主×執事×男装の異色アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』のキャラクター像に迫るショート小説連載【第6回:イヴ】
~トラウマと解放~
主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。Love it out loud(“好き”を恐れるな)をコンセプトに、現代社会で抑圧されがちな“本音”を音楽とパフォーマンスで体現する。
本連載で展開されるのは、それぞれのキャラクターが背負うトラウマを小説として綴った6つのオリジナルストーリー。第6回目の今回は、[執事]である“イヴ”の物語をお届けする。
――――xxLeCœur。“真の心”の仰せのままに。
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第6回 [執事]イヴ ~化け物の子~
真っ暗な部屋で、小さなライターの火がついては消える。
灯りが点るたびに映し出される顔は、頬がこけていて生気がない。美しかった金の髪も傷んで荒れたまま乱雑に肩に落ちている。
「イヴさん、夕食ですよ」
ドアの向こうで呼び声がするが、イヴの口元は微動だにしない。
「全く、いつまでああしているのかしら」
「ほんといい迷惑ね。私たちがいなければ今頃野垂れ死んでるっていうのに」
聞えよがしに交わされる悪口も彼の冷たく凍った心に響くことはない。
野垂れ死んでるっていうのに。
どうしてそうさせてくれなかったのか。
なぜ、僕一人がこんな形で生きながらえないといけないのだろう。
ねえ、兄さん。
火を消し、またつける。
イヴにとって何も欠けることのなかったあの頃がありありとよみがえる。その隣りにはいつも兄のアンリがいた。
トゥルワ子爵家の次男として誇らしげに兄の横に立ち、すまし顔をしている自分。
兄の狩りにこっそりついていってひどく怒られ泣きべそをかいている自分。
両親に内緒で兄と夜中のお菓子を頬張っている自分。
何でも兄の真似をしてついて回る自分。
思い出す自分の顔は、ひどく生き生きとしていた。
ノブレス・オブリージュという言葉をその身を以て教えてくれた。
平民との、使用人との接し方を教えてくれた。
身分の違いを超えて分かり合うことの大切さを教えてくれた。
アンリの周りにはいつもいろんな人たちがいた。
自分もそうなれるよう、背伸びしてその背中を追った。
お気に入りのライターで美味しそうに煙草をくゆらす兄の姿が、いまだ焼きついて離れない。
「おまえにはまだ早いよ」って、もう一度額を小突いてほしいのに。
火を消し、またつける。
文字通り全てを消し去ったあの夜。
燃え盛る炎。
焼け崩れる屋敷。
響き渡る悲鳴と怒号。
巨大な業火の前になすすべもなくイヴは逃げ惑うしかなかった。煙を大量に吸い込んで意識が朦朧とする中、イヴをとらえたのはまだ線の細さが目立つアンリの腕だった。
「イヴ!」
「兄さん……!」
「見つかってよかった、早くここを出るんだ」
アンリはすでに息絶え絶えで、限界を迎えながらも必死にイヴを捜していたのだろう。抱きかかえられながら、徐々にその力の弱まっていく兄にイヴは必死にしがみついていた。絶対に離れ離れになるものかと。
その途中、床に這っているテオを見つけた。テオはイヴと同い年の足の悪い使用人で、アンリの後押しもあり、内緒でよく一緒に遊んだものだった。付き添いということにして舞台を見にいったり、街で開かれるフェスティバルに三人で出かけたりもした。一番の遊び相手だった。そのテオが今まさに炎に囲まれている。
「アンリさま、イヴさま……」
火はすぐ後ろまで迫っている。自分たちの身すら危うい状況だった。アンリが諭すようにイヴを見る。
「イヴ、すまない」
テオを通り過ぎようとするアンリに、イヴは抗った。
「兄さん!それじゃ今まで教えてくれたことと違うじゃないか!身分が違っても助けるんでしょ。ねえ、兄さん!」
何度かの押し問答のあと、アンリはきつく目を閉じた。そして意を決したように身を翻し、テオを抱き起した。
「一緒に行こう」
今にも尽きそうな力を振り絞って無我夢中で走り、やがて被害の少ない一階の踊り場にたどり着いたところで、アンリはついに膝をついた。
「イヴ、イヴ……!聞こえるか。しっかりしろ!」
「兄さん……」
「ここから外まではすぐだ。今すぐテオと行くんだ」
「兄さんは?」
アンリは微笑んで、ありったけの力でイヴを抱きしめた。
「おまえは生きろ」
そして、あのライターをイヴに託した。
「何かあった時はきっとこの灯りが先を照らしてくれる」
真っ黒な煙が瞬く間にアンリの体を覆いつくしてゆく。視界が狭まっていく中、アンリが最後の息を吐くのが、イヴにも分かった。
そのあとのことはよく覚えていない。
イヴが病室で目覚めると、テオが隣りで泣きじゃくっていた。胴全体がひどく痛む。聞けば何とか外には出られたものの、重い火傷を負ったとのことだった。
「僕を助けたせいで、アンリさまが……。イヴさままでこんな大怪我を……。本当にごめんなさい」
そうか、兄さんは。
どこかで夢だと思っていた。いつか目覚めるひどい夢だと。
悔しい
悲しい
苦しい
それでも時間を戻したとしても、自分も兄も同じ行動を起こしたのではないか、そう思う。
「いや、いいんだ。テオが無事でよかった」
「僕を、ずっとイヴさまのおそばに置かせてください」
零れ落ちる涙を拭ってやりながら、イヴのもう片方の手には、アンリのライターがしっかりと握られていた。
トゥルワ家唯一の生き残りとなったイヴは、遠い親戚にあたるアルトワ男爵家のもとに引き取られることになった。何とかテオも使用人として雇ってもらえるよう取りつけ、家族を失った心の傷を抱えながらも、自分がこれから守ってゆかなければならないものを胸に刻んだ。
それから一年経ったある夏の日だった。
湖でテオと水浴びをしていると、テオが普段親交のあるという街の子供たちがやってきた。イヴはとっさに服をかぶったが、すでに遅かった。体中の火傷の痕は、奇異の目に晒されるには十分だ。
「うわ、今の見た?」
「化け物だ!」
無知と好奇がはやし立てる。そのうちの一人がテオの姿をみとめ、
「おまえ、そんなやつと一緒にいると化け物がうつるぞ!そしたらもう遊んでやらねえぞー!」と投げかけた。
イヴは気にも留めなかった。こんなことはあの夜に比べたら何ら大したことではない。自分は兄と二人でこのテオを助けたのだ、誇り高い行いをしたのだ。
「こっちに来たければそいつを化け物と呼べ!」
テオは弱った捨て犬のような目でイヴを見た。
「ほら、もう行こう。気にするな」
イヴがテオの手を引こうとすると、ぐん、と逆に力が働いた。その強さがテオからきていることにイヴは驚く。
「どうした?」
向こうからはテオを煽る声が追い打ちをかけてくる。
テオは涙の溜まった目をイヴに向けて見開き、すぐに俯いた。
「イヴさま、申し訳ありません。全て僕の弱さのせいです」
イヴの耳元に落ちた小さな声。そして。
「――――!」
耳を疑う叫びがよく晴れた空をつんざき、耳穴の奈落の底を強かに打った。
繋いでいた手を振りほどくと、テオは一度も振り返らず、子供たちの甲高い声のもとへ走り去っていった。
イヴはたった一人、そこに取り残された。
いつまでも、そこに立ち尽くしていた。
火を消し、またつける。
ライターを持つ手は小刻みに震え、そこに歪んだ顔がくっきりと浮かび上がった。
全ては自分が間違っていたのだろうか。
テオを助けさえしなければこんな醜い傷を負うこともなかった。
大切な兄を失うこともなかった。
自分が間違っていた。
兄さんが間違っていた。
見返りも求めず救いの手を差し伸べるなんて、愚の骨頂じゃないか。
悔しい
哀しい
苦しい
『憎い』
僕はもう、二度と間違わない。
火の消え失せた暗闇で、化け物のような卑屈な笑いが、静かに響きだした。
<終>
リリース情報
xxLeCœur(ルクール)
デビュー・デジタルシングル「ボナペティ」
主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。
楽曲は、起承転結のある日本らしい歌メロにどこか浮遊感、サイコ、ミステリアスなアプローチを織り交ぜ、北欧エレクトロをベースとしつつも今までにないダンスミュージック“Dark Dreamy”というジャンルを提唱していく。
圧倒的ビジュアルと男装の神秘性、そしてダークで耽美な唯一無二の世界観に、リスナーもきっと魅了されるはずだ。
★2024年11月20日(水)より各種配信サイトにて配信開始!
作詞:矢作綾加
作曲:高慶"CO-K"卓史/イワツボコーダイ/細見遼太郎
編曲:高慶"CO-K"卓史/細見遼太郎
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