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大河ドラマ『光る君へ』の『源氏物語』の魅力を漫画『あさきゆめみし』で読む

2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』などで注目を集める“紫式部”が書き上げた『源氏物語』はどんな作品? ──千年の時を超えて、大和和紀先生が織りなす名作漫画『あさきゆめみし』で読む『源氏物語』の魅力を解説

平安時代を生きた作家、歌人の紫式部が書き上げた古典文学の最高峰と言われる『源氏物語』。主人公・光源氏の恋模様や貴族社会を生きる女性たちを描く、千年読み継がれてきた長編物語です。

紫式部を主人公とする2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の注目度は高く、放送を心待ちにしている方はとても多いはず。紫式部が綴った『源氏物語』に改めて興味を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本稿では『源氏物語』の世界に浸れるオススメの漫画『あさきゆめみし』(著:大和和紀先生)をご紹介。累計発行部数1800万部のロングセラー作品で海外翻訳版も刊行されています。2021年には大和先生の画業55周年記念として「新装版」(全7巻)が発売されて話題となりました。

『源氏物語』とはどんな物語なのか。名作漫画『あさきゆめみし』で読む『源氏物語』の魅力を解説します。

本稿には『あさきゆめみし』の一部ネタバレが含まれます。ご了承ください。

 

紫式部が生み出した古典の名作『源氏物語』

主人公・光源氏の生涯が語られ、様々な女性との恋や権力争いなどにも迫る『源氏物語』。正編と続編から成る全54帖の長編小説であり、現在は三部構成としてとらえるのが一般的な見解です。(第一部「桐壺」~「藤裏葉」、第二部「若菜上」~「幻」、第三部「匂宮」~「夢浮橋」)

第一部は主人公・光源氏の誕生前から栄華を極めるまで、第二部は主に光源氏の晩年が描かれています。第三部では光源氏死後の子孫たちの恋愛模様が展開し、第三部の最後の十帖は「宇治十帖」と呼ばれています。(構成、区分は諸説あり)

紫式部は夫である藤原宣孝との死別後に『源氏物語』の執筆を始め、宮仕えをしながら藤原道長の支援のもとで物語を書き続けていたとされています。

 

『源氏物語』の作者・紫式部

紫式部の父は藤原為時、母は藤原為信の娘。歴代、歌人・学者を輩出している名門の家柄です。非常に聡明だったようで、父の教授する漢籍を兄よりも早く覚えたというエピソードも。『源氏物語』のほか著名な作品は『紫式部日記』『紫式部集』など。

紫式部の本名は不明で、藤原道長の娘・中宮彰子に仕えていた頃には「藤式部」と呼ばれており、「紫式部」の名は『源氏物語』の紫の上が由来であると言われています。

 

古典を勉強する学生さんにも愛読されてきた『あさきゆめみし』


 

『源氏物語』を漫画化した『あさきゆめみし』は、1979年に女性漫画誌「mimi」で連載が開始され、14年の歳月をかけて完結した超大作。著者は『はいからさんが通る』などのヒット作品でも知られる大和和紀先生です。

『源氏物語』という名を知ってはいても内容を詳しくは知らなかったり、学生時代に授業で第1帖「桐壺」や第5帖「若紫」など一部は習ったんだけど……という方も多いのではないでしょうか。

『源氏物語』は、多くの作家によって現代語訳が出されています。大和先生が描いた『あさきゆめみし』は少女漫画としての楽しみだけでなく、『源氏物語』の学習用としても知られている作品で、これまで多くの学生さんに読まれてきました。

正編と続編の全編を網羅し、分かりやすさにも重点が置かれています。原作のストーリー、世界観に忠実でありながら大和先生ならではの解釈や改編もあり、その想像力、創造力が際立つ作品です。

恋歌を詠み交わす平安時代の文化をはじめ、マナー、衣装、建築など細部にまでこだわりが見られる美術も圧巻。漫画ならではの情緒が素晴らしく、大人になってから読み直すとまた感じ方が変わってくると思います。

 

『あさきゆめみし』で『源氏物語』を読む


 

“いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬがすぐれて時めき給ふありけり。 ”(『源氏物語』「桐壺」より)

『源氏物語』の有名なこちらの冒頭では、女御や更衣がたくさんお仕えするなかで、格別に帝の寵愛を受けていたそれほど尊い身分ではない女性のことが書かれています。

物語の舞台は華やかで美しい後宮。帝から愛される桐壺の更衣と呼ばれるその女性は、女御たちから妬まれ蔑まれていました。そんななかで桐壺の更衣は帝との子を身籠るのですが、その生まれてきた子こそが本作の主人公・光源氏なのです。しかし、彼女は光源氏が幼い頃に儚く亡くなってしまいます。

『あさきゆめみし』では、そんな桐壺の更衣が帝と出会う情緒的なシーンも描写。原作にない余白を埋めることで物語の経緯を感情豊かに読者に伝え、登場人物の心情も繊細に表しています。

光源氏は桐壺帝の第二子でありながら源氏として臣下に降ったという事情があります。とはいえ、「光る君」と称されるほどの美しい容姿で豊かな才能を持つ彼は羨望の的。好色であることは否定できませんし、同時に複数の女性と関係を持つなどまさに色男といった感じです。

そんな光源氏の恋愛模様は現代の価値観からすると共感しがたいものがあるかもしれませんが、実は父帝の妻である藤壺の宮に恋をする光源氏は、その面影を長年追い求めるがゆえに様々な女性を渡り歩いているとも言えます。

本作では彼の寂しさや、倫理観と愛情のあいだで揺れる苦悩が巧みに描かれており、現代の私たちもその哀愁と情熱的な愛に引き込まれてしまうという魅力があるのです。

光源氏に翻弄される女性は数多く登場しますが、桐壺帝の寵愛を受ける藤壺の宮、光源氏に生涯愛された紫の上はとりわけ物語の重要な軸となっていますので、ここで少しだけご紹介します。また、紫の上を苦しめる存在となった明石の君や女三の宮は光源氏の運命に大きく影響を与えた女性でもありました。

 

初めて恋慕ったのは父帝の妃・藤壺の宮


 

桐壺の更衣亡きあと桐壺帝は傷心の日々を過ごしていましたが、彼女に生き写しの先帝の四の宮(藤壺の宮)が入内し、ようやく心が癒されるように。藤壺の女御と呼ばれるその女性はこの時14歳、光源氏は9歳でした。

藤壺の宮は「輝く日の宮」とも称されるほどの美貌で、光源氏は母の面影を彼女に重ねて次第にその恋心を自覚。しかし、父帝の妻への叶わぬ恋に苦しむことに。光源氏は12歳で元服し、左大臣の娘・葵の上を正妻としますが夫婦関係は良好ではありませんでした。藤壺の宮への想いを断ち切れずに、他の女性とも関係を持つようになります。

そんななか光源氏はとうとう気持ちを抑えきれずに藤壺の宮と情を交わし、藤壺の宮は光源氏との間に不義の子(後の冷泉帝)を出産。表向きは帝の子として二人は秘密を守り通し、共に罪を背負いながら生きていきます。

ちなみに光源氏と正妻である葵の上との間には長男・夕霧が誕生しており、見た目こそ光源氏の美しさを継承していますが、恋愛に真面目であることが窺えます。

 

初恋の人に面差しのよく似た少女・紫の上を見いだす


 

光源氏が恋した女性のなかでも注目を集めるのは、年上の高貴で才色兼備な六条御息所。最初は光源氏の好意に戸惑いながらも、やがて彼女はその年下の青年にのめり込んでいきます。しかし、類稀なる女性である六条御息所を得ても光源氏は藤壺の宮を忘れられずにいました。

道ならぬ恋の救いを求めるなか、あるとき光源氏は恋焦がれる藤壺の宮の面影を持つ、ひとりの少女を見いだします。その少女とは、光源氏に引き取られて生涯愛されることとなる紫の上。理想の女性に育てられた紫の上は極めて美しい才女へと成長し、光源氏の正妻・葵の上の亡き後は正妻格に。

順風満帆にも思える紫の上ですが、子をなすことができなかった彼女にとっては光源氏の愛情だけが頼りでした。愛される喜びと深い悲しみを身に纏い、美しく年を重ねていく豊かで最高の女性像が描かれています。

 

光源氏に栄華をもたらした明石の君


 

政敵の姫・朧月夜との密通が露見し、光源氏は京を離れて須磨へと旅立ち、謹慎生活を送っていたことがあります。その頃に思慮深く教養のある明石の君と出会い、恋に落ちた二人の間には姫君(後の明石の中宮)が誕生。光源氏にとっては唯一の女の子であり、明石の君は娘の将来を思ってその子を紫の上に託します。

紫の上は、光源氏と関係を持つ数多の女性のうち明石の君に関しては特別嫉妬に駆られていましたが、姫君を通して彼女とは長く深い付き合いに。本作で描かれる紫の上と明石の君の初対面と友情、娘が実の母親を知る場面などは胸に熱いものが込み上げてきます。後にその娘は今上帝との間に子をもうけ、光源氏に栄華をもたらしました。

元々は身分の高くなかった明石の君ですが、天皇妃の母となり、孫は次代の天皇というこの上ないほどの地位を獲得しています。

 

因果は巡る……運命の子・薫の誕生

藤壺の宮との不義の子である冷泉帝が即位し、やがて臣下の地位を離れて准太上天皇の位を授けられた光源氏。栄華を極めていましたが、朱雀院から鍾愛の女三の宮を託され降嫁を承知したことで紫の上を深く傷つけてしまいます。消えることのない嫉妬や不安を、光源氏は真に理解できてはいなかったのかもしれません。

とはいえ、女三の宮が未熟で幼すぎたこともあり光源氏は紫の上をますます寵愛していました。しかし、頭の中将の長男・柏木に迫られて女三の宮は不義の子をお腹に宿します。若い二人の逢瀬を知った光源氏は嫉妬に狂い、不義密通の因果を痛感することに。

表向きは光源氏の子でありながら、実際は柏木の子。かつて光源氏の父・桐壺院も本当は藤壺の宮との関係に気づいていたのではないか、父はどんな苦しみを抱えていたのか……その悲しき因果は鳥肌ものです。そして時は流れ、運命の子・薫が誕生するのでした。

 

物語は光源氏の次世代の貴公子たちに繋がる


 

かつて栄華を極めた光源氏がこの世を去ったあと。物語は光源氏の次世代の貴公子たちへと繋がり、不義の子であり光源氏の子として成長した悩める薫と、明石の中宮の子である恋多き匂の宮をめぐる恋模様が繰り広げられます。

思い返せば、光源氏はライバル関係でもあった左大臣の長男・頭の中将とは、若い頃は仲良く愛を語ったり競ったりしていました。政敵同士なので将来は対立することになるのですが、光源氏の立場に暗雲がたちこめて須磨で孤独に過ごしていた頃、リスクを負ってまで会いに来てくれたのは頭の中将だったのです。男女の関係だけでなく、こういった男性同士の友情も見どころだと思います。

光源氏は恋多き男なのですが、相手の素晴らしい面をとことん愛する人だなという印象も。何故その女性たちに惹かれていったのか、『あさきゆめみし』を読んでいると見た目の美しさに加えて彼女たちの内面の魅力にうっとり。光源氏なりの誠実さがあり、一度結ばれた女性のことはきちんと面倒を見る優しさも見られます。

本稿でご紹介した女性はほんの一部で、本作には男女の争いのなかに立ちたくない人など様々な女性が登場しています。光源氏を取り巻く争いから離脱して一歩引いた場所で構えている方が平穏なのかもしれませんが、紫の上をはじめ、愛に生きた女性たち自身が幸せであったと肯定している場面もぜひご注目ください。

 

 

数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスを愛し、大好きな作品はたくさんありますが『チェリまほ』が心のよりどころです。そして『魔道祖師』をはじめ中華BLの沼へ。趣味は国内外のBL漫画や小説を読むこと&ドラマ観賞で、これまでに執筆した記事は『チェリまほ』『美しい彼』『魔道祖師』『陳情令』『ENNEAD』など。

この記事をかいた人

藤崎萌恵
数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスが癒し。主な記事は『チェリまほ』『陳情令』等。

担当記事

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