新人キャスティングは毎回が賭けで30年!?『マクロスΔ』河森正治総監督、安田賢司監督、キャラクター原案・実田千聖さんインタビュー
歌と戦闘機、三角関係をテーマとしたロボットアニメ『マクロス』シリーズの最新作となる『マクロスΔ(デルタ)』。TV放送を直前に控えた2016年3月21日には「『マクロスΔ』放送直前ルンピカ上映会 ~1&2話ゴリゴリ見せちゃるかんね~」が開催されました。今回はそのイベント終了後、河森正治総監督、安田賢司監督、キャラクター原案・実田千聖さんら3人のメインスタッフを直撃。本作の魅力や制作秘話について語っていただきました。
■ ゲーム『エクストルーパーズ』での出会いが、実田さんが参加するきっかけに
──まずは、本日の感想をお願いします。
河森正治総監督(以下、河森):先に0.89話という形で放送できていたものの、その時にはまだ描けなかった部分まで見ていただけてよかったなと思っています。キャスト陣の皆さんにもようやく公式の場に出演していただけました。現場もほぼあの雰囲気のままのテンションなのですが(笑)、非常にいい温度感でいけそうな気がしています。
こうしたリアルタイムでのライブをやると、本人達の動きやお客さんの反応なども作品の中にフィードバックしていきたくなってしまうのが大変ですね。……これを言うと、隣で安藤監督がヒヤヒヤされていますけど(笑)。
安田賢司監督(以下、安田):僕も今回ライブを見させていただいて、『マクロス』は登場キャラクターが主題化を歌うことが多く、OPやEDを込みで1つの作品なのかなということを改めて感じられました。
歌が大きくフィーチャーされる作品なので、大勢の方と共有して観てもらえればより楽しいのかなと。そういう意味でも、また今回のような場を作っていければと思っています。
──実田さんはカプコンに所属されていますが、本作に参加された経緯を教えてください。
安田:以前、カプコンさんから発売していたゲーム『エクストルーパーズ』のプロモーションビデオを作る時に、実田さんの存在を知ったのがきっかけですね。その時から非常に個性があり、キャラクターにパワーのある絵を描かれる方だと印象に残っていたんです。実田さんの名前が上がったら、もう即決という感じでした。
河森:それまでは誰にデザインをお願いするかすごく難航していたんですよ。絵が上手いだけじゃなく、キャラクターや衣装のデザインができて、なおかつアニメーションとしても描きやすくなりうるだろうというバランスを満たしていないといけない。
ちょうど以前ご一緒した時、「キャラクターデザインどうですか?」という話をしていたこともあったので、自分でも流れが上手くいったなと思いますね(笑)。
──実際に制作に参加されてみてどうでしたか?
実田千聖さん(以下、実田):普段カプコンでは、アートディレクターの元でその意図を汲みながらデザインをしているのですが、比較的その時と同じような感覚でできました。
あと、とにかく河森さんが優しくて(笑)。お会いする前は、恐い方だったらどうしようとビクビクしていたのですが、動画で見た温厚な雰囲気そのままの裏表のない方でした。ただ、ネタがイマイチだった時は、きちんと容赦のないコメントも言って頂けています(笑)。
河森:取材でドバイにも一緒に行きましたね。
実田:その時は河森さんのバイタリティが本当にすごくて。20時間くらい歩き回ったあと、皆はぐったりとバンで横たわってるんですけど、河森さんは「まだ見たい所があるから僕だけ行くね」と。ついていきたいと思っても、こっちの足は動かないっていう(笑)。
河森:あの時は取材に行く直前に足を怪我してしまっていて、自分ではどうなるかと心配だったんですけどね(笑)。
実田:にも関わらず、誰よりも早く、興味をもって沢山歩き回られている。これがスーパークリエイターなんだ、と改めて思い知らされました。
安田:吸収力や探究心が本当に凄いんですよね。
河森:今回は複数の星とそこに住む異星人が出てくるので、地球上のいろいろな場所で刺激を受けておきたかったんですよ。ただ異星人のバリエーションなどはやりすぎるとマンガチックになりすぎるので、ほどほどのレベルで特徴のあるデザインをお願いしました。
実田:その辺りのデフォルメのレベルなども河森さんが的確に指示をしてくださるので、スムーズに作業できました。いつも最短の距離のアイディアを出してくださるので、良い物が凄く短い時間で作れるんですよ。普段は何度も打ち合わせを重ねてようやく案が出てくるという感じなので、なかなかこうはいかないです。
──実田さんはこれまでにもアニメーション作品に参加された経験が?
実田:いえいえ、まったくないです! ウチの会社でも社外との仕事をしているのは数人くらいしかいないと思います。今回は本当にたまたまお二人に見つけていただけて。
安田:『エクストルーパーズ』のキャラクター達は本当に表情豊かで、こういったキャラクター達が『マクロス』に入ってくれれば面白いなと思っていたのですが、今となっては大正解でしたね。
──どのあたりのキャラクターからデザインされていったのでしょうか?
実田:ハヤテ、フレイヤ、ミラージュといったあたりですね。最初は記号が少ない方がいいかなと思っていたのですが、「キャラの数が多いので、シルエットで分かるように」という指示を頂き、以降は形が遠目からでも一瞬で分かるようなものにしていきました。
河森:実田さんは1回オーダーすれば、必ずA、B、C、D、Eくらいのバリエーションをいくつも出して下さるですよ。デザイナーマインドというのを非常に分かっている方なので、一緒に仕事をしていても楽しいですね。
──デザインで苦労された点というと?
実田:情報量を減らすのが、ゲームとは正反対の作業なので大変でした。凹凸を出さないとポリゴンモデルが映えないという考え方のクセがなかなか抜けなくて。
河森:ワルキューレのステージ衣装の情報量は本当にギリギリですね(笑)。
実田:あれは自分でも「現場の皆さんごめんなさい」と思いながらデザインしていました(笑)。決定稿でもほとんどのパーツが残ってるんですよね。
河森:もちろんある程度は省略していますが、動いたら印象は殆ど変わらなくなるかなと。いわゆる判子絵にしたくなかったのもあって、それぞれのキャラクターの目の形についても全て変えていただいているので、デザインの作業はかなり大変だったと思います。その分、アニメーターの方も大変なので、現場からの視線が痛いですけど(笑)。
■ フレイア役・鈴木みのりさんの新人離れした器用さに、河森監督も仰天
──『マクロスF』から年月が経ち、今だからこそできるようになったことはありましたか?
河森:今だからできるはずだったことはいっぱいありますけどね(笑)。
安田:8年経ったことで越えないといけないハードルも自ずと高くなってしまったのもあり、TVシリーズとしてどうバランスをとっていくかというのには苦労しました。
河森:当初にワルキューレをユニットにしようと考えた時も、『AKB0048』のように引きはCG、寄りは手書きでやればいいと思っていたんですが、「戦闘シーンがどれだけ大変だと思ってるんですか!」と怒られて(笑)。
安田:労力が1話で3本分と言われましたね(笑)。
河森:カット数的は『マクロスF』からそれほど変えていないのですが、今回はバルキリー同士の編隊飛行が多く、よりライブの回数も増やしているので、作業量が増えているのはあります。
安田:戦闘シーンは勿論、歌やライブパートなど、毎回本当に惜しみなく労力を注ぎこんでいます。『マクロス』というのはそれだけのことをやらないといけないタイトルだと思いますし、皆さんの期待に応えられる出来にもなっていると思います。
──主人公が戦闘機の操縦は素人で、最初からバトロイドの操縦に慣れているというパターンはあまりなかったかと思うのですが。
河森:元々は、器用貧乏すぎて、やりたいことの決定打がないという所からキャラクターがスタートしました。1人1人のキャラクターの出番の尺には限界があるので、最初から軍人にするというのも考えたんです。
ただ、やはりシリーズの伝統的な、1からバルキリーの操縦技術を習得させていくという過程を描きたいというのがあり、そこでワークロイドの扱いに慣れているという所から入っていけば、説得力もあり導入がスムーズにいくだろうなと。
──『マクロス』シリーズの主人公用バルキリーというと、これまで赤のイメージが強かったと思うのですが、今回はパーソナルカラーが青ですよね。
河森:TVシリーズで大気圏内の戦闘を描くのは大変なので、いつも宇宙に逃げるわけなんですけど(笑)。今回はそこから逃げず、風を感じて飛ぶ主人公を描くならブルーはありかなと考えて決断しました。ただ、ブルーだけだと主人公機らしく見せるのが難しいので、ワンポイントで赤を入れる色分けにはしてはいますね。
──『マクロス』シリーズで、毎回のように新人のキャストをメインとして起用するのはすごく大変なことではないかと思うのですが。
河森:毎回が賭けですよね。「見つからなかったらどうしよう」と言いながらやり続けて30年という感じで。特に長い間続けているシリーズで、金太郎飴的な同じものを作るのが嫌いでして、初めての要素というのが常にあって欲しいんです。
それに彼女たちを見ていると、自分が新人で仕事するのが楽しかった頃のマインドを思い出させてくれるんですよ。二人とも今日が正式なライブステージとしてはほぼ初めてだったと思いますが、ソロでもあれだけ盛り上げてくれると自分たちもスイッチ入りますよね。
安田:本当に眩しくて、疲れた心が癒やされます(笑)。
河森:正直、1話のアフレコを始めた時、この台詞の量と難易度は新人には厳しいなと思ってました。鈴木さんは今回のステージを見ていただければ分かるように、お客さんの反応に合わせて次の行動を変えられる「感の良い子」なのですが、現場でもその時のオーダーに合わせてしっかりと変えてくれて。方言に長台詞に、下手をするとあそこで潰れてもおかしくなった無茶振りばかりだったので、これがもし鈴木さんじゃなかったら危なかったと思いますね。
安田:本当に器用なんですよね。新人さんなんで、台詞の位置は後から編集で合わせようと思っていたんですが、結果的にピタっと合うことも多く、アフレコの技術も高かったですよ。
河森:最初の頃は叫び声がちょっとつたない印象だったですが、何話かアフレコが進んでいくとすぐ叫びの出し方まで習得していて、「なんだこの新人は」と衝撃を受けました。そういう姿を見ると気持ちが踊りますし、新人さんから受ける刺激は心を新たにしてくれますね。
──最後に、放送を楽しみに待つファンの皆様へのメッセージをお願いします。
実田:最初の『マクロス』で、一条くんの乗るバルキリーがガウォーク形態に変形した時、「何この形!?」と衝撃を受けたのを今でも覚えています。
今回のデザインは初代『マクロス』はもちろん、『マクロス7』や『マクロスプラス』といった歴代作品のテイストも入ったものとなっているので、シリーズファンの方は是非楽しみにしていただければと思います。
安田:まず『マクロス』シリーズには長い歴史があり、それを踏まえた上で今回の『マクロスΔ』という作品が存在するということを見せていければなと。
また本作では現在もまだ謎が多い、プロトカルチャーという要素についても掘り下げていくつもりです。新しい発見に加えて、過去との繋がりのようなものも少しずつ見せていければと思っておりますので、古くからのファンの皆様にも楽しんでいただける作品になっているのではないかと思います。
河森:これまで30年続けてきて、また今までと違う新しい『マクロス』を、皆の力を借りて作れていることは凄く嬉しいです。ずっと応援してきてくれているファンの方はもちろん、歌と戦闘がある作品だなぁ、くらいの知識があれば見られるように作っているつもりなので、とにかくたくさんの方に楽しんでいただきたいなと。
今は歌なら歌、恋愛ものなら恋愛ものだけ、というように細分化された作品が主流となる時代かと思うのですが、敢えて全部入りをやるという無謀な試みにチャレンジします。まったく新しいエンターテイメントとして、「いけないボーダーライン」の先に行けるような作品を目指していきますので、応援よろしくお願いします。
■ 『マクロスΔ』作品情報
<STORY>
西暦2067年、人間が我を失い凶暴化する奇病「ヴァールシンドローム」が猛威を振るう銀河辺境の地。対抗手段として結成された戦術音楽ユニット「ワルキューレ」は、「ヴァールシンドローム」の症状を歌で鎮めるため、星々を駆けめぐり、ライブ活動を展開していた。一方、時を同じくして、「空中騎士団」と呼ばれる「風の王国」のバルキリー部隊が動き始め──質問。プロトカルチャーの遺産の謎が絡み合い、星系を超える熱きチームワークと恋の物語が幕をあげる。
<STAFF>
原作:河森正治・スタジオぬえ
総監督:河森正治
監督:安田賢司
シリーズ構成:根元歳三
キャラクター原案:実田千聖[CAPCOM]
キャラクターデザイン・総作画監督:
まじろ
進藤優
メインアニメーター:中山竜
世界観デザイン:ロマン・トマ
バルキリーデザイン:河森正治
メカニックデザイン:ブリュネ・スタニスラス
美術設定:ニエム・ヴィンセント
デザインワークス:大橋幸子
マクロスビジュアルアーティスト:天神英貴
色彩設計:林可奈子
美術監督:
池田繁美[アトリエ・ムサ]
丸山由紀子[アトリエ・ムサ]
撮影監督:岩崎敦[T2studio]
CGディレクター:森野浩典
CGスーパーバイザー:加島裕幸[unknownCASE]
CGアニメーションディレクター:崎山敦嗣[unknownCASE]
メインバルキリーモデリング:
池田幸雄
坂本圭司
モニターグラフィックス:
HIBIKI
鈴木陽太[flapper3]
加藤千恵[T2studio]
特殊効果:飯田彩佳
編集:坪根健太郎[REAL-T]
音楽:
鈴木さえ子
TOMISIRO
窪田ミナ
音楽制作:フライングドッグ
音響監督:三間雅文
音響制作:テクノサウンド
アニメーション制作:サテライト
<CAST>
ハヤテ・インメルマン:内田雄馬
フレイア・ヴィオン:鈴木みのり
ミラージュ・ファリーナ・ジーナス:瀬戸麻沙美
美雲・ギンヌメール:小清水亜美
カナメ・バッカニア:安野希世乃
レイナ・プラウラー:東山奈央
マキナ・中島:西田望見
アラド・メルダース:森川智之
メッサー・イーレフェルト:内山昂輝
チャック・マスタング:川田紳司
アーネスト・ジョンソン:石塚運昇
ロイド・ブレーム:石川界人
キース・エアロ・ウィンダミア:木村良平
ボーグ・コンファールト:KENN
ヘルマン・クロース:遠藤大智
カシム・エーベルハルト:拝真之介
テオ・ユッシラ/ザオ・ユッシラ:峰岸佳
グラミア6世:てらそままさき
ハインツ2世:寺崎裕香
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