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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。
マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中のみかわ絵子先生による大人気漫画『忘却バッテリー』。中学時代に“怪物バッテリー”として名を馳せた天才投手・清峰葉流火と捕手・要圭が、要が記憶喪失になったことをきっかけに野球部のない都立高校に入部し、かつて自分たちが挫折させた球児たちと再び野球に打ち込む日々を描いた高校野球漫画です。
ギャグ調に描かれる男子高校生たちの日常と野球に真剣に取り組むゆえにぶつかるシリアスな問題との絶妙なバランスが多くの読者の心を掴み、2024年4月にはアニメ第1期が放送され、第2期の制作も決定しています。また、主題歌となったMrs. GREEN APPLEの「ライラック」はその年のレコード大賞を受賞し、こちらも大きな話題となりました。
隔週木曜日はそんな『忘却バッテリー』の更新日! 3月20日には最新172話が公開されました。試合は両者譲らず0対0のまま4回裏、小手指の攻撃中。プレースタイルを変えた千早が二塁打を放ち、後続の小手指打線に期待がかかります。
本稿ではSNSに寄せられた反響とともに、172話の内容の振り返りや考察をしていきたいと思います。
※本稿には、172話のネタバレが含まれますのでご注意ください。
千早の二塁打に続きたい小手指打線でしたが、氷河高校のエース・桐島秋斗の好投に阻まれ、4回裏に続き5回裏も得点を奪うことはできません。一方の氷河も5回表を三者三振で終えたため試合は膠着状態が続いています。
そんな中、読者を沸かせたのはつっちーこと土屋の活躍。ボテボテの一塁ゴロながら俊足を活かして出塁に成功したのです。「土屋先輩の活躍回嬉しい!!」「土屋くんイケメン過ぎる」「つっち~~~~~~(涙)(最高)(大感謝)」とその活躍に読者は大興奮!
土屋と言えば前回の夏大会で帝徳高校と当たった際にはエース・飛高の球に怯みまくっていました。それが1年で大きく成長し、桐島の剛速球に怯むことなく打席に立ち、ボテボテながらも当てて前に転がせるまでに成長しているのです。(要や猿川も打ててないのに!)そして、長所である脚を使ってヒットにしてしまう彼は間違いなく小手指の主戦力!
ひとつ前の帝徳高校との試合では佐藤の活躍が描かれていましたが、清峰や藤堂のような物語スタート時からトップクラスの実力を持つ選手ではなく、並みの実力だった土屋や佐藤のような選手の成長と活躍が描かれる瞬間はより強く読者の心を掴みますよね。筆者も、今回の土屋の活躍は自分のことのように嬉しかったです。出塁して頬を染めて喜ぶ姿にキュンとしました……!
本話では、プロ養成校とも謳われる名門校・大阪陽盟館に在籍する桐島の弟・夏彦の登場も話題に。チームメイトに氷河と小手指の試合を観ないかと誘われるも、夏彦は「キショ」「見るわけないやろ あんなカス兄貴」と相変わらずの口の悪さで一蹴します。
ところが、その後一人でピッチング練習をしながらスマホで観戦していたのです。「ショボ」「なァーにをクソカス公立相手にパカスカ打たれとんねん いや都立か?」「レベル低すぎ」と好投する兄をこき下ろしてはいますが……。
これを見た読者からは「ぜっっっっったいお兄ちゃん大好きやろ」「夏彦ツンデレじゃんな??」「弟だいぶ拗らせてんなこれは……」「何だかんだめっちゃ兄貴のこと気にしちゃってる夏彦好きだよ」とまだ明かされていない彼の胸の内を察する声が。
「相手の高校が公立か都立かわかってるのってめっちゃ見てるよね」「アーニャに夏彦の心読んでほしいwめっちゃ面白そう」「夏彦の本音描かれるの楽しみ過ぎる」という声も多く見られるように、悪態をつき続ける夏彦の本音が明かされることに読者は期待を寄せています。
本話を読んでから、桐島兄弟の幼少期が描かれた164話・165話を改めて読み返してみたのですが、2人が同じチームでプレーしていたシニア時代の夏彦は、兄のことを見下す発言をひとつもしていないことに気づきました。
態度の悪さで監督に嫌われた夏彦がマウンドに立つことを許されず球拾いをさせられていたことを秋斗は「あの夏彦が球拾いを半年も我慢できたのは驚きやな」と回想していますが、そこで描かれている夏彦の視線はマウンドに立って投げる兄に向けられており、それは純粋に尊敬のまなざしのように感じられます。尊敬する兄を見ていられたから我慢できていたのではないでしょうか。
また、夏彦がシニア時代のチームと決別することになった試合の際に、「完封したの秋斗クンとちゃうねんけど 完封したん俺やで~~」と監督に発言していますが、これは兄を否定しているように見えるものの、(夏彦的には)個人的な感情で自分を正当に評価しようとしない監督に事実を述べただけであり、決して兄のことを悪く言っているわけではありません。今の夏彦なら「カス兄貴に完封は無理無理」くらい言ってそうです。
夏彦の態度が変わったのは「「一番(エース)」ってなんや?」という問いに秋斗が答えられなかったことがきっかけのよう。そのことを秋斗も自覚しているようですが、夏彦としてはもっと兄を尊敬していたかったのではないかと私は感じています。
私は172話と先程の164話・165話を通して「エースとは何か」ということを考えさせられました。野球は投手の力がものをいうスポーツであることは広く知られていることですが、では、投球さえ優秀であればエースなのでしょうか。
例えば、172話で氷河の一塁手・宇部がベースを踏み忘れたことでバッターがセーフとなった場面。氷河の2年生投手・巻田が「宇部コロス」と試合中にもかかわらず大声で怒鳴っている一方、マウンドに立つ桐島は笑ってそのミスを許し、宇部はミスのショックから前向きに立ち直っています。
仮にこの場面でマウンドに夏彦が立っていた場合、巻田以上に非情な言葉を浴びせているのではないかと思いました。ミスをしただけでもショックを受けているのにチームのエースになじられてしまえば、その心の傷は一層深くなるでしょうし、もうミスできないというプレッシャーから身体が固くなってしまいもっとミスを生んでしまう可能性も上がることが予想されます。
桐島兄弟のシニア時代の監督が最後まで秋斗をエースにしていたのは、個人的な感情でも年功序列でもなく、そういう人柄の部分を見ていたからではないかと思いました。夏彦は単純な投球の実力を実力と呼んでいますが、チームメイトを配慮できる姿勢もエースに必要な実力と言えるのではないでしょうか。
ただし、これもまた確かなことではありません。勝敗が決まるゲームである以上、人格よりも打たれない投球ができる人が評価される場合も往々にしてあるでしょう。その答えは試合結果だけが示せるのかもしれません。
さて、西東京大会の決勝戦は5回を終えて両校未だ得点なし。甲子園に出場する小手指ナインの姿が見たいのはもちろんですが、桐島兄弟の対決も絶対に熱いので見てみたいところ。3年の秋斗にとってはこれが最後の夏ですからね……。
先が気になって仕方ありませんが、4月いっぱいは休載とのこと。「忘却バッテリーのない4月寂しい…」との声も聞かれていますが、次回更新予定の5月1日まではこれまでの話を読み返すなどして待っていましょう!
[第172話]忘却バッテリー - みかわ絵子 | 少年ジャンプ+ #ジャンププラス #忘却バッテリー
— みかわ絵子 (@mikawaeco) March 20, 2025
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1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。