映画『時をかける少女』10周年~スタジオ地図・齋藤優一郎プロデューサーインタビュー【前編】 「作家に寄り添う」と決めた原体験とは?
細田守監督による長編アニメーション映画『時をかける少女』が、2006年の劇場公開から10年を迎えました。時間を飛び越えて過去に戻る「タイムリープ」の力を手に入れた高校2年生の紺野真琴が、力を繰り返し使って、自分の過去をやり直していくうちに「人生のかけがえのない時間」の意味を見つけ出していく――。1965年に小説家・筒井康隆によって執筆された同名小説を、大胆にリメイクをした同作は、最新作『バケモノの子』(2015年)に至るまでの”細田監督らしさ”が詰まった記念碑的な作品となりました。
そんな『時をかける少女』10周年を記念して、同作から今日まで細田監督とタッグを組み、数々の作品を送り出している、スタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサー/代表取締役にインタビュー。前後編の2記事でお届けします。【前編】では主に、細田監督との出会いからスタジオ地図の設立までを振り返っていただきました。
「公共性」を大切にして映画を作り続けてきた
――映画『時をかける少女』10周年おめでとうございます。プロデューサーとしてご心境はいかがですか?
スタジオ地図・齋藤優一郎プロデューサー(以下、齋藤):本当にありがたいことだと思っています。あっという間の10年でしたが、映画は本当に1本1本が勝負というか、一度失敗したら次がない世界なんです。その中で、いまも僕らが新しい作品を作ることができるのは、この『時をかける少女』があったからこそ、たくさんのお客様に映画を観ていただいたからなんです。本当にありがとうございます。
――この10年で細田監督作品のブランドが広く確立されて、3年に1度の“夏の定番”になった感もあります。
齋藤:ブランド化したかどうかは分かりませんが、夏に子どもと大人が一緒に楽しめるアニメーション映画って、特別な意味があると思っているんです。夏って、子どもたちが一番変化、成長する季節だと思うんですね。そして、その変化と成長にアニメーション映画はずっと係わってきた。僕も子供時代に観た作品たちに、夏の思い出を彩られ、背中を少しだけ押してもらったり、未知なる体験を通して、少しずつ大人になってきたようなところがあって。その作品群、その歴史と文脈って、とてつもなく巨大なものだと思うんですね。ましてや1つの才能やスタジオだけで担えるほど、それはヤワなものじゃない。だから、みんなでその歴史と文脈を踏まえて、新しいチャレンジをしながら、おもしろい作品を一本一本、作っていくことが大事だと思うんですね。僕らも毎年、作品を公開していくのは難しいけれど、その一翼ではありたいと思っている。夏のアニメーション映画には、そうした社会的な意義や責任があると思っているんです。
細田監督の映画哲学の一つに、公共性という言葉があります。それは、地球の裏側に住んでいる人たちにもおもしろがってもらえるような、表現や映画の幅を拡げていきたいという考えです。これまで、細田監督はずっとその公共性に対しても、新しいチャレンジをし続けてきた。そして近年は、家族をモチーフに、子どもや人間の変化を描き続けているのだと思います。
――細田監督も過去のインタビューで、『時をかける少女』真琴役のキャスティングに際して、「メインの観客層と同じ世代の子がやる場合、映画を見た後にパンフレットを開いてあ、私と同い年の子がやってるんだ」とわかって嬉しいんじゃないか」と、お話しされていました。
齋藤:特に『時をかける少女』は、そういった想いが強かったのではないでしょうか。なぜこの時代にアニメーションという表現で、『時をかける少女』という映画を作るのかと考えた時、細田監督は、「未来とは何か」と言うことを考えざるを得なかった。原作が書かれた60年代は、人間の英知や科学の進歩が、素晴らしい未来を作り上げると信じられていた時代です。でも21世紀になったいま自分たちが生きる世界は、相変わらず、過去と同じような過ちや、新たな問題を抱えている。そういった時代において、未来とはいったいどんなものなのか。細田監督が出した一つの解が、「この変容する社会の中で、今とこれからを生きていく若者や子どもたちこそが未来そのものなのではないか」ということだったんです。だから、真琴という新しい主人公が生まれた。そして、真琴と同じ世代の人たちに観てほしいとも思ったんだと思います。
齋藤プロデューサーのこれまでの歩み
――当時マッドハウスにいた齋藤さんと、東映アニメーションからフリーになった細田監督でしたが、おふたりのタッグとしても10周年になりますね。
齋藤:初めて出会ったのが、『時をかける少女』の企画が決まった04年の2月くらいでした。そこから数えると、もう13年近くになるんですね。僕が今でも東京の父親だと思っている丸山正雄プロデューサー(現・MAPPA代表。当時・マッドハウス代表)から「細田監督と映画を作ってみないか?」と声をかけてもらい、すぐさま「一緒に映画を作りたいです」と手を上げたのをよく覚えています。僕が中高生の頃、このアニメーション映画の世界に飛び込みたいと思うきっかけとなった高畑勲監督、宮﨑駿監督作品のような、子どもと大人が一緒に楽しめるアニメーション映画の王道がやれる、このチャンスを逃してなるものかと思いました。
――子どもと大人が一緒に見られるような作品をつくりたいという齋藤さんの志向は、丸山さんには当時から話していたのですか?
齋藤:当時、僕は“丸山プロデューサー付き”で、海外との共同制作やテレビや映画企画のアシスタントなど、様々な形でたくさん仕事をさせていただいていました。それこそ、365日ずっと(笑)、正月も二日から一緒なんて年もありました。いまもそうですが、丸山さんには嘘がつけないんです。丸山さんも、齋藤はこういうヤツだってことを、良いところも悪いところもわかってくれている。そして丸山さんは、人事、キャスティングの面でも天才なんです。「この2人を組み合わせたら、おもしろいんじゃないか」くらいのことは思っていたのかもしれません。でも当時、丸山さんから言われたのは、「細田くんが望むことは出来る限りのことをしてあげて欲しい」ということだけでしたね。その方針というか、想いというのは、今も僕の中に息づいていると思います。
――虫プロの系譜であるマッドハウスにいたところから、東映動画の系譜の細田監督と組んだわけですが、作品づくりの中で違いなどは感じましたか?
齋藤:系譜的な違いと言うよりは、僕はお互いの中に作家主義、作品主義と言うものが大きく存在していると思っています。
すごく遡りますけれど、僕の子供時代、70年代後半から80年代というのは、日本が経済成長期でもありながら、それを上回るくらいの変化や幅がアニメーションの世界にもあって、そう言った刺激にさらされて育ったのが僕らの世代なんじゃないかと思います。その中でも特に、僕はアニメーション映画が好きだった。変容する社会の中で、自身の成長を支えてくれた子ども時代のアニメーション映画、僕は出崎統監督や杉井ギサブロー監督、そして高畑勲監督や宮﨑駿監督に刺激を受けました。でも、いま考えるとそれは虫プロと東映に文脈をおく監督達であり、知らず知らずのうちに、アニメーション映画は作家が作るものという教育が行われていたのかもしれません。そして、いつしか自分もアニメーション映画を作ってみたいと思い始めたんだと思う。絵を描くことはできないけれど、きっとどこかに自分の仕事や役割があるんじゃないか、と。本当に図々しいのですが、10代の頃は、ずーっとそんなことばかり考えていました。高校生になると、それは進路という形や、自分は何者なのかというアイデンティティの問題と呼応して、悩むというよりは、より強い想いになっていった。そのころには、メディアを通して鈴木敏夫さんの仕事や役割などを知り、プロデューサーという仕事とその役割に、とても興味を抱くようになったのをおぼえています。
その直後、僕はアメリカの大学に留学するんですが、日本では「コンテンツ」という言葉をよく耳にするようになり、アニメーションもその「コンテンツ」という括りの中で語られるようになっていった時代で。日本製のアニメーションやゲームが世界を席巻し、これからの日本産業の要の1つはコンテンツだと叫ばれるようにもなっていた。でも、少なくとも僕が海外で感じた状況や、逆に海外から見た日本というのは、そういったテンションとは違うように見えたんですね。
――ごく一部のファンに受け入れられているのが実際だったのでしょうか?
齋藤:もちろん、たくさんの人々に受け入れられてはいました。でも、もっとアニメーションには無限の可能性が広がっているんじゃないかと思えたんです。作品や表現の幅という意味でも、観ていただくお客様の幅という意味でも、ですね。もっともっとジャンルを超えていける力があるんじゃないか。そして作品とともに、その作り手である作家たちが、もっと世界に知られるべきなのではないか。プロデュースされるべきなのではないか。青臭くも、そんなことを思っていたんです。
一番良い形で作品を作り、一番良い形で作品を世の中に出していき、その作品を観続けてもらって、できれば内容的な評価と経済的な評価の双方をきちんと勝ち得て、それを作り手に還元し、また新しいチャレンジという、作品につなげていく。そういった環境作りやプロデュースというものが、これからは必要不可欠なものになるのではないかと思いました。10代の時からずっと探し続けていた、アニメーション映画への主体性と覚悟が、ハッキリとした瞬間だったと思います。
――アメリカ留学時代を経て、プロデューサーになる動機付けが整ったんですね。
齋藤:海外に出て、アニメーションや映画のことのみならず、日本そのものを外から相対化できたことは、とても良い経験になりました。帰国後、日本の大学とは卒業時期が違うことによって、就職タイミングでちょっとした苦労もあったのですが、ご縁でマッドハウスに入れてもらい、丸山正雄という稀代のプロデューサーを始め、杉井ギサブロー監督や、りんたろう監督、川尻善昭監督や平田敏夫監督など、多くの監督達と作品をご一緒させていただけたことは、今も変わらない自分の強固な礎になっています。本当はスタジオジブリに入りたかったのですが、でもそれは運命ということで(笑)。
――(笑)。
齋藤:よくスタジオ地図は東映系、虫プロ系のどちらなのかと聞かれることがあるのですが、監督が東映の文脈にあるのですから、僕は東映系だと思っているんですね。でも虫プロの遺伝子は全く受け継がれていないかというと、僕個人にはあるのかもしれない。なぜなら、虫プロは手塚治虫という作家のスタジオであり、そこには作家に寄り添うプロデューサーがいたというのが、僕の解釈なんですね。だから、僕のDNAには作家に寄り添って作品を作り上げていくという遺伝子がある。そう言う意味では、ハイブリッドなスタジオかもしれません(笑)。
――2011年に『スタジオ地図』を立ち上げられたのも、もっと作家に寄り添うためだったのでしょうか?
齋藤:スタジオ地図を作った理由ってすごくシンプルで、『おおかみこどもの雨と雪』を作るため、それだけだったんです。与えられるのではなく、映画を作る動機は自分たちにある。だからこそ、小さくても自分たちの映画を作る場所が必要だと思った、と。それが唯一の理由です。誰かの軒先を借りるのではなく、これまで以上に主体性と責任感を持って、映画と観客のみなさんに向き合っていくべきだと、細田監督とそう考えました。本当に映画は奇跡の連続です。作れることも、作りきれることも、公開させていただけることも、そしてたくさんの方々に観ていただけることも。奇跡の連続が映画なんです。今もなお、僕らが新作を作れるのは、出発点であるこの『時をかける少女』と、その後の作品をたくさんの方々に観ていただき、たくさんの方々に広めていただけたからこそなんです。本当に、心から感謝しています。
(インタビュー【後編】に続きます)
[取材&文・小林真之輔 撮影・佐田幸久]
「時をかける少女」10th Anniversary BOX 発売情報
タイトル:時をかける少女 10th Anniversary BOX 【期間限定生産版】
発売日:2016年11月25日(金)
価格:14,800円(税抜)
品番:KAXA-9822 JAN:4988111906410
メディア:ブルーレイディスク
日本語/Dolby TrueHD 5.1ch/リニアPCM 2.0ch/Dolby Digital 2.0ch/
DTS-HD Master Audio DTS Headphone:X?
BD2層ディスク3枚/MPEG-4 AVC 1080p 16:9 (一部映像特典1080i)/日本/2006年/カラー/
日本語字幕(難聴者用)/(本編:約98分/他 特典映像:200分以上収録)/BOX付
【スタッフ】
原作:筒井康隆(角川文庫刊)
監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
美術:山本二三
作画監督:青山浩行・久保田誓・石浜真史
主題歌:奥華子「ガーネット」(ポニーキャニオン)
音楽:吉田潔
【キャスト】
紺野真琴:仲里依紗
間宮千昭:石田卓也
津田功介:板倉光隆
早川友梨:垣内彩未
藤谷果穂:谷村美月
紺野美雪:関戸優希
高瀬宋次郎:松田洋治
芳山和子:原沙知絵
2016年11月26日(土)~12月2日(金)※1週間限定上映
チケット発売、上映時間などに関する詳しい情報は劇場HP、または直接劇場へお問い合わせください。
シネマート心斎橋:06(6282)0815
>>劇場公式HP
【実施日】11月26日(土)
【場所】シネマート心斎橋(大阪市中央区西心斎橋1-6-14ビッグステップビル4階)
【実施時間】14:15~の上映回(上映後に実施)
【登壇者】
齋藤優一郎スタジオ地図プロデューサー/代表取締役(時をかける少女プロデューサー)
千葉淳KADOKAWAプロデューサー(時をかける少女宣伝担当)
本作、公開当時や10年たって今、あらためて思う事など「時をかける少女」にまつわる話など短い時間の中でお話ししていきます。
【チケット発売情報】
《劇場窓口》
11月19日(土)劇場オープン時より販売開始。
《オンラインチケット予約》
11月19日(土)正午より当館オンラインチケット予約ページにて販売開始。
>>予約ページ
【料金】通常料金
※招待券、ポイント引換は使用不可。
【注意事項】
※先行販売で完売の場合は、当日券の販売はございません。
※ご購入後の変更・キャンセルはできません。
※場内でのカメラ(携帯カメラ含む)・ビデオによる撮影、録音等は固くお断りいたします。
※転売目的でのご購入は、固くお断り致します。
※いかなる事情が生じましても、ご購入後のチケットの変更や払い戻しはできません。
「時をかける少女カフェ@大阪」 開催決定!
場所:THE GUEST cafe&diner(心斎橋161 2F)
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目6番地1号
開催期間 :2016年12月1日(木)~2017年1月/11日(水)
営業時間 10:00~21:00(フードL.O20:00 ドリンクL.O 20:30)
※最終日は18時まで(フードL.O17:00 ドリンクL.O17:30)
※年末年始の営業時間
12/31 10:00~19:00(フードL.O18:00 ドリンクL.O18:30)
1/1は休業、 1/2より通常営業
>>スタジオ地図 オフィシャルサイト