「私の中では今までにない質感の曲ができたと思っています」――10周年を超えた今、新たな扉の先で紡がれるAimerの音世界。『からかい上手の高木さん』主題歌含む珠玉の4曲が一枚のE.P.に/Aimerさんインタビュー
6・7月に5年振りの海外ワンマンライブツアー「Aimer 3 nuits tour 2024」を開催するAimerさん。同月5日、今年初のCDパッケージとなるE.P.「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」がリリースされます。
本作には、TBSドラマ&映画『からかい上手の高木さん』主題歌「遥か」、映画『マッチング』主題歌「800」やゲーム『原神』のオンラインイベント「原神新春会2024」での歌唱曲「End of All」の他、海外ワンマンライブツアーのために再アレンジされた「Ref:rain」のアナザーバージョン「Ref:rain -3 nuits ver.-」を収録。
違った場所から生まれた4曲。共通するのは“唯一無二のシンガーであるAimerとクリエイターたちが生み出した、良い歌、良い曲である”ということ。それぞれ違った温度感、景色を持つ曲たちが共存しあう世界に、“あなた”の想いが加わることで、また違った色彩が生まれるはずです。
音楽に救われてきた自分だからこそ届けられる音楽を。
──2024年もあっという間に半年を迎えようとしています。この上半期を振り返ってみると、どのような印象がありますか?
Aimerさん(以下、Aimer):2021年にデビュー10周年を迎え、“10周年イヤー”と銘を打って忙しく動いていましたが、一通り走り終えることができました。実は今作の制作も去年までにほとんど終わっていたんです。そのため、今年の上半期はゆっくりとプライベートの時間を取り、自分の現状を見つめ直しながら過ごすことができました。
──上半期に音楽と向き合う中で、音楽に対する意識の変化はありましたか?
Aimer:ありましたね。この期間を通じて、自分自身や音楽に対する思いを再確認できました。ライブや自分のパフォーマンスに集中している時期は視野が狭くなりがちで、インプットをする時間もどうしても削られてしまうんですよね。これまでの自分が作ってきた楽曲としっかり向き合う時間が必要だと感じていました。
──どうしてもアウトプットの連続になりますものね。
Aimer:そうですね。忙しくなってくると、無駄な行為や考えをなるべく減らしちゃいがちになってしまうんです。そうすると、心に余裕や遊びがなくなって面白いことも思いつけなくなっていくんですけど……今はもう一度、無駄なことをする時間を増やしている期間というか。日常の中で、“わざと遠回りする”思考や習慣を増やすようにしています。
だからこそ、今はインプットする余裕が生まれて新しいものを作るために自分の中で何が必要か、改めて考える時間が増えたように思います。
これまでの作品を見直しながら、新たなアイデアやインスピレーションを取り入れることができるようになったのは、大きな変化ですね。新しいものにも向き合える心のモードにはなってきていて、前向きに制作に取り組めています。
──心に余裕がなくなってしまった時はAimerさんはどのようにリフレッシュされるんでしょう?
Aimer:後ろ向きになってしまうことはしょっちゅうあるんですよ(笑)。そういう場合は、その沼みたいなものに浸かりきって制作に向けてしまう時もあれば、その日は沼から足を洗ってとにかく寝るっていう時も。なかなか眠れない時は香りやメディテーションなどを取り入れて、なるべく安らげる時間を作るようにしています。
──音楽を聴いてリフレッシュされたり、その気分にどっぷり浸るということも?
Aimer:あります。そういう時に音楽に救われることもすごく多かったです。自分もそうだったので、自分の音楽を聴く方にもそういうふうに思って欲しいなという気持ちはありますね。
──真摯に音楽と自分の心に向き合ってきたAimerさん。本作にはどのような気持ちで向かったのでしょう?
Aimer:これまではコンセプトを決め、道筋を立てて制作することが多かったのですが、今回はそれぞれ別のシチュエーションで、全く異なる心のモードの時に制作しています。今回のアートワークでも象徴している通り、いろいろなキャンバスに、その時々の質感で描いたものをひとつに閉じ込めました。
──あのアートワークも印象的ですよね。いろいろなものが雑多に置いてあるようにも見えるのですが、Aimerさんの作品であり、クリエイティブなものだということは一目で分かるっていう。
Aimer:いつもご一緒させていただいているアートディレクターの松田 剛さんのアイデアです。自分の中にいろいろな感情やモードがあって、それらを一つひとつ、その場に応じて取り出していくような感覚で曲を作っていったんです。
悪く言えば雑多ではあるんですけども、それをあえて整理整頓せずにそのまま形にして……そのイメージを松田さんに伝えたところ、美術室のようなイメージを提案していただきました。美術さんがそれぞれのモチーフを全部用意して、あの空間を作ってくださって。自分の脳内が具現化しているような、不思議な感覚でした。
置いてある筆も実際に色がついていたり、ちょっと触れると位置が変わってしまうような繊細なものもあったりして、その中で撮影をするのが楽しかったです。
──アナログならではの独特の温かみと言いますか。Aimerさんの音楽と同様にアートワークにも宿っているように思います。
Aimer:今の時代は画像処理でいろいろと作れたりしますが、だからこそ、アナログなアートワークにこだわる部分は昔から一貫しています。音楽と一緒で、やっぱりディテールを誤魔化したくないなと思っていて。受け取る方に、そのまま伝わってほしいなという思いがあります。それは、そうであったらうれしいなと。
──あまり綺麗にしすぎると生々しさが失われてしまうこともありますよね。Aimerさんの音楽を聴くと、そのリアルな感覚を感じ取れるんじゃないかなと思います。そういう意味では、現在配信中の「遥か」(TBSドラマストリーム『からかい上手の高木さん』主題歌/映画『からかい上手の高木さん』主題歌)のスケール感と聴き手との距離感のバランスというのも、ものすごく絶妙な気がするんです。
Aimer:ありがとうございます。『からかい上手の高木さん』のドラマと映画の主題歌になるというお話をいただいてから作りはじめていったんです。原作を読ませていただいたのですが、本当に素晴らしい作品ですよね。映像化されたときにも同じことを感じたのですが、すごく透明度が高いというか、高木さんと西片、ふたりの関係が尊いと言いますか。
──尊いですよね、本当に。ぎゅっとなります。
Aimer:そうなんですよね!(笑) そういう高木さんと西片の尊い関係性をどうやって音楽で表現しようかな?と考えていたとき……ふたりの関係性を象徴しているのは背景や風景なのかもしれないなって思ったんです。
もし高層ビルが立ち並んでいる大都会だったとしたら、ふたりのあの関係はああいう風にはならないんじゃないかなって。ちょっと足を伸ばしたら海があったり、後ろに山々が見えていたり。ふたりがよく行く神社からの景色も、すごく素敵ですよね。
読み手からするとすんなり受け取ってしまうところではありますが、ふたりの当たり前な日常にある環境というのが、ふたりの関係を成立させる要になっているんじゃないかなと。
それで、景色が浮かぶような曲になれば良いなと思っていました。ふたりの純粋性や透明度を音楽として表現するためにも“海が見える街で広がっていくストーリーであること”を想起させるような曲になったら良いんじゃないかなって。
──それで冒頭で“海岸線の雨に ちらばった君の影 思い出が交差する 海辺の街”と歌われているのですね。
Aimer:そうですね。言葉としてもダイレクトに届けたいなって。
──引きのカメラのアングルでふたりを押さえたような、視覚的な印象がとても強い曲でもあって。サウンド面に関してはどういった構築の仕方をされたのでしょうか。いつもよりもシンプルな印象を受けました。
Aimer:普段はいろいろな楽器が常に鳴っているような、厚みのある曲が多いのですが、今回はあえて音数を少なくしています。
舞台の海が見える街って、空がいつも広く存在しているということでもあるなと思って。もしそこに高い建物があったとしたら、海が見えなくなっちゃうじゃないですか。海のような開けた空間をイメージさせるには、曲を音で埋めるよりも音を引いて広く見せる方が良いんじゃないかなって。プロデューサーの玉井さん(玉井健二)と話しながら、そういうアプローチで作っていきましたね。