「大人には難しい映画になってます」4年半かけて作られた“舛成”ワールドの真骨頂『宇宙ショーへようこそ』は「2回観ないとわからない!」――舛成孝二監督インタビュー
80年代より多くのアニメ作品にたずさわり、2005年に監督を務めたTVアニメ『かみちゅ!』で、文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門最優秀賞を受賞した舛成孝二監督が、初めて劇場用オリジナル作品として手がけた『宇宙ショーへようこそ』が、いよいよ6月26日(土)に大公開!
『かみちゅ!』で作業を共にした脚本家の倉田英之氏、プロデューサーの落越友則氏を始め、気鋭のスタッフ陣と再びタッグを組んで、4年の歳月をかけてじっくり作り上げた力作『宇宙ショーへようこそ』は、どんな映画になっているのか?舛成監督にスペシャルインタビュー!
●初めて手がける劇場作品『宇宙ショーへようこそ』
――初めての劇場作品がオリジナルですが、いかがでしたか?
舛成監督(以下舛成):プレッシャーは相当なものでした。でも僕は、原作のある作品はそんなに手がけていなくて、逆にオリジナル作品は昔からOVAなどを手がけていて、原作と呼ばれるものがない状態で絵作りから全部やっていました。後にコミカライズされて漫画や小説になったことはありますよ。『R.O.D』なんかはコミカライズされているんですが、それが原作のように思われていたり。
――なぜ“宇宙ショー”なんですか?その経緯や最初の企画を教えてください
舛成:『かみちゅ!』という作品を創ったときに、倉田くんと落越くんで“ベサメムーチョ”というグループを作り、『かみちゅ!』では国から賞を頂きました。それから「俺ら今、イケてるんじゃね?!」と話したのがキッカケですね(笑)。
何も決まっていない状態で「劇場はできないのかな?」ってつぶやいたら、プロデューサーの落越くんが「詰めてみますね!」と言ってくれてスタート。公開までに4年半かかりました。
――スタートしてからはどう企画が進んでいったんですか
舛成:僕が主人公を小学生にしようと意見したら、落越くんから「SFにしてほしい」と意見があり、話が進んでいくうちに「宇宙に行けば良いじゃん!」という話にまとまりました(笑)。その時の映画タイトルは『ザ☆宇宙ショー』でした。そして、単純に“子供たちが宇宙に行く”というエンターテインメント・ショーだから“宇宙ショー”だったんです。物語を作っていくなかで、総合司会のネッポが出てくる“宇宙ショー”が完成しました。
――完成した映画は、昔ながらの子供が宇宙人と出会って冒険物語が始まる……みたいな基本に忠実な作品になっているなと思いました
舛成:最初のプロットは、とらわれた周(あまね)がサーカス団“宇宙ショー”で見世物みたいに働かされているところを、みんなで助けにいくという話でした。でもそれだとダークになりすぎるから、もう少し楽しめる作品にしたかったんです。“宇宙ショー”自体の設定は面白いから、“宇宙ショー”というものがどういうものなのか、もう一度練り直して“宇宙ショー”と総合司会・ネッポのバックボーンを作ってから、現在の形になりました。
●いちばん良いのは、翌日にもう一度観ること(笑)。
――地球のシーンと宇宙とで、映像の雰囲気が違うのに注目しました。地球では日本のアニメらしい“和”な感じで、宇宙は海外のCGアニメっぽい要素が感じられたんですが、このギャップは意識したんですか?
舛成:主人公たちが行く先々のプロダクションデザインを変えるという、空間の変え方をしているんです。舞台が変わって作品感が変わるのは求めていたものだし、そうしても大丈夫な自信がありました。それは空間は変わっているけど、物語の軸はずれていない、キャラクターがぶれていないから。
例えるなら、子供たちが“月”に行くシーンでは、地球の子供たちが“月”に行く、これは“月”に行っただけであって、“月”の子供たちにはなってない。地上にいた子供たちが常にその感覚を持って、見て驚いている。地球編をあれだけ丁寧に描いている訳は、映画を観た人が、その地球編で子供たちに感情移入をしてもらうため、子供たちを理解してもらうためなんです。その子供たちを通して見せられている“月”だから、映画の中の子供たちと同じ反応ができるようにストレートにつくられているんです。
――主人公の子供たち5人は本当の子役の方が声優をしているそうですが、その意図は?
舛成:映画の中にはたくさんのウソがあります。僕は“絵空事”と言っているんですが、けれど、その“絵空事”を本当のことのように感じさせるためには、できるだけたくさんの“本当”を置きたかったんです。だから声優さんに関しても“本当”を起用したかった。大人の声優さんを起用すると“子供の芝居をする”というフィルターをはさんでしまうから、その上でキャラクターも作ると、フィルターが2枚になってしまう。子供に演じてもらえば、“子供の芝居をする”というフィルターの必要がないので、よりリアルな子供の呼吸に近づくのかなと思いました。
――逆に同年代以外には感情移入が難しくなったりしませんか?
舛成:この映画は観た人によって答え(感想)が違うんですよ。年齢層が少し高い人たちには難しい作品なのかもしれません。大人でもなくて、でも子供のことを子供だと思い込んでしまうと、共感する部分が幼く感じてしまうかもしれません。中高生の人たちは自分を少し思い返せば、清たちみたいな子供だったわけです。
この映画は感動したポイントが老若男女でみんな違っていました。それは主人公の子供が5人もいるからです。この5人の中で誰に感情移入するかによって、ドラマがまったく違うものに見えてきます。感じ取ってもらった答えが良かれ悪しかれ、それは正解なのです。
ただ、こちら側からお願いするとしたら、何年経ってからでも良いから、もう一度この作品を観る機会を得てほしい。この作品は初回に観たときの感想と、2度目に観たときの感想が絶対に違っているから。いちばん良いのは、翌日にもう一度観ることですね(笑)。気付かないことに気付けるかもしれない。
実はこの映画、説明不足と言っていいほどに説明していない映画なんです。絵では描いているものの、その世界観はすぐには理解できない。説明はしていないけれど、絵では描いています。最初から理解しようとして観たら、頭がショートすると思います(笑)。情報が多すぎて1度観ただけでは拾いきれないんですよ。
純粋にキャラクターに感情移入してもらって楽しんで観てもらう。その後、別のベクトルに目を向けると、色んなものが見えてきますよ。
<聞き手・だーくまたお>
<取材・文:岡 有希>
第60 回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門(Kplus)出品作品
A-1 Pictures 第1 回 劇場オリジナルアニメーション
映画『宇宙ショーへようこそ』
6/26より全国ロードショー
<公開館(4/22現在)>
【東京】新宿バルト9 、シネ・リーブル池袋 、渋谷シネクイント 、立川シネマシティ
【神奈川】横浜ブルク13 、TOHO シネマズららぽーと横浜 、109 シネマズ川崎
【千葉】 京成ローザ10 、シネプレックス幕張
【埼玉】MOVIXさいたま
【北海道】ディノスシネマズ札幌劇場
【宮城】MOVIX仙台
【新潟】T・ジョイ新潟万代
【愛知】109 シネマズ名古屋
【大阪】梅田ブルク7 、シネ・リーブル梅田 、なんばパークスシネマ
【京都】T・ジョイ京都
【兵庫】109 シネマズHAT 神戸
【広島】広島バルト11
【福岡】ユナイテッド・シネマ福岡
<STAFF>
監督:舛成孝二
脚本:倉田英之
キャラクターデザイン・作画監督:石浜真史
場面設計:竹内志保
メカニック作画監督:渡辺浩二
プロダクションデザイン:okama、神宮司訓之、竹内志保、渡辺浩二
サブキャラクターデザイン:薮野浩二、森崎 貞
演出:畑 博之
色彩設計:歌川律子
美術監督:小倉一男
CG監督:那須信司
撮影監督:尾崎隆晴
編集:後藤正浩
音楽:池 頼広
音響監督:菊田浩巳
録音調整:名倉 靖
音響効果:倉橋裕宗
原作:ベサメムーチョ
制作:A-1 Pictures
製作:「宇宙ショーへようこそ」製作委員会
配給:アニプレックス
<CAST>
小山夏紀:黒沢ともよ
鈴木 周:生月歩花
原田康二:吉永拓斗
西村倫子:松元環季
佐藤 清:鵜澤正太郎
ポチ・リックマン:藤原啓治
ネッポ:中尾隆聖
マリー:五十嵐麗
ボグナー:小野坂昌也
ヘストン:竹田雅則
ロビー:宮本充
インク:飯野茉優
ルビーン:江川央生
>>『宇宙ショーへようこそ』公式サイト