細田守監督最新作『サマーウォーズ』公開記念特別インタビュー!「『時かけ』直後から描きたかったのは女の子向けアクション映画でした」……その真意とは!?(前編)
2006年夏の劇場アニメ『時をかける少女』で、アニメファンだけでなく多方面から高い評価を受けた細田守監督。それから3年を経て完成した待望の最新作『サマーウォーズ』が、8月1日より全国で公開される。
今回もキャラクターデザイン・貞本義行氏。脚本・奥寺佐渡子氏と、『時かけ』のメンバーが再結集。クオリティの高い映像と構成がもたらす驚きと感動に、今から期待が集まる。
キャストも、健二役に声優として『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』にも出演。TVドラマ『風のガーデン』の白鳥岳役が記憶に新しい神木隆之介さん。夏希役には映画『赤い糸』やソフトバンクTVCM(結婚式編)に出演し、人気急上昇中の桜庭ななみさん。栄役に今回がアニメ初出演となる富司純子さん。そして天才的なゲームセンスを持つ池沢佳主馬(いけざわ・かずま)役には『時かけ』でも声優に挑戦。映画『リアル鬼ごっこ』や『おろち』などに出演、TVドラマでも活躍する谷村美月など、豪華な顔ぶれとなっている。
今回は映画の公開を記念して細田監督にインタビュー。映像的な面での観どころなどから話はどんどん広がり、なんと今回監督が目指したのは“アクション映画”だったことが判明!? 驚きの発言、その真意とは!?
<STORY>
数学には天才的な能力を持つが、内気な高校2年生・小磯健二は、憧れの先輩・篠原夏希から夏休みのアルバイトを頼まれる。内容を知らないまま彼女の長野の田舎に向かう健二。ついた先は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家。そこにいたのは総勢27人の大家族と、当主で一族の大黒柱、夏希の曾祖母である栄だった。
そして明かされるアルバイトの内容。それは夏希の“フィアンセのフリ”をすることだった。強引に頼み込まれ、数日間の滞在をすることになった健二は必死にフィアンセ演じる。
その夜、健二の携帯に届いた数字が並んだ謎のメール。健二はそれが暗号だと気づき解読、返信するが、翌朝、世界中の人間が参加する仮想世界・オズが大混乱に陥り、現実世界にも影響が及び始める。何者かが健二のアバターを使い、世界を混乱に陥れていたのだ……。
世界の10億人が参加し、様々な公共サービスや携帯電話とも連動する、巨大な仮想世界・オズの危機は現実世界の危機。陣内家の面々は栄の号令のもと、世界を救う戦いに挑む。
●普通の人が活躍するアクション映画を作ろうと思いました。
―――前作の『時をかける少女』から3年を経ての新作『サマーウォーズ』ですが、いつごろから企画がスタートしたのでしょうか?
細田監督:アニメーションの企画って平行して進むことが多くて、通常はある作品を作っている間に、次の作品の準備に入ったりするようですが、僕の場合は1本を作り終えるまで次のことがなかなか考えられないので、『時をかける少女』が終わった瞬間から「じゃあ次は何を作ろうか?」と。ですから2006年の夏からですね。
――最初から仮想世界を舞台にしようとお考えだったんですか?2006年頃といえばセカンドライフなどが話題になった頃でしたね。
細田監督:最初はアクション映画を作りたかったんですよ。『時をかける少女』が女の子の内面を描いた作品だったので、今回は“スカッ”とするもの、アクションものを作りたいなと思っていました。それで“アクション映画の主役が特別な存在ではなくて、普通の家族だったら?”と思ったんです。普通の人が活躍できる世界というものを考えたら、インターネットだなと。
そのなかでも、セカンドライフに限らず自分の分身ともいえるアバター、電話番号がキャラ化したような世界。そんな世界でなら、普通の人も活躍できるんじゃないかなって。しかも現代を舞台にしてもアクション映画が作れるんじゃないかと。それでインターネットの世界を舞台にしようと思ったんです。
――ネット世界だけを舞台にした映画を作ることも出来たと思いますが、リアルな世界も登場します。ネット世界とリアル世界両方を舞台にした理由は?
細田監督:僕らの生活そのものが、10年前と比べてネットワークが身近にある世界に変化したと思うんです。今は年配の人でも携帯メールをちゃんと扱えます。例えばWiiやDS。僕、宮本茂さん(※1)の作り出すものが好きなんです。世界じゅうのあらゆる人が楽しめる垣根のないようなもの。例えばDSは世界で1億台以上売れている。単一の機種がこれだけ売れるっていうのは、これはすごいことですよ。
こないだ宮本さんと話したんですが、「携帯電話はすごく普及しているが機種ごとに操作が違う。同じ機種がこんなに広がったことはない」という話をされていました。WiiやDSって使う人間に対してデジタルな面での垣根を感じさせない、使う人に近い作りになっている。日常生活に寄り添ったデジタルが存在する世界が今でもあるわけで、そういう現実が映画にも反映してるわけです。
●家族が世界の縮図なら、家族を描けば世界を描けるわけです
――オズという仮想世界ですが、内部に行政施設があったりなどセカンドライフを思わせる部分がありつつ、アバターのデザインなどはモバゲーなどを思わせるものです。オズの世界観を作るにあたっては、何をイメージされたのでしょうか?
細田監督:大きくイメージしていたのは2つです。1つはWii。特にそのなかのMii(ミー)というアバターと、もう1つがmixiなんです。mixiでは、自分のページにみんな色々な画像を上げますよね。あれが動いたらそのままアバターじゃないかと。mixiが高機能化したらすごく面白いんじゃないか?と考えました。僕はリアルな3Dのキャラクターより、もっと平面的、2次元的なキャラクターの方がみんな好きなんじゃないかなって思うんです。特に日本人にはそのほうが流行るだろうと思っていました。オズみたいなグローバルな世界があるとしたら、そこでのアバターは映画に出てきたようなものだと思います。リアルなものじゃなくてね。
――アバターを個別にカスタマイズできて、それがデフォルメされたキャラクターである世界をイメージしたのがオズなんですね。
細田監督:そうですね。その方がレンダリングも早いかなと(笑)。平面化された世界のほうが、ある種のグローバルな美意識が生まれるんじゃないかと思うんですよ。今回表現したいのはネットというよりもグローバルな世界なんです。いろんな世界の人がユニバーサルな美意識を共有している世界で、ユニバーサルな美意識とは、決してリアルなものじゃなく、ある種のポップなものではないかなと思うんです。
オズの描写は、それをどう表現するかってことですよね。デジタルな世界って、どうしてもサイバーな男の子向けのイメージになりがちですが、そういう男の子向けの世界じゃなくて、女の子や子供が参加しやすい世界じゃないと、オズのように10億人なんて集まらないと思うから。それだけの人数を集められる世界って、ポップで明るくて敷居が低い、この映画に出てくるオズみたいな世界なんじゃないかなと思ったんです。
――そのオズに対して現実世界では長野の田舎で物語が進みます。リアルな世界のパートでも、もっとスケールを広げられたとも思いますが……。
細田監督:もちろん CIAみたいな組織が出てきて…… という方法論もあると思うんですよ。軍人を出したいっていうのは男の子の思想でね、それをやれば世界が描けるかというと僕は必ずしもそうとは思わない。つまり世界をどうみるかなんですよ。アメリカ軍やらテロ組織などを出せばグローバルかっていうと、そうではない。グローバルさをオズに代弁させているわけで、もう一方の現実の世界はやっぱり家族だと思うんです。
家族は世界の縮図だと思うし、家族を普遍すると世界だと思うっていうか。僕はある一家族のありようを描くことで世界も描けると思うんです。一見するとグローバルなオズと、ドメスティックな陣内家という対比になっていると同時に、世界規模で起きている事象と家族内の気持ちのすれちがいって、実は根が同じことなんじゃないか?家族を描けば世界を描けるんじゃないかと思いました。
――男の子的な作りではなく、女の子的な作り方で世界を描けるということに、今回は挑戦していることが根底にあるっていう……。
細田監督:今回の映画もそうですが、家族を描こうとしたときに、その中心にいるのはやはり女性のような気がするんですよ。映画でも栄おばあちゃんっていう90歳のおばあちゃんが、一家の中心にいたり。家族が世界の縮図だとすれば、やっぱり女の人が世界を作ってるんですよ。だったら世界を象徴するオズっていうのは、女の人が気持ちのいい世界のはずなんですよね。でも大事なのはやっぱり「アバターがかわいい」ってことだと思うんですけどね(笑)。 (後編に続く)
<STAFF>
監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
美術監督:武重洋二
<CAST>
小磯健二役:神木隆之介
篠原夏希:桜庭ななみ
陣内 栄:富司純子
池沢佳主馬:谷村美月
陣内侘助:斎藤歩
ほか