庵野秀明監督の話題の映画『シン・仮面ライダー』|SHOCKERを描いた漫画『真の安らぎはこの世になく』脚本 山田胡瓜さん×作画 藤村緋二さん対談|SHOCKERキャラのクモとサソリを個性的かつ魅力的に描いた理由
SHOCKERが今の時代にも通じ、単純な悪の組織ではない部分を届けたいという想い
――SHOCKERは『仮面ライダー』シリーズ1作目から登場する敵ということで、古くからのファンにも特別な存在だと思いますが、そういうオールドファンを意識することはありましたか?
山田:僕は『仮面ライダー』シリーズをリアルタイムで見ていたのが『仮面ライダーBLACK RX』で。それ以前のシリーズは友達の家でビデオで見たり、飛び飛びで見ていたこともあり、自分の原体験として深くインプットされているものではありません。だから当時のファンの方がSHOCKERに対してどんな想いを抱いているのかはわかりかねるところもあります。ですが、石ノ森章太郎先生が描いた原作漫画を読んで、そこに込められたものやメッセージを自分なりに解釈して、現代でも通じる形にできればと思いながら描いています。それが昔のファンの方にどう受け取ってもらえるのかはわかりませんが、「今だったらこういうSHOCKERでいいよね」と思ってもらえたら。
藤村:僕は92年生まれなので、見始めたのは『仮面ライダークウガ』からで、一番好きなのは『仮面ライダー龍騎』です。『クウガ』や『アギト』は昭和ライダーからの流れを継いで、ちょっとダークで暗い面もありましたが、そこからどんどん明るく、アグレッシブになって。そういう戦闘シーンの描写は僕のセンスの中に形成されています。
僕ら世代の『仮面ライダー』ファンにとっては、そもそもSHOCKER自体がいなくて、むしろライダー同士が一番を競い合う『龍騎』があって。ですからSHOCKERにちゃんと向き合ったのはこの作品が初めてかもしれません。SHOCKERには漠然と悪の組織というイメージしかありませんでしたが、見る立ち位置によって善悪が変わってくる存在だなと思いました。
敵対するもの同士にそれぞれ守るべきものや譲れないものがあって、一元的な悪の組織という描き方、捉え方はできないものだと感じたので、それを読者やファンの方にどう届けられるかだなと。山田さんが書いてくれたドラマをしっかり描けるように、そして熱いところは熱く描けるように意識しながらやっています。
――今回、SHOCKER側のキャラクターとしてクモやサソリが登場しますが、とても魅力で。どのようにキャラクターを構築されたのでしょうか?
山田:読者の方からも好評ですが、SHOCKER側なので、「仮面ライダーにいつか倒されてしまうのでは?」と心配する声が多くて(笑)。でも倒されてしまって、ツライと思うことも作品にとって意味があることだと思っています。僕としてはクモやサソリは純粋な悪として存在しているオーグメントたちではないと考えていますし、SHOCKERは単純に悪いヤツが悪いことを考えて、世界を征服しようとしている組織ではなく、オミットが強い絶望や悲劇を経験した個人に対して力を与えて、その人たちが思う幸福を追求してもらうための秘密組織となっています。
だからオーグメント一人ひとりに絶望があり、それゆえに狂気に走ってしまったのだと思っています。その絶望が何だったのかを描くことに意味があり、彼らも社会のありようによって被害を受けて絶望したことでそうなってしまったのではないかと考えたので、共感したり、かわいそうだなと思える部分もあるわけです。それを表現しようとした結果、、彼らを描いていて自然とそうなっていきました。。
藤村:イチローくんが感じることを読者の方が読んでも感じてほしいなという表情作りを最近意識し出して。例えば、母親を失ってしまったイチローにとって、サソリはお姉ちゃんであり、お母さんみたいな立ち位置で。サソリとイチローくんがしばらく一緒に行動を共にしますが、実はその時のサソリの表情はお母さんと同じ描き方にしています。イチローくんの目線ではお母さんのように愛着があって信頼できる人に見えているからで、イチローくんが感じる安心した表情を読者の方にも感じてほしくて。
――あと作中にはケイなど、石ノ森先生の作中人物のオマージュのようなキャラクターも登場していますね。
山田:ケイに関しては本編に登場するキャラクターですが、SHOCKER を描く上で外せないキャラのため、映画に先駆けて出しています。あとは1話の冒頭で十字マスクの壊れた間から顔が見えるキャラクターが出てきますが、これは石ノ森先生が『仮面ライダー』の前案に出された『十字仮面(クロスファイヤー)』のオマージュで、僕が提案しました。ちなみに本作のサソリの服装も僕が考えました。
藤村:山田さんから参考画像が送られてきて。今まで描いたことがない服だったので、ビックリしました(笑)。
山田:映画公開前の時点でまだ明かしていなかったことは漫画漫画でなるべく明かしたくないという力学があって、本編そのままの姿では出さないほうがいいなと思って、オリジナル要素としてこちらで考えました。
藤村:漫画と本編では時代も違いますしね。
映画『シン・仮面ライダー』は時代性があり、今後の行動指針にもなりそうな作品
――映画をご覧になった感想をお聞かせください。
藤村:すごかったですね。途中段階の映像を見させていただいた時、まだ僕はサソリもクモも描いていなくて。その後に二人を描いていくとどんどん大好きになっていったので……。まだ映画をご覧になっていない方には漫画を読んでから観るといいと思います。映画を観た後に漫画を読んで、また映画を観に行くというのもアリです。3月10日にコミックス1巻が発売されたのでぜひ(笑)。
山田:僕自身はこの映画はすごく時代性があると思っています。AIが出てくることや、世間がきな臭くなったり、個人の絶望が引き起こした悲しい事件が起きている中で、僕らは行動するための何かしらの指針を持たなければいけないのではと思っていて。そういうメッセージをこの作品から感じました。
企画自体はずいぶん前からやっていましたが、世の中が少しずつ作品と呼応する方向に動いている気がしているくらい、今公開することに意味がある作品映画になったなと。願わくば皆さんにも届いてほしいと思っているので、漫画もその一助になればいいなと思って作っています。固い話をしてしまいましたが(笑)、やっぱり仮面ライダーがカッコいいですし、ワクワクドキドキできて純粋に楽しいですよ。
藤村:仮面ライダーの本郷 猛の人となりもいいんですよね。役者さんたちも素晴らしかったし、スクリーンを観ながら、「このクオリティを漫画の中で求められるんだろうな」と(笑)。
――連載漫画の今後の見どころをお聞かせください。
山田:コミカライズ作品ですが、他の『ヤングジャンプ』の連載作品におもしろさで負けないようにしたくて。そのためのオリジナル作品ですし、僕も毎回考えているので、漫画としてのおもしろさに注目していただきたいですし、皆さんにも毎回リアルタイムで楽しんでほしいです。毎週引きを作っていますし、続きが気になるように作っていますので。
藤村:なるべくイチローくんと一緒の目線で楽しんでほしいです。
イチローくんは漫画の中ではまだ子供で、感情がむき出しで、不器用さや危うさもあって。大人の策略や都合に翻弄されることもありますが、クモやサソリの感情も感じながら、イチローくんと一緒に歩んでもらえたら。読者の方を置き去りにするような描き方はしたくないし、表情の誇張もせず、わかるくらいに留めています。
そして(SHOCKER公式アプリ画面を見せながら)僕はSHOCKERの構成員として忠誠を誓っているので、SHOCKERを愛する人たちを増やしたいです。一緒に絶望を味わいましょう。
――SHOCKERの中でも対立構造があることがわかりますが、そのあたりも今後描かれていくのが楽しみです。
山田:そうですね。まだ出していないオーグメントもありますし、SHOCKERの重要なファクターの存在も深堀していけたらいいかなと思っています。
――まだライダー側と接点がないのでそこも気になります。
山田:これが結構大変で(笑)。逆算すると相当な時間が必要で、イチローが子供の頃にお母さんを亡くして、緑川ルリ子もいい年齢になっているし、SHOCKER前日譚って大変ですね(笑)。漫画ではまだルリ子が登場していないし、冒頭のイチローの仮面の姿も出てきていないので、ここから漫画としてのおもしろさを損なうことなく、描いていかないと。映画につながる純粋なSHOCKER組織が出来上がるので、何とかそこまで頑張りたいです。
――では最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
山田:今の『仮面ライダー』シリーズは新旧ファンの方や女性にも人気がありますが、この漫画もドラマ性があって、特撮に興味がない方や幅広い年齢層の方に楽しんでいただけると思いますし、そんな方に映画も観てほしいです。皆さんがどういうことを感じたかを僕も知りたいです。ぜひ映画と漫画、両方楽しんでください。
藤村:漫画漫画についてはたっぷりお話させていただいたので、『ヤングジャンプ』にはこの作品以外にも推し活ができる作品がたくさんあるのでまずは本誌を買ってねと(笑)。本誌で連載を読んで、コミックを買って、映画を観て、SHOCKERアプリも入れてという4つのミッションを推奨します(笑)。そしてコミックと『ヤングジャンプ』のご購入はアニメイトさんで、ということで(笑)。
関連リンク
映画『シン・仮面ライダー』公式サイト
https://www.shin-kamen-rider.jp/
『週刊ヤングジャンプ』公式サイト
https://youngjump.jp/
Ⓒ石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
Ⓒ山田胡瓜・藤村緋二/集英社