若い世代に届ける作品は若い人だけで作る必要はない──『甲鉄城のカバネリ』荒木哲郎監督が目指した世界を語る
2016年に衝撃のスタートを切ったTVアニメ『甲鉄城のカバネリ』(以下、カバネリ)。和風の世界観ながらも、鉄道など蒸気機関が発達したスチームパンク的要素をはじめ、大量に押し寄せるゾンビ的存在のカバネなど独自の世界観を構築し、多くの話題を呼びました。
2016年12月31日からは映画『甲鉄城のカバネリ』総集編が公開され、ますますの人気が期待されています。『カバネリ』を作り上げた荒木哲郎監督はこの盛り上がりに対して、どのように感じているのでしょうか。そこで今回は、映画公開を控えた荒木監督へ行ったインタビューの模様をお届けしていきます。
また、アニメイトタイムズでは、TVシリーズ放送前にもインタビューを行っております。こちらも合わせてお楽しみいただけると、今回のインタビューの深堀ができることでしょう。
>>荒木哲郎監督に訊く、オリジナルアニメ『甲鉄城のカバネリ』での表現
──TVシリーズを終えて、総集編も終わろうとしているところで感じているところは?
荒木:まだまだやり足りないなと。もっとやりたいなって思っています。自分が遊ぶために作った道具なので、もっと遊びたいなと思っています。
──大分遊べたな、っていうのは感じましたか?
荒木:感じました。自分がやったら面白いだろうという装置をいろいろと置いて、実際かなりの手ごたえがありました。これは、いい遊び場だなと。そこで「もっと遊びたいんですけど……」と偉い人にお願いしたら「いいよ」と言われました。
──監督が次やりたいと気持ちを持ち寄ったんですか?
荒木:そうです。俺がやりたいって言ってやらせて頂けることになった感じです。ありがたいですね。
──「もっと遊びたい」ということで、総集編になったと。
荒木:総集編は違いますね。これはそのお話の前から用意してくださっていたんです。もっと遊びたいのは2018年に予定している続編のことですね。
総集編に関しては、フジテレビさんに申し出ていただいて、喜んでお引き受けしました。より多くの人の目に触れていただく機会が欲しいですから、是非やらせてくださいという形でした。
──TVシリーズ放送前から、「この作品は面白い」とインタビューなどで仰っていましたが、それが確信に変わったときはいつだったのでしょうか?
荒木:放送前のインタビュー取材の頃に、すでに思っていましたね。自分で絵コンテを描いていて、はっきり手ごたえを感じました。それは第1話から。
──TVシリーズの反響もすごかったと思いますが、その評価に対してはどう思いましたか?
荒木:嬉しかったです。子どもの送り迎えで保育園に行ったときに、同じ保育園の父母の方々から「おもしろかったです」と言われたんです。実は、スタジオ以外で人と会う場所てそこくらいなんですよ(笑)。「観てもらえてるんだな」って感じて、すごく嬉しかったですね。
──具体的にはどんなことを言われました?
荒木:作業が大変そうだと思われたみたいで「大丈夫ですか? 死にませんか?」みたいな。その送りに行くにしても寝ないで行ったりしてますから。確かにきついけど「頑張ります」と返答しておきました。
──すごく心配されてたんですね。
荒木:でも俺だけじゃないですよ。スタッフみんなが自分をカバネと化しながら頑張って作っていました。死んだ目の集団が(笑)。
──あれだけのクオリティのものをTVシリーズで、しかもオリジナル作品というのは難しさもあったと思いますが。
荒木:本当にみんなが頑張ってくれました。ウィットスタジオも出来上がって5年くらい経って、かなり凄い軍団になってきたなと改めて思いましたね。
『進撃の巨人』のころは、その状況の過酷さに時々負けてたんですけど、「もう負けないんだな、この人たち」と感じました。そんな地獄に俺が落とすからいけないんですけど(笑)。「多少のことじゃへこたれないな」と頼もしく思いましたね。本当にありがたいです。尊敬してます。
──求めた以上のクオリティが戻ってくるわけですね。
荒木:今回は新たに総作監にお呼びした丸藤広貴さんが執念深くリテークを仕切ってくれたこともあって、短時間にかなりの絵を修正できて「おー」と思っちゃいました。「こんなことやれるんだ」と。俺が監督始めたころは、そんなこととても望めなかったですからね。当時は、オンエアに間に合わせること以上を求めるのは到底無理という感じでした。
アニメ界の状況的にもそうだったんですけど、こちらの思いに応えてくれる人たちを集めて頂けるようになって、本当にありがたいなと思いました。
──それはテクニックや作業システムなどが構築されたということもあるのですか?
荒木:システムのことも大きいですが、究極のところは質的要求に対して現場が応えようとしてくれるところが大部分です。そこは気合の問題ですから。手間がかかるし、凄腕のスタッフを呼んでこなくちゃいけなかったり、上手い人に徹夜してもらわなきゃいけなかったり……。意識の高い現場である、ということですね。
かつて自分が20代30代の頃には、そういう状況だと「そんなの無理です」っていう扱いを受けることが多かったんです。でも今は頑張ってくれようとする。そこが違います。普通は「おまえバカか」って言われるだけですからね。
──特に監督が苦労されたところはどこでしょうか?
荒木:管理するものの量ですね。ストーリーやセリフ、舞台設定、キャラの芝居、動き、色味、撮影処理、すべてにおいて自分が考えて決めますから。それぞれに力のあるチーフを置いているとはいえ、チェックしなくちゃいけない量が膨大なんです。それが原作ものと比べて圧倒的に多くて、後半は圧迫されましたね。どうしてもTVアニメは毎週1本オンエアしなくちゃいけませんから、全部を高めきることができなかった部分はあります。
その悔いや鬱憤みたいなものを晴らしたくて、「もっとやらせてくれ」と言ったのはあります。TVシリーズをやっていると、やっぱり使える時間がどんどん短くなっていきますから。本当はひとつの話数に3ヵ月使わなきゃ作れないものを週1本なんて作れるわけないですからね。「しょうがないよな」とも思うんですけど、もっとやりたいと思う気持ちはありました。
これからどうなる? 新作のあれこれ
──今回の総集編はどのくらい手を入れましたか?
荒木:みなさんが視聴されたTVシリーズに修正や手を入れたりはほぼしていません。TVでオンエアした時点で、高められるところは高めてありますから。
今回目玉と考えたのは新作シーンです。特に楽しみにしていただきたいところです。シリーズのメインスタッフでしっかりした内容を新作したので、期待していただいていいかと。
でも、見てみるとなんだかんだ本編が一番面白いですよ。本編が「ちゃんと映画になってるな」と思いましたし、短くまとめたときに効果的な構成が元々あったので。2時間弱の映像として凄く面白いです。TVシリーズを見ていただいたかたにも見てほしいですね。
──新カットは映画館に来てくれた人のご褒美みたいな。
荒木:そうですね。新作部分はさりげに後日談になってるので、最終回まで見た人も、TVシリーズを見たからって見逃すわけにはいかないですよね。EDが流れ始めても油断しちゃいけないよって思います。
──後日談といえば、劇場で配布されるドラマCDもあります。こちらはどのようなコンセプトなのでしょうか?
荒木:脚本は『カバネリ』のノベライズをやっている笠岡淳平さんと自分の二人で作りました。ドラマCDも本編の続きの話になっています。DVDの特典で作ったコメディテイストとは違って、マジなやつを作ったんです。
『カバネリ』という作品はアクションアニメーションであるという枠組みがあるから、シリーズはカバネ戦闘がメインになるように作っていました。ドラマCDはその条件が外れますので、戦いはナシで、キャラクターの心理ドラマをしっかりやろうと。
収録中のキャストのみなさんもすごく真剣でしたね。今回は久しぶりにメインキャストが揃ったんですが、シリーズのアフレコと同様のすごく張りつめた、誰も一言も私語できない、緊張感だらけの居心地悪い空気も久しぶりでした。これぞ『カバネリ』の空気。一声発するにも気持ちを入れようと瞑想や集中してる感じがあって、それだけにとてもいい芝居をもらいましたし、音楽もうまくいって、いいものができたなと思いましたね。
結構しっとりしてるんですよ、この話。そういう話も本編ではやりたかった。本編でやれなかった踏み込んだ心理ドラマですが、『カバネリ』という作品は本来心理ドラマもやれるものだと思っていました。
すごくいいですよ。是非楽しみにしてほしいです。これも本編の続きということを、もう一度強調しておきますので、よく覚えていてください!
──総集編の後日談とドラマCDは、新作に続いていると。
荒木:まさにそうです。TVシリーズの第12話のあと、生駒や無名はどうするのか、甲鉄城はどうするのか、その状況をいったん整理して、彼らはこういう行動するようになりました、というのものを描いています。
そこからゲームにつながっていきます。来年DMMさんからゲームをリリースしていただく予定なのですが、ゲームはその総集編新作シーンやドラマCDから話がつながっているんです。そこからさらに2018年の新作アニメに繋げるための再セットアップを、総集編やドラマCDやゲームでやったという感じですね。
──ゲームのストーリー展開は、どういうものですか?
荒木:まだ言えることが少ないですし、自分は監修をさせて頂いているだけですが、アニメのメインキャラとゲームのゲストキャラを絡ませて展開する感じです。前述の笠岡淳平さんが随分と色々考えて頑張ってくれてます。
──新作アニメはドラマCDを聴いて、総集編を見て、ゲームもやって待っておくのがよさそうですね。
荒木:そうですね。全部やった方がいいんじゃないですかね。そうしないと新作を楽しめないんじゃないですか?(笑)
──(笑)。新作アニメはどのくらいできているのでしょうか?
荒木:まだストーリーを相談している段階ですが、かなり絞り込んで作ろうと思っています。たくさんのことをやろうとするよりも、無名たちなどの自分が生んだキャラクターのその後の話をしっかりやろうと思ってますね。大きいことをやるよりは、と。
──新作アニメではどんな遊びを?
荒木:例えば甲鉄城は、鉄道関係のディテールをもう一段踏み込んで描写しようと思って、そのための仕込みをしています。あとはゾンビものとしてのドラマや、「こういうアクションもやれるのでは」という提案をキャラクターデザインの江原康之さんにアイデアをもらって相談したり、あとは何よりメインキャラたちの活躍、ですね。好ましい奴らを生み出したので、彼らのことをもっと書きたいなと思いました。
──これまで作品に関わってきて、印象が変わったキャラクターはいますか?
荒木:大体は自分がこうなるといいな、と思った風に育ったと思いますが、来栖は憎まれてなんぼ、というふうに設定したんですけど、むしろもの凄く愛されたなと思いました。もっと嫌われるかと思ったのに、嬉しかったですね。どのキャラクターも大切にしてもらいたいと思って作って、みんなに愛される奴らになってくれました。
作品をやって一番手ごたえがあったものは、ちゃんとみなさんにキャラクターが愛されたことですね。そうなるといいなと思って作ったし、自分はそこの能力が足りてないんじゃないかと思って意識的に鍛えた部分でもあったので、それは成果として嬉しかったです。
キャラクターメイキングに一番こだわったし、一番手ごたえもあった。もっといろんなことを、喋ったり動いたりしてる彼らを書きたいと思ったのが新作を作る動機ですね。
──その他、思わぬ誤算で嬉しかったことはありましたか?
荒木:ファンからすると、他のカップルもそうですが、菖蒲と来栖が仲良くしているとそんなに嬉しいのかというところは発見でした。
以前、ロフトプラスワンでのイベントにお呼ばれしたんですが、生でアニメを視聴してくださっているお客さんの反応を見れたんです。そこで菖蒲と来栖がちょっと照れたりしている場面が地響きするほど受けていて。これは嬉しい誤算でした。
生駒と無名の関係や、その進展が興味の中心になるようにしたのは目論んだものだし、そこはしっかり受け止めて貰えている感触はあったんですけど、他のキャラクターの関係はお試しだったんです。とはいえ菖蒲の「おまんじゅう」(※)は、はっきりした意思でやったことではありますが。
※普段真面目な菖蒲がこっそりとおまんじゅうをつまみ食いして、仲間に見られてしまうシーン。菖蒲のギャップが可愛いと話題になりました。
まだ死ねない。この子たちはもっとできる!
──前回、TVシリーズ放送前に取材させていただいた際、「これが自分の代表作になるだろう」と荒木監督は仰っていました。現在、振り返ってみてどうですか?
荒木:これが代表作になるのは間違いないですし、作り終わったら死んでもいいと思って作りましたが、まだ死んでいいとは到底思っていません。まだ死ねないです。まだまだできるなと思っていますね。この作品のキャラクターの伸びしろを限界まで引き出せていないなと思っています。だからそれをもっとやりたいなと。このキャラクター達はもっとできる子だと思っていますので。
──どんなことができると思いますか?
荒木:もっと熱く興奮させられる、もしくはもっと胸苦しい、もっと切ない、もっとキュンキュンする、どれも行ける。そんな感じですね。いろんな気持ちを感じさせられるキャラクターなので。
そしてそれができる世界であると感じています。カバネに追われた世界という重しが、色んなドラマを生めるんですよね。その装置を使って、まだいろんなドラマを作れる。やったら面白いキャラクターでもある。そういう風にキャパシティを感じています。
──装置といえば、若い世代にはアクションとキャラクターが、年配層には世界観やストーリーが推されていると思います。その辺りの狙いはあったのでしょうか?
荒木:最初からキャラクターを好きになってほしかったので、世界観は重しとしてちゃんと機能すればいいと思っていました。キャラクターの魅力を感じてほしいのが一番だったし、逆に言えばそれしか考えてなかったと言ってもいいくらいです。自分には頭がいいものをどうせ作れないので。
キャラクターの感情に共鳴して胸を躍らせてほしかった。だからこそ若い世代のその反応こそ欲しかったものでした。でも考えてみれば、若い世代も大人もキャラクターを好きになる気持ちは一緒ですよね。
──美樹本晴彦さんのキャラクターのデザインもハマったと思います。
荒木:上の世代の人たちほど美樹本さんのキャラクターデザインに反応してくださったんですが、お客さんのノスタルジー的共感が欲しくて美樹本さんをお呼びしたわけじゃないんです。どちらかというと若い人にとって新鮮なものに見せるためでした。
今のアニメ界隈で、「またこの絵柄か……」と思われないために、美樹本さんの力が必要だったんです。若い世代から見て、新しい絵柄に見えることが大事だった。周りの作品とは違う絵柄でありながらも、実はみんなの好きなものであるというポイントが大事なんです。懐かしければいいというわけではもちろんないし、今のアニメのお客さんたちがちゃんと好むものである。そういうものを考慮したら、美樹本さん以外の選択肢はありませんでしたね。
──どちらかと言えばコアなファン向けとなっていた美樹本さんのデザインを新規ファンへ向けて届けたのは画期的だと思います。
荒木:新しい若い世代に向けて打つ、それが一番大事なことなのは間違いありません。しかし、届けるほうは若い人の力だけでやらなくてもいいものだと思っているんですよ。いろんな世代の方の能力を使って若い人に届ければいいはずです。
技法的に一世代前のものも、出し方次第じゃないかと思っているんですよ。『カバネリ』のTVシリーズでは、オープニングの入りに生駒のセリフを入れてみたんですけど、あれは60年代の技法と言いますか。それでも今やったら面白い、いい目立ち方をするんじゃないかと思ったし、インパクトにつながったと思うんです。最新の技法にとらわれる必要はないんです。エモーションの突き動かし方に関しては、いろんな方法があるわけだから、それは世代に関わらず、魅力的なものはピックアップしていけるんじゃないかなと思っています。
(美樹本さんに関してはこちらのインタビューもお楽しみください!)
>>アニメ『甲鉄城のカバネリ』キャラ原案・美樹本晴彦さんインタビュー
──なるほど。逆に新しい面で言いうと、メイクアップアニメーターがありますね。
荒木:メイクアップアニメーターはソフトの力が可能にしたのは間違いないですね。TVペイントというソフトがあって、それを使って何ができるだろうかというところからスタートしました。その時に美樹本さんの絵で行くっていうのは決まっていて、「じゃあそのイラスト風の絵をアニメに持ち込むのに、TVペイントは使えるんじゃないか?」と思って。やってみたらびっくりするほどよかったので、「今日からこれをメイクアップと呼ぶ!」って決まりました。俺はその呼び名を付けただけなんですけどね(笑)。そしてソフトの力とまとめてしまいましたが、実際には一枚一枚の手作業ですし、まあつまりは才能ある人の努力(笑)によって出来上がっています。
でも上手くいきましたね。この作品の打ち出し方として美樹本さんと美少女キャラの魅力をメインで使っていくという方針があったから、そういう流れになったんですけど。そこはソフトと素晴らしいセンスのあるアーティストがいてくれたから実現できました。作品全体の打ち出し方と噛み合ったし、みんながこの作品のいいところとして手に取りやすい取っ手になってくれました。
メイクアップアニメーターは『進撃の巨人』で言ったら立体起動アクションにあたるものです。アニメを作るときは「このアニメはなんかすごい!」と思わせる取っ手が必要なんですよ。
(メイクアップアニメーターに関してはこちらの記事を!)
>>『甲鉄城のカバネリ』キャラクター表現の美しさの秘訣はメイクにあり
──今後、メイクアップアニメーターが活躍する機会というのは?
荒木:もう早速『進撃の巨人』の続編に。メイクアップではないですが、やってることはメイクアップと似たようなものです。次の作品に早速生かされていますね。これいくらでも話したいことあるんですけど今日はその場じゃないから(笑)。つい先日(12月25 日)にPVが解禁されたばかりですので、ぜひ見ていただきたいです。みんな驚くと思いますよ!
──これからも楽しみです……! ありがとうございました。
[インタビュー/石橋悠]
>>「甲鉄城のカバネリ」公式サイト