みんなに好かれる作品にしようという配慮はどんどんなくなっていった――『仮面ライダーアマゾンズ』白倉伸一郎プロデューサー×小林靖子さん対談<前編>
「仮面ライダー」シリーズ最大の異色作とも言われる『仮面ライダーアマゾン』(1974年)をベースに、「平成ライダー」を築き上げたスタッフ陣によって完全新生された『仮面ライダーアマゾンズ』。「Amazonプライム・ビデオ」でのオリジナル版が配信されているほか、BS朝日(毎週日曜深夜1:00~)、TOKYO MX(毎週水曜22:30~)にて、再編集されたテレビ版が放送中です。
今作スタッフのキーマンとなるのが、平成ライダーをヒットに導いてきた東映の白倉伸一郎プロデューサーと、脚本家・小林靖子さん。配信オリジナル版が最終回を迎え、テレビ版の放送がはじまったタイミングでインタビューを実施しました。
おふたりにとって、『アマゾンズ』とはどのような作品だったのか。<前編><後編>および、白倉さんによる<仮面ライダー語り>の全3回にわたってお届け。<前編>では『アマゾンズ』の企画経緯や、主に前半の話数について語っていただきました!
※本編のネタバレが含まれていますので、未視聴の方はご注意ください。
■『アマゾン』の遺伝子を引き継いだ『アマゾンズ』
――『仮面ライダーアマゾンズ』の企画発想の源はどういったところからだったのでしょうか?
白倉伸一郎プロデューサー(以下、白倉):『仮面ライダーアマゾン』のリブート作をやると靖子にゃん(註:白倉さんは小林さんをこう呼ぶ)にご相談したところ、養殖と野生――"養殖のアマゾンライダー"と"野生のアマゾンライダー"の対比っておもしろいかもねと言われたんです。どんなキャラクターになるのか考えていくと、まずお坊ちゃんとホームレスになり、最終的には引きこもりとヒモに行きつきました(笑)。
脚本・小林靖子さん(以下、小林):ライダーは2人で、「アマゾン」のモグラ獣人みたいなキャラクターも出す、といった要素は白倉さんから最初期にうかがっていました。
――いろいろな形のリブートがありえたと思いますが、今回の『アマゾンズ』では、『アマゾン』からは主にデザイン的なモチーフを引き継いだ形でしたか?
白倉:細かいモチーフは引き継いでも、『アマゾン』をオマージュしようとは思っていませんでした。まず、文化的な背景が40年前と今とで全然違いますからね。当時は『ターザン』とか『北京原人の逆襲』といった映画が流行っていて、要するに『アマゾン』ってターザンが都会に出てきた話だったので。現在で、それをそのまま焼き直しても、ただの変な人にしかなりませんからね(笑)。なので、『アマゾン』の主人公・山本大介の裸属性なんかも、悠ではなくマモルに引き継がせています。
――ギギの腕輪も"アマゾンズレジスター"として、『アマゾン』とは違う形で重要な役目を負って登場していますね。
白倉:『アマゾン』でも腕輪を大事にしていたので、『アマゾンズ』でも何らかの意味を持たせいとは思っていました。かなり違った意味あいになっていますけどね。腕輪に内蔵された抑制剤が切れると、アマゾン細胞が覚醒して手が付けられなくなる……といった設定の割り切りは、靖子にゃんの恐ろしいところですね。
――アクション面でも、『アマゾン』のようなダイナミックさが引き継がれていて、見どころのひとつになっています。
白倉:『アマゾンズ』のアクション監督はGocooの田渕景也さんにお願いしましたが、特に5・6話の金田(治)監督とのタッグはおもしろかったですね。何といっても、金田監督は今日までニチアサのアクション・スタントを支えてくださっているJAE(Japan Action Enterprise)の社長なわけですから。組んで仕事をするのは初めてということで、現場では田渕さんらGocooさんが戦々恐々としているんです。「頼む! 金田さんだけはやめてくれ!」っていう心の声が聞こえてくるようで……。まぁ、そんなの聞こえちゃったら、ぶつけるしかないですよね(笑)。
一同:(笑)
白倉:やってみると、そこはアクション界の人間同士、立ち回りをしているうちにすぐ意気投合してくれて。トンネルやバスでのアクションシーンなんかが、現場でどんどん増えていきましたね。蝶アマゾンも、最初はあんなに飛びませんでしたからね。アイディアを出し合って、もの凄く建設的な議論を重ねて、凝り過ぎちゃったあまり、誰も手出しできなくなりましたよ(笑)。
――監督陣をはじめ、全体的に見ても豪華なスタッフ布陣になっています。
白倉:若手の監督で固めるという選択肢もあったんですけれど、どんどん豪華になっていきましたね。石田監督と靖子にゃんが引き受けてくださり、なんと田﨑監督も参加してくれることになり。あまりにも恐れ多い面々が揃ってしまったので、滅多な監督にはお願いできなくなったんです。そこで金田監督にもお声をかけさせていただきました。
■「仮面ライダー」初の配信オリジナル連続ドラマという挑戦
――配信作品であることが、話の作り方に影響した点などはありますか?
白倉:配信作品の特徴のひとつは、過去の話数がいつでも見られることです。途中から見るということがなく、お客さんみんなが第1話から見るんですよね。
小林:第1話はたくさんの方が見てくれますけど、そこからだんだん減っていくだろうという前提に則って脚本も書いています。後半の話数になるにつれて、みんなに好かれる作品にしようという配慮はどんどんなくなっていきました。
序盤の話数での悠は、主人公・ヒーローらしい決意もしています。でも、悠の変化を描いていく中で、主人公だからって好きになってもらわなくてもいいと考えるようになりました。悠はたぶん、普通のヒーローとは違うんだなと思うようになって。それって普通はできないことなので、もちろん躊躇はしましたけれど。
白倉:そこで振り落とされるお客さんは、もっと早い段階から振り落とされているはずですし。良い言いかたをすると、後半の話数にいくにつれて、どんどん濃くなっているんです。
――第9話をはじめとして、バイオレンスな描写も話題を集めましたが、配信だからこそできたのでしょうか?
白倉:テレビではないといっても、あくまで「仮面ライダー」を作っている自覚があるので、自主規制のラインは持っていました。みんな良識はあるから、もちろんエログロ・ナンセンスはやらないですし。スタッフもニチアサと同じ顔ぶれですしね。
小林:脚本段階でも、配信だからそういう描写をやっちゃおうというわけではなく、あまり気にしなくていい――くらいの感覚でした。地上波でも放送できるくらいのレベルでというお話だったので、実はそんなに直接的な描写はないんです。
白倉:人喰いレストラン(第9話)も話題性を求めたわけではないんですよ。あれを第1話でやるのは完全にアウトですけど、もう第9話まで来たから、これまで見てきた人なら大丈夫だろうという判断をしたんです。
バイオレンス描写ありきの発想でもなくて、あの世界観での作劇上ありえるシチュエーションを、怖いシーンとして表現してるだけです。第9話の中でも、その後の悠に影響を与える出会いを描写したりと、物語を進めていますので。
――尺に関しては制限がないからフレキシブルになったのでしょうか? 第1話は45分を超えるスケールになりましたが。
白倉:脚本の段階だと全部同じ長さなんですよ。
小林:第1話は、最近のライダーに比べると少し長いかな……とも思ったんですけれど、あくまで30分モノの枚数に収めてます。『仮面ライダー龍騎』(2002~03年:プロデュースを白倉さん、メインライターを小林さんが務めた)のころと同じくらいですね。
白倉:オープニングの有無くらいの差です。ただ、実際に撮影した第1話が46分になった時は……ちょっと考えましたね。1時間番組の正味の尺より長いわけだから、2話に別けちゃおうか! とか(笑)。
小林:そうすると、第1話にライダーが出てこなくなっちゃう(笑)。
白倉:プロデューサーとしては、1話のつもりで撮ってるから、予算が浮くな……とか考えるんですよ、真剣に(笑)。でも靖子にゃんの言うとおりで、分けると第1話で悠は変身しないし、仁も出てこない。予告で出せばいっか! とも思ったんですけど、悠が水槽を見ているシーンでエンディングに入っちゃシュールですからね(笑)。
一同:(笑)
白倉:第1話は46分という長尺になりましたけど、長尺ならではの間や描写に、ニチアサのライダーとはまた違った価値があるんだと思っていただけたらなと。第1話をきちんと満足できる完成度にしないと次がないのが配信だと思いますので。次につなげるという意味では、引きの強さなんかもニチアサ以上に意識しています。
■ 駆除班の一大エンターテインメントになったマンション編
――第1・2話を経て迎えたマンション編(第3・4話)は、かなりスケールの大きいものになっていました。人気も高いエピソードだと思いますが。
白倉:マンション編は、とにかくお金も場所も食ったので、成立させようと必死でしたね。縁の下チームも大揉めで……。部屋の中で戦うシーンは、まさか実際にやるわけにもいかないので、ちょうど別番組のためにあったセットをうまいこと使いました。ロケ撮影分とつなげても違和感が出ないように、部屋のドアはちゃんと同じものを用意したりと、けっこう緻密にやっているんです。
小林:マンション編は、脚本執筆とロケハンとで並行して進んでいましたね。実際に使えるマンションが決まってからは、けっこう細かい修正をしました。
白倉:第3・4話を担当した田﨑監督のすごいところなんですよ。撮影所のスタジオにマンションのセットを立てて、キャラクターの動き方から整合性まで「このシチュエーションならこうでしょう」と、ホワイトボードを使って完璧に図解して説明してくれるんです。
小林:最終的に給水塔まで行くというシンプルな内容になったので、長すぎたシーンがカットできてよかったですけれど。段取り的な直しなので、最高に面倒くさかったです(笑)。
白倉:田﨑監督の感性としては、屋上にゴール地点があって、1階から屋上まで突っ走る中で、アマゾンたちを障害物として配置するということなんです。駆除班が走っていって、「俺はここまでだ……あとは頼む!」といった場面もありつつ、最後に残った3人が敵の本拠地にたどり着くつくと、ラスボスが待ち受けている――と。ラスボスの女王アリが今までどこに隠れてたのかは、まぁいいとして(笑)。そういう映画的なノリで勢いよく作りたいということなんです。理屈をこねることで、その"ノリ"を作れちゃうのが田﨑監督のすごいところで。田﨑監督に説明されると、スタッフみんな納得させられちゃうんですよ。
小林:第3・4話は本当にすごかった。
白倉:もう、一大エンターテインメントですよ。悠の覚悟を勢いづけつつ、駆除班がずっと戦ってますからね。これ仮面ライダー? ってくらいに(笑)。
――全体を通じて、駆除班が魅力的に描かれていますよね。フクさん(福田耕太、演:田邊和也)を筆頭に、女性からの支持も熱い印象です。
小林:眼鏡だからですかね。フクさんって、意外とおいしい役ですよね。
白倉:駆除班のキャスティングは当初、武部(プロデューサー)にすごく怒られたんですよ。「おっさんばっかりキャスティングして!」って(笑)。
――駆除班として7人が登場することは、当初から決まっていたのですか?
白倉:もうちょっと少なかったんですけど、最初に1人殺そうということで増やしたんだったと思います。
小林:後から悠も入りますしね。最初の人数のままだと、1台の車に乗るには多すぎてしまうんです。
白倉:「荷物とかも入れたら2台必要だ!」なんて話が現場で出てきて(笑)。
小林:いや、減るから大丈夫! と(笑)。「減らせ」と言われるだろうとは私も思っていました。
――駆除班ひとりひとりのキャラクターが掘り下げられつつ、メンバー同士の絆も描かれていきました。
白倉:第2話での「(大滝)竜介を狩る」(志藤)とか、セリフだけ聞いたらなんて冷たいやつらなんだって感じますけれど、そこはさすがの靖子にゃん。さすが「必殺」シリーズ好きですよね。
小林:私としてはもっとドライな感じで作っていたんですけどね。お互いに思いやりがあるあの感じは、石田監督によるところが大きいです。石田監督はものすごく情の厚い方なので、駆除班も情の厚い組織になっていったんですよ(笑)。
――後半で悠が戻ってきて、駆除班の絆がまた強くなったところからの、マモルの一件は衝撃的でした。
白倉:マモルの運命は、当初の案とくらべて結構変わってるんですよ。最後に三崎(演:勝也)の腕を食べちゃいましたけど、あの程度に収まって良かったと感じています。
小林:見てる側からすればつらかったかもしれないですけど。マモルは、楽な決断になったかもしれないですね。
白倉:いやぁ……恐ろしいですよこの人(小林さん)は……。
そうそう、話はかわりますが、マモル、というかモグラアマゾンに関連してなんですけれど、このあいだすごくビックリしたことがありましたよ。『アマゾンズ』のオリジナルサウンドトラックが8月に出るんですけど、収録曲タイトルを見ると「モグラー」って書いてる曲があって……。聴くとアマゾンオメガが変身した時にかかる曲だったんです!
よく聴くとわかるんですけど、確かにヴォーカル部分が「モグラー」って言ってるんですよね。音楽の蓜島邦明さんがモグラアマゾン用に作った曲を、選曲する側としてはアマゾンオメガにピッタリだということで使ったみたいで。もちろん、作曲・選曲の双方は承知の上だったんですけどね。
見てる側はまさかアマゾンオメガの登場シーンで「モグラー」って言ってるなんて思わないじゃないですか(笑)。なんか言ってるなぁとは思ってましたけど。蓜島さんって天才ですよね。諸々の作曲段階でも「これはアリのテーマです。これはクモです」とか言って、全部のアマゾンのテーマ曲を作ってこられるんですよ。頼んでないのに(笑)。ほしい曲のイメージをまとめた資料を用意しようとしたら、「要りません。すでにすごく良いイメージが湧いています」って言われたし(笑)。
一同:(笑)
白倉:けっきょく選曲側もあきらめるというか(笑)、好きに作っていただいたものの中から選ぶという感じになりました。あの曲、最終話でもアマゾンオメガのバックで使われてるんですよ。
小林:ああ、海での戦いのシーンで……。
白倉:アマゾン数体を蹴散らして、一番カッコよく登場するシーンで「モグラ―」って(笑)。映像の力って強いですけれど、音楽の力も強いですからね。石田監督の作った世界観もあるし、蓜島さんという天才が勝手に作ってしまった世界観もあるんです(笑)。
(了)
『アマゾンズ』白倉プロデューサー×小林靖子さん対談。続く<後編>では、主に小林靖子さんの脚本にフォーカス。悠と仁、ふたりのアマゾンライダーのヒーロー像や、作品を離れて"映像と脚本の関わり"などをうかがいます。
[取材&文・小林真之輔]
小林靖子さんインタビューまとめ
『牙狼〈GARO〉-炎の刻印-』、脚本家・小林靖子さんインタビュー
『仮面ライダーアマゾンズ』白倉伸一郎P×小林靖子さん対談<前編>
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■作品情報『仮面ライダーアマゾンズ』
仮面ライダー45周年記念プロジェクト
『仮面ライダーアマゾンズ』
Amazon プライム・ビデオにて全13話 配信中
BS朝日 毎週日曜深夜1:00~ 放送中
TOKYO MX 毎週水曜22:30~ 放送中
<イントロダクション>
仮面ライダー45周年記念プロジェクト、最大級の衝撃。
『仮面ライダーアマゾン』(1974)。仮面ライダー第4作にして、シリーズ最大の異色作が、平成ライダーを築きあげたレジェンドスタッフ × 最強アクションチームによって完全新生!
悠(はるか)と仁、養殖と野生。対照的な2人の"アマゾンライダー"を中心に、様々な登場人物の思惑が交差し、謎が謎を呼ぶストーリー。
Amazon プライム・ビデオの日本製作オリジナル作品第1弾として、映画を越える次世代の映像への挑戦。
いま、仮面ライダーと映像の歴史が変わる。
<アマゾンとは>
野座間製薬の研究で生まれたウイルスサイズの人工生命《アマゾン細胞》をヒト型にまで成長させた集合体の総称。
ヒトのタンパク質を好む習性があり、多くのアマゾンは人肉食を行う。2年前、研究所で起きた事故で、約4,000体の実験体が街に解き放たれた。
クモやモグラ等、様々な種類のアマゾンが存在する。
<スタッフ>
原作:石ノ森章太郎
脚本:小林靖子
監督:石田秀範/田﨑竜太/金田 治(ジャパンアクションエンタープライズ)
アクション監督:田渕景也(Gocoo)
音楽:蓜島邦明
撮影:上赤寿一/朝倉義人/岩﨑智之
キャラクターデザイン:田嶋秀樹(石森プロ)
キャラクター&クリーチャーデザイン:小林大祐(PLEX)
プロデュース:白倉伸一郎/武部直美(東映)
佐々木 基/梶 淳(テレビ朝日)
古谷大輔(ADK)
<キャスト>
水澤 悠/仮面ライダーアマゾンオメガ:藤田 富
鷹山 仁/仮面ライダーアマゾンアルファ:谷口賢志
水澤美月:武田玲奈
泉 七羽:東 亜優
志藤真:俊藤光利
マモル/モグラアマゾン:小林亮太
大滝竜介:馬場良馬
高井 望:宮原華音
三崎一也:勝也
福田耕太:田邊和也
前原 淳:朝日奈 寛
水澤令華:加藤貴子
加納省吾:小松利昌
橘 雄悟:神尾 佑
天条隆顕:藤木 孝 ほか
<主題歌>
「Armour Zone」
歌:小林太郎
作詩:マイクスギヤマ
作曲:山田信夫
編曲:高橋哲也
Original Soundtrack
NIPPON COLUMBIA.,LTD.
Taro Kobayashi by the courtesy of KING RECORD Co.,Ltd.
(C)石森プロ・東映