音楽
山下大輝が「シークエル」を通して描くファンタジーの世界|インタビュー

幼少期に憧れた、本の中の魔法の世界と現実の間を描きたい。表現者・山下大輝の第二章に新たなページが加わる――配信シングル「シークエル」に閉じ込められた魔法の力

アーティスト・山下大輝の表現力が発揮されるファンタジーの世界へようこそ。

2021年にアーティストデビューを果たし、2023年3月に、さまざまなエールを散りばめた1stフルアルバム『from here』をリリース。そのアルバム発売の3ヶ月後、自身初のライブ
開催にあわせるように発売された「ヒトコキュウノ」はファンタジー小説のような世界観に。山下大輝の第二章を鮮やかに示した。

「ヒトコキュウノ」に続き、9月27日にリリースされるデジタルシングル「シークエル」は、ファンタジックな作風は継承しつつも、思春期の心の揺らぎを織り交ぜ、ファンタジーと現実感が相まった物語に。

9月9日(土) に開催されるバースデーイベント「Daiki Yamashita Birthday Event 2023 DAIKING Festa Vol.2」を間近に控えた9月上旬の、秋晴れの空が暁色に変化していく時間。「シークエル」に向かうまでのドキュメントを山下に話を聞いた。

次のステップの片鱗を見せたかった

──1st Album『from here』を引っ提げた 1st LIVE 2023 “from here”、とても楽しませてもらいました。

山下大輝さん(以下、山下):良かった! 一言で表現するのなら「大成功だったな」と思います。本当に満足感が高く、達成感も非常に大きかったので、やってよかったな、得るものが大きいライブだなと思っていました。ただ、初めてだったからいろいろな不安があり、始まる前は非常にドキドキしていて。正直死ぬほど怖くて、あまり考えないようにしていたところもあったんですよ。

──無理もないですよね。ソロライブって極端に言えば裸一貫でステージに立つようなもので。

山下:本当にそうなんです。アニメのイベントの場合は「作品の代表になる」という重責がありますけど、皆さんキャラクターを見に来てくださっているので。そうではなく、僕自身の歌だけを聴きに来てくれているって結構な緊張でした。

でもその緊張が一瞬で吹き飛んだ瞬間が、みんなの声を聴いたとき。もう一瞬で「楽しい」に切り替わりました。そこからはずっと「楽しい」に塗り替えられていきましたね。リハのときは「生バンドの合わせ方がムズいな」「耳の中聞こえづらいな」などと思うことがあったんですけど、全部吹き飛びました。やっていく中で、自分というものが鮮明になっていって……なんだろうな。「今、成長できてるかも」と実感できる瞬間がありました。

──ファンの皆さんが温かくて。そんなファンの皆さんを驚かせたのが、盟友である佐伯ユウスケさんがサプライズで登場した中盤戦。

山下:たまらない時間になりました。佐伯さんとみんなと一緒に“楽しい”を共有できて、あの空気感が琴線に触れました。しかもサプライズの登場の仕方が、佐伯さんの曲の「ダンシング」(TVアニメ『弱虫ペダル GLORY LINE』第2クールOP主題歌)からっていう。一瞬にしていろいろな反応があったのがすごく楽しくて。生だからこそみんなのリアクションを瞬間的に感じられる、あの特別な時間は本当に尊いものでした。仲のいい佐伯さんとだからこそできるお祭り騒ぎの3曲でしたね。

最後の最後までセットリストは悩んだところがあったのですが、曲順のバランスも良かったなと、ライブが終わったあとに思いました。

──最後のMCでは「強くたくましく成長していきます」とおっしゃっていました。「今、成長できてるかも」と、ライブの最中に成長を感じられていたんですね。

山下:メンタル面も含めて成長をした気がします。きっとこれが次につながるだろうなと。

──最後に届けたのは1stライブの直前にリリースされたDigital Single「ヒトコキュウノ」。これまで山下さんは“エール”をテーマに曲を制作されていましたが、「ヒトコキュウノ」は今おっしゃっていた“次”を実感させるものになっていました。

山下:そこで次のステップの片鱗を見せたかったんですよね。サプライズとして、みんなの記憶に残るようなステージになったんじゃないかなと思っています。

音楽表現の新しい世界へ

──今回の配信シングル「シークエル」も前作「ヒトコキュウノ」もファンタジーがテーマです。アーティスト・山下大輝の第二章を感じるような音楽性となっています。

山下:僕のアーティスト活動はコロナ禍と同時に始まっていて。そのため、自分自身へのエール、みんなへのエール……みんなで一緒に乗り越えていこう、というのが音楽活動のテーマになっていました。コロナ禍も落ち着いてきて、声出しもOKになったため、“エール”というテーマをここで一区切りにしようと。

もともとチャレンジしたいことはたくさんあったんです。そのひとつに“ファンタジー”がありました。ファンタジーの世界観が大好きなので、そういったものを取り入れた楽曲を組み立てていきたいなと。いつまで、とかは決めてないんですけども。

──山下さんのファンタジーの原体験というと、やはり「大好き」を公言されているディズニーでしょうか?

山下:根っこはすべてディズニーですね。声優を目指すきっかけもディズニーですし、ディズニー作品の曲も大好きで。曲の中で成長していくプリンセス・主人公たちが、非常に魅力的に見えていました。その人たちの姿を見て、僕も元気をもらっていて。「ああやって自分の夢を胸を張って言えるようになりたい」という願望を持つようになりました。

きっと自分が好きなこと、興味があることを隠していかなければいけないような、肩身の狭い世界で生きたくない気持ちがあるんですよね。その隠してしまっている純粋な思いをファンタジーの曲で解き放てたら良いなという思いもあって、「ヒトコキュウノ」からこういった曲のアプローチに。

でも、これもエールのひとつになるのかなと思います。気持ちを歌に乗せて相手にお手紙として届ける、という要素がファンタジーものとしての醍醐味。それは自分への手紙でも良いんじゃないかなと思っていて。自分が成長するための応援歌にもできますし。

──そう考えると、アプローチは変われども、山下さん自身の中に“自分・誰かにエールを送る”という感覚はずっと根付いているものなんですかね?

山下:もしかしたら、それに生かされているようなところがあるかもしれませんね。ずっと鼓舞し続けているというか。今の僕があるのは、ディズニーに加えて、大好きだった本・漫画・ゲーム・アニメのおかげで。好きなものを隠さないでオープンにしていったほうがより輝けるよね、って思っています。いろいろなことがつながっているんだなとも思いますし、まだまだ知らないこと・気づいていないこともあるんだろうなと、ソロ活動していると感じます。

──ソロ活動をしていく中で、音楽に対する意識に変化はありましたか。

山下:物理的なことを言うと「歌ってめちゃムズいんだな」と(笑)。

──あんなに上手いのに、と思わずファンの方たちの声を代弁したくなってしまいますが。

山下:いやいやいや! まだまだなんですけども。シンプルにセリフとして表現するのと、音楽として歌にするのとで、表現の仕方がだいぶ違うやもしれん、と思っていて。キャラソンであれば、セリフに寄っていいと思うんです。

でもアーティスト活動の歌はキャラソンではないので……だから、難しいんですよね。例えば、歌詞的には切なげで内省的なことを表現したものになっているけど、音としては楽器が多くて声を(外に向かって)出していかければいけない。楽器に関係なく、お芝居を優先してやってしまうと、声が埋もれてしまうんですよね。そのバランスの難しさを知り「これが音楽か」と洗礼を受けたような気持ちでした。

──そういう意味では“ファンタジー”というテーマは表現しがいもあるのでは?

山下:それはめちゃくちゃ思いました。ファンタジーにすると、ギター・ベース・ドラムのバンドサウンドだけではなく、異国情緒溢れる音も入ってくるので、セリフっぽく表現していいところもあって。だから表現方法もだいぶ自由度が高くなったように思います。僕自身、若干、解き放たれている感のようなものがありますね(笑)。これまで培ってきたものの“使いどき”を今持って来ることができたと言いますか。そこでまた新しい発見がありました。

──少し話は逸れてしまうんですけども、BLUE ENCOUNTに別媒体で取材させてもらったときに、「暁」を提供された田邊駿一さんが山下さんの声を絶賛されていました。

山下:えっ、本当ですか! それはめっちゃ嬉しい……! 力になります。本当に素敵な方々に曲を書いてもらっていて、ありがたい限りです。

──さまざまなクリエイターが参加されていますよね。「ヒトコキュウノ」はeddaさんが手掛けられていて。

山下:ファンタジーといえばeddaさんだと思っていました。あの方は、1曲に物語を閉じ込めるんですよ。まさに「ヒトコキュウノ」からもそれを感じました。だからレコーディングの時も、話がすごく合って。

──盛り上がったんですね。

山下:かなり盛り上がりました(笑)。「この子はこれに対してどう思うべきですかね? 僕はこう思うんですけど」って、お互いの解釈をすり合わせて……。

──特に「no.16(16号)」たちのことが気になりました。思わず考察したくなります。

山下:そう、考察のしがいがある壮大な物語なんです。いろいろな解釈があるから、僕だけの視点じゃないお話も知りたくて。レコーディングを始める前に、1時間くらいずっと話していましたね。楽しかった記憶があります。「eddaさんもこっち側の人間だぜ!」と(笑)。

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