ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』監督・クリス・バック氏&ファウン・ヴィーラスンソーン氏インタビュー|これまでの歴史に敬意を払い、”この先の100年”へと繋がるラブレター
創立100周年を迎えたウォルト・ディズニーカンパニー。世界初のトーキーアニメーション『蒸気船ウィリー』、映画史に名を刻む『白雪姫』、『ピノキオ』など、100年の間に生み出された数々の傑作たちは、今も我々の心に魔法をかけ続けています。
そして、ディズニーの100周年を祝福する最新作『ウィッシュ』が、2023年12月15日(金)に公開を迎えました。
今作の舞台は、どんな願いも叶うとされる魔法の国・ロサス。ある日、王国の秘密を知ってしまった少女・アーシャは、人々の願いを支配するマグニフィコ王に立ち向かうことに。様々な試練を乗り越えた先で、彼女が王国にもたらす奇跡とは……? 「願いの力」を描く物語が展開される一方で、過去作への敬意に満ちたオマージュの数々も見どころとなっています。
アニメイトタイムズでは、そんな記念すべき作品で監督を務めたクリス・バック氏とファウン・ヴィーラスンソーン氏にインタビューを実施。今作に込めた過去と未来にまたがるメッセージについて、お話を伺いました。
過去作のオマージュはファンへのラブレター
ーー今作は全く新しいストーリーでありつつも、愛に溢れた過去作のオマージュが散りばめられていますね。
ファウン・ヴィーラスンソーン監督(以下、ファウン):どこか”旧友”を見つけるような楽しさがあったんじゃないでしょうか。実はそういったオマージュについて、最初はあまり考えないようにしていたんです。
まずは新しいキャラクターと楽曲とストーリーで、オリジナルのおとぎ話を作ることに注力しました。基盤がある程度できた段階で、スタジオのアーティストから「ディズニーの過去作から受けたインスピレーションを入れたい」という話がくるようになって。我々もディズニーファンですし、観てくださる観客へのラブレターとして、そういったオマージュが存在することも素敵だと思ったんです。ただ、物語に干渉して気が散るようであれば、控えるという一線は常に引いていました。
ーーファンが嬉しいことはもちろん、何度も観て発見する楽しみが生まれていると感じました。例えば、アーシャの友人たちは『白雪姫』の7人のこびとにインスパイアされているとか。
クリス・バック監督(以下、クリス):よく見つけてくれました! 改めて観ていただくと、7人の色彩設計が一致していることにも気づくと思います。加えて、Gabo(ガーボ)なら Grumpy(おこりんぼ)というように、英語名の最初のアルファベットが全員一緒なんですよ。
ーー確かにそうですね! いちディズニーファンとしては、ポストクレジットシーンで流れる”あの楽曲”にもグッときてしまいました。
クリス:あれは、我々からウォルト・ディズニー氏に捧げたオマージュなんです。ウォルトは「何世代もの人々にインスピレーションを与えたい」と考えていました。それは、サビーノというキャラクターの願いでもあります。とても特別な瞬間でしたね。
”この先の100年”に向けて追求した映像表現
ーー今作の映像は、手描きのタッチを取り入れた非常に斬新なルックになっています。
ファウン:そう言っていただけて嬉しいです。ディズニーには長い歴史があるので、アーティストたちはどのように手描きらしさを表現すれば、一番魅力的に見えるかを熟知しています。全てをコンピューターに任せると、リアルにするために線を多く入れてしまうので、私たちは「どの線を使わないのか」という選択をする必要がありました。
クリス:100周年記念作を作るにあたって、ディズニーが築き上げたレガシーと現代的なツールを融合させたいと思ったんです。今作では『白雪姫』、『ピノキオ』などの作品で使われた美しい水彩画の背景を参考にしました。CGだからこそ、以前はできなかった奥に入り込むようなカメラワークも実現できるんです。これなら、絵本のイラストに足を踏み入れるような演出が作れると考えました。挑戦でしたが、とてもワクワクしましたね。
ーーこれまでも『紙ひこうき』や『ツリーから離れて』など、2Dと3Dの融合に挑戦した短編はありましたが、長編となるとまた違った苦労があったのではないでしょうか?
ファウン:仰るとおりです。今回は長編なので、準備の段階でアーティストが自由にアニメーションを動かしたり、ライティングを考えたりできるように、制作のパイプラインをしっかりと作ることが重要でした。結果として、”この先の100年”に向けた新しい映像表現を追求できたと思っています。
『ウィッシュ』は心からの願いを持つ「みなさんの映画」
ーー今作の「願いの力」というテーマも、様々な作品の中で描かれてきた100周年に相応しいものですよね。
ファウン:今作の物語を作り上げるうえで、掲げていた言葉があります。それは「この宇宙で最も強いのは、真のウィッシュ(願い)を胸に秘めている人である」ということ。でも……もしもその願いが”不可能に思えるほど大きな夢”だったら? 自分たちの人生の中で経験したことも、この作品には投影されているんです。ある日、クリスが「自分の中で想うことがあるなら言葉にする? いいや、歌うんだ!」って(笑)。
クリス:口にすることで、誰かがその夢を知ってくれて、手を貸してくれるようになると思うんです。我々も周りの人の助けがあったからこそ、「ディズニー・スタジオでアニメーションの仕事をする」という夢を叶えられました。みなさんも心からの願いがあるなら……まずは歌ってください!
ーー夜空へと願いをかけたアーシャのように。夢を持つ人々にとっては、この映画がスター(願い星)のような存在に映るのではないでしょうか。
クリス:ありがとうございます! 先ほども言った通り、ファンへのラブレターとしてこの作品を作りました。だから『ウィッシュ』は、みなさんの映画なんです。
ファウン:今作から、自分の願いを追いかける勇気を感じていただけたら嬉しいです。失敗を恐れるあまり、夢を置いてきてしまった人たちにもう一度火が灯ると良いなと。いつだって、私たちには「願いを叶えるために行動する」という選択肢が残されていますから。
[取材・文/小川いなり 写真/MoA]
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