蒼井翔太さん初主演作としても注目のOVAシリーズ最新作『この男子、石化に悩んでます。』監督・山本蒼美さんにインタビュー
2013年秋クールで放送されていたテレビアニメ『メガネブ!』監督でも知られる、山本蒼美(やまもとそうび)さん。20代前半という若さで監督を務めあげたという点でも話題となった彼女だが、実は高校生のころから"自主制作アニメ"を作り続ける生粋のクリエイターでもある。
そんな山本監督が、2011年より発表しているOVA『この男。』シリーズ最新作が、2014年12月に発売された。『この男子、石化に悩んでます。』というタイトルの今作は、同シリーズ第4作目。ストレスを感じると石化してしまう男子高校生・田万里歩(たまり あゆむ)と、彼のクラスの担任・穂仁原鉱也(おにはら こうや)との関係が、美しい色彩とともに描かれている。人気声優・蒼井翔太さんの初主演作としても注目の作品だ。
そこで、今回は山本監督にインタビュー! 最新作についてはもちろん、監督がアニメ制作に目ざめたキッカケやルーツなど、さまざまに伺った。
■ シリーズ最新作を暴く! 蒼井さん抜擢の決め手は声に潜んだ"影"
――『この男子、石化に悩んでます。』は、田万里と穂仁原の関わりを軸に動き出す、繊細な"人間関係"が印象的な作品でした。このテーマはどのようにして生まれたのでしょうか。
山本蒼美監督(以下、山本):今作に限らずなんですけど、悩み事から生まれることが多いですね。今回は、「うまく人と接することができないなあ」っていう私の人見知りな部分をヒントに「じゃあ、それを打破するにはどうするか?」と話を展開させました。で、そこにモチーフとして"石"を加えてみようと。
――石は、一体どこから?
山本:緊張してカチンコチンになるのを「石になる」って言うじゃないですか。その意味合いがまずひとつ。もうひとつは、日常生活で辛いことに直面したとき「心が石のようだったら振り回されずに済むのに……」って思うことありますよね。そういう意味合いからです。"身体の石"と"心の石"というか。この2つの要素から、石にしようと決めて。作りながらストーリーの細部を考えていった感じです。作品自体は、10ヵ月くらいで完成したかな。毎回このくらいのペースで制作してます。
――では、制作中のご苦労なども伺えればと思うんですが……?
山本:それが、四作目でだいぶ制作にも慣れてきたのか、今までにくらべるとそんなに苦労は無いんですよね。週一でスタッフと「今週はここまで進めた」「来週はここまでやろう」っていう打ち合わせをしてたんですけど、スケジュールを一度も落とさなかったですし。
――比較的順調に進んだんですね。
山本:そうですね。……あ、でもストーリーは結構苦労しました。今回は、田万里の話も穂仁原の話も入っているので、その分量感やバランスが難しかったんです。どうしても詰め込みがちになって、脚本が長くなっちゃって。だからそれを整理しつつどう伝えるかというところでは悩んだし、何度か書き直しましたね。あと「主人公に共感できるか」「観終わったあとに前向きな気持ちになれるか」というところには、毎回気を遣って作ってます。例えば、田万里が悩んでるときのセリフとか。「実際に辛い思いをしている子はなんて言うかな?」っていうのを考えて、リアルな言葉選びをしようとしてますね。
――なるほど。そのセリフを一層際立たせるのが声ですが、キャストはどのように決まったんでしょう?
山本:私、声優さんについて全然詳しくないので、スタッフから教えてもらうことが多いんです。蒼井さん(田万里歩役)も、出演舞台を観に行ったスタッフが「山本さんこの声好きだと思うよ」って教えてくれて、サンプルボイスを聴いたのがキッカケです。
――そうしたら、惹かれるものがあったと。
山本:はい。蒼井さんの声って単に綺麗だったり可愛いだけではなく、なんか"影"も感じるじゃないですか。影があるっていうところが田万里のキャラクターに合うと思ったし、悩む主人公の気持ちを理解してもらえるんじゃないかな?と。そう思って選ばせてもらいました。穂仁原は低めの声の方で考えていたのですが、平川さん(穂仁原鉱也役)は1作目(『この男子、宇宙人と戦えます。』シロ役)に出演していただいたときに、全然リテイクがなかったのを憶えてて。
――えっ! それはすごいですね。
山本:どうやら、平川さんが作品をすごく読み込んでくださる方だから、らしいんですけど。そういう方なら、穂仁原もいけるだろうと思ったんです。穂仁原って、生徒からすれば先生だし大人に見えるんだけど25歳で中身はまだまだ子どもっていう複雑なキャラクターなので。安心してこの役を任せられるのは、平川さんだ!と。
――キャスティングも順調に進んだんですね。では、実際にアフレコを見てどうでしたか?
山本:おふたりとも、イメージ通りに役作りしてくださってました。「ここのセリフだけもうちょっと可愛く言ってほしい」とか、微妙なニュアンスを直すことはありましたけど、大きく直すことはほとんど無かったです。それに、平川さんって天使のように優しいかたで、初主役で緊張してた蒼井さんを、優しく受け止めつつ導いてくださってました。音響監督も、このシリーズ全部と『メガネブ!』でも一緒だったかたなので、私の意向は全部わかってくれたし。良いチームワークでできたんじゃないかなと思います。
――発売されて少し経ちましたが、反響ってきていますか?
山本:結構きてますね。あとは、ツイッターでこっそり読んだりも(笑)。
――検索したり?
山本:そうですそうです。発売日はずっとケータイ持ってましたからね、気になって(笑)。「気持ちがわかる」とか「泣いた」とか言ってもらえてたのがいちばん印象に残ってるかな。「色がキレイ」とか、映像面ももちろん嬉しいんですけど、ストーリーについて言ってもらえるとやっぱり嬉しいですね。
■ 色彩美のルーツは子ども時代の"トラウマ"!? 監督の幼少期にせまる
――そもそも、山本監督ってどんな子どもだったんですか?
山本:今でこそアニメ作ってますけど、アニメよりはマンガが好きな子どもでした。家族みんなマンガ好きなので、『週刊少年ジャンプ』から、70年代くらいの作品までなんでも読んでましたね。とくに『ガラスの仮面』『美味しんぼ』『愛と誠』あたりは好きでした。当時はマンガ家になりたいって思ってたくらいだし。あとは、ラジオドラマ。NHK-FMの『青春アドベンチャー』は毎日延々聴いてましたね。
――とすると、監督のルーツはそのへんにあるんですかね。
山本:うーん、ルーツっていうよりは生き方を学んだ気がします。例えば、『美味しんぼ』から「食べることは生きることだ」と学んだとか。ルーツは……なんだろう? 小学生のころ、ジャンプで『ONE PIECE』や『NARUTO -ナルト-』の連載がはじまってもちろん好きだったんですけど、いちばん好きだった連載は『封神演義』だったところ、とかですかね? ちょっと"王道じゃない"ところを行くというか。大衆向けよりは、少しマニアックなものが好きだぞ!みたいな。
――そういう自我が目ざめたのは、このころだったと。
山本:そうですね。あと、中学2年か3年のころに古本屋でよしながふみ先生の『西洋骨董洋菓子店』を見つけて。そこからBLにいきましたね。
――それと、山本監督の作品は色彩も特徴的ですが、これもマンガから?
山本:あ、全然違いますね。これは子どものころに見たイモムシからなんですよ。
――また意外なところにルーツが!
山本:そう。小学校高学年のころ、公園に遊びに行ったら「地面にすごいキレイなものがいるぞ!」と。見てみたら、黄色から黄緑にグラデーションがかかったイモムシだったんですよ。それがちょっと半透明で、陽の光を浴びてキラキラしててもんのすごい美しかったんですけど、生きてるからうごめくんですよ。それはすごい気持ち悪くて。トラウマみたいに記憶に残ったんです。そこで、「色彩ってキレイなものなんだな」って気づきました。
――キレイなものと気持ち悪いものって、ある種表裏一体な部分もありますもんね。
山本:そうなんですよね。だから、今でも虫とか魚とか植物とかすごい好きです。「魚なのにお前蛍光色か!」とか(笑)。それで自然の凄さも感じてるというか。だからたぶん、色彩は自然の色から影響を受けているところが大きいですね。
――最新作のモチーフになった石にも繋がるところですね。そんなルーツを経て、自主制作アニメに目ざめるわけですが、キッカケになったのは中学生の時に見た新海誠監督の『ほしのこえ』だそうですね。
山本:この作品には、わたしの好きなモノが詰まってるんですよ。個人制作だから動かないシーンが多いんですけど、そこはマンガっぽくもあり。モノローグが多いところはラジオドラマみたいだし、色彩もキレイだし。それを目の当たりにして、あーいいな、こういう世界があるんだなって思ったんですよね。と同時に、こういうジャンルのアニメがあるんだということも知ることができたという感じです。
――では、そこから制作を?
山本:すぐに作ろうとは思わなかったんですけど、マンガを描いたりラジオドラマを作ったりいろいろ経て、高校3年生のころにふと「アニメ作ろう」って思い立ちました。当時は若かったので無謀にも「新海誠監督は半年で30分のアニメを作ったらしいから、単純計算で5分なら1ヵ月もあれば余裕で作れるでしょ!」って思って。実際は25分で8ヵ月くらいだったらしいんですけど、誤った認識でなぜか半年だと思いこんでいて(笑)もちろん、あのクオリティで8ヵ月はすごいのですが。ともあれそれで作るようになって、コンテストに応募したりして。「アニメ制作って楽しいな」って思いずっと作ってます。
――実際にどのへんが楽しいですか?
山本:何をやるのも一緒だと思いますけど、自分が作ったものが形になっていくのは楽しいですよね。アニメだったら、絵を描いて、色がついて、動いたり声が入ったり音楽が入ったりして、色んな要素が加わりながら作品として成立していくのがすごい楽しいです。逆に辛いのは、いつもです。制作中は常に辛い。もうやだって思って作ってます。
――(笑)。できあがったときの喜びのために作ってるというか。
山本:そうですね。私、昔からマンガ描いたり、高校時代にラジオドラマを作ったり、小説書いたり、ゲームを作ったり、映画を撮ったり、本当にいろいろやったんですけど、アニメを作るのがいちばん好きだったんですよね。アニメって絵、色、声といろんな要素があるけど、逆をいうといろんな要素があるから個性を出しやすいというか。自分の思い描いた通りの世界を表現できますからね。
■ 次回作のヒントは……「シェアハウスの人間模様」?
――最後に、次回作についても。もう動いていたりするんですか?
山本:今は、いくつか企画書を書いて提出して、全部ボツになってしまったところですね。だからまだ全然決まってないんですよ。
――自身の悩み事からテーマが決まるといったお話はありましたけど、それって降ってくるものですか? それともひねり出すものですか?
山本:ひねり出しますね。降ってくることはないかな。1作目は夢で見た内容をヒントに作ったりもしたので、今回も夢をテーマにしたやつを一本出してみたのですが、うまくいきませんでした。
――今はまさに最初の段階なんですね。普段は広島で活動されてますが、11月12月は一時的に東京に住んでいらしたので、周りからヒントを得る機会も多かったのでは。
山本:確かに。住んでいたのがシェアハウスだったから、家にいるいろんな人と話せるっていう時点で違いました。それに飲み会とかも多いし。得られたことはたくさんあります。で、広島に帰って制作に集中!家から出ない!みたいな(笑)。
――東京でインプットして、広島でアウトプットする感じですね。
山本:そうそう。広島での制作中は常に一人で誰とも会話しないから。佳境に入ると家から出るのなんて、ひと月に3日くらいですからね。コンビニにも行かないし、庭にも……庭にも出なかったな(笑)。制作のピーク時は、どうしてもそうなっちゃうんですよ。その点、シェアハウスでは引きこもりとは程遠かったですね。
――インプットしたもののなかで、印象に残っているものってありますか?
山本:シェアハウスに本当に少女漫画に出てきそうな人がいて、彼の言動はわりとメモしてます。この前なんて、家に帰ったときにLINEから「おかえり」って送ってくれたんですよ。だから「ありがとう」って送ったら、「ごめんね、見かけたからおかえりって言っちゃった」って返事がきて。それに「言ってくれて嬉しかったよ」って返したんですけど、次に送られてきたのが「ううん、おかえりって言えるのも同じくらい嬉しいんだよ」って文面で。
――うわあ……! その返しキュンとしますね。
山本:そう。そんな言葉、人生で初めて聞いた!と思って。衝撃的だったんですよね。だから毎日楽しかったです。そのあたりからなにかヒントが生まれてきそうな感じはあります。……自身の恋愛にはつながらなさそうですけど。
――もうハナからクリエイター視点なんですね。自分の色恋抜きにして、天から見ちゃうみたいな。
山本:まさにそれですね。シェアハウスでその人と彼になついている外国人の子のやりとりを、「ああいいなあー」って思いながら、はたから見てます。まあ、その子も男の子なんですけどね。
――おお、そうなんですか……!
山本:超萌えます。その子、普段全然しゃべらないのに彼とだけはよくしゃべるんですよね。仲良いなーって。
――いい刺激になっているんですね。では次回作も出てくるのはもちろん男子だけ?
山本:そうですね。男子が多いと思います。
――それって、ご自身のポリシーでもあるんですか?
山本:いや、そういうわけではないですよ。ただ、今は昔よりはBLアニメが増えたとはいえ原作モノばかりで、オリジナルのBLアニメって見たくてもほとんど無いじゃないですか。だから作ってる。これから先、オリジナルのBLアニメがたくさん出てくるようになったら考えますけど、それまでは自分で作ろうと思って。
――先ほどもおっしゃっていた、"王道じゃない"ところを行っているということですかね。
山本:ですね。無いなら作るしかないじゃない!っていう気持です。
さらに、「やっぱり、今まで観たことがないスタイリッシュでおしゃれでキレイなアニメを作りたい」と、次回作への意欲が伺えた。絶えず創作を続ける山本監督。今後の作品にも期待がかかる。
[取材&文・松本まゆげ]
■ 作品情報 ■
■ ストーリー
ストレスを感じると身体が石化してしまう症状に悩む、高校生の田万里歩(たまりあゆむ)。 クラスになかなか馴染めないでいた彼は、留年を機に「自分もキラキラした青春を送りたい」と一念発起。 髪型や服装をイマドキにし、話題作りのため流行をチェックしたりするも、気持ちばかりが焦っては 空回りする日々を送っていた。クラス担任で石好きの地学教師、穂仁原鉱也(おにはらこうや)は、 そんな田万里を気にかけ石化を綺麗だと言う。悩みを相談するうちに穂仁原に惹かれていく田万里だったが……。
■ スタッフ・キャスト
監督:山本 蒼美
キャスト:蒼井翔太 (田万里歩 役)/平川大輔(穂仁原鉱也 役)
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