本郷猛復活の『仮面ライダー1号』は、なぜ今作られたのか?

本郷猛復活の『仮面ライダー1号』は、なぜ今作られたのか?――白倉伸一郎プロデューサー&金田治監督インタビュー

いよいよ3月26日から、仮面ライダー45周年記念超大作映画『仮面ライダー1号』が公開されます。ここでは映画の公開を目前に控え、東映の白倉伸一郎プロデューサーと金田治監督(ジャパンアクションエンタープライズ)をお迎えして、映画の企画意図や見どころなどをうかがってみました。

映画『仮面ライダー1号』は、1971年に放送を開始したテレビドラマ『仮面ライダー』で主演を務めた本郷猛役・藤岡弘、さんが45年ぶりにふたたび主演を務める作品として、大いに話題となっています。これまでにも『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』(2011年)で声の出演、『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦』(2014年)では昭和ライダー15人のリーダー格として出演を果たした藤岡さんですが、今回はどうどうの単独主演ということで、企画段階から参加するなど並々ならぬ意欲をこの作品にそそがれているようです。

 

■ 「仮面ライダー1号」の呼び名は、「1号1号」それとも「1号、」

――まずは映画『仮面ライダー1号』の製作に至った経緯からおうかがいできればと思います。これまで、毎年春に上映された東映ヒーロー映画ですと『スーパーヒーロー大戦』(2012年)『スーパーヒーロー大戦Z』(2013年)『仮面ライダー大戦』(2014年)『仮面ライダー3号』(2015年)と、歴代ヒーローが大挙集結する「オールスター」ジャンルが連続して作られてきましたが、今年は仮面ライダー1号と仮面ライダーゴースト、仮面ライダースペクターしかライダーが出てきませんね。これはやはり、ライダー誕生45周年ということで違った流れで行こうとされたのでしょうか。

白倉:今までの流れは、あまり関係ないんですよ。毎年の春は、冬のライダー映画(MOVIE大戦)、夏の戦隊+ライダー映画と違う企画をやるっていう、大まかなことしか決まっていません。その中で「オールスター映画」というのがひとつの方向性だったのですが、本来は何をやってもいい、比較的自由のきく場所ではあるんです。

金田:藤岡弘、さん主演で一本の映画を作ろうという話は、僕が監督として参加した時点では決まっていましたね。

白倉:実は、藤岡さん演じる本郷猛を主役にした映画を作りたいという構想は、10数年前からあったんです。近年『レッツゴー仮面ライダー』で声の出演をしていただき、『仮面ライダー大戦』で本郷猛を演じてもらったことで、「これならそろそろ具体化させることができるかな」と相談して、今回藤岡さんの主演作品が実現したんです。

かねてから作りたいと言っても「なんで今、1号なの?」って言われるじゃないですか。そんなとき、45周年という節目の年は、ちょうどいいエクスキューズになります。藤岡さん主演映画を作るのに、45周年というメモリアルイヤーは絶好のチャンスでした


――藤岡さんをふたたび仮面ライダー1号=本郷猛として呼び込むためには、そこまでの入念な努力が必要だったわけですね。

白倉:本当は、タイトルに『1号』を入れず、『仮面ライダー』とシンプルにしたかったんですよ。

金田:そうなると、今では仮面ライダーがたくさんいますし作品も膨大ですから、いろいろ誤解を招くんじゃないかとか、意見が出ましたね(笑)。

白倉:今回、仮面ライダー1号のデザインをリニューアルしたんですけれど、これによってファンは今回の1号を何と呼べばいいか、ってよく訊かれます。一応「1号1号」って呼んでくださいと冗談で言ってはいるんですが、「1号、」というのもいいかなって(笑)。

金田:口に出して言ったとき、わかりにくいんじゃないの(笑)。

 
■ 映画『仮面ライダー1号』は、「本郷猛」と「ショッカー怪人」と「ライダーファン」の合作!?

――金田監督は、第一作の『仮面ライダー』ではJAC(現JAE)のメンバーとして参加されたとうかがっています。当時の現場はどんな感じだったのですか。

金田:あのころは東映東京撮影所ではなく、「生田スタジオ」って貸しスタジオで『仮面ライダー』を撮っていたんです。スタジオと言っても川の横にあったバラックみたいな場所でね。もうすごいところでしたよ。こんなところで作ってんのかって(笑)。

あのころは僕もスタントの仕事を始めたばかりで、東映のヤクザ映画とかにもよく出させてもらいました。そんなとき「今度は生田で仮面ライダーという番組に行け」って言われて、行ったんです。でもときどき呼ばれる程度で、あまりひんぱんじゃなかったんですよ。

僕たちがスタントやトランポリンジャンプなどを担当していたけれど、『仮面ライダー』がいつ放送されているかもよく知らなかった。土曜のよる7時半だっけ。外で遊んでいる子どもがみんな家に帰ってきて、テレビにかじりついているなんて声が聞こえてきてね、自分も関わっている作品としては誇りに思いました。

白倉:僕自身、そのころは家に帰って『仮面ライダー』観ていた直撃世代での子どもでした。

――当時の藤岡さんの印象はいかがでしたか? 今回の映画のとき、45年前の思い出話をされたりとかはありましたか。

金田:当時から藤岡さんには主役のオーラがありました。一方僕はショッカーの怪人とか戦闘員とかのひとりでしたからね。おそれ多くて口なんてきけなかったなあ。あのころのヒーロー俳優は、男っぽくて、りりしくて……というのがステイタスだったんですね。撮影のときは楽しかった。若手だったからまだまだ未熟で、いっぱい恥もかきました。

白倉:金田監督にもそんな時代があったんですね。

金田:それはそうですよ。誰しも若い時代に失敗を重ね、経験を積んで成長していくんですから。藤岡さんとは、『仮面ライダー』のずっと後になってから、アクションを通じていろいろと関わりを持つようになっていきました。

 
■ 本郷猛だけでなく、「ショッカー」にも「おやっさん」にも、45年の月日が流れている

――映画を拝見して特に強く思えたのは、今回の映画に出てくる本郷猛は、ほとんど藤岡弘、さんそのままの姿なのではないか、ということでした。ご本人も「本郷猛は今の自分と同じ」とおっしゃっていましたし。

白倉:俳優さんのお気持ちとしてはそうなのかもしれませんが、ほんとうは仮面ライダー1号としてショッカーと戦っていた「本郷猛」と藤岡さんと、まったく同じとは言い切れないところがありますよね。しかし、本郷猛という役どころにご自身を投影され、常に自らの生き方、行動を律しておられる藤岡さんですから、ある意味イコールとして考えてもいいのかなと思います。

――藤岡さんは企画から参加されたとうかがっていますが、ストーリーはどのように固められていったのですか。

金田:先ほども言いましたが、まず藤岡さんの主演作品ということが決まって、そこから監督として呼んでいただき、シナリオの中身を細かくつめていきました。

白倉:最初の大きな枠が出来上がるまで、藤岡さんと数ヶ月にわたって打ち合わせをしましたよ。藤岡さんはいい意味でどん欲というか、いろいろなストーリーの可能性を探っていて、平たく言えばあれもいいし、これもいいと(笑)。そういった部分の落としどころを見つけるのが難しかったですね。それでこういう感じのお話、という大まかなものを作り、井上(敏樹)さんにお渡ししてシナリオが出来るわけです。

金田:最初の構想では、立花麻由の年齢設定や本郷との関わり方が違っていたよね。

白倉:麻由が藤兵衛の孫、という設定は井上さんによるアイデアでした。せっかくのライダー45周年映画だから、ヒロインにも45年という歴史を背負わせたいって言っていましたね。また、ライダーが45年なら敵であるショッカーにも同じだけの時間が流れているだろうと、ショッカー内部での世代抗争や、本郷のライバルとして地獄大使を登場させようということを考えたのも、井上さんでした。

金田:麻由の場合、ただのゲストヒロインではなくライダーの歴史に大きく関わっているキャラクターにして、よかったよね。撮り終ってから、そういう歴史的な意味を改めて深く考えるようになりました。本当は撮ってるときに思わないといけないかな(笑)。

 

■ 45年間戦い続けてきた本郷猛が、仮面ライダーゴーストに敵わない点は?

――予告編でとても印象的だったのが、燃え上がる炎を背に受けて仮面ライダー1号が「復活」するというシーンです。あそこは火を使いますし、夜間シーンですから撮影はたいへんだったのではないですか。

金田:あのシーンはとてもカッコよく撮れていて、自分でも気に入っています。やはり、伝説的な人物・本郷猛が復活するのなら、あれくらい炎が盛り上がっていないとね。

白倉:あのシーンは、前日から美術スタッフが準備していましたね。

金田:みんなでロケハンに行って、この場所で撮るんだよって事前に言っておいたのに、撮影当日になるとぜんぜん別な場所で木材を組んでいてね、おい、ここだって言っただろ~って怒ったよ(笑)。

白倉:ああ、だからスタッフが組みあがった木材を神輿みたいにして移動させてたんですね。

――もっとも新しいライダー『仮面ライダーゴースト』の天空寺タケルと本郷猛との関わりについては、どのように考えられましたか。

白倉:今の子どもたちにとって一番ポピュラーな仮面ライダーですから、ゴーストのことも重要に考えていましたよ。これも井上さんのアイデアなんですが、45年間戦い続けてきた本郷猛でも一点だけ、若いタケルに敵わないことがある

それはタケルが死を経験していることなんですね。実は本郷もタケルに「死んだ状態ってどんな感じなんだ?」と訊いてみたいんじゃないか、とか(笑)。タケル=ゴーストは生死の境界を飛び越えた存在で、そこだけは本郷も敵わない。しかし、どこかでそんなタケルにも並び立つという風に持っていかないと、本郷が主役の物語にはなりません。そこで、タケルとは違う形で世の常識を「超越」させたい……という思いが、あの復活シーンにつながっているんです。

 
■ 本郷がタケルに「なぜ命が大切か」という理由

――「戦隊VS」シリーズや「大戦」シリーズなどに観られる「ヒーロー同士の対立や和解」といったプロセスが今回はなく、タケルと本郷はわりと瞬間的にお互いを認め合う、いい関係が築かれていますね。

白倉:世代間対立の部分はショッカーサイド(新組織ノバショッカー)にやってもらいました。今回は本郷猛の主演映画ですから、まずゴーストとぶつかって、対立して、和解して……みたいなくだりがあっても尺がもったいないかなと(笑)。そういうところはぜんぶすっとばしました。

金田:そこのところがいさぎよくて、ヒーロー同士、ライダー同士の通じ合うところを描くことができて、よかったと思います。

白倉:最初のほうで本郷がタケルに「なぜ命が大切か」と問いかけ、タケルの返答にダメだしをするじゃないですか。そのくせ後半では、自分も彼と同じことを言っている。

金田:あそこは、頭ごなしにタケルを否定しているんじゃないんですよね。

白倉:よくあるきれいな言葉として言うんじゃなくて、本質を理解した上で言っていればいいんだってことですね。本郷が変身する直前に「俺は本郷猛だ!」って叫ぶでしょう。理屈はよくわからなくても、何を言っても説得力がある。そんな人でいてほしい。いろいろなものを超越したヒーローとして、今回の本郷猛を描きたかった

金田:本郷は、「人々の命が大切だから守る」というタケルの言葉が嬉しかったんじゃないか。僕はそう思いながら撮っていましたよ。彼(タケル)は若いが、何かを持っていると本郷が瞬間的に察したという風に演出しています。

 
■ 「人間が生きていく原点」をメッセージに込めて……

――理屈抜きの説得力、迫力というのは、本郷がヘルメットを被らずにネオサイクロン号で爆走するカットなどにも顕著だと思います。

金田:本郷はヘルメットをしない主義なんです(笑)。

白倉:ヘルメットを被るくらいなら変身するんですよ(笑)。これは我々も藤岡さんもそうでしたが、第1作『仮面ライダー』の初期エピソードでの本郷をイメージしていますね。

金田:当時はノーヘルで公道を走っても問題なかったんだよね。映画でのシーンは公道じゃないからノーヘルでよかったんだけど、もともとヘルメットは被らせたくなかった。

白倉:いろいろなものを超越したヒーローということでね。ネオサイクロン号にしても、設定ではもうとてつもないチューンナップをしているんではなかろうか、とか。

金田:本郷が立花藤兵衛のガレージに帰ってきて、ホコリだらけの写真を拾うシーンもあったけど、あれって45年もそのまま放っぽらかしてたのかな(笑)。

白倉:誰も掃除しなかったのかと(笑)

金田:いろいろ説明するとかえってややこしくなるんで、少々の矛盾とかがあっても「こういうものなんだ」と通したほうがいいものなんですよ。

白倉:麻由は藤兵衛の孫ですけど、じゃあ彼女の両親はどんな人で……とか、特にこだわっていませんしね。台本には簡単な説明があったんですけれど、そういう部分は尺の都合もあって、いっそのこと省こうと。

――お話をうかがっていますと、45年前の第1作『仮面ライダー』の要素を踏襲するのではなく、今の時代を生きる子どもたちにストレートにアピールする新たな「仮面ライダー1号」像を作ろうという思いが感じられますね。

白倉:基本、どんな作品も作るときは常に「子どもたち」の目を強く意識しています。もちろん、かつて本郷猛の活躍をテレビで応援していた私くらいの年代の方々にも映画を観てほしいですけれど、ことさら大人ファンに合わせているわけではないんですよ

最後に出てくる「命」のメッセージについても、藤岡さん自らが「未来を担う子どもたちのために」と考えていますからね

金田:人間として当たり前のことを言う、単純な言葉なんですよ。ちょっと今だと恥ずかしいかな、みたいなことをズバリ言っていますから。でも、よく考えたら「命」を大事にしようっていうのは、人間が生きていく原点。シンプルな言葉は大人にも通じる。難しく言うこともできるけれど、わかりやすい言葉で子どもにも大人にも伝えるってことが大切だと思います。

――ありがとうございました。

[取材&文・秋田英夫]

◆公開情報

映画「仮面ライダー1号」
3月26日(土)ロードショー!

<STORY>
命を、愛を、未来へつなげ― 本郷猛、最後の日!! この春、究極のヒーロー「仮面ライダー1号」の勇姿を目撃せよ!
今から45年前、男は悪の秘密結社ショッカーの手によって改造人間にされた。あの日以来、人間の自由を守るため、男は戦い続けている。彼の名は、本郷猛。この世に誕生した、最初の仮面ライダーである。長年にわたり、海外で悪と戦ってきた猛は、ひとりの少女の危機を知り、急遽帰国する。少女の存在が、かつての最高幹部・地獄大使を復活させるために不可欠なのだ。猛は、ショッカーが少女を狙う理由を探っていた仮面ライダーゴースト=天空寺タケルや、その仲間たちと出会う。しかし、あまりにも過酷な日々を過ごしてきた猛の肉体は、すでに限界へと近づいていた。少女の危機、そして新たな組織・ノバショッカーがもたらす日本の最大の危機に、伝説の戦士・本郷猛が「変身」する。闘い続けてきた本郷猛を待つものは安らぎか、それとも――。

<出演>
藤岡弘、 西銘駿 岡本夏美 阿部力 長澤奈央 武田幸三 大沢ひかる 山本涼介 柳喬之 竹中直人/大杉漣

<スタッフ>
原作:石ノ森章太郎
企画:藤岡 弘、
監督:金田 治(ジャパンアクションエンタープライズ)
脚本:井上敏樹

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