マンガ・ラノベ
中華BL小説『二哈和他的白猫師尊』(著:肉包不吃肉)1巻&2巻レビュー

高揚を抑えきれない小説の面白さがここに──肉包不吃肉先生が綴る中華BL小説『二哈和他的白猫師尊』日本語版第1巻&第2巻をレビュー! 

人気作家・肉包不吃肉先生が綴る中華BL小説『二哈和他的白猫師尊』(ハスキーと彼の白猫師尊)。待望の日本語翻訳版小説の第1巻&第2巻が、2024年11月にソニー・ミュージックソリューションズより発売されました。

2017年9月から2019年8月にかけて中国のウェブ小説サイト・晋江文学城にて連載。愛憎、陰謀が渦巻く壮大な世界観のなかで人間の感情の奥深さを緻密に描き、本国のみならず世界各国で高い評価と人気を獲得している作品です。高揚を抑えきれない“小説の面白さ”がここにあり、きっと最高の読書時間に浸れるはず。

本稿では、そんな大注目を集める小説『二哈和他的白猫師尊』日本語版第1巻&第2巻のレビューをお届けします! 

※本稿には『二哈和他的白猫師尊』日本語版第2巻までの内容の範囲で一部ネタバレが含まれます。未読の方はご注意ください。

 

『二哈和他的白猫師尊』とは

 

『二哈和他的白猫師尊』は、『二哈』『2ha』などの愛称でも親しまれる長編仙侠BL小説。ラジオドラマや漫画などのメディアミックスを展開しており、『皓衣行』のタイトルで実写ドラマも制作されています。(放送は未定)

本作の著者は『病案本』や『余汚』などでも知られる人気作家・肉包不吃肉(ロウバオブーチーロウ)先生。最新作の『病案本』も邦訳化されており、プレアデスプレスにて現在日本語版第1巻&第2巻が発売中です。

 

『二哈和他的白猫師尊』あらすじ

仙門を蹂躙し尽くし、万民に唾棄される人界の帝王となった踏仙帝君・墨燃(モー・ラン)。彼はおよそ十年にわたる治世の末、晩秋の頃に、反乱軍の包囲の中でついに自ら命を絶った。一緒に灰となったのは、かつて墨燃の兄弟子で想い人である師昧(シー・メイ)を見殺しにし、墨燃の行く手を阻んだ師・楚晩寧(チュー・ワンニン)の遺体である。

しかし、再び目を覚ますとそこはどこか見覚えのある妓楼。墨燃は十六歳の頃の自分に生き返っていた。

師昧に再会して、彼が亡くなる前の時期へと生き返ることができた僥倖を嚙みしめる墨燃だが、まもなく険悪な仲の従弟・薛蒙(シュエ・モン)、そして楚晩寧にも再会し――。

(公式サイトより引用)

 

主役カップリングは【墨燃×楚晩寧】

 

本作の攻めは墨燃、受けは楚晩寧。物語の序盤で墨燃の想い人は師昧として描かれていますが、公式カップリングは墨燃×楚晩寧です。

タイトルの意味は「二哈(=おバカなハスキー犬)和(=と)他的(=彼の)白猫師尊」で、主役カップリングである「ハスキー犬のような弟子×白猫のような師尊」を表しています。

 

墨燃(モー・ラン)

字は微雨(ウェイユー)で、号は「踏仙君」。死生之巓に入門後、楚晩寧の弟子(三番弟子)となりました。死生之巓の掌門・薛正雍の甥であり、薛蒙の従兄。眉目秀麗で、通常十年はかかる霊核の取得を一年で成すなど天賦の才の持ち主です。兄弟子である師昧の作る抄手(ワンタン料理)は墨燃の大好物。

優しく美しい師昧にずっと想いを寄せている墨燃は、前世で師昧を見殺しにした楚晩寧が心底憎いはずなのに何故か気になって放っておけません。さらには楚晩寧に激しく欲情してしまい、己の感情を持て余して大混乱中です! 第2巻を読み終える頃には、墨燃の印象が大きく変わっているはず。

 

楚晩寧(チュー・ワンニン)

「晩夜玉衡」「北斗仙尊」とも呼ばれる修真界最強の宗師。天問(柳の蔓)を含む三つの神なる武器を持ちます。死生之巓の長老の一人であり、弟子は墨燃、薛蒙、師昧の3人のみ。丹鳳眼を持つ非常に美しい容姿ですが、苛烈な性格ゆえ人を寄せ付けない孤高の存在です。

厳しく冷酷に接しながらも、実は墨燃に特別な想いを寄せています。詳細は後述しますが、楚晩寧のギャップに読者は尊死。切なくてもどかしくて、どこまでも慎ましい楚晩寧のことが大好きになります。

 

 

墨燃の愛憎

主人公・墨燃は「踏仙君」として修真界の帝王に上り詰めて、暴虐の限りを尽くしていました。彼は想い人である兄弟子・師昧を見殺しにした師尊・楚晩寧を激しく憎んでおり、長きにわたり軟禁して凌辱。そして、楚晩寧は死に至ります。

“時は正に晩秋、海棠の花が咲き乱れている。”

それは楚晩寧の死後、墨燃が自ら毒を飲んで命が尽きようとしていた32歳のとき。ふと目を引く情緒的な一文ですが、思えば“海棠の花”は作中で何度も登場しています。

墨燃は何を思っていたのでしょうか。彼はなぜか海棠の花が咲き誇る死生之巓(墨燃たちが所属する門派)の通天塔を、己が死にゆく最期の場所として選んだのです。ここは、墨燃が楚晩寧と初めて出会った場所だといいます。

 

楚晩寧への感情に戸惑う

物語の冒頭でいきなりの地獄と、主役カップリングの死に直面。かと思いきや、墨燃は目が覚めると16歳の頃の自分に生き返っていました。彼は前世での悲劇を繰り返さないよう、今世では絶対に師昧を守ると決意します。

楚晩寧に憎悪の念を抱きながらも、そばで過ごすうちに前世では気づけなかった師の一面を知り、身を挺して自分を守ってくれる姿を目の当たりにする墨燃。言葉にできない柔らかな感情が芽生えていくと同時に、前世で長年にわたり楚晩寧を組み敷いて絡み合った事実と記憶により、熱い欲が抑え切れなくなっていきます。

楚晩寧の体から発せられる海棠の花の匂いにより、前世の情事を思い出させるのも非常に官能的。墨燃の潜在意識は師昧以上に楚晩寧に向いているようでもあり、激しく欲情しているのも楚晩寧に対してなのです。

 

墨燃の激情

墨燃は楚晩寧に認められることに固執しており、それがどれほどなのかと言うと、楚晩寧が “悪くない” とひと言褒めてくれたら死んでも構わないと思えてしまうほど。

墨燃の感情について、ひときわ印象深いのは第二十九章で語られている部分。墨燃の楚晩寧への憎悪は、師昧を見殺しにしたことだけが要因ではなく実に複雑なものであることも見えてきました。

初めて出会ったときに温かく優しそうで白猫のような師尊に心を奪われた墨燃でしたが、弟子入りして実際に楚晩寧から与えられたのは冷遇、処罰、容赦のない仕打ち。楚晩寧が墨燃を見下しているかのような評価は、墨燃に恨みと不満を植え付けていきます。

墨燃がどれだけ楚晩寧の気を引こうとも叶わず、見事に何かを成し遂げようとも師は淡々と頷くのみで顔を背けてしまう。

墨燃はただ、楚晩寧に見つめてほしかった。そして認めてほしかった。

そんな切実な思いが痛いほど伝わってくるので、楚晩寧のことは出会いからずっと墨燃の骨の髄まで刻まれている存在なのだろうと思えます。

墨燃は前世で楚晩寧を虐げてきたけれど他の人が虐げるのは許せないし、当然のごとく楚晩寧は自分のものであるという強い独占欲も。楚晩寧への執着心は一目瞭然で、今世においても師の言葉ひとつで墨燃の心は大きく揺さぶられています。

私も思わずキュンとなったのが、桃花源で墨燃を助けるべく駆けつけた楚晩寧が“この子は私のものだ” と言い放った場面。普段なら言わないであろう師の言葉は、墨燃を大いに動揺させました。

墨燃の思考を追っていると、畏怖の念が嫌悪の念に変わっていったようですが、ごちゃ混ぜの感情の根本にあるのは楚晩寧への心からの尊敬と愛なのかなと感じます。

 

師尊・楚晩寧のギャップ

いつも白い衣で身を纏い、高潔で禁欲的な楚晩寧。自制心と自尊心を誇るこの美しき師尊は非常に修為が高く、三つの神器、結界術、機械製造術のいずれにおいても頂を極めているといいます。

墨燃からすると楚晩寧は“冷血魔”であり、頑固で気難しく、自分にも他人にも厳しい人。出会った頃の印象とは変わって、鋭い牙と爪で傷つけてくる白猫のような師尊です。

だけど読み進めるうちに、楚晩寧は強い信念を持って行動しており、己を犠牲にしても他者を守る人、そして本当は弟子思いで心優しい人であることが見えてきます。同時に楚晩寧に心を鷲掴みにされ、私はいつの間にか彼の言葉やわずかな表情の動きからも目が離せなくなりました。

楚晩寧は身を挺して墨燃を守り、重傷を負ったのに誰にも頼ることはなく自分で手当てをしています。自分を大事にしないので、その処置はあまりにも適当。これまでも一人で生きてきたのだからと言い聞かせてしまう孤独な人で、傷が悪化しても頑なに弱さを見せない凛とした姿に泣けてきてしまいます。

いつもそう。自分のことはおざなりなのに弟子のために尽くす姿を見ていると、墨燃が放っておけなくなるのも分かります。

ある日、楚晩寧は弟子たちが雨に濡れないように結界を張ってあげるのですが、彼は自分が恐れられていることを自覚しているため身を潜めています。結界を張って守ってくれているのが楚晩寧だなんて誰も思わないけれど、墨燃はちゃんと気づいているんだなと、読んでいて嬉しかった場面。

楚晩寧は雨が降っても億劫がって自分のためには雨よけの法術を使わないことを墨燃は知っているので、あえて傘を師に渡して自分に法術をかけてとおねだりする。このシーンが表紙になっているのもすごく素敵です。

墨燃は前世の記憶により楚晩寧のことをよく知っているようで、ある雪の日には、寒さが苦手で冷えると病にかかりやすい楚晩寧のことを気にしている墨燃が、師尊の上に積もった雪を無意識に払ってあげていたりも。

一方で、前世とは少し様子が違う今世において、墨燃はこれまで知り得なかった楚晩寧の意外な一面にも触れていくことになります。楚晩寧に命じられて彼の居所にやって来た墨燃は、美しく身ぎれいな人がなんとも乱雑な部屋で暮らしていることに驚愕。この師は仙術の天才だけど、日常生活においてはどうやらダメらしいのです。

楚晩寧の愛らしい内面が徐々に見えてくる構成となっているので、読者は彼のギャップに尊死。かりそめの姿で墨燃たちと過ごす楚晩寧の、普段ならしないような言動にまた心をくすぐられてしまいます。

 

墨燃への秘めた想い

弟子である墨燃に厳しく冷たい態度をとっている楚晩寧ですが、実は墨燃に強く惹かれています。

視線が合ってもすぐに冷たく顔を背けて、墨燃が見ていないときに何気なく視線を向けるといういじらしさ。仙人のごとく近寄り難い存在でありながら内面は人間らしく繊細で、密かに鼓動が速くなっていたり耳を赤く染めたり、そして時に体が反応してしまったり。

だけど、この感情はあってはならないものとして、楚晩寧は心の奥深くに隠しています。

墨燃も自分のことを少しは気にかけてくれているのかもしれないと淡い期待を抱くこともありながら、そんなわけはないと可能性を否定してしまいます。自分が人好きのする性格ではないと卑下しているせいか、恋愛における自己肯定感がとてつもなく低い。

墨燃の想い人が師昧であることを知っている楚晩寧は、墨燃の師昧への愛情や二人の仲睦まじい関係を見る度にやりきれない気持ちになっています。ただ静かに想い続けて、彼を守ることができればいいと思っているのに、胸の痛みは増すばかり。何度も負った体の怪我は、まるで心に刻まれた深い傷のようです。

弟子三人の神器を求めて金成湖へと行った際、墨燃の窮地を救ったのは一時的に師昧と心が入れ替わってしまった楚晩寧なのですが、墨燃は師昧が助けてくれたと信じ込んでいます。墨燃の告白に対して、楚晩寧が師昧の姿で告げた言葉が切なくて苦しい。

その言葉は楚晩寧の想いとして伝わったわけではなく、墨燃は当然師昧の言葉として聞いています。しかし、その後も楚晩寧はあの時の師昧が自分だったなんて一切言いません。もともとは気づいてほしいと思っていたのに、言えなくなってしまう。その不器用さと慎ましさが悲しい……

強烈に惹かれ合っているのに相手に届かないもどかしさ。墨燃は自分の感情が何なのか処理しきれないでいますし、楚晩寧は何があっても墨燃に自分の想いを知られてはいけないと抑え込んでいるのです。
 
楚晩寧は自分の殻に閉じこもっているけれど、本当は独りでいたいわけじゃないし、自分の想いを受け入れてほしいんですよね、きっと。でも孤独な師は殻から出ることにどこか恐れを抱いているので、どうか報われてほしいです。

 

 

前世と今世にわたり渦巻く陰謀

弟子として楚晩寧に尽くしながら己のぐちゃぐちゃの感情に戸惑い、時に従順な少年の心を見せる墨燃の姿から考えると、前世で暴政を敷いていた踏仙君と同一人物であることが不思議に思えてきます。

楚晩寧によく似た6歳の夏司逆(シア・スーニー)が現れてからは、特に墨燃の意外な顔が見られるように。生き返った当初はとても善人とは言えない言動を繰り返していましたが、夏司逆に対する優しさや愛情は墨燃自身に備わっている本質のようでもあります。

それはある種の違和感を覚えるところでもあり、墨燃の人間性を知れば知るほどに、前世での出来事には何かしらの陰謀が絡んでいるのだろうと考えずにはいられません。墨燃自身もどうしてあれほど残虐非道な行いができたのか、今となっては分からなくなってしまっている様子。

そもそも天賦の才を持つ墨燃でさえ人界の三大禁術のうち「重生」(死者が蘇ること)だけは会得できていなかったというのに、なぜ時を超えて生き返ったのか。そして、なぜか前世とは軌道が変わってしまっていて、実際に暗躍する謎の存在が墨燃に接触してきていることもまた事実です。

楚晩寧に関してもそう。墨燃も薄々気づき始めている通り、弟子を大切にしている楚晩寧が意味もなく見殺しにするのはあり得ないことなので、やはり前世での悲しい出来事には何か理由があるのでしょう。

 

次々と浮かび上がる謎

神なる武器、二百年前の臨安での出会い、胸の傷痕、そして霊核が弱いこと……ひとつ、ひとつと謎が浮かびあがってきます。

人間の感情の深淵にグッと引き込まれると同時に、物語が進むなかで前世の片鱗や謎が次々と浮上していく高揚感。“私がお前に酷なことをした”──この言葉でまた衝撃が走り、胸が苦しくもなりました。

単純な転生ものではないことは明白であり、故事や詩の引用(引用元の日本語解説も非常にありがたいです)など、多彩な文章表現による小説の面白さに浸れる作品であると確信できるはずです。

この先どのような展開を迎えるのでしょうか。現段階においてこれほど面白いので、さらに読み進めるとどうにかなってしまいそうですよね。

続きが気になるところですが、早くも日本語版の第3巻&第4巻の発売情報が発表されました! 第3巻が2025年1月11日(土)頃、 第4巻が2025年2月22日(土)頃の発売とのこと。

彼らがどう生きてきたのか、どう生きていくのか。全身全霊で読み込んで日本語版完結まで追いかけたいです。

 

日本語版ラジオドラマの配信が決定

大注目を浴びる『二哈和他的白猫師尊』ですが、なんと2025年に日本語版ラジオドラマの配信が決定しています。続報も楽しみですね。

タイトルは『二哈と彼の白猫師尊』(原題: 『二哈和他的白猫师尊』 )。墨燃(ぼくぜん)を小野友樹さん、楚晩寧(そばんねい)を大塚剛央さんが演じます。

 

 

墨燃役は小野友樹さん

日本語版ラジオドラマで墨燃を演じるのは声優の小野友樹(おの ゆうき)さん。1984年6月22日生まれ、静岡県出身。『黒子のバスケ』の火神大我役をはじめ、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』の東方仗助役など、人気作品のキャラクターを多く演じています。

 

楚晩寧役は大塚剛央さん

日本語版ラジオドラマで楚晩寧を演じるのは声優の大塚剛央(おおつかたけお)さん。10月19日生まれ、東京都出身。『風が強く吹いている』の蔵原走〈カケル〉役をはじめ、『【推しの子】』のアクア役など、人気作品のキャラクターを演じています。

 

『二哈和他的白猫師尊』日本語版小説

作者:肉包不吃肉
装画:zolaida
訳:石原理夏
発行・発売:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ

 

『二哈和他的白猫師尊』第1巻

 

 

『二哈和他的白猫師尊』第2巻

 

 

『二哈和他的白猫師尊』第3巻

発売日:2025年1月11日(土)頃

 
【特装版】

 
【通常版】

 

『二哈和他的白猫師尊』第4巻

発売日:2025年2月22日(土)頃

 
【特装版】

 
【通常版】

 

数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスを愛し、大好きな作品はたくさんありますが『チェリまほ』が心のよりどころです。そして『魔道祖師』をはじめ中華BLの沼へ。趣味は国内外のBL漫画や小説を読むこと&ドラマ観賞で、これまでに執筆した記事は『チェリまほ』『美しい彼』『魔道祖師』『陳情令』『ENNEAD』など。

この記事をかいた人

藤崎萌恵
数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスが癒し。主な記事は『チェリまほ』『陳情令』等。

担当記事

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