかと。
見ている方に雪祈が感じ取ったとわかってもらいつつ、大の3年間の頑張りを知ってもらいたくて、あのような構成にしました。
──本作の回想シーンには、モノローグがないのが印象的でした。最近のアニメだと過去をモノローグで解説することが多いですが、敢えて加えていないのでしょうか?
立川:これは悩んだポイントなのですが、大が「世界一のジャズプレーヤーになるには、感情を音で伝えることだ」と話しているのに、モノローグを入れてしまうのは野暮かなと思いました。
モノローグがある方がより感情移入しやすいのですが、本作ではなるべく入れずに、見ている方に大たちが何を感じて演奏しているのかを感じてもらえるように制作しました。