構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに聞く「ラジオの作り方」──連載第4回「怒られたってね、謝ればいいだけなんですよ」
『さよなら絶望放送』『下ネタという概念が存在しない退屈なラジオ』などを手掛けた構成Tこと構成作家・田原弘毅さんに「ラジオの作り方」を学びながら、新米編集者の石橋が実際にアニメイトタイムズのオリジナルラジオを製作する本企画。第1~2回ではプロデューサーの目線でラジオを見ていき、第3~4回では構成作家の目線でラジオを見ていきます。
今回は前回から引き続き、石橋の作った企画書を田原さんに添削していく工程をお届け。第3回では見せられなかった残りの企画にも田原さんに目を通してもらい、最終的な総評を述べていただきます。最初に見せた企画が思いのほか好印象でホッとしている石橋ですが、そのままの良いペースで添削は進んでいくのでしょうか……。最終的なジャッジがついにくだされます!
過去の連載はこちらから!
>>連載第1回「苦情も来ないようなラジオは誰も聴いてないんですよ!」
>>連載第2回「“この人とやりたい”なのか“こんな番組をやりたい”なのか?」
>>連載第3回「ラジオは生き物ですから始まってみないとわかりません」
前回の最後に掲載した2つ目の企画から添削スタート。この企画書を出された場合、みなさんならどのようなアドバイスをしますか? 添削した最初の企画を念頭に置きながら田原さんの出したアドバイスがこちらになります!
【企画内容】
・男性声優さんが最近の女性の流行を勉強していく番組
・流行のものはリスナーから募集、こちらから提示
・意外な内容に男性パーソナリティが挙動不審になるところや、リスナーがパーソナリティに流行を教えてあげている感覚を味わえる
田原:これも想定は男性声優さんによるパーソナリティですかね。これも悪くないと思いますよ。女性のみなさんは教えるのが好きですし、何かを共有できるのって嬉しいですしね。岡本信彦くんの番組にスイーツ情報が届いたりしますし、誰かに何かを教えたい、というのは男女ともに持ってる感情だと思いますから。
それにアニメイトタイムズらしい内容ですよね。宣伝要素を盛り込んだりして、アニメイトの商品についての意見を聞いたりしても面白そうです。たまにぶっちゃけた手厳しい意見をもらったり、そんなグッズを考えている裏側に潜入した話を聞いたりしてね。
ただこれで問題になるのは、グッズ名を出すことを敬遠されちゃったりすることなんですよね。具体的な商品名を出すのは気を使うところでもありますから。ディスりトークが出来ないのはもちろんですけど、ちょっとした会話に出てきちゃうのまで恐れるディレクターさんって多いんですよ。アニラジだと他作品に触れるなということもありますし。
もし流行を追っていくのであれば、その振り幅も考える必要があると思いますね。「コスパにはこんな商品が売ってるんですよ!」とか「響の公録ではこんな素晴らしいグッズ売ってるのにアニメイトは何してるんだ!」とか、身内を下げることを恐れないようにしないと。それを濁しちゃうのは面白くないし、そこの案配を考えるのがプロデューサーの仕事になるでしょうね。僕は揉め事が起きるまでやっちゃえよ、というスタンスですが(笑)。
──(笑)。それは、まずいんじゃないですか……?
田原:怒られたって謝ればいいだけですからね。人が死ぬわけでもないし(笑)。この企画で取り上げる商品として思いつくのだと、同人誌とか面白いですよね。今こんなカップリングが流行ってるんですよ、というのを教える感じで。使えるかわからないけど(笑)。だから、この企画も方向性は良いと思いますよ。スポンサーもつきやすそうだし。これもさっきの下ネタ企画と同じで、何かを共有したいという男女ともに思っている感覚に訴えかけるタイプですから。ひとつ思ったのは、これ一緒にしてしまうのもありですね。
──一緒に、というと?
田原:ひとつ目の企画(※)と合体させて、番組を昼と夜でわけるんですよ。
※ひとつ目の企画をおさらい!
【企画内容】
・世の女性がなかなか聞けない異性の悩みを男性声優さんに聞いていく
・鉄板の下ネタ構成のラジオを作ってみたい
・アニメイトタイムズは女性ユーザーが多いため、その層を狙っていく
・質問はアンケートで募集
◆田原さんからの指摘はこちら!
・誰をキャスティングするかが大事!(大御所? 若手?)
・鉄板を外さないことは大事だが、もう一捻りほしいところ
田原:前半を「昼番組」にして、最近の流行とかトークを健康的にやるんです。それで後半の「夜番組」になったら同じパーソナリティさんの番組内なのに一気にエロいことを喋りだすみたいな(笑)。これなら女性の流行を追いかけながら、パーソナリティさんの反応も見られる番組になりますよ。女性の下ネタのほうが経験豊富というか赤裸々なので、面白い話が聞けると思います。パーソナリティの紳士的な部分と野獣的な部分の両面が見られますし。苦手な人もいるだろうけど、前半と後半の間に「ここから先は気をつけてね」みたいな一言を入れればリスナー層も分けられる。うん、これならすぐにでも本格的な企画書を書けそうです。
──なるほど……! 企画を合体するなんて考えてもみませんでした。しかし、もっとバシバシとダメ出しをされるのかと思っていたんですけど、意外とスムーズに進んで驚いてます。
田原:僕も苦労はいっぱいしたし、もうダメ出しされることはないけど、代わりに似たり寄ったりのことをしちゃうことは増えましたからね。長年やってると頭も固くなるし。だからこうやって企画を見られるのって楽しいんですよ。人の企画をディスカッションで話し合う事自体が珍しいですから。
順調に進んでいくかにみえた添削作業。いよいよ不穏な空気が……
中々手応えのある評価が続き上機嫌になっていく石橋。しかし、何ごとにも良し悪しはあるもので、どこからともなく不穏な空気が流れ始めます。続いては若手声優さんに注目した番組の企画書の添削です。
田原:さてさて、では3つ目ですね。
【企画内容】
・低い声が特徴的な二人にまったりとトークしてもらう
・ラジオをイヤホンで聴くことが多くなったので、耳元で落ち着くトークを聴ける
・低音ボイスあるあるも聞いてみたい
田原:なるほど、今度は男性二人組みですね。
──最近は若手でも低音ボイスの人が増えてきましたから。逆に高音ボイスの人を集めるのも良いかなと思っているんですが。
田原:高音ボイスなら宮田幸季さんや村瀬歩くんを呼びますか。きっと超面白いですよ(笑)。もし低音でやるなら、きっと二人の声に浸っていただくトーク主体の番組になりそうですね。だからこそ、やるならキャスティングで勝負する必要がありそうです。さっきの高音ボイス企画みたいに、この二人なら聞いてみたいっていうのを考えないと。
この、「イヤホンで聴くことが多くなった」っていうのは素晴らしい着眼点だと思います。今時、パソコンの前に座ってアニラジを聴く人なんてほとんどいなくて、スマホで聴く人が多くなってますからね。通勤通学のちょっとした空き時間に聴いてもらえる番組を考えないといけなくなってるんですよ。だからあまり長い時間の番組も難しいんですよね。地上波だとだいたい24分前後と決まっているんですけど、WEBだと制約はなくて、35分あたりがベストだと思って構成するように僕はしてます。45分から1時間もいっちゃうと、好きな人がガッツリ聴くような番組になっちゃいますし、それだけの時間全部を使うほど通勤通学にアニラジを聴いている人ってなかなかいませんから。
なので、イヤホンで聞くというのを押すのは良いかもしれません、「あなたのジャックに○○」みたいなキャッチフレーズを考えやすそうだし、アニメイトならイヤホンをグッズとして使うことも出来るかもしれませんね。ただ、メール捌き主体の番組というより、お昼時の落ち着いた番組のようなイメージになると思うので、僕のメールさばきという本領は発揮しにくそうですね。この場合は誰と誰の話なら聴いてもらえるのかを、企画の段階から考えておく必要があると思います。
──内容を突き詰めたうえでもう一考が必要そうですね。ありがとうございます。
自分好みの企画に隠された罠
的確な指摘でドキリとする一言を放つ田原さん。しかし、しっかりと褒めることも忘れない理想の上司としての姿に石橋は感銘を受けます。そんな中、自分の趣味を全開に出した企画書を提出。それに対する田原さんの反応は……。
──では次の企画になります。
田原:お願いします。じゃあ4つ目にいきましょうか。
【企画内容】
・外国語が得意な二人によるラジオ講座
・面白い言葉を紹介してみたい
・日本語吹き替えの海外ドラマのようなラジオミニドラマを演じてもらう
──言語に達者な声優さんが多いので、そこを番組として面白くできたらと考えてみました。
田原:確かに斎藤千和さんも英語バリバリ喋れますし、帰国子女の方も結構いらっしゃいますからね。ただハッキリ言わせてもらっちゃうと、僕はあまり面白そうに感じないですね。
──え……。『タモリ倶楽部』の空耳アワードみたいなことをできたらなと考えているんですが。
田原:なるほど。ちょっと違うかもしれないけど、似たようなのだと『ヘタリア The World Twinkle』でやってましたね。あれはパーソナリティが交代制で、みなさんそれぞれ演じる国があったので、各国の風習や面白い法令を紹介して、これを聴くとそれなりにその国に詳しくなれますよ、みたいな番組でした。
だから声優さんがその国に詳しいというよりは、作品がそうだったから出来たんですけど、講座ってなると急に真面目になっちゃうじゃないですか。わざわざラジオ番組を作って真面目なことをするのってどうなのかなって思うわけです。工夫するなら、下ネタを外国語で紹介するとかは面白いかも知れないですけど、それってひとつ目の企画内でできそうですよね。番組にするからには面白いことをしたいじゃないですか。
例えばアニメと絡めるなら、アニソンの歌詞だったり、もしくはアニメでよく出てくる単語や名前がどこの国の言葉だったりを豆知識風に紹介するとか。でも、真面目な番組を目指すのであれば、これを面白くしてくださいっていうのは難しいですね。今度うちのディレクターの佐藤太を紹介しようと思ってるんですけど、あいつはこういう○○講座系を昔からやりたがっているので、僕より良いアドバイスが出来ると思いますよ(笑)。
──これももう一考が必要そうですね。
田原:そうですねぇ。では最後の企画を見ていきましょうか。
【企画内容】
・ラップの楽しさを知ってもらう番組
・お題のラップを披露してもらい、意外なカッコよさを知ってもらう
・ラップ入門知識を伝授
・曲とか作れたら面白そう……?
──あまりラップについてしっかりと知っている人って少ないんですよね。
田原:まあアニメファン的にはなんか人種が違うような気がしますからね(笑)。ラップを聴く人ってクラブとかにいそうだし、アニメイト来なさそうじゃないですか。でもニコ生の歌ってみたでラップをしている人って結構いますし、そこから考えるのはありだと思いますね。
ただラップって技術的な部分があるじゃないですか。声優さんがラップを得意だとしても、それは一芸であるだけなんです。別の番組の1コーナーにはできても番組にするのは難しいように感じますね。もしやるならちゃんとしたラッパーや作曲家を呼んで、本格的に挑戦する過程を目指すようにしないと。やっぱり双方に敬意を払う必要があると思うんですよね。ただ好きでやってる人が盛り上がるんじゃなくて。
でも、もししっかりと実現できれば、アニメ・ゲームファンの人とラッパーを繋ぐ架け橋にはなれるし、企画としてはありなんじゃないかなと。ただし内容はかなり考える必要があると思いますね。やっぱりアニメイトタイムズに来るお客さんはアニメファンが大多数なわけですから。その人達に「おっ!」と思わせるだけのものにしたいですよね。
声優さんをキャスティングするにしても、そういう要素を整理して「お願いしたいんですけどどうでしょうかと」と企画書を送れるだけの説得力が欲しいですね。これは今日見せてもらった5つの企画全てに言えることですけど。
──どんな番組で、それを誰にお願いしたいかという明確な理由が必要なんですね。
田原:どんな声優さんも代表作になるような冠番組は欲しいと思ってるはずですから、もしオファーが来た場合、それを無下にする人はいないはずなんですよ。だから、企画はしっかりしていないといけないんですよ。あなたにこんなことをやっていただいたら良いと思いますよ、というWin-Winの関係が理想なんですから。
今回、事務所に送る企画書を書くならまず考えなきゃいけないのはアニメイトタイムズでやる理由って部分ですよね。客層的に女性リスナーを惹きつける番組であることは企画書に書いておきたいです。アニラジならそのアニメを盛り上げたくてやっているという部分があるんですけど、この5つは冠番組向けですから。「こういうことをやっていただいたら私は面白いと思うんですけど」と如何にして口説くかが大切です。
それがステキって思ったらやってくれるし、100万円積まれても嫌だって言われたらそれまでだし(笑)。だから1行でも面白いと思ってもらえるような企画書を書いていきましょう。
企画の添削が終了。これから考えなければいけないことは?
全ての企画書にコメントをいただき、良かったところ悪かったところ共に痛烈に実感しました。田原さんから最終的なアドバイスを貰ったことで、これから考えていかなければならないことが明らかになっていきます。
──ちなみに今日の企画に順位をつけるんならどうなりますか?
田原:5位は外国語ですね。4位が低音ボイスかな。この二つは単純に自分が活躍できないと思うので。3位がラップで、一緒に学ぶとしても音は面白くても内容がよくわからないという理由です。1位と2位はあわせ技で、昼の健康的なトークと夜の下ネタな番組です。まあ自分で言ったやつだけど(笑)。
下ネタ番組だったら、同じ女の子からのメールを読んで繋げていくのも面白いですよね。でも、下ネタオンリーになると全然送ってくれない子もいるだろうし、その逆もしかりだろうし……というところも考えないといけません。
具体的な人との声優さんの名前を出しちゃうと、津田健次郎の紳士のラジオ・野獣のラジオとか超面白いと思いますよ(笑)。凄くカッコいいトークした後に、どぎつい下ネタを言とかね。
──それいいですね(笑)。まさかあわせ技になるとは。
田原:どっちも定番だし片方もありだとは思うんですけど、今回のアドバイスのようにするのが僕の考えです。そんなにビビらないで、企画書なんて作って送ったもん勝ちですから。僕も結構送りましたけど、音沙汰ないのいっぱいありますし(笑)。
──チャレンジするだけはタダですからね。問
田原:アニメイトタイムズの企画として、と書いておけばいろいろと出来そうですしね。最初からレギュラーだとビビっちゃう方もいそうですし、最初は単発の提案にしておいて、もし人気が出て好評だったら続けましょう、としておけば気軽に受けてもらえるんじゃないかなと思います。まあやってみないと楽しいかどうかは相手もわからないし、一度お試しをやるのは反対ではないですね。最初っから枠が決まっているわけでもないですし。
──ちょっといろいろ考えていたら楽しくなってきました。田原さんは企画書作るときはどんな感じで作っていますか?
田原:先方にこちらの気持ちが伝わるようになるべく企画書に落とし込むようにして、声優さんや作品のことをわかってるよ感を出すことですかね。例えばですけど、「『さよなら絶望放送』のラジオをお願いします」と言われてるのに、「ハッピーボイス○○」なんて番組の企画書作ったら大ひんしゅくを買うじゃないですか。ちゃんと作品を熟読して、パーソナリティ、企画、尺、様々なものを考えて作っていきます。
過激なところは編集しますので事務所さんもご安心ください、と当たり前のことを当たり前に出来れば相手側の不安感をなくせるんですよ。そういう風に、「自分は作品をわかってますよ」というのをわかってもらえれば良いだけなんです。
──ちゃんとわかってる人には相応の対応をしてもらえるんですね。
田原:社会なんてそういうものですよ。原作があるならその作品にあったものを考える。トークの地図を書くっていうのはそういうものですから。しっかりと下調べをして、その上で「これをしてもらえればそれ以上は求めません」というラインを決めるんです。制作委員会や版権元には作品を、事務所にはキャストのことを考えた上で、「ここまではお願いします」とお願いする。もちろんダメな場合もあるけど、そのときはラインを下げればいいだけですし。企画書ではそういうのをハッキリと強調するようにしてますね。
──企画書の段階からコーナーの案は書いてたりするんですか?
田原:書いちゃいますよ。アニラジならどんな作品のラジオで何月からスタート、パーソナリティは誰でどの媒体で配信するか、そして以下構成案、みたいな感じですね。OPではキャラクターの特徴的な台詞を言わせてみたり、ミニドラマを書いてみたりして、Aパートで作品のトーク、Bパートではお便りコーナーをやります、くらいは書いてますね。まあここまで来ると本格的な企画構成の段階になるので、今回は気にしなくて良いと思いますよ。実際、具体的にしてくれ、って言われればこれは簡単に出来るものですから。
──なるほどなるほど……。今回の話を元にして、次回までにより具体的になったものを持ってきたいと思います。
田原:次回はさらに一歩先に企画を進めたいですね。ディスカッションって楽しいのでやろうと思えば永遠に出来てしまうんですよ。企画を考えるだけだと永遠に先に進まないので、次は企画書をちゃんと作って声優事務所に送ってきてもらうところをスタートしましょう。次はディレクターの佐藤太を呼んで編集して納品するまでの話をしたいと思っているので、石橋さんは思い切って作った企画書をいろんなところに投げてみてください。その手応えの話もしていきましょう。
──頑張ります!
漠然とした企画のイメージに少しずつですが色がつき始めました。ここからは記事にならない、声優事務所に企画書を送るという精神的な戦いが始まります。その結果は……次回の記事で明らかに! 第5回では田原さんと長年コンビで活躍されているディレクターの佐藤太さんをゲストにお招きし、実際の番組収録に関するお話を伺っていきます。
それでは最後に今回のポイントをまとめてご紹介します。
“アニメイトタイムズらしい企画が大事”
“通勤通学で聴いていることを考えて、35分程度がベスト”
“企画書には声優さんを納得させるだけの内容が必要”
“お互いがWin-Winになれるラジオを”
[インタビュー/石橋悠 文/原直輝]