羽多野 渉さん コンセプトミニアルバム「Dawn」発売記念インタビュー|「朗読×音楽」で3つの物語を作り上げる! 収録曲「星と旅人」に参加した西山宏太朗さんとの対談をお届け
「朗読×音楽」のコンセプトが生まれたきっかけとは? 各楽曲のテーマは「故郷への想い」「明晰夢」「不動の星」
――ではここからは、羽多野さんご自身がプロデュースも手掛けているコンセプトミニアルバム「Dawn」のお話を伺えればと思います。まずは着想した経緯や内容のご紹介をお願いします。
羽多野:今年の3月にライブ(『Wataru Hatano LIVE 2023 -TORUS-』)をやらせていただいて、配信の特典として僕の朗読に対して、バンドさんがアドリブ的に演奏している映像と、ダンサーさんがアドリブ的に踊ってくれる映像を収録しました。その時に「朗読×音楽」っておもしろいなと思ったし、プロデューサーさんも「今度はちゃんと作品として作ってみませんか」と言ってくれたのが出発点でした。
その上で、朗読と音楽がシームレスにつながって、曲のためのストーリー、ストーリーのための曲という組み合わせを3セットで作ってみようと。せっかくなので、僕からイメージやアイデアを出させていただきました。
――西山さんはこのコンセプトミニアルバムに参加する際、企画の説明を聞いてどう思われましたか?
西山:おもしろいなと思いました。僕自身、朗読が好きで、この業界に入ったのも朗読をやりたい気持ちもあったところからのスタートだったので。先輩と朗読もしつつ、歌も歌えるということで、「ぜひ、やらせてください」と即答させていただきました。
今までは歌を深堀りする時、歌詞やメロディから「どういう気持ちで歌っているのかな」と考えて、組み立ててきましたが、朗読があることで、イメージが豊かに膨らみました。歌詞の中の人物の気持ちがより繊細にわかるし、実際に完成した朗読と歌をセットで聴いた時、ぐっと心にくるものが更に強くなった感じがしました。こうやって、いろいろなイメージをしながら作品を作り上げていく大切さや、その結果、より広がっていくのかと改めて教えていただいた気がします。
――今回収録される3つの楽曲についてご紹介をお願いします。
羽多野:1曲目の「をりふしの唄」は自分の故郷の長野県、自分を育ててくれた山々への想いを歌詞にしていただきました。
2曲目の「夢幻の待ち合わせ」は、エゴサしていると「羽多野の曲よく眠れる」というのをよく目にしたので、「それじゃあ眠ってもらうか」と(笑)。それで宏太朗が言ってくれた、ささやくような歌い方でよく眠れる歌を作ってみました。歌詞の中に描かれている世界は「明晰夢」という僕が好きな都市伝説を盛り込ませていただいて、明晰夢を鍛えていくと自分が好きな登場人物やなりたい自分になれるというところから、自分の想い人を夢の中だけで構成するというちょっとロマンティックなラブソングを歌わせていただきました。
そして3曲目が宏太朗を迎えた「星と旅人」です。僕は昔から北極星が好きで、「徳川家康が大切にしていた星」とか「不動の星」と言われていて。なぜ「不動の星」と呼ばれているかというと、長時間シャッターを開きっぱなしにして、自分のタイミングでシャッターを切る(バルブ撮影)撮影方法があって、そうすると星が軌跡を描くような写真になりますが、北極星だけは動かない点のままで。それは地球の軸の先にある星だからなんですが、そこから北極星の気持ちを想像してみました。
周りの変化していくものに対して、止まっていることを宿命づけられた存在だから、きっと周りをうらやましく思っているんじゃないかなって思い浮かんで。その北極星を見た時、地上にいる人がどう思うのかなというのを宏太朗が演じてくれた旅人目線で表現していて。旅人は旅を無事に終えるためには空の中で動いていない星がないと方角がわからなくなってしまう。北極星は周りをうらやんでいたけど、旅人にとっては頼りになる、道しるべとなる存在で、両者とも、ないものねだりをしていたけど、実は誰かのために必要な存在なんだと、ある意味、自己肯定感を上げるお話になっています。
たまたま運転中に思い浮かんで、駐車してから忘れないように「星と旅人」と即興朗読みたいなものをボイスレコーダーで録音して、後でプロットとして書いて、作家さんにお話を作っていただきました。
「Dawn」はアーティスト・羽多野 渉の曲とキャラソンのいいとこ取りのような1枚
――楽曲の前に収録されている「ミチシルベ~星と旅人~」もお二人で朗読されていますが、どのように収録されたのでしょうか?
西山:同じ日に収録しました。まず羽多野さんが朗読されて、僕は既に録音されていた羽多野さんの声と、セリフとセリフの間を空けていただいたものを聴きながら収録したので、一緒にやっているような感覚でした。
――そうなんですか!? まったく別録感がなかったので驚きました。
羽多野:ありがとうございます。
西山:ずっとそばに羽多野さんがいてくれたようでした。
――楽曲の「星と旅人」も羽多野さんが先にレコーディングを?
羽多野:はい。自分のパートを先に録って、それを宏太朗に聴いてもらってから、そのまま歌入れしてもらいました。宏太朗の歌入れが終わったところで、僕がスタジオに戻って、宏太朗の歌声に対するハモりを入れる作業があったのもおもしろかったです。
西山:日付が変わるギリギリまでスタジオにいたというウワサを聞きました。
羽多野:それはね、作業が終わった後の雑談が長かったのもあって。
西山:それは羽多野さん名物ですか?(笑)
羽多野:そうなんだよね。でも僕は敏感だから、(誰かが)迷惑そうな顔をしたら、すぐに帰るから。
(全員爆笑)
――サウンド的には「をりふしの唄」はドラムの音など大陸的な壮大さがあり、「夢幻の待ち合わせ」はシティポップっぽい要素があり、「星と旅人」はジャジーなおしゃれ感があるなど、どれも個性的だけど聴き心地の良さがありました。
羽多野:ありがとうございます。今回は楽曲制作をArte Refactさんにお願いして大正解だったなと思います。Arte Refactさんは、『あんさんぶるスターズ!』で僕と宏太朗が長くお世話になっている音楽チームで、あの作品の音楽を知っている方ならご存じかと思いますが、様々な音楽表現の仕方を知識として持っていらっしゃるし、たくさんの素晴らしいクリエイターさんが所属されているので、どんなテーマでも対応していただけると思って。今回の曲のテーマは「山」「眠り」「星」とまったく違うのに、この3曲を見事に、おしゃれに作ってくださいました。
――「をりふしの唄」の楽曲とMVを見て、3部作の主人公の青年が、年月と経験を重ねた姿が描かれているようにも思えました。
羽多野:それは嬉しい。
西山:羽多野さん自体が大自然の中で転生した人みたいな(笑)。
羽多野:最新のアーティスト写真も、僕の斜め上から差し込んでくる光とか幻の人みたいだよね(笑)。
西山:その神秘的な感じが自然っぽさや、はかなさともリンクしているように思えて。
――こういった壮大な曲はシングルには収録しにくいし、アルバムでも置き場所が難しいと思いますが、このアルバムのコンセプトだからこそ歌える曲なのかなと。
羽多野:ありがとうございます。
西山:この曲に限らず、全部の曲にMVを作ってほしいですし、全部の映像にこの青年が出てきてほしい(笑)。
羽多野:「夢幻の待ち合わせ」では、夢の中に出てきて、「あの人なんだったんだろう?」みたいな(笑)。
――その「夢幻の待ち合わせ」も朗読の「まどろみ~無限の待ち合わせ~」も星新一さんのSFショートみたいな趣を感じました。今回のコンセプトミニアルバムは全編(3つ)でも、1つひとつの組み合わせごとでも楽しめるのがいいですね。
羽多野:それは嬉しいです。そこが今回、目指したところだったので。僕ら声優はキャラクターソングを歌う機会が多いんですが、歌詞をキャラクター目線で解釈するということで、アーティスト活動で自分たちがやっていることとは若干違っていて。それぞれのいいとこ取りをできないかなという想いが今回の発想につながったのかなと思います。朗読の世界に登場する人物だったり、その目線で歌ってみるとまた違う歌い方ができて、おもしろかったです。